実質異世界転生 ~二千年寝てたら世界が変わってました~   作:Schuld

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 『無茶苦茶する人ですね』

 

 「自己犠牲の精神あってこそだ」

 

 私はガラテアの首に空いた刺創が塞がるのを観察し、首筋に手を添えて脈動が戻っていくのを一安心した。瞬間的に数百mlを喪っているので脳が一時的に虚血状態になっていないか心配だが、ほんの一瞬だったので何とか持ち直してくれることを祈ろう。

 

 「クソッ、本当に捨て身が好きなご令嬢だことで」

 

彼女の目には覚悟の火が宿っていた。

 

 最悪自分が死んでも、己が人質に取られたことで私が死ぬことがないよう、保険があることを分かって尚も無茶をした。まったく、どこまで人が良いんだね君は。

 

 『って、上尉、コードを取りだして何を!?』

 

 「もう一度彼女と直結する。動かすには危険な状態だが、離脱せん訳にもいかんだろう」

 

 『バイタルなら弊機が見ます!』

 

 「細かい脳活動を把握しておかないと拙かろう! 言ってる場合か!!」

 

 相方の制止を振り切って側頭骨下部にあるパッシヴジャックに端子をねじ込み、再び彼女と直結した。

 

 目の前が一瞬チカリと明滅し、OSの機能が起き上がって仮想電脳空間の白い白い虚空が広がるが、今は全没入している暇がないので神経系だけを直結した。

 

 脳波は乱れているが許容範囲、だが担いで衝撃が加わるとどうなるか分からん。丁重に連れていかねば。

 

 ベッドの布を巻いてからコードが抜けないよう慎重に肩に担ぎ上げ――いわゆるファイヤーマンズキャリーという運び方だ――足は左腕でしっかり確保。女性なので御姫様抱っこで遇するのがマナーかもしれんが、今の状態で両手が塞がるのは洒落にならんから、これで我慢して貰おう。

 

 「ギアキャリバーを取りに……いや、装備の奪還は難しいか?」

 

 『申し訳ありません、上尉。現状位置が不明です』

 

 チッ、上等な道具を鹵獲したら解体して原理を見たくなるのが普通だよな。銃も刀も、そして群狼も私の認証コードがないと起動しないようになっているし、複雑な外装系で分解も困難にしてあるので大丈夫だろうが不安になってきた。

 

 我が愛刀に何かしでかしていたら、全員(なます)にしてやるから覚悟しとけよ。

 

 「セレネ、脱出ルートを指示してくれ」

 

 『ああ、もう、言いだしたら聞かないお方なんですから……部屋を出て右に、別のエレベーターがあります』

 

 相方の呆れ声を聞きながら部屋を出て右に進むと、言った通りエレベーターがあった。さっき私が使ったのとは別で豪奢な装飾が施されており、貴人が使うことを前提に作り直されたことが分かる。

 

 事前にクラックしておいたのか到着と同時に扉が開き迎え入れられたので、そのまま入ると勝手に目的階のボタンが点灯した。

 

 『中央管制が封鎖状態にしていましたが、チョロいモノです。人力で数列自我を止めようとは臍で茶が湧きますよ。まぁ、今の筐体にそんな面白おかしい機能はついていませんが』

 

 下層の方に直結しているらしく――恐らく緊急時の避難用だろう――そのままぐんぐんと下っていたエレベーターが俄に揺れ、照明が明滅して動きが止まる。

 

 「何だ!? 妨害か!?」

 

 『いえ、外で暴れている竜が三度目の攻撃を実施しました。かなりの家屋が散弾のように障壁を叩き、一部が抜けて〝イナンナ12〟に直撃したようです。一応、艦隊戦に備えた装甲だから簡単に抜かれはしないでしょうが、衝撃は凄まじいですね』

 

 畜生、あのデカイ蜥蜴め、人間様の居住地で砂場遊びみたいなことをしやがってからに。緊急停止したエレベーターから合成音声で振動を検知したため停止しますとのアナウンスが流れたが、それは途中で止まって再び稼働が始まる。

 

 「動かして大丈夫かセレネ?」

 

 『上尉は映画の見過ぎかと。ケーブルの一本二本切れたところでエレベーターは落ちません』

 

 ああ、そうえいば四隅のレールを噛むように進む構造だから、ケーブルが切れたら止まりはするけどおっこちはしないんだっけ。

 

 安心して下層階まで辿り着くと、そこは中々に広い倉庫であるが伽藍としていた。

 

 元は何台も車両が止まっていたのだろうが、急いで出発した形跡が残っており――慌て過ぎたのか、車体をぶつけたらしい破片が一部に散らばっている――数台のギアキャリバーが残されているばかり。

 

 よし、後はコイツに乗って一時離脱……。

 

 そう思っていると、倉庫の対面にあったエレベーターが到着を報せる電子音を奏で扉が開いた。

 

 すると、なんとそこにいたのは五人の護衛を伴ったヴァージルではないか。

 

 「クソッ、車両は殆ど出払って……なっ、貴様!!」

 

 ええい何たる巡り合わせだ! 私は三至聖を怒らせるようなことでもしたか!?

 

 脳内で毒突いてコイルガンを構えると、彼の護衛が即座に前に出て頭部への射撃を庇った。手甲が他より大型の外骨格を着ており、省エネモードの弾頭は簡単に弾き飛ばされる。

 

 「何故生きている! それにその小娘!!」

 

 「残念だったな、殺し損ねたようで」

 

 この物言いからして私の独房にも刺客を送り込んでいたのか。ただ、逃げるのが予想以上に早くて空ぶったようで残念だったな。

 

 ただ、この状況は非常に拙い。五人の護衛が前に出て抜剣し始めるではないか。

 

 「だが、ここで殺せば帳尻は合う! 斬れい!!」

 

 ああっ、もう! 私達の何がそこまで気にいらんのか知らないが、勘弁してくれ! 今そういうことしてる場合じゃないだろ!!

 

 私は物陰に向かって走りながらコイルガンを連射。しかし、強装モードで放ったそれは手甲や胸甲に受け止められて、護衛をたじろがせるに留まった。

 

 どうやら高官の護衛専用に特別仕様の強化外骨格があるようだ。きちんと弱点部分に当てないと殺せないか。

 

 なら、一丁踊るとしましょうか。

 

 車両用の予備タイヤを積んであった物陰にガラテアを下ろし、現在の首に嵌まっている直結コードの最大延長が15mであることを確認。敵は進んで斬りかかってくる五人、これだけ動ければ何とでもなる。

 

 敵は室内で動くことを想定していて大弓を持ってきていない。

 

 白兵戦ならこちとら千年近くやってるんだ。簡単に負けるものかよ。

 

 おらぁ! 首とドックタグ置いてけ!!

 

 電脳のクロック数を最大まで引き上げ、世界が緩やかに流れる中で遮蔽より跳び出し射撃。牽制のそれが手甲や頭を庇った剣に弾かれるのを見届けるより素早く疾駆し、最も近かった敵に駆け寄る。

 

 彼は私を刺突で迎撃しようとしたようだが、私は途中で減速をかけながら膝と腰から力を抜いてスライディング。剣士が攻撃し辛い足下に潜り込み、膝に強装モードの接射を三発ブチ込んだ。

 

 「ぎゃぁぁぁぁぁ!?」

 

 膝関節が向いてはならない方向を向いたこともあって先頭の一人目は悶絶。声から始めて中身が女性であることを知ったが、一切の容赦なく倒れて隙だらけになった後頭部に二発叩き込んでトドメを刺した。

 

 「さぁ、死ぬ覚悟ができた者から掛かって来い! 我が弾頭は如何なる者であれ立ちはだかるなら容赦はせぬぞ!!」

 

 再装填しつつ叫ぶと、残りの四人がたじろぐのが分かった。

 

 一対多でやる喧嘩の定石だ。最初の一人をできるだけ惨たらしく始末してやれば士気を挫くことができる。彼等のヴァージルへの忠誠は命を捨てる程かな?

 

 「止まるな! ここで斬らねばギアキャリバーを持って行かれるぞ! 脱出したくないのか!!」

 

 っと、そっち方面から攻めるか。確かに残っているギアキャリバーは三台、分乗しても我々を見逃せば誰かがここに取り残されることになる。

 

 それは流石に嫌なのか、彼等は覚悟を決めて剣を構えた。

 

 どちらかといえば西洋剣術に近い構えだった。二人は憤怒の構えとも呼ばれる柄頭が後頭部につきかねないほど振り上げた構えで、もう二人は突撃の勢いで押し潰すつもりなのか剣の先端を片手で握るハーフソードの構え。

 

 四人で同時に突撃して押し潰すか、人品はさておき練度は中々のようで何より。

 

 だが、私の前で防御を崩すのは些か早計とも言えるぞ。

 

 「なっ!?」

 

 FCSの狙いは正確無比で、拳から露出した柄頭を殴り据えるように打つことくらい簡単なのだ。戦闘で憤怒の構えを取っていた騎士の剣を中空に弾き飛ばし、構えが乱れたところで頸部へ三連射。

 

 衝撃に耐えかねて首が愉快な方向に曲がったのは結構だが……先の連射も含めて、強装モードでの残弾は残り四発。リロードする余裕はあまり与えてくれなさそうだよな。

 

 って、待てよ。

 

 私は直感的に弾き飛ばした剣の方へ向かっていた。

 

 そして、殺到する騎士達を余所に拾い上げ、勝利を確信する。

 

 間違いない、これは他の騎士達が装備している圧縮合金製の剣と素材は同じだが、取り回しを考えて極薄に作ってある!

 

 他が叩き潰すための物であるとすれば、これは正しく〝斬る〟ための剣! 重量は圧縮合金製なのもあって約10kgと重すぎるが、何とか扱えないこともない。

 

 銃剣より優れた刀剣を手に入れた私は、戦闘を行く剣士の雷刀を下段からの切り上げで迎え撃った。

 

 微かに剃りがある片刃の剣、その峰に手を添えての逆拝み斬り。半歩踏み込みが早かった私の剣が敵の手首を切り払い、真っ赤な血を流しながら刃が装甲間接部を抜いて肉の間を泳ぎ、骨を断ってすり抜ける。

 

 「がぁぁぁぁぁ!?」

 

 片手の半ば以上を絶たれた敵は剣の重みに負け、そのまま右手が千切れ落ち、傷口を押さえて蹲る。

 

 トドメを刺している暇などないので、回り込んできたハーフソードの剣士と対峙。

 

 鋭い刺突を刃を縦に構え、切っ先が触れると同時に軽く弾き右に受け流す。

 

 それと同時、刃を可能な限りコンパクトに持ち替え、手首を返す最小限の動きで切り上げて無防備に近い脇を断った。

 

 「ひぅっ……あああああ!?」

 

 血が凄まじい勢いで鎧の合間より流れ出す。脇の筋を撫で切りにすると同時、太い血管を断ったのだ。

 

 ちっ、しかし鈍らだなコイツ。たった二人斬っただけで手応えが変わってきた。血糊と人の油のせいというよりも――そもそも私の技量では付着させない――柔軟で堅い防刃繊維を斬ったせいで刃毀れを起こし掛かっている。

 

 それに細く作ってあるせいで脆い。対甲冑戦というよりも、装甲をあまり着込んでいない雑兵向けに作られたのか脆弱に過ぎるぞ。

 

 まぁ、そのおかげで私でも持ててるから文句は言えないんだけども。

 

 「ちぃえりゃぁぁぁぁ!!」

 

 最後に残ったハーフソードの剣士が渾身の突きを怒声を上げつつ送り込んできた。腕自体は殆ど動かさず、体当たりで叩き潰す覚悟の一撃は練度の高さを感じさせるが、私が剣を持ったからって〝銃〟を忘れちゃいかんよ。

 

 片手で逆手に握った剣を膝に添え盾として刺突を受け止め、体当たりで押し倒される刹那に拳銃嚢から銃を抜く。

 

 そして、間近に迫った首筋に銃剣を突き立てた。

 

 「かはっ……」

 

 それから一発ブチ込めば、関節部に弾丸は吸い込まれるように飛び込んで、肉に絡まった刃を解放する。

 

 私はぶちかましの勢いで全身の骨が軋むことを感じながら、絶命して脱力した騎士から弾き飛ばされて着地。残弾数三発の銃をヴァージルへと向けた。

 

 「詰みだな」

 

 「ぐっ……くぅぅぅ……ええい!!」

 

 すると、ヤツはエレベーターのボタンを押して物陰へと隠れた。

 

 くそっ、そのため表に出ず中に残っていやがったのか!

 

 遅れて弾丸が室内に飛び込んで貫通するが、それが精々で弾は口ばかりが回る騎士モドキに着弾せず、ポーンという電子音と共に扉が閉じた。

 

 そして表示が下を向き、そのまま降りていってしまう。

 

 「クソッ、逃げられた。殺しておいた方が後腐れもなかったのに!!」

 

 『エレベーターの装甲は、扉部分なら抜けても隠れた部分は構造物の厚さで抜けませんでした。仕方がありません』

 

 「口惜しいが、逃げる足を手に入れられただけでヨシとするか……」

 

 それにガラテアを無事だった。私は彼女の元に戻りながらコードを伸縮させると、ちょうど翡翠色の瞳が開くところ。

 

 「ノゾム……?」

 

 「ガラテア!」

 

 戦闘が激しくてバイタルを見ている余裕がなかったけど――異常があればアラートが鳴る設定にはしておいた――脳波がもう回復したのか。

 

 目を覚ました彼女に駆け寄って、抱きしめる……のではなく、頬を一発張った。

 

 「無茶する子だなまったく!!」

 

 「ご、ごめん……でも、君なら助けてくれると思ったんだ」

 

 頬を張らした彼女は私に抱きつき震える。

 

 「もう、もうダメかと思った、死んだかと思った……穢されて、弄ばれて死ぬんだと……でも、君の顔を見たら安心して……」

 

 「っ……分かった、分かった……」

 

 半裸の彼女を抱き返し、宥めるべく背中を撫でてやる。

 

 そりゃ怖かったろう。婦女、それも恐らく純潔の彼女が陵辱される際にあったんだ。その縁から助かると思ったら無茶の一つもしたくなるだろう。

 

 ただ、私が装備を取り返していなかったらどうするつもりだったんだ。

 

 泣き続ける彼女を抱きすくめながら、私はセレネにギアキャリバーの起動を頼むのであった…………。

 

 

 

【惑星探査補記】マギウスギアナイトの剣には二種類があり、対装甲用の標準剣、軽装甲用の片刃剣と標的によって使い分けており、分隊の中である程度装備が偏らないよう気を遣って編成されている。 




次回の更新は17:00頃となります。

そういえばTwitterで惑星探査補記後記なる小ネタを始めました。
よろしければ更新予定報告などもしておりますので、フォローしてくださると嬉しく存じます。
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