実質異世界転生 ~二千年寝てたら世界が変わってました~   作:Schuld

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 半ば電子制御トリガを引きっぱなしにするような全力射。テックゴブ達の強度は見た目より高いことを知っているので、最初に乗り越えようとしてきた個体に強装モードでブチ込めば、頭は拉げたものの原型を保ったまま吹っ飛んでいった。

 

 [内部に生き残りがいるなんて聞いてないぞ!]

 

 [あれは部族の者じゃない! 穢れたる者だ!!]

 

 一瞬、内部で必死に生き残っていた個体をビビって撃ち殺したんじゃないかと思って焦ったじゃないか! そういうのがいるなら最初から言ってくれ!!

 

 だが、あれも奇形のドローンモドキだというのなら遠慮は要らない。

 

 [安全装置を外せ! あと一一発で弾が切れる!!]

 

 仲間達に射撃準備をするよう伝え、穴を乗り越えようとしてくるテックゴブモドキの頭に射撃を加える。調子に乗らず小さな穴にしておいたので、一度に跳び出してくるには二体くらいだから楽なものだ。

 

 しかし、もう弾倉がない。今装填しているのを除いたらラスト一本。省エネモードでは倒せないから、白兵戦か単発コイルガンに切り替えなければいけないな。

 

 今装填している弾倉最後の一発を撃ちきり、きっちり一二体始末したものの、まだまだ内側に犇めいているのか流出は止まらない。

 

 〔やぁぁぁぁぁ!!〕

 

 一番手近にいたシルヴァニアンが、モドキが顔を出すと同時に首筋に銃剣をブチ込み、次いで射撃して首を吹っ飛ばした。

 

 ……あれ? 妙だな、あれば便利だからと作って貰ったが、銃剣は鍛造構造を模倣した立体射出(3Dプリント)品なので、通常の刃物以上の切れ味を持たないはず。

 

 それがなんで強装弾の一撃に耐えるモドキの皮膚に刺さるんだ? もしかして表面は柔らかくて、骨格がめちゃくちゃ堅いとかなのだろうか。

 

 [順番に撃て! 無駄玉を使うな!!]

 

 しかし、内側にミュルメコレオやホヴがいない理由が分かった。外は連中に、中はモドキに任せるドクトリンだったのだろう。内部じゃ小柄なモドキの方が動きやすいし、素早くて翻弄できるからな。

 

 〔僕もう弾ないよ! 誰か分けて!!〕

 

 〔僕だってそんなに残ってない!!〕

 

 [こっちを使え! 言っとくが俺ももうないぞ!!]

 

 次々襲い来るモドキを迎撃するも、先の激戦で弾を消耗しまくったせいで殆どの仲間が弾切れ間近だ。背嚢には少し予備があるが、それでも焼け石に水。

 

 なにせティアマット25は中型工廠船だ。普段は機械化人の艦長一人と船体管制の数列自我一人しか乗っていないが、やろうと思えば数十万人を積載できるんだから、中に何十万とモドキがみっちり詰まっていても不思議はないものな。

 

 ああっ、くそ、こういう時に擲弾があればなぁ!!

 

 「畜生、こうなれば斬り込むぞ!!」

 

 「ええっ!?」

 

 フラッシュライトを口に咥え、刀に手を添える。

 

 敵の総数が不明な以上、取れる手段はもう限られていた。

 

 彼等には恐らく自我はない。船内で黙って屯して、我々という脅威が扉を開いてやっと反応したことからして中央管制から命令を受け取って動いているのだろう。

 

 なら、制御系を乗っ取って正常化すれば止まるはず。

 

 「このままコントロールルームまで斬り込む! 私が先頭だ! 各員援護しろ!!」

 

 「ノゾム! どうして君はそう、次から次へと無茶ばっかりできるんだい!!」

 

 「無茶しないと解決しないからだよ! 人が無茶をやるのを好きみたいに言ってくれるな!!」

 

 乗り越えようとしてきた一体がテックゴブの射撃で撃破されたのを確認し、縁に足を掛ける。すると、同時に出てこようとしてきた個体がいたので、顔面に踵を叩き込んで送り返した。

 

 [リデルバーディ! 次は右だな!?]

 

 [そうだ! それから通路を上って左に二回、右に一回で辿り着ける!!]

 

 「分かった! 〝聖槍〟を任せたぞ!!」

 

 フラッシュライトで照らされた隔壁の向こうには、びっしりと紅い目玉がギラついている。数はもう数える気にもならない。

 

 「やったらぁぁぁ! チィエストォォォォ!!」

 

 気合いの叫びを上げて――私が修めている流派とは厳密には違うんだけどね――穴に飛び込み、頼りない明かりを標に無茶苦茶に暴れ廻る。間合いに入った者は手当たり次第に斬りながら進路を切り開き、とりあえず右側に向かった。

 

 指示通りに走りつつ斬って、斬って、斬り倒しまくる。単原子分子が分子構造の間を切り拓いていく手応えは限りなく弱いが、今回は敵の密度的に研ぎ直している暇はないので、モノアトミック構造が崩れてからが本番だな。

 

 私が切り拓いた空隙にシルヴァニアンとテックゴブ達も雪崩れ込み、後ろから襲いかかろうとしてくる敵を必死に打ち倒している。弾丸が尽きた個体は銃剣で突き刺し、格闘戦でトドメを刺しているが、彼等のためにも早く前に進まなくては。

 

 白兵戦は射撃戦より命の危険が大きい。私はできるなら、この無茶な遠征に着いてきてくれた勇者達を一人も喪わずに連れて帰ってやりたいのだ。

 

 殺し合いに導いた以上、それが過分な、無茶な願いであることは分かって尚。

 

 廊下の向こうまで残り一〇mを割ったところで単分子が崩れた。手応えが強くなり、きちんと刃筋の立った刃物が敵を切り拓く手応えに感じる。

 

 ようし、こっからが古典好きVRゲーマーの本懐だ。ゲームの中では元々こんな贅沢な武装を使わないで、数百人を斬り殺してきたんだからやってやんよ!

 

 「チェストォォォォ!!」

 

 万物を斬り裂く能力は失えど、未だ鋭さは健在の刃を怪鳥も脅える叫びを上げなら振り回し前進。

 

 可能なら首を、無理なら胴体をぶった切って絶命させ――彼等が甲冑を着てなくて良かった――前へ前へと、駆り立てられた狂犬のように進み続ける。

 

 そして通路を曲がり、垂直の壁がさして高くないことをみとめると、私は少し冒険的だが三角跳びで一気に跳ね上がることを選んだ。

 

 壁に向かって跳躍し、滑り止め付きの靴底が一瞬の抵抗で踏ん張ってくれている間に再び飛び、それを連続して一気に駆け上がる。失敗すると無様に背中から落っこちて凄まじく格好悪い思いをする飛び方であったが、ゲームの中で暗殺者としてパルクールも嗜んでいたからなんとかなった。

 

 「イィィィヤァァァァ!!」

 

 着地の勢いを借りて、円弧を描くように刃を振り抜き着地点の安全を確保。首が幾つか、そして胴体がぶっ飛んで下へと落ちていった。

 

 よし、まだ行ける。まだ前へ、前へ!!

 

 疲れが出て来て刃が少し鈍りつつあるが、ひたすらに斬り進みながら前にでる。なぁに、地球を守る戦争VRでやった――まぁ、ウチも紛争時に大質量弾ブチ込んで、プチ氷河期にしたりしたらしいんだけどね――INFERNOの密度に比べたらマシだろう! さっさと気合いを入れろ私!

 

 そのまま廊下を駆け抜けて、真っ白な血を踏みしめながら左へ。もう攻撃を避けることはあまり考えず、バイタルパートへの直撃にさえならなければ多少は受け止めて切り進む。私が着ているツナギは防刃防弾繊維なので、少しばかりの刃なら受け止められる頑丈さがあるのだ。

 

 叫びすぎて喉が嗄れているのが分かる。それでも後ろで足止めしてくれている味方を死なせないため前進を続ける。

 

 それに、銃声はどんどん追いかけてきていた。私が切り拓いた道を順番に射撃しながら追いかけてくれているのだ。

 

 心強い音に士気が上がり、痛みを無視してただただ前方へ吶喊した。

 

 最後の角を曲がり、あとはコントロールルーム……と、言う所で嫌な音を聞いた。

 

 空気を震わせる肉声ではない。

 

 圧縮電波言語を用いた、機械化人や数列自我にのみ通じる警告音だ。

 

 『警告。現在当艦はロックダウン状態にあります。管制名と識別コードを』

 

 畜生! なんで中途半端にセキュリティが生きてやがる! 仕事してるんなら、まずこの異物共を何とかしろ!!

 

 「銀河高次思念対連合統合宇宙軍第二二次播種船団所属 待宵 望 上尉!! 認識コードは■■■■■■■■■」

 

 だがセキュリティが動くなら扉も開くはず! 何とかなると電波の声を張り上げながら刃を振りたくれば、絶望的なビープ音が鳴り響いた。

 

 『エラー、当艦はロックダウン状態にあります。上級佐官以上のクリアランスでなければ認証できません』

 

 ド畜生がぁぁぁぁぁ!! 通常手引きはどうなっていやがる!!

 

 ブチギレながら斬撃の合間を縫って接近してきたモドキの顔に蹴りを入れ、壁と挟んで圧壊させていると圧縮空気が解放される音が響いた。

 

 いや、待て、ちょっと待ってくれ。

 

 コントロールルームと思しき厳重な扉の――テックゴブ達の祭祀が施したのだろうか、複雑なペイントが施されていてすぐ分かった――両側がスライドして開けば、そこから姿を現すのは二機の無骨なシルエットをした自動機械。

 

 数列自我を搭載しない、プログラミングされたままに動くだけのいわゆる人工無能を搭載した警備ユニットが姿を表した。張り出した肩と胸部にめり込む形で存在している多目的感覚素子(頭部)が特徴的な機体で、どの船にも搭載されている汎用モデルだ。

 

 甲種義体ならペットボトルをひねり潰すように畳める量産型でも、今の私にとっては悪夢に等しい。

 

 なぜならば、その両腕にはチェインコイルガンが搭載されているのだから。

 

 「うぉあああああああ!?」

 

 私と廊下に犇めくモドキを諸共に脅威と認識したのか、警備ユニットは何の警告もなくコイルガンをぶっ放し始めた。強装モードと同程度の威力がある、ギリギリ船体を傷付けない火力のそれは連射力に優れており、あまりの速度に殆ど繋がった一つの音に聞こえるほどだ。

 

 私は叫びながら手近にいたテックゴブモドキの首元を掴んで盾にし、弾丸を防ぎながら廊下を逆走。寸でのところでネギトロみたいにされる地獄の直線から逃げ出せた。

 

 「ふっざけんな! こちとら士官様だぞ! IFFどうなってやがる!!」

 

 緊急ロックダウンのせいか敵味方識別装置を大甘に設定しているらしく、警備ユニットはまったく容赦のない射撃を続けている。モドキが減るのは良いことだが、あの弾幕は如何ともし難い。

 

 畜生と一つ呟いてコイルガンを抜き、銃口だけ廊下から覗かせるが案の定警告音が響いて電子トリガがロックされた。

 

 こっちのIFFは生きているから、味方に向かって発砲できない設定になっているのだ。

 

 急いで設定をオーバーライドし、艦内で反乱が起こった時のプロトコルを機動。艦隊本部に向かって緊急報告無線が送られるが、そんなモノが残っていて応答があるわけもなし。緊急処置に従って此方のIFFも無力化できたのだが……。

 

 大型警備ユニットを急造のコイルガンで撃破できる訳もなく、銃口先端に備わったセンサーから弾丸が虚しく弾き飛ばされたという結果が伝わってきた。

 

 だよね! 知ってた!!

 

 クッソ、比較的脆いであろう感覚素子部分を狙ってみたが、透明な硬質バイザーで守られていて弾き飛ばされてしまった。ああ、もう、普段なら何てことない連中に煩わされる鬱陶しさったらないな!!

 

 それでも牽制になれば良いと省エネモードに切り替えて射撃を続ける。動こうとした方に射撃を見舞って足を止めさせ、歩行が止まれば逆の個体に射撃を加える。このまま弾幕を頼りに押し進んでこられたら死ぬしかないので、こっちも必死だ。

 

 あれを撃破するには〝聖槍〟が要る。

 

 だが、かついでシルヴァニアンとテックゴブ達が登るのは非常に困難だ。届くまで、あとどれだけかかる? 銃声はまだ遠く、さっき三角跳びしてきた廊下の辺りで……。

 

 「っく、あぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 この声はガラテア!? 真逆と思って見れば、彼女が廊下の向こうから走ってくるではないか。

 

 しかも、あのクソ重い“聖槍”を担いで! まさか、気合いで登ってきたのか!?

 

 「ノゾム!! 何か凄い音がしてるけど!?」

 

 轟音を聞いて入り用だと持ってきてくれたのか! 君は天使かガラテア!!

 

 「ソイツを早くこっちに!!」

 

 まさか、二連続で女神が〝聖槍〟を運んできてくれるとは思わず、私のテンションは一瞬で最高を記録。残っていた弾丸をフルでぶっ放して警備ユニットの動きを止め、ヘロヘロになりながら走ってくるガラテアから荷電粒子砲を受け取った。

 

 充填率は100%、砲身は十分に冷え切っていて準備は完璧。

 

 「よし、少し下がるぞ!」

 

 「はひっ、はひっ……ええ!?」

 

 廊下の角から少し離れ、私は血塗れの廊下を踏みしめ時を待った。砲身の中では粒子が加速器で掻き混ぜられて電荷を帯びる甲高い悲鳴が聞こえ、それに重なって警備ユニットの足音が鳴り響く。

 

 あと少し、のこり三歩、二歩、一歩……。

 

 二体の警備ユニットが廊下の角から顔を出すと同時、私は遠慮なく〝聖槍〟をぶっぱなした。

 

 古来より、角待ち高火力武器こそ最強ってずっと言われてるからね…………。

 

 

 

【惑星探査補記】標準型警備ドローン。船内の侵入者に対応するため船体各所に内蔵されており、その主要な役割は陸戦隊が到着するまでの足止め。船体を傷付けないよう低火力のコイルガンで武装しており、頑強性にのみ特化した構造は高次連兵士達から〝肉壁〟との愛称を賜るほどである。

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