実質異世界転生 ~二千年寝てたら世界が変わってました~   作:Schuld

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 結局、あれだけの敵と戦って被害が肋骨二本で済んだのは奇跡だったというしかない。怪我から復帰するのと残骸を調べるので時間を食ったが――結局、火力が強すぎて使えそうな物はなかった――ようやく“太母”の足下まで辿り着けた。

 

 「ノゾム! 大丈夫かい!?」

 

 「ご覧の通り足はちゃんとあるよ」

 

 「足っ!? 足に何かが!?」

 

 っと、そうか、こっちじゃ高次連の幽霊ジョークは通じないか。

 

 いや、今もあるんだよ幽霊の噂。完全に自我を二進数化できる現代でも未だに「幽霊を見た!」って騒ぎ出すヤツがいて、そりゃ溜まったキャッシュが見せるバグだよとか、視覚素子の不良だから医者行けって言われるんだけど、真面目に学問している連中もいる。

 

 何せ、我々ほど高度に発達したとして、未だに科学的に神も悪魔も、幽霊すら不在を完全に証明できていないのだから。

 

 故にMIA(任務中行方不明)から帰投した人間特有のジョークを思わず言ってしまった。

 

 「そっちこそ、欠員は」

 

 「ないよ、みんな無事だ」

 

 「……じゃあ、あれは?」

 

 思わず指さしてしまったのだが、テックゴブ達が揃いも揃って地面に五体投地しているのだ。思わず戦闘の余波で怪我をしたのかと思ったけれど、どうやら違うらしい。

 

 「終わるなり〝太母〟に祈り始めてね、もう随分になるよ。さっきので大体掃討しちゃったから、逃げてきてからは平和なものさ」

 

 あっ、あれ祈りの姿勢なんだ。よかった。

 

 時計が壊れてて分からないけど、三〇分はあのままじゃないかなと言われて、自然に受け容れた私だけど、よく考えたらなんでガラテアが惑星標準時を使っているのだろう。

 

 この惑星はちゃんと1G影響下になるよう整形したし、ハビタブルゾーンに運んだ時、地球と同じようになるようにして、地軸もちゃんと合わせて月も持っているから一日は二四時間だけど、どうやってそれを割り出したのか。

 

 ああ、もう、細かいことが気になって仕方がない。

 

 さて、宗教的儀式を中断させるのも悪いしどうしたもんかと思っていると、胸に軽い衝撃があった。

 

 ガラテアがもたれ掛かっているのだ。

 

 「よかった……本当によかった……」

 

 「ガラテア?」

 

 「ノゾムが生きてて……みんなの仇を討ってくれて……君までやられたらどうしようかと……」

 

 私の生還を見届けて感極まったのか、泣き始めてしまった彼女の涙は止めどなく、言葉は嗚咽できちんと形を結んでいない。

 

 ああ、やはりアレが彼女が言う仇であっていたのか。そうだよな、あの強化外骨格を着て大隊で――充足人数が何人か知らんが――挑んだというなら、ホヴやミュルメコレオに負けるはずもなし。

 

 上から降ってきたこともあって、奇襲だったんだろうな。よくぞ生き延びたもんだ。

 

 しかし、こういう時女性をどう扱うべきかは分かっているつもりだが、機械化人相手と同じ対応で良いのだろうか。義務教育を――仮想空間で過ごす六〇年をそう呼ぶのだ――終えてから郷土防衛隊に入って、そっから士官学校に軍大学、で後はずっと前線だから炭素基系人類との接し方が良く分からん。

 

 とりあえず、頭を撫でて背を抱いておこう。

 

 「私は生きているよ。そして、仇は討てた。君達の仇は、あの名前のない怪物だったんだな」

 

 「ぐすっ……太母の……近くまでは、すんっ……ぼくらも、これたんだ……」

 

 「ああ」

 

 「ただ、急に日が翳ったと思ったら気を失って……ひっ……気が付いたら大隊長のギアキャリバーにのせられてて……」

 

 初撃で奇襲を喰らって統率が崩壊、そこからあのワイヤーを雨霰と浴びた上、逃げようとしたところをコイルガンの乱射で壊滅ってところか。果敢に立ち向かっていった者達は挽肉にされて終わりってのが筋書きだろうな。

 

 そして、運良く生き残った幾人かが脱出し、テックゴブ達の集落まで逃げることに成功はしたが、負傷が原因で死亡ね。

 

 腹を洗って縫っただけの処置程度で済む傷だったからガラテアも助かったのだろうけども、正しく奇跡の連続だった訳だなぁ。

 

 「皆、皆いい人達だったんだ……一緒に聖別された戦友だって……たくさん……」

 

 「気持ちは分かるよ。今は泣くといい、それが戦友達への一番の鎮魂だ」

 

 「うっ、うう、ああああああ……」

 

 抱きしめたまま天を見上げ、さてテックゴブ達は祈ったままだし、シルヴァニアンは物珍しげにコッチをみているし、またセレネから拗ねた顔のスタンプが送りつけられてくるし。どうしたもんだか。

 

 結局、五体投地の祈りはあと三〇分続き、同じくらいガラテアも泣き続けたのでティアマットの探索は陽が随分傾いてからになった。

 

 [太母よ、我等をその懐に抱き給え、その温もりにて癒し給え]

 

 祈りの聖句と共に五体投地を終えたリデルバーディが首から伸びたコードを――完全内蔵型か。セキュリティ大丈夫なのかな――扉脇の端子にうんと背伸びをして差し込むと、扉は少し軋んだ後で人一人分ほど開いて止まった。

 

 警告ブザーが鳴っていることからして、何か引っかかってるな。

 

 まぁ、最後の真面なアクセスが二百年前じゃさもありなん。崩壊しないで立っているだけ大したもんだよこの子は。艦隊戦に耐えられる剛性があるとはいえ、直立した姿勢を維持するのは不可能だろうから、まだどこかで抗重力システムが生きているのだろうか。

 

 「暗いな」

 

 テックゴブ達は夜目が利く、というか暗視装置付きのカメラアイ持ちが殆どだからか問題ないようだが、私の性能が低い光学センサーでは暗すぎるのでフラッシュライトを付けた。ここら辺は基地と一緒で、廊下に照明なんてついてないんだよな、機械化人と数列自我しか使うことを想定していないから。

 

 [リデルバーディ、道は分かるのか?]

 

 [氾濫の時に高位司祭の殆どが死んだので情報は多くが喪われている。だが〝神聖なる扉〟の場所は口伝で伝わっている]

 

 神聖なる扉とは何かと質問すれば、船体中央部にある一際頑丈に封鎖された部屋で、開けることまかりならぬと封印された場所らしい。

 

 なんでも、そこで太母が長き微睡みに浸っているそうだ。

 

 私はティアマト25の詳細な船体地図を持っていないので分からないが、船体中央部ということは中央管制室か戦闘指揮中枢かのどちらかだろう。このタイプの船は前線に立つことがないので、恐らく中央管制の方だろうな。

 

 「案内してくれ」

 

 [任せろ。そこを取り戻して始めて〝太母〟が我等の下に還ったことになるのだな?]

 

 「そのはずだ。あの狂った走狗を産みだした、穢れたる雄神とやらもそこだろう」

 

 しかし、彼は懸念するように首を傾げた。

 

 [だが奇妙なる加護ある同胞よ。あの扉は高位司祭でも開けられなかった。貴殿にそれが開けられるのか?]

 

 疑問は尤もだ。ただ、大型船が不時着するような事態では通常の規定だと救助要員が迅速に到着できるよう、船のセキュリティクリアランスは大抵の場所で大幅に引き下げられる。

 

 いざ助けに来ましたが、ロックが強固で誰も入れませんではお笑いにもならないからだ。

 

 私が持っている軍籍コードの機密資格は士官用のⅢではあるが、墜落前に緊急事態宣言を告知していればこの艦のセキュリティはⅡまで落ちていることだろう。

 

 なら、本来は艦長が持つレベルⅣや艦隊司令しか持てないⅤのセキュリティクリアランスが要求される扉でも開くはず。

 

 [私は特別な鍵を持っていてね]

 

 [そうか! それならば可能性はある!]

 

 首元の端子を見せてやりながら言えば――実際は通信帯汚染の痕跡が怖いから端末を使うけど――戦士長は得心が行ったとばかりに手を打って、着いてこいと言った。

 

 ただ、道がかなりよくない。

 

 何と言っても、この船は横長の楕円形をしていることからして、当然ながら宇宙空間では横向きに航行するよう作られている。

 

 しかし、今は地面から垂直に突き立っているせいで天井が壁に、壁が天井になっているせいで真面に歩いて渡れるようにできていない。

 

 テックゴブ達は、その問題を解決するよう方々に鉄の杭を打ち、金属の鎖を垂らして対応していた。幸いにも敵が乗り込んで白兵戦を仕掛けてきた時のため、一本の廊下を極端に長くしない構造になっているティアマト25内部で完全に垂直な壁は短いが、大昔に打たれた杭だけあって強度が心配だ。

 

 体重が軽いシルヴァニアンやテックゴブなら問題はなくとも、タッパと体重がある私やガラテアにはキツいものがあるな。

 

 まぁ、登攀技能は冒険者の嗜みだ。本来は通行することを想定されていない地形をダッシュとジャンプ、そして捕まって登ることに事欠かないVRゲーマーには慣れたものさね。

 

 「ガラテア! 私が補助する! 君は慣れていないだろう!!」

 

 一番上まで登った後で――杭が途中で一本経年劣化してて死ぬかと思った――万能工具をロープに変えて下に垂らせば、彼女は掴んだ後で随分と逡巡して中々登ろうとしなかった。

 

 「どうした?」

 

 「い、いや、その僕は重いから……ってわぁ!?」

 

 はよ登れ、と言わんばかりに縄を思いっきり引っ張り上げた。この義体は軍用義体に比べたら脆いだけで、並の旧人類じゃ適わない程度にゃ鍛えられてるんだよ。多少体格がよかろうと婦女の一人二人持ち上げられなくてたまるか。

 

 「君なんて小さくて可愛いものだ! いいから大人しく掴まっておいてくれ!」

 

 「僕がかわっ……いや、それよりノゾム! 無茶しないでくれ! ちょっと怖いよ!!」

 

 そのままぐいぐい引っ張って彼女を頂点まで導けば、余程怖かったのか膝を突いて荒い息をしはじめた。

 

 「つ、次はもうちょっと優しく……」

 

 「ああ、とびきり優しくするから。ほら、行くよ」

 

 意外なところが乙女だなぁと思っていると、テックゴブ達が立ち止まっていた。眼前には重い隔壁があり、困ったとばかりに頭を掻いている。

 

 [……口伝にこんな壁はなかったぞ]

 

 [あー……緊急隔壁か]

 

 航宙艦は真空の宇宙を征く船だけあって、どこかに穴が開いただけで大騒ぎになるため、中の物が引っ張り出されないよう各所に隔壁が設けられている。これは敵の侵入を阻む壁にもなると同時、火災を食い止めたりガス攻撃からの防備にも使われているため相当に分厚い。

 

 手の甲でゴンと叩き、音の感覚から三〇cmくらいの厚さかと推測。

 

 ただ、表面がざらざらと爛れているから対単原子分子ブレード保護膜は剥がれているな。恐らく経年劣化で極小機械群の在庫が尽きて、自然と剥がれ落ちたのだろう。こういった壁は刀で切り裂かれないよう対策がされているのだが、流石に時間の経過には勝てなかったらしい。

 

 壁面の――今は天井だが――コンソールもボロボロになっているから開閉命令を出せそうにないし、少し強引に行くか。

 

 [下がっててくれ]

 

 私は腰を落としてブレードを抜き放ち、気合いで斬り込んで隔壁に四角い穴を開けた。

 

 流石に某剣豪のように一刀で丸く刳り抜くような真似はできないんだよな。あれ、綺麗な真円にやるのは滅茶苦茶技量が要るんだ。

 

 [よし、進もう……」

 

 と言って暗闇を照らせば、向こうから大量の紅い光が反射してきた。

 

 おもわずひゅっと息を飲む。

 

 それはホヴを小型化したような、いや、より正確に形容するならテックゴブ達を醜悪に歪めたような異形ドローンの群れ。

 

 扉の前で何をするでもなく屯していた連中が、隔壁が開かれたことによって起動して此方を睨み返してきたのだ。

 

 そして、鋸歯のような如何にも切れ味の悪い武器を手に取り、開いた入り口に殺到しようとし始めるではないか。

 

 私は小さな悲鳴を上げて拳銃嚢からコイルガンを抜き放った…………。

 

 

 

【惑星探査補記】乙種三型特殊工廠船。統合軍の標準型工作船の中でも中型のもので、三〇〇隻未満の分遣艦隊規模に一から三隻が随伴することを想定して設計された。工廠船の中でも日用品や消耗品の――ミサイルや質量弾を含む――製造に特化しており、艦隊の主計を司る重要な補助艦艇である。 

 

 




 本日で 小説家になろう 投稿分に後2話というところまできましたので、明日は3話更新となります。

 明日も18:00頃更新予定となります。

 感想、ブクマなどいただけるとやる気が出ますので何卒よろしくお願いいたします。
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