実質異世界転生 ~二千年寝てたら世界が変わってました~   作:Schuld

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 荘園の制度は私が知っている限り古い古い旧地球のそれと似ていた。

 

 領主が土地を持ち、そこに住まう領民に生産活動を行わせて地代と物納品を納税させる労働システムを取った集落であり、そこに職業選択の自由や移動の自由はない。

 

 まぁ、要するに古典的な農奴制というやつだ。

 

 天蓋聖都は聖都を中心に多数の領地を持ち、その地に貴族を任じて支配をすると同時、与えた土地を自由にさせることを対価に賦役や軍人の確保を行っているようで、ここもそんな支配の中に生まれた小さな荘園の一つであった。

 

 「で、マギウスギアナイトが来た後に領主の軍が来たと」

 

 荘園の名はブルクトマナー。下手な馬車強盗を目論んでいた男の名前はフレドリックと言い、ここらでは一番の力持ちということで青年衆のまとめ役をやっているようだった。

 

 「聖戦に参加するから各地から徴発をしてるとかで、蔵の中身と金を殆ど持ってかれた」

 

 「働き手もだ! 兵士として五人も取られちまったよ」

 

 とりあえず、その荘園が見える丘の上で、私は十四人の強盗未遂犯共を全員正座させていた。始めてやらされる座り方だからか非常に痛そうにしているが、他人の財物を暴力を以て奪おうとしていたのだから、これくらいの罰はあって然るべきなので、どれだけ痺れようと崩させたりはしない。

 

 「ガラテア達は何を求めたんだ?」

 

 「私達は普通に糧秣を買ったんだよ。マギウスギアナイトは聖都の直轄戦力だが、徴発権や徴税権はないんだ」

 

 そこはちょっと意外だった。ほら、近世までの軍隊における兵站って、ほぼ略奪と等号で結べるもんだから、ちゃんと買ってるってのは中々ない美徳だぞ。何せ酷い所だと同盟国はおろか、自国内でさえ略奪で賄いながら進行してたりするからな。

 

 というか、貨幣経済が浸透してるのに農奴制が崩壊してないってのも凄い。何か彼等を土地に強く強く縛り付ける物でもあるのか?

 

 そういえばさっきフレドリックが動力炉がどうのこうのと言っていたな。ここの人間は土地とテクノロジーで縛り付けられているのだろうか。

 

 「蔵の中身と言ったな。食料を持って行かれたのか?」

 

 「炉に放り込むための玉米だ!」

 

 玉米ってなんだろうと思ってデータベースをひっくり返すと、既存のそれの中ではなくガラテアと直結した時にコピーしたデータの中に含まれていた。

 

 主要作物の一つで一本の幹から多数の粒が密集して成る穀物……って、これトウモロコシじゃないか。

 

 これが燃料と言うことは、もしかして有機転換炉を使っているのか。条約で融合炉が使えない特殊な土地や、メンテするだけの技術がない国だと現役であるとは聞いていたが、それで電力の全てを賄っているとなると、大分楚々とした暮らしをしていたのだな。

 

 「もう炉に放り込める物が殆どねぇ。木材も前の冬に動力鋸がイカレて真面に取れなくなったし、刈払機も一台しか残ってない上にガタが来てる。これじゃ次の冬を越えられねぇ」

 

 「マギウスギアナイト様から貰った金で修理したり、新品を買おうとしたりしようって話し合ってたんだ。そうすりゃ次の年も何とかなるってんでみんな喜んでたんだけど……」

 

 「どこで噂を聞きつけたのか、金が入って十日もしねぇ内に私兵共が……」

 

 若衆頭の説明に若者達が次々続き、顔色が暗くなる。

 

 なるほどな、それで馬車強盗なんぞに手を染めようとしたと。

 

 理解できなくもないが、ちと短慮に過ぎるな。それで金を手に入れても報復を受ける可能性が生まれるし、治安維持をやってる領主に目を着けられた終わりだろうに。

 

 とはいえ、学がなく農奴として生活させられていたなら、思考の幅が狭いのも仕方がないか。

 

 『上尉、どうなさるおつもりですか?』

 

 「ここら辺の情勢なんぞを聞くために助けてやるか。小物相手でも貸しは貸しだし」

 

 『そうするだけの価値がある情報を持っていますかね?』

 

 「フレドリック達への貸しじゃない。荘園ってことなら代官か名主がいるだろ、ソイツへの貸しだ」

 

 私は少し悪い顔をして、ガラテアを呼び寄せた。

 

 「なんだいノゾム。僕はもう、少し哀れになってきたところだよ」

 

 「だが蛮行は蛮行だ。だからだな……」

 

 彼女はマギウスギアナイト、つまり聖都から派遣されてきたお偉い様で――たとえ敗残兵だったとしても――ここいらの誰よりも偉いという訳だ。

 

 なので、彼女に交渉して貰って近隣の地図や政治情勢、それと人物相関やら諸々全部情報を引っこ抜いて貰おう。

 

 そうしたら聖都を訪ねるにしても、裸一貫で行くより大分やりやすくなるだろうさ。

 

 向こうでのお偉いさんの名前、その人が好きな物や嫌いな物、ガラテアでは知らないような政治的タブーや情勢などを知っていれば、協力者やら何やらを作りやすくなる。

 

 それに領地があるということは、関所もあるということだ。

 

 その関所をこれだけの装備をした、しかもテックゴブとシルヴァニアンが簡単に通してくれるとは思えない。

 

 関所破りくらい簡単っちゃ簡単だが、いざ聖都に着いてからそれで糾弾されては適わないからな。

 

 賢く行こうや賢く。

 

 「君は……何と言うか、本当にもう……」

 

 「ここで前途ある若者を鉄鎖系か鉱山送りにするより、幾らか気分が良い選択肢だろう? 頼むよ騎士様」

 

 ね? と手を合わせてお願いすると――この仕草は多分意味が分からないだろうが――彼女は憮然とした表情をしたのち、ほんの少し考え込んで言った。

 

 「分かった、分かったよ、僕が名主と話す」

 

 「さっすが騎士様、話が分かる」

 

 「次、僕をそう呼んだら引っぱたくよノゾム」

 

 何が気に食わないのか分からないが、少しだけ唇を尖らせたあとでガラテアはフレドリックのケツを蹴り上げて立ち上がらせ、名主のところに案内するように命じた。

 

 長時間の正座で痺れに痺れた足をふらつかせながら案内されたのは、農地が広がる中でも少しだけ豪華な作りの家。

 

 そして、名主の家で私は真っ青な老人の顔を拝むこととなった。

 

 「全て私の監督不行き届き……よっ、よもや騎士様の隊を襲うなど……」

 

 「未然に防いだから構わない。それより、この辺で起こっていることを知りたい」

 

 さて、ガラテアが喋っている間に私は家を観察したのだが、何と言うか実に原始的であった。

 

 木と石造りで壁の間に断熱材を挟むようなことをしてはいないが、電線が這っていて梁や壁を伝って電灯やら空調設備に繋がっており、家の個々に電源があるのではないことが窺える。

 

 壁を通じて太い電線が地下に伸びていることからして、発電施設を一極化することによって全てを管理しているのだろう。

 

 なるほど、地代と同時に電気代を取り立てて農奴を大地に括り付けている訳だ。非人道的ではあるが頭が良いな。

 

 「聖都でまた竜が出たとかで、防備軍のための燃料と食料徴発に部隊が回ってきたのです」

 

 「聖都がまた襲われたのかい!?」

 

 「は、はい、詳しいことは分かりませんがアッシュベリー卿が仰ることには、聖戦のため各地に供出令が出たと……」

 

 「そこまで聖都は追い詰められているのか……」

 

 名主の話を聞いて沈痛な面持ちを見せるガラテア。そうえいば彼女は元々、聖都を襲う〝竜〟を退治できる武器を求めて〝太母〟を訪れたのだったか。

 

 一応、ラスティアギーズ族の物になった旧グラッヴゴルブ部族の〝聖槍〟は持ってきているけど、これ結構ガタガタなんだよな。

 

 掃宙艇程度の戦力なら機関部にでもブチ当てれば沈められるとは思うが――それでも、地表だと相当近づく必要があるけど――〝竜〟とやらがそれ以上の怪物だったらお手上げだぞ。電磁石銃の釣瓶打ちで落とせるくらいだったら、とっくに退治されているだろうしな。

 

 うーん、せめて中型の融合炉を作れるだけの設備がティアマット25に残っていれば、対艦電磁砲なんぞも作れたかも知れないんだが、機密に触れそうな工場は根こそぎ恒常性維持ユニットに回されていたせいで、そこまで大層な物を用意できなかった。

 

 ガラテアは〝聖槍〟で満足しているようだが、本当にこれで対抗できればいいのだけど。

 

 「アッシュベリー卿は今どこに?」

 

 「いらしてから時間が相当経っておりますので、居城にお戻りかと」

 

 「分かった、じゃあ次はこの辺りで同じように徴発があった荘園があるか知りたいんだが……」

 

 ふむ、聴取は順調に進んでいるようだし、私までここに突っ立っている必要はないか。

 

 この惑星にばら撒かれている技術のレベルを知りたいから、ちょっとブラブラしてみるとしよう。

 

 「なぁフレドリック、動力炉をみせて欲しいんだが」

 

 「え? いや、でもありゃ荘園の命……」

 

 「いいだろう? 何かしてやれるかもしれんから。な?」

 

 端っこで名主に滅茶苦茶怒鳴りつけられてしんなりしていたフレドリックを捕まえ、ひっそりと家を出て動力炉に案内させたのだが、どうにもそこだけ他と風情が違った。

 

 建物がちゃんとしているのだ。金属製の頑丈な壁と屋根がある建物で、大きさは小規模な公民館程度であろうか。今も発電しているらしくゴウンゴウンと低い音が轟いているそこは、手工業的な建築が目立つ中で酷く浮いている。

 

 とはいえ、高次連の基準で見れば普通というだけで変わった物ではなかった。

 

 確かに集落全体に電力を行き渡らせるための炉を守る建物なら頑丈に作る理由は分かるのだが、普通に暮らしている人々があそこまで安っぽい家に住んでいる理由は何故だろう。どうせなら家もちゃんと近代的な造りにしてやれば、労働効率も上がるだろうに。

 

 いや、私は好きだけどね、石と木でできた建物。自宅を持てるVRゲームだと装飾やら家具の配置やらに凝ったもんだよ。

 

 「また怒られそうだなぁ」

 

 掌紋認証の扉を開いた彼が〝機械小屋〟と呼ぶ建物は、その名に相応しく様々な機械で一杯だった。

 

 様々な機械を引っ掛けるラックが壁面に所狭しと並べられており、大型の旋盤やボール盤、木材や石材を裁断するカッターなどもある。しかも、片隅には四脚型の多目的ワークローダーが鎮座しているではないか。

 

 そして、その中央で音を立てるのは予想通り有機転換炉だ。有機物を燃料に変えて発電する原始的かつ安価な発電機で、工業用冷蔵庫二機分ほどの大きさがああるので発電量は5GWかそこら。集落一つを賄うには十分過ぎるだろう。

 

 よくよく見れば、道具も殆どがバッテリー式で充電すれば使えるようにできている。

 

 なんだ、村落を作った者は存外優しいじゃないか。これだけの器機と開拓用資材を用意してくれるなんて。私はてっきり鉄製の鍬と鋤、あと牛で頑張ってると思っていたよ。

 

 「関心してるところ悪いが、ここで生きてる機械は殆どないぜ」

 

 「なに?」

 

 「もうウチの荘には巡回ギアプリーストなんて何代も前から来てねぇ。誰も修理してくれねぇんだ」

 

 言われてみれば、確かに機械の殆どが全体的に埃を被っていて使われている形跡がないな。ロッカーの幾つかは長い間使われていないのか錠がさび始めているし、ワークローダーなんか片足が分解整備を試みたのか、外れたまま随分と放置されている。

 

 なるほど、生活に困窮するわけだ。

 

 「ギアプリースト以外に機械を修理できる人はいないのか?」

 

 「何言ってんだアンタ、当たり前だろ。機械精霊のご機嫌を損ねちゃいけねぇから、俺らは手入れ以外しちゃいけない。常識だろ」

 

 ふむ、ギアプリーストの才能があるとガラテアから言われたが、天蓋聖都は何らかの宗教組織で技術を独占して人々を上手いこと支配しているのか。

 

 とはいえ、その肝心の修理工が来ない状態を何代も放置してるってのは流石になぁ。

 

 「工都までいけば治して貰えるんだけど、そのための布施も馬鹿にならねぇ。騎士様が来てくれたんで、その金もなんとかなると思ったんだが……」

 

 「なるほどな、機械鋸も粉砕機も壊れてるから、高効率で燃料にできる有機物が玉米だけだったのに、それを持って行かれて困っていたわけか」

 

 ふむふむ、そう思いながら道具を掛けている棚に近づき、チェーンソーを手に取る。刃は本体が壊れても手入れを怠っていないのか――誰か治してくれる人が来てくれると、淡い期待で維持してきたに違いない――ギラリと鈍く光り、瞬く間に樹木を切り倒せる暴威を秘めている。

 

 ただ、肝心の本体、電装系が断線してるなこりゃ。

 

 ふむ、ここで貸しの一つ二つ作っておくのも悪くないか。

 

 下手すりゃ竜相手に戦争するんだから、志願兵は幾らいても損しないしな…………。

 

 

 

【惑星探査補記】有機転換炉。炭素基系有機物を燃料に変換する設備であり、精製から発電までを一括で行うことができる。構造が簡素で燃料が地球型惑星表面上なら大量に手に入ることから途上国の多くで採用されてるが、大型でも30GW程しか発電量がないため小さな村落から街程度の維持が限界とされる。 




次回の更新は17:00頃を予定しております。
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