実質異世界転生 ~二千年寝てたら世界が変わってました~   作:Schuld

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 トップスピードにさえ乗ってしまえば存外快速な〝ヒュペリオン2〟は、古代の帆船と違って自動化が進んでいるため、素人搭乗員ばかりでも目的地さえ設定すれば自動で進軍する。そのため天蓋聖都まで数日の旅程は何事もなく進んだ。

 

 ただ、順調なのは、あくまでこの巨艦が進行するだけであって、それ以外の雑事に我々は勝利の余韻を味わうことなく忙殺されることとなる。

 

 なにせこの巨体だ。こんな物が轟音を立てながら地平線の彼方からゆっくり現れたならば、すわ世界の終わりかと民心を騒がせる可能性も高かったので、方々に先触れを出しながらの移動にならざるを得ず、土地勘のある者達を集めて地図とにらめっこしながら頭を捻る嵌めになった。

 

 しかし、この問題に関しては望外な収穫があったので、予定よりもスムーズに問題は解決できている。

 

 “ヒュペリオン2”の格納庫には、そこそこの数のティルトローター機が保管されていたのだ。

 

 整備用に最初から導入されていたヘパイトスと同じで、元々搭載する予定だった物を最初から積み込んであったサービス品だろう。

 

 ほら、あれだ、充電式の機器だって、サービスで最初からある程度は充電してあるのと同じだ。

 

 乙種二型汎用稼働回転翼(ティルトローター)機を叩き台とした輸出モデル、〝ステュムパロス3〟は歩兵、及び重砲や機動兵器を低空輸送するために設計された支援機であり、火力こそ貧弱ながら抗重力ユニットを搭載しているがための安定性と運動性に優れた傑作機で、輸送に留まらず斥候任務や肉薄する歩兵を迎撃するのにも適した空の軽騎兵だ。

 

 ただ、格闘戦当能力は言うまでもなく制空戦闘機や航空機動兵器に大きく劣るため、ヴァージルも竜には叩き落とされて終わりだと真っ当な判断をしたのか、温存しておいたのだろう。その最大の利点である歩兵の輸送能力とて、竜相手の戦場では発揮のしようもないからな。

 

 冷静で賢い選択だ。超音速戦闘機並の速度を出し、それでいてレシプロ機より旋回半径が小さな竜とぶつけたならば、ステュムパロス3は一方的に狩られて、相当悲惨なキルレシオを発揮していただろう。

 

 賢明なことに残された飛行機械を方々に飛ばして――有り難いことに疑似知性のオートパイロットのおかげで、戦闘機動さえしなければ素人でも三〇分の講習で飛べる――進路上、およびヒュペリオン2を目撃する可能性がある村落に遣いを送り、反乱が鎮圧されたこと、そして移動しているのは〝機械神の残滓〟であると無理くりに宗教的な理由を付けて納得させたことで、領民がパニックを引き起こすことは避けられた。

 

 あと、小さなデバイスが沢山手に入ったから、私の3D伝言をつけたのも大きかったかな。

 

 それでも、この巨大さを誇るブツが通る際は、どこの家々も窓を閉じて一刻も早く過ぎ去ることを祈っているようだったがね。

 

 一部熱心な信徒が間近で見ようと訪れて五体投地する以外にトラブルはなく、我々は天蓋聖都に凱旋した。

 

 そして、田舎と違って特大建造物の下で暮らしている人間の巨大な物への慣れ、それとアウレリアの政治的な根回しの速さに舌を巻かされた。

 

 機械神万歳、聖徒万歳、その斉唱と撒き散らされる花びらや紙テープの雨が聖都に吹き荒れており、近郊に停泊した我々を出迎えたのだから。

 

 先にスティムパロス3を飛ばして反乱の鎮圧を終えたこと、ヒュペリオン2で帰還することを伝えておいたのだが、よもやここまで準備万端で出迎えられるとは。

 

 まぁ、大混乱に陥って鎮圧に一苦労するよりマシだが、凱旋将軍として歓待されるのはむず痒くて仕方がないな。

 

 「さぁて、どうしたもんだか」

 

 [何を言っている族長。戦勝者の特権だ。堂々と大路を渡って竜の首でも掲げながら行進すれば良いだろう]

 

 「そうはいうがなリデルバーディ、これでいて私は小心者なんだ。あんな熱狂した人の群れに入って行くのは嫌いなんだよ」

 

 小心者……? と首を傾げられていることには大いに疑義を差し挟みたいところであるが、まだ誰も降りていないのにお祭り騒ぎの天蓋聖都を最大望遠で眺めていると、艦橋の扉が開いて甲高い足音が響いた。

 

 『意見具申を許可されたい』

 

 圧縮電波言語を放ったのは、真新しい〝数列自我知性〟が好むデザインの丙種筐体――つまるところの民生用――であった。

 

 白を基調としたボディは爬虫類っぽい艶のある白を基調とし、人間であればアンバランスなほどに太くて肉感的な黒い手足が伸びている。胸郭が膨らんでいるのは女性基系の数列自我がアピールのためにハウジングスペースを拡張するもので、内部で小型の融合炉が燃えているため飾りではない。

 

 「許可する」

 

 『守護神の姿で行進することで軍事的アピールとし、同時に巨体が進むことで観衆を無闇に近づけることを妨げられると愚考する。如何か』

 

 白いボディとは対照的に、黒くのっぺりした面長な顔には顔の起伏が一切なく面でも被っているようなデザインだ。姫カットの長い前髪が特徴の排熱ファイバー毛髪はクリーム色をしており、余った部分をハーフツインに整えているのが唯一の洒落っ気と言えよう。

 

 「脳殻の載せ替えやらが面倒だが……もみくちゃにされたり、暗殺されかけるよりいいか。意見を採用する」

 

 私は筐体の意見を取り入れ、ピーターに機動兵器の準備をさせることにした。

 

 先の戦闘でかなりの数が小破、ないしは中破判定の損害を被りはしたが、幸いにもヒュペリオン2には新規建造は不可能でも、高度な自動整備工廠が備わっているため修繕は終わっている。機動兵器中隊を率いて進めば格好の一つも付くだろうし〝彼女〟が言った通り群衆に揉まれて要らぬ混乱に巻き込まれる心配もない。

 

 『それともう一つ』

 

 「なんだ」

 

 『自害、及び戦死した者、そして略式裁判で死刑を宣告した者の首を槍の穂先に括り付け、先導する歩卒達に掲げさせることを提案する』

 

 「……また野蛮だな。何のためだ?」

 

 『民に、そして燻っている者に反乱が完全に失敗したと知らしめる効果は絶大だ。むしろ、大将首を掲げるのも権威の一つだ』

 

 何かしれっと言ってくるけどこえーな天蓋聖都……。

 

 [おお、それを忘れてたな。誰がどの首を持つ?]

 

 〔えー、僕らはちょっとー……〕

 

 「持つとなると歩卒隊だよな。聖下の代わりに誰が名代をやる?」

 

 「僕! そこは副隊長の僕でしょ!!」

 

 『アたシ! アたしもやりたイ!! ガラテアは歩卒じゃなイからダメ!!』

 

 方々で、そういやそれもやらなきゃいけなかったなみたいな会話が始まり――抵抗感を覚えているのがシルヴァニアンだけってどういうことなの――しかも割とみんな乗り気なのがカルチャーショックだった。

 

 いや、そりゃ私達だって武勲話の種として首を獲っただの首級をあげただの言うけど、流石に鎌倉時代じゃないんだから文字通り斬り落として持ち帰ったりはせんよ。本当にやったらガチのシリアルキラーと思われてドン引きされるわ。

 

 それに高次連は捕虜に優しいことに定評がある国なんだ。幾ら凱旋式典だからつったって、討ち取った敵の首を掲げて行進するような真似はしない。精々、鹵獲機体をこれ見よがしに統合軍カラーに塗って見せびらかす程度だ。

 

 仲間達が秘める蛮性に若干引きながらも、まぁ必要だというならやるかと適当にくじ引きをさせて要員を選抜させた。

 

 そして、何時までも民を待たせておくのも悪いので慌ただしく準備は進み、我々は準備を整えると天蓋聖都へ向かって進発した。

 

 それにしても、首を掲げるのはいいのに、なんで私が提案した礼砲をぶっ放そうという案は否定されたのだろう。むしろ、こっちの方が景気が良いし盛り上がりそうな気がするんだが。

 

 「さて、助言感謝する」

 

 『……必要であれば知識を提供するのが〝協約〟の一つだ』

 

 丙種の筐体がつまらなそうに壁際に背を預け、そしてただ〝人とは違って立っている方が楽〟であることに気付いて姿勢を正すのに数秒。

 

 準備のため方々に人を散らせて伽藍としたメインCICにて、私は彼女に。

 

 いいや、電脳化しているのを良いことに〝逆らえないボディに移植したヴァージル〟に問うた。

 

 ここまで原形がないと、絶対にバレることはないだろう? 私も政治的なブレーンが欲しかったので丁度良かったよ。

 

 「必要だと判断しても、よく自分の頭を掲げさせようなんて発想が出てきたな?」

 

 『……俺は負けたのだ。敗軍の将として少しでも体面を取り繕う必要がある。俺のワガママに付き合わせた連中も多いからな』

 

 さて、私はヴァージルに、ただ殺してやるなんて安い罰を与えなかった。

 

 新しい体と身分をデッチ上げて、自分自身の尻拭いをさせることにしたのだ。

 

 故にこうやってヒュペリオン2の工廠を使ってボディを新造させ、電脳化していたヤツの脳殻と副脳を移植したのだ。こうすれば、外見はセレネの親類にしか見えないので、よもや内部に大逆を犯した張本人が入っているとは思うまい。

 

 『それに、お前が提案したのだろう。協力的に働いたならば、此度の反乱で吊す首は最低限にすると』

 

 「まぁな。流石にお家お取り潰しは逃れられんが、家族、及び参加者の助命嘆願はしてやる」

 

 『それでも〝平和喪失刑〟は逃れられんだろうがな』

 

 「生きてこそ浮かぶ瀬もある、というものだろうよ」

 

 皮肉っぽく笑ったヴァージルは、この筐体に閉じ込められて私が持ち得ない知識の補佐、そして後始末をさせることで罪を購わせることとした。覚醒して様々な行動プロテクトをかけられ、データを覗き見されたヤツは存外大人しかったよ。

 

 『……それに、反乱が穏便に片付けば、アウレリアの心も少しは穏やかになろう』

 

 乱したのは俺である事実は変わらんがな、と彼は小さく、ありもしない鼻を鳴らした。

 

 「一途だね」

 

 『そのためだけに俺はここまでやったのだ。彼女のためにできることがあるのであれば、このような様になって〝聖徒様〟に傅くことの何に躊躇いをおぼえようか』

 

 愛が深いことで何よりだ。だが、それでここまで過激な行動に手を染める必要があったのかは、まこと理解に苦しむが。

 

 機械聖教が腐敗し、形骸化が進んでいたのは分かるけれども、ここまで派手にぶっ壊そうとしないでも何とかなったのではなかろうか。

 

 いや、騎士というよりも、聖教の中で政治家として立ち回ってきたヴァージルが不可能だと判断したのだから、よそ者に過ぎない私が、より冴えた方法があったのではなかろうかと宣う方が傲慢か。

 

 ヤツはヤツなりに色々考えてベットし、そして失敗したのだ。

 

 「そういえば、名前がないと不便だな」

 

 『そこの、でも、おい、とでも呼べば良いだろう』

 

 「そうもいかんだろうよ。そうさな……」

 

 名前は大事だ。これから私の政治的ブレーンとして働かせ、同時に知識を引っこ抜く相手なのだから、大体は側に就いておかせる必要がある。今は仲間達にヴァージルが使っていた〝遺物〟であり、セレネと似た存在であると紹介したが、ちゃんと名前くらいはないと不便する。

 

 ヴァージル……ラテン語にするとウェルギリウスか。男性名だし、イメージが繋がりやすいから率直なのはダメだな。中身が露見しないよう女性型に突っ込むという、男として育った彼にとってかなりの屈辱を味合わせているのだし、そこで手を抜いては意味がない。

 

 となると、有名な同名の詩家の作品から引っ張ってこようか。

 

 「アエネーアース……いや、これは男性名か。じゃあディドとかどうだ?」

 

 『何が由来か知らんが好きにしろ』

 

 「じゃあお前の識別名は以後、ディドだ。復唱しろ」

 

 『俺はディドだ。承服した、遅すぎた聖徒様』

 

 「軽口は二人だけの時にしてくれ」

 

 不承不承といった感じに女の名前を受け容れた彼だが、ちょっと捻りすぎたかな? ディドはウェルギリウスの詩、アエネーアースの中で主人公と熱愛に落ちながらも、大神ゼウスの命によって引き裂かれ、その悲嘆の末に焼身自殺した女の名。運命でアウレリアと結ばれることがなかった、そして今後は自分自身の身分を明かすこともできないヴァージルにとっては、些かウィットが効きすぎた感じになってしまったかもしれない。

 

 ま、当人は元ネタを知らないのだからよしとしよう。

 

 「で、だ、ディド。行進の後は枢機卿補佐猊下と謁見があるのだが、そこで私はどう沙汰を下すのが手堅いかな?」

 

 『首謀者は自ら殺したのだから、寛大な聖徒を振る舞うのがよかろう。北方の乱は半分が俺の信奉者だが、それはもう殆どが討ち死にした。置いてきた残り半分はブリアレオースの巨人達を見て勝ちが固いと踏んだ日和見共だ。多少甘くした方が収まりはいい。首のすげ替えは必要だが、ポストが増えて喜ぶヤツは多かろう』

 

 「上が詰まっている組織の性だな……そして首謀者に厳しい罰を下していれば、それなりに体面もつくか」

 

 『後はそうだな……俺の娘、ヴァージニアを聖女から端女にでも格下げしておけばよかろう』

 

 お前、自分の娘だからって散々言うな。父親が適性を見るために全身の機械化を行わせた上で、聖女の立場まで奪えとかちょっと酷すぎるだろう。

 

 「お前、自分の娘に思うところでもあるのか」

 

 『……アレには酷いことをしたと思っている。だが、俺には付き合い方が分からなかった。愛した訳でもない女との間に作った子を、どう愛せばいいかなど。それとも、ここまで聖徒様は導いてくれるのか?』

 

 「勘弁してくれ。俺だって父親になんてなったこたぁねぇよ」

 

 まったく、これだから政治に結婚が関わる連中は、コトを自分から複雑にするから困るんだよ。政治的婚姻という文化が物語の中にしか存在しない政治体系の中から来た私には、とっとばかり複雑に過ぎる。

 

 「流石に哀れだ。筋書きでも描いて、悲劇のヒロインにするさ」

 

 『好きにしろ。俺は生むための片棒を担いだが、アレの父親にはついぞなれなかった男だ。聖徒様の差配に口を挟みはせんよ』

 

 今やヴァージニアは貴重な深度Vの電脳化を施し、全身を機械化している限りなく機械化人に近い存在だ。前線指揮官として表に出る必要がある私がヒュペリオン2に縛り付けられる訳にも行かないので、何か名目でも用意して不在時の名代にでもしちまおう。

 

 それに、人は何時だって愛されなかった麗しい乙女には寛大なものだ。

 

 何、こちとらVRゲームの玄人だ。演じるのには慣れてるのさ…………。

 

 

 

【惑星探査補機】高次連には自我を凍結させた上で労働刑に処す極刑があるのだが、今回はそれを援用した形に近い。




TS白肌巨腕ハーフツイン。属性化積載。

次回更新は未定ですが、FANBOXの更新に合わせて行おうと予定しております。
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