実質異世界転生 ~二千年寝てたら世界が変わってました~   作:Schuld

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 あれから三日、旅は順調に続いている。

 

 そして、ようやく文明らしきものが見えてきた。

 

 「おお、道だ。道があるぞ」

 

 「そりゃあ道くらい作るさ。僕らを何だと思ってるんだいノゾム」

 

 草原を四つ足形態で走ってきた我々だが、遂に道とぶち当たったのだ。

 

 その道は草原の途中でぷっつりと途切れていた。舗装路でも石畳でもなく下生えを切り払って地ならししただけの道は、唐突に終わっているため何らかの開拓を進めようとしたが、途中で問題があって頓挫でもしたのだろう。

 

 予算か人手か、政治的な折衝か。

 

 ともあれ、これだけ均された地面が続けばタイヤで走ることができる。

 

 今の群狼は簡易生産型、つまり対物センサーやら色々端折って作ってることもあって荒れ地を装輪で全力疾走するのは危ないから、速度が落ちるの覚悟でずっと走ってきたんだが、やっと思いっきりぶっ飛ばせる。

 

 「しかし、なんでこんな急に道が途切れているんだろうな?」

 

 「エグジエル辺境伯領は、四方の辺境伯領で最も軽視されている土地でね」

 

 何でもこの台地全体を領土にしていると主張しているエグジエル辺境伯とやらは、天蓋聖都では実質的に左遷ポストに近いらしい。

 

 ここから更に南は塩気混じりの水が膝丈までの泥濘を作る不毛の湿地帯で開発不可能な状態にあり、台地は水源不足の上に岩盤が固くて井戸が掘りづらく拡張困難。北は縁台山脈のおかげで中央へのアクセスが完全に閉ざされている上、東は急激に乾燥し始めて広大なステップ気候が広がり植民には適していないそうだ。

 

 「で、台地にはシルヴァニアンやテックゴブのような温厚な種族しかいないから、こっちの防備に力を入れる必要がなかったんだ。だから予算は大分絞られていてね。マギウスギアナイトも領邦州都に一個中隊もいないんじゃないかな?」

 

 「それはお寒い事情だなぁ」

 

 「僕もここまで寂れた辺境領は初めて見たよ」

 

 乾燥帯への植民をしないあたり、天蓋聖都の住民は農耕民族なのか。頑張れば耕作もできるだろうにやらないあたり、本当に金がないか治水技術がないかのどっちかだろう。

 

 そして、左遷ポストということは、聖都にあるだろう立体成形機の恩恵は殆ど届かないと。

 

 流刑地扱いされるのも納得の場所であった。

 

 「まぁいい、事情はどうあれ道は道だ。ありがたく使わせて貰おう」

 

 さぁ、ぶっ飛ばすぞ。全員安全帯を確認してくれ。

 

 車体と体がガッチリ固定されていることを全員に遺漏なく確認されると、私は群狼を四輪走行モードに切り替えた。

 

 すると、走るために展開されていた足が折りたたまれて車体にぴったりと沿い――予め、そのような形状になっている――全体が流線型の楕円に近づいた。そして、今までは蹄のように大地を掴んでいた蹄が畳まれてタイヤとなり、内蔵された流体モーターが回転を始める。

 

 「さぁ、今までとは比べものにならない速さがでるぞ。みんな、覚悟は良いな!」

 

 「今まででも十分早かったのに……?」

 

 全機を隊長機権限で自動追従モードに設定させ、コントロールを私に。全員に車体にしがみついて頭を下げるような姿勢を取るように命じてから、主機の熱を上げさせた。

 

 さぁ、とくと見よ、0-100が3秒の超加速を。

 

 「うわぁぁぁぁぁぁ!?」

 

 [はっ、はや、はばばばばば]

 

 〔あああああああああ!!!!〕

 

 一気に最高速度の220kmまでは加速しないが、これまでの巡航速度60kmから80kmの倍近い160kmで疾駆する。ガラテアは安全帯にしがみついて悲鳴を上げ、リデルバーディはうっかり口を開けてしまったのか吹き込む風で唇がバタバタと乱れていた。そして素早さに慣れているシルヴァニアン達でさえ速さに脅えている。

 

 なんだいなんだい、もうちょっと気合い入れ給えよ、これでも群狼は統合軍の乗り物でも大人しい方だぞ。なんせ舗装路なら時速600kmでかっ飛ばせる強行偵察用の甲種一型装甲装輪車両なんてものもあるんだ。それに比べたらコイツは軽いツーリングだぞ。

 

 むしろ、旧地球の乗り物でも100km越えなんて普通で、高速道路をビュンビュン行っていたのだ。これを期に慣れて貰おう。

 

 なに大丈夫さ、セレネが先行して道の安全を確保してくれているから、私さえ事故らなければ誰も事故らない。そういう安全設計になってるからジェットコースターにでも乗った気分で……ああ、いや、そういう行楽施設ないか、ここ。

 

 『上尉、風になってご機嫌のところ申し訳ありませんが、2km先に倒木です』

 

 「っと、ありがとう。減速する」

 

 相方からの警告を受け取ってナチュラルに速度を緩めたが、ふと気付く。ここは平原で両脇には膝丈の草が生い茂っており、遠方に木立こそ見えるが道を塞ぐような倒木が自然と生まれるような環境ではない。

 

 そして、セレネが警告してきたと言うことは、踏み散らせる小枝のような障害ではないということだろう。

 

 『それと熱源多数』

 

 「はい?」

 

 嫌な予感と共に網膜モニタへ高空域からの映像が表示された。それは熱源を視覚化したもので、十数人の人間が草むらに紛れて潜んでいるではないか。

 

 これはアレじゃな? いわゆる盗賊ってヤツじゃな?

 

 倒木から1km手前で完全停止し、私はガラテアのところへ向かった。

 

 「し、し……死ぬかと思った……ぎ、ギアキャリバーにこんな機能はなかったはず……」

 

 「ガラテア、瀕死のところ悪いんだけど、不意討ちを受けそうなんだ」

 

 「な、何だって?」

 

 道を倒木が塞いでいて周りに熱源が多数潜んでいることを説明すると、彼女は露骨に顔を顰めて物取り共だと言った。

 

 ここら辺は交通の便が栄えていなくて地方と隔絶されているのだが、たまに商人がテックゴブ産の道具を求めて冒険的な仕入にくることがあるのだ。それを狙った犯行であろうと。

 

 「因みに聖都の方で盗賊の扱いは?」

 

 「生きて捕まえたら鉱山送り、狙った相手次第では死を賜るね」

 

 うーむ、それは重い。ガラテア以来の似た格好をした相手との邂逅なんだから、もうちょっとおだやかにできまいか。

 

 別に悪党なんて現実でもVRでもぶっ殺してきたから抵抗はないんだが、初めての地方で暴れ廻って悪名が広がると困るんだよな。全員きちんと始末できても何処からか名前が漏れて、有力者から傭兵の殺し屋が差し向けられたり、荷物に「お前を見ている」なんて警告文を紛れさせられては堪らん。

 

 なので私は、ガラテアが不服そうだったが穏便にことを運ぶべく、一つの提案をした。

 

 あれだけかっ飛ばしてきたのだ。2km離れていても巻き上がる土埃などで我々の接近を察してはいただろう。それが急に止まった今、彼等は何事かと訝っているはずだ。

 

 この隙を活用させてもらおう。

 

 〔ピーター、足に自信がある戦士を三人ほど見繕ってくれ〕

 

 〔畏まりましたノゾム様〕

 

 足に自身があるシルヴァニアンを率い、私は道脇の草むらに入って中腰で発見されないように進む。強化外骨格のおかげで中腰でも負担は殆どなく、隙無く設計された鎧は衣擦れすら発さない。

 

 しかし、シルヴァニアンは私より何枚も隠行が上手だった。手を付いて姿勢を低く、それでいて何倍も早く無音で走れるのは兎と二足歩行が可能な骨格のハイブリット構造が成せる奇跡の高性能。

 

 置いて行かれないよう必死でついていって、辿り着いたのは倒木の近く。

 

 「……来ないなぁ」

 

 「き、機材トラブルとかかな?」

 

 聞こえてくるのはガラテアから学んだ言語基系と同じ言葉。あまりガラが悪くなく、どこか普通の響きをしているように感じた。

 

 「なぁ、やっぱ止めようぜ。助けに行って金貰った方が良いって」

 

 「い、今更イモ引くんじゃねぇよ! ここでデカイ稼ぎがなきゃ家の壮園は……」

 

 見られているとも知らず、結構な大声で相談しているあたり素人だな。武装もお粗末で一人が機械弓を――形状的にテックゴブの物だろう――持っているだけで、後は農具らしき鉄器と槍くらいしか見当たらない。

 

 あれでよく路上強盗なんてやろうと思ったな。

 

 まぁ、事情があるみたいだから大人しく話を聞くか。

 

 私は腰のポーチから小さな缶を取り出してシルヴァニアン達に配った。

 

 無論、ただの缶ではない。アルミニウムとマグネシウムを反応させて瞬間的に爆発的な轟音と閃光を産む、フラッシュバンだ。

 

 炭素基系の生物には特に有効な非致死性兵器をセレネに頼んで幾つか作っておいた。勘違いで発生した戦闘で死人を出して恨まれたくないし、こういう時一方的に先手を取れて有利なので、あって困ることはないと用意して貰ったのだ。

 

 それに、こっちの方が不慣れなシルヴァニアンに扱わせても事故の可能性が低いからね。いきなり破片手榴弾を渡して投げるのに失敗、自爆なんてことになったら私は悲しくて半日は基底現実時間で泣くかもしれん。

 

 ともあれ各々散ってフラッシュバンのピンを抜き――FCSと連動しているので、投擲に最適の姿勢と危害半径が表示される――お粗末な路上強盗達に放り投げた。

 

 「なんっ……」

 

 地面に落着して三秒、時限信管が発動して炸薬が燃焼。アルミニウムのケースとマグネシウムが燃焼する化学反応で爆発的な轟音と太陽を直視するより強烈な光が迸る。

 

 「あぁぁぁぁぁぁ!? 見えっ、ぐえっ、きぼぢばる……」

 

 「めっ、耳……あああああ!?」

 

 視覚と聴覚、炭素基系の旧人類が最も依拠する五感の二つを同時に奪われる気持ち悪さに耐えきれなかったのか、野盗達は次々に倒れていった。

 

 そして無線で群狼を呼び寄せ、戦士達に彼等を包囲させながら、見たところ一番偉そうな男性を捕まえる。

 

 「落ち着け、直に収まる。聞こえているか?」

 

 「耳っ、耳がいてぇ……世界が揺れて……」

 

 「そりゃそうだ、三半規管にダメージを与える武器を使ったからな」

 

 うーん、しかし、見るからに野盗っぽくない男だな。タッパは結構あるが着ているのは鎧ではなく、亜麻や綿のシャツとズボン。ボタンは木製と獣の骨を削った物がチグハグに使われており、生地は着古されてヨレヨレで金がないことだけはたしかだ。

 

 これじゃあVRで数え切れないほど倒してきた山賊というより、その山賊に悩まされて助けを求めに来た村人って風情じゃないか。

 

 実際、手元をよく見れば農作業特有のタコまみれであるし、爪には働き物の証拠か詰まって中々取れなくなった土の汚れがびっちり。鍛えられた体も筋肉の付き方が軍事訓練で身についた物ではなく、上腕や腰に胸が農作業従事者によく見られる膨れ方をしているではないか。

 

 「三つ警告だ。勝手に動くと殺す、質問に答えないと殺す、嘘を吐いたら殺す。いいな?」

 

 首根っこを引っ掴み、銃剣を首に添える。冷たい感覚に死を予感したのか、男はあっさりと抵抗を止めた。

 

 「わ、分かった! 分かった! 降参だ! 俺たちゃまだ何もしてねぇ!!」

 

 「だが、しようとしていた。ちがうか?」

 

 長い間外で働いているからだろうか、鞣し革のように日焼けした肌が緊張に強ばって大量の汗を噴出させた。

 

 少し乱暴に扱ったからかはだけた皮膚には、幾つも傷があったが刀傷ではなく木や石に引っ掛けてついたような浅い蚯蚓腫ればかり。どうやらこれが初仕事で、玄人ではないな。

 

 ま、この様でやり慣れていたら、どれだけ気合いが入っていない地方なんだと呆れるところではあるのだけど。

 

 「何をしようとしていた」

 

 「み、見りゃ分かるだろ!」

 

 「二つ目の警告を忘れたか?」

 

 「っ……ば、馬車強盗だよ! か、金が、金が必要なんだ!」

 

 「何故金が欲しい」

 

 「そ、荘園の動力炉が止まりそうなんだ! なのにあのクソ軍隊共、戦だからって蔵を開かせて燃料を根こそぎ……!!」

 

 悲鳴のような訴えを聞き、私は思わず手からちょっと力が抜けた。

 

 えぇ……? とガラテアを見れば、彼女は手と首を全力で左右に振って違う違うと主張した。

 

 「違う! 僕らはしてない! というか、僕らは金を払ってるし、買い求めたのは糧食と水だけだ!!」

 

 「代官の私兵だよ! 戦なんて名目だ! どうせ中央から戦費を出せってせっつかれて、俺らから奪っていっただけだ!!」

 

 これは相当根深いナニカがありそうだな。

 

 とりあえず、私は彼等が初犯であることと、明らかに困窮していることからして一回だけ見逃してやることにした。

 

 まずは荘園に案内してもらうとしようか。

 

 強盗を画策するほど困っている荘園なら、この地方の情勢を生々しく聞くこともできるだろうからな…………。

 

 

 

【惑星探査補記】天蓋聖徒では見せしめ刑よりも労働刑の方に重きを置いているようで、遺物を掘り出す鉱山に送り出す労働刑が実質の最高刑といえる。




すみません、とんでもない寝坊をかましてしまいました。
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