実質異世界転生 ~二千年寝てたら世界が変わってました~   作:Schuld

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 「破廉恥だ!!」

 

 念願の煙草を咥えて脳を沈静化させていると、ティアマット25の外に作ったラスティアギーズの屯所にしている天幕にガラテアが乗り込んできた。

 

 「んあ……何だ……?」

 

 一種の禅めいた脱力に至っていた私は――煙草がなくてもできるが、あった方がメンタルが落ち着くのだ――急な訪問に体を起こし、疑似脳内麻薬機能を全て切って健全状態に復帰した。

 

 「これ! 破廉恥じゃないかい!?」

 

 「……スキンスーツが?」

 

 目の前に突きつけられたのは、彼女のために作ったインナーだった。

 

 背中に圧着式のジッパーがある背開き型のスーツで、足先から首までスッポリ覆うそれは、潜水時に着用するウェットスーツと似ているが、胸部や陰部が透けないよう軽い装甲やバイタルをチェックするための機器も据え付けられていて若干メカニカルでもある。

 

 しかし、破廉恥だの何だと言われても普通のスキンスーツだな。工場に余裕がなかった最初は用意していなかったけど、〝太母〟を取り返して立体成形機を使えるようになった今は、私も使っている全く以て普通の下着だ。

 

 「これに何の異議があるんだい。とても便利だよ」

 

 洗濯要らずで体臭にも強く、お手入れは月に一回極小機械群を補充するだけ。それさえ怠らなければ、普段使いにも戦場遣いにも最適の服の何が気に入らないというのか。

 

 強化外骨格は気密性が高くて蒸れるし、装甲を貼り付けたフルプレートモデルは長時間着ていると垢や汗に悩まされることもあって、義体化していない人類はそれらに対応するため、皆このスキンスーツを愛用するらしい。

 

 実際快適すぎて、今では私も手放せなくなった。

 

 「こっ、ここ、こんな体型がでる下着! 破廉恥だ!!」

 

 外骨格の内部構造を圧迫しないよう、厚手のスキンスーツは装着者の体型にピッタリとフィットする。これは技術的な問題であって、何も開発者のフェティシズムに依る物でもないのに破廉恥だと言われても困るんだが。

 

 それに内部に飼われている極小機械群が密着していないと、汗や排泄物を分解できないから、こういう形になるのが合理なんだよな。

 

 「きっ、きき、君は何を思って僕にこれを寄越した!」

 

 「普通に下着としてだよ。新しい強化外骨格に合わせて誂えた。それだけのことさ」

 

 さて、宴から数日経って装備の更新が進む中、何やら妙な直談判をしに来たガラテアであるのだけど、与えたインナースーツが気に入らなかったのだろうか。彼女用のフルプレートモデル外骨格を用意した時は、あんなに感激していたのに。

 

 「第一、下着だよ? 誰に見られるというんだい」

 

 「そ、それは……」

 

 それに、ここに人間は君と私二人だ。何を恥ずかしがる必要があるんだね。

 

 「言っておくが、私は婦女の着替えを覗くような下衆ではないからね」

 

 「それはっ、分かって、るん……だけ……ど……」

 

 消え入るような声で聞こえる「恥ずかしい」との評価。

 

 ふむ、どうやら天蓋聖都の人間にこっちのファッションセンスは最先端過ぎたか。

 

 「セレネ、今暇かな?」

 

 『生産計画の算定中で忙しいのですが。重要案件ですか?』

 

 「ガラテアの下着のことなんだが」

 

 くそ、話題を切り出した瞬間に通話を切られた。しかも拒否設定にされたのか、かけ直しても通じない。

 

 あの相方、何か変な勘違いしてないだろうな?

 

 「しかし、着たきり雀より良いだろう」

 

 「そうっ、ではっ、あるけど……」

 

 さて、ガラテアは装備の大半を喪って身一つで落ち延びてきたので、実は換えの服がない。今までは私が来ているのと同じツナギを支給し、男性用下着を使って誤魔化して貰っていたのだが、つい先日、セレネが同じ下着を洗っては乾かし、洗っては乾かしで一枚を無理矢理使っていると報告してきた。

 

 どうやら男性用の下着は恥ずかしすぎたようで、あげたのを乾かしている間だけ穿いていたようだ。

 

 それは流石に可哀想だろうとスーツを作ったのに、お気に召さなかったか。

 

 しかし、スキンスーツにデザインなんて早々ないぞ。私は絵心がないので一から設計しろと言われても困るし。

 

 然りとて普通の布地でできた下着では、これから先の行軍で難儀するよ。群狼の上でずっと走りっぱなしなんだから、外骨格と擦れてストレスのないインナー着用は健康のためにも必要だ。褥瘡ができたらどうするつもりなのか。

 

 「た、確かに手足が全部隠れるのは嬉しい……けど……」

 

 「けど?」

 

 「体の……線が……」

 

 あー、そういう文化の人なのね。

 

 私は改めてガラテアが属する文化で、女性がどのように身を覆うのかを認識した。

 

 プライバシーを尊重して、私は彼女がどのような下着を身につけているかは知らないけれど、局部や胴体のみならず手足が隠れるのを喜ぶのは、袖付きのキャミソールや太股まであるドロワーズのような下着を履く文化があるからだろう。

 

 婦女として男性に晒して良いのは首と手首くらい、更にボディラインはつましやかに隠すべきなんて文化があるに違いない。

 

 だからツナギをワンサイズ大きいのを頼んで、わざとブカブカにしていたのか。

 

 「んー……故国ではどんな服を着てたんだい?」

 

 「書くものを貸してくれ」

 

 ペンと空間投影型のタブレットに彼女は随分苦労しながら絵を描いて見せてくれた。

 

 おや、結構絵心があるじゃない、ちゃんと分かるぞ。

 

 予想したとおり、下着の上は二の腕丈のキャミソール、下は脛丈のドロワーズ。

 

 で、平服は……ご、ゴスロリ!? ゴスロリじゃないか!

 

 これはちょっと予想外だ。

 

 いや、いいんだよ、ボーイッシュで活発なガラテアにも似合うと思う。ただ、外骨格を着ている近代的な姿と、後はツナギ姿しか見ていなかった彼女が普段ゴスロリを着ていたと言われると中々に驚く。

 

 「な、なんだい、その反応は。伝統ある普通の服だよ」

 

 「いや、これ普及させた人と私は美味い酒が呑めそうだなと思って」

 

 「はぁ?」

 

 何言ってんだコイツと書いてあるような顔で見られたが、私の趣味の問題なので気にしないで欲しい。

 

 いや私って結構多趣味でね、スタイリッシュで格好好いのから甘い乙女趣味のまで、どれも好きで見てる分には幸せなんだ。何だったらちょっと病んでいる風のもストライクゾーンだぞ。

 

 「とりあえずガラテア、それで我慢してくれないか。同じ素材で君好みのデザインの物を作ると効率が著しく悪いんだ」

 

 冗談はさておき、こうもゆったりした物では肌に極小機械群が触れなくて衛生面での問題が出てくる。

 

 外骨格を着る以上、ここを妥協すると大変なことになるから本当に我慢して欲しい。背部が開く度に剣道部の部室みたいな臭いがするのは本人も嫌だろうからね。

 

 「どうしてもというなら、そのインナーの上に着る下着を用意する」

 

 「体型が出なくなるなら……がまん、する」

 

 うーん、本人が納得してくれたから良いんだけど、尚更特殊性癖感が醸し出されているのは指摘してはならんことであろうか。

 

 いや、良いんだけどね、競泳水着にニーソックスとか普通のジャケット羽織るギャップとか大好きだし。

 

 「しかし、下着なんて君以外誰も見ない。何をそこまで恥ずかしがる?」

 

 「鏡を見た時に僕が恥ずかしいんだよ! 男性には分からないかなぁ!?」

 

 すまないね、機械化人は精製プロセスでちゃんと男女が別れてるから――そもそも素体は親のDNAデータを掛け合わせて作る昔ながらのやり方だし――義体を着替えて女性体になることはできても、女性の心理まで完璧に理解することはできないんだ。

 

 たまにVRゲームで女性になって「うわぁ、私スケベだなぁ」と悦に入ることはあっても、恥ずかしいという実感はしたことなかったんだよ。

 

 「可及的速やかに対処するから、できるまではそれで我慢しておくれ」

 

 「貰う立場で多くを言うのは間違っているとは思うけど、本当にお願いするよ……」

 

 対策を約束すると、ガラテアは心底恥ずかしそうにスキンスーツを畳んで天幕から出て行った。

 

 装備面の調達はティアマット25のおかげで捗っていると思っていたつもりだけど、こんなところで落とし穴に引っかかるとはなぁ。

 

 私は頭を掻きながら、進捗がどの程度かを確認するためセレネが逐一更新してくれている在庫表を確認した。

 

 まず携行食、これはほぼ充足しており、遠征の間に男手がガッツリ経るラスティアギーズの老人と子供が食っていける分の蓄えも終わっている。

 

 製造は簡単だ。この間獲ってきた猪のDNAを元に培養した肉を調理器で加熱し真空パックにした物や、この辺りで取れる果物や野菜も促成栽培しスープにして缶に詰める。レパートリーが少なくて直ぐ飽きるかも知れないが、レーションというのはそういう物なので我慢して貰う他ない。

 

 シルヴァニアン達の保存食はもっと簡単だった。いつも食べている下草を収穫機で刈り取って一纏めにし、乾燥させてペレット状に成形するだけ。

 

 まんま兎の餌って感じなのだが、これが存外評価がよかった。

 

 彼等の味覚的に草の苦みとえぐみが良い具合に抜けて、特有の青臭さか勝り美味に感じたらしい。おかげで長期保存食なのに普段の食事よりこっちを食べたがる者達が多いくらいになってしまったので、その内製造用の機械を王国に移そうと思っている。

 

 これくらいの贅沢を提供してもティシー、兎達のプロメテウスは怒らない……と、思いたいね。彼女だって有機物の素材を突っ込めば無限に団栗が出てくる食料精製プラントを作っていたんだから。

 

 次に乗り物となる群狼こと丙種一型広域移動用多脚装輪車両、これも人数分の生産が来週には完成する。慣熟訓練に二十日は欲しいとして、群狼に曳かせる荷車の設計と製造にも同じくらいの時間が掛かるそうなので時間が無駄になることはないだろう。

 

 何せ聖都までここまでギアキャリバーとやらで、補給やら諸々込みで三ヶ月かかったそうだ。群狼の方が高性能だとは思うが、それでも倍速く着ければ上等と考えるに補給物資は大量に欲しい。

 

 それと、持ち運びできる小型立体成形機もできたか。

 

 やろうと思えば立体成形機は自分と同じ立体成形機を作ることができる。組み立てこそ大きさの問題で人間かドローンがやる必要があるのだが、小型の物であれば大抵は複製可能というのが我々の持つ強み。

 

 これで移動中に何かが壊れても直ぐ新しい物を作れるようになるので、道中はより安心できるな。

 

 寝泊まりする用のテント、簡易用のタープ、集会を開く時の大型天幕も完成しているようで、後は寝袋や毛布などの細々した物だな。

 

 ここは惑星の北半球に位置しているので冬は結構冷え込む。今は気候のおだやかさからして春だろうから心配ないが、滞在期間によっては帰りが冬になるので装備はガッチリ固めてゆかねば。

 

 っと、それから新型コイルガンの設計案も上がってきているな。

 

 もっといい工場が手に入ったから、改良型の設計をお願いしたのだ。

 

 「……リボルビングライフル?」

 

 その図案を見て、私は思わず唸った。

 

 セレネ、我が相方ながらまた尖った物を作ったな。

 

 3Dデータで表示されたコイルガンは、銃身が長方形の外殻に覆われた輪胴式の弾倉を持つ小銃型。銃把は親指を通す穴が銃床に空いた一体型で、銃身長を稼ぐため根元に近い後方に機構が生えていた。

 

 長銃身のリボルバーというのは連発式中黎明期に生まれた発明の一つであったが、幾つかの重大な欠陥によって――肩付けで構えると漏れたガスで火傷するとかで――流行しなかったが、たしかにコイルガンなら欠点が克服できて問題ないのか。

 

 その上で自動装填システムを複雑化せずに済むし〝シリンダーごと〟再装填する構造は素早くて画期的だ。

 

 軍属の視点からすると「趣味が過ぎるのでは?」と思わないでもないが、現状の設備でセレネが最大限頭を捻って生み出した効率的な案なのだ。きっと、これが最も合理的で剛性が高く整備性に優れた設計に違いなのだから文句はないさ。

 

 実際、最大威力は長銃身化も相まって6,600Jに倍増しているのだし。

 

 あと、ちゃんと銃剣を装備できるようにしてくれているのも私的にポイント倍点だ。

 

 実際、先の戦闘では弾が切れた後で大いに役立ったから、これからも役立ってくれるだろうさ。

 

 「うんうん、よきよき。これならば戦士達も喜んでくれるだろう」

 

 あと、私が携行しているコイルガンの改修型も設計案が仕上がっていた。

 

 と言っても、長銃身化して威力を底上げしただけで――拳銃なので性能アップは控えめだ――こちらに目新しいものはないんだけどね。

 

 あと必要な物と言えば通信中継ドローンと、その充電拠点敷設ユニット、それからえーと。

 

 人数分の万能工具も充足させたいし、近接戦闘用に拳銃を設計してもらうのも悪くないな。それから着替えと外骨格の補修パーツは定数を満たしているから問題なしと。

 

 あと一月もすれば出発できるかなと考えつつ、私は目録の数字を淡々と追い続けるのだった…………。  




次回の更新は 18:00頃を予定しております。
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