実質異世界転生 ~二千年寝てたら世界が変わってました~   作:Schuld

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 兎達の王国で募兵しようと顔を出したところ、凄いお祭り騒ぎになった。

 

 主役は私ではない。人形筐体を手に入れたセレネだ。

 

 『上尉! そろそろ止めてください! なんだかいたたまれませんしティシーに悪い気がします!!』

 

 「彼女もそこまでもふもふに呑まれたことはないだろうからねぇ」

 

 暢気に答えたが、今セレネは大絶賛歓迎されて、兎達にもみくちゃにされていた。

 

 〔小さい神様!〕

 

 〔きっと神様の姉妹だ!〕

 

 〔これだけ小さいから末妹だ!〕

 

 〔僕らの所に遣わしてくださったんだ!!〕

 

 こんな感じで大盛り上がりなもんで、水を差すのも悪くて見守っている。当人は今にも祭壇に奉られてしまうではなかろうかと気が気でないようだが、シルヴァニアン達はそこまで強引な種族じゃないから安心していいよ。

 

 私でさえ監禁するようなことをせず自由に出歩かせてくれるんだ。たまに宗教的儀式につき合わされるだけで、大事にしまわれたりはしないさ。

 

 〔今日は何と目出度き日でありましょうや。神様の伴侶がお帰りになられた上、小さい神様までご降臨なされるとは。長生きはするものですなぁ〕

 

 長老が足踏みしながらナムナムやっている隣で――そう、セレネが来たから私の位置が一個下がったのだ――クソ苦い茶を啜り頷いてやる。今の義体は味覚の選別削除もできるから、さも美味しそうに召し上がることができて楽で良いやね。

 

 〔星々の海でティシーは君達を今も見守っているのさ〕

 

 〔まこと、聖なる物語の通りでございます。星々には数多の神がおり、皆を見守り、愛でてくださっていると。今日を新たな祝いの日とし、永に語り継いでいきましょう〕

 

 感極まってうるうるしている長老に同意しつつ、こっそり耳打ちの大きさで翻訳機を通して問い掛けた。

 

 〔して、志願兵の方はどうだ?〕

 

 〔はい、追加一〇で良いと仰いましたが、手を挙げる者が多く困っております〕

 

 うーん、元から士気もやる気も溢れているシルヴァニアン達だけど、セレネの人形筐体にテンションが限界突破しちゃったようで、ついて行きたくて仕方がないみたいだな。彼等は斥候として、何より被弾面積が少なくてポイントマンとして最適ではあるのだけど、頭部に防具を被りたがらないからちょっと怖いんだよな。

 

 既に三名も死なせているのだ。これ以上死人を増やしては私がティシーに面目が立たなくなる。

 

 かといって、最前線から遠ざけられると嫌がるだろうし、どうしたもんだか。

 

 〔神様の伴侶、なんとかなりませんか? こう、五倍とはいいませんが三〇人くらいで〕

 

 〔うーん、既にテックゴブの勇士が四〇名も立ち上がってくれたから、車がパンパンなんだよな……〕

 

 死の渓谷こと元〝第5689開発拠点〟の征伐に関しては、テックゴブ達も乗り気で結構な数の戦士が戦列に加わってくれている。

 

 これは私が離れている間に合議で総族長が決まって――結局、バルゲンゴク部族のギンゲルギズになったようだ――戦力の統一化が上手くいった結果、〝太母から湧き出る異形〟という最大の敵がいなくなったテックゴブ達の防衛戦力が若干ダブついたことによる。

 

 元々彼等にとっての戦士とは〝太母〟に近づく不埒物を追い返すのが仕事であったようで、近辺の安全が確保された今では古い意義での戦士に戻ろうという活動が起こっているそうだ。

 

 そして、今まで戦士の割合はテックゴブ人口の5%程もいたという。これは幾ら狩人を兼ねているからといっても少々異常で――本来専業軍人とは人口の1%未満が健全な数値だ――経済活動に問題を来す割合だ。今までは〝異形〟という脅威がいたからこそ無理矢理この数を維持してきたようだが、その必要がなくなったので、どうするかという話になったらしい。

 

 言うまでもないと思うが、これは使い手のない兵員を適当に戦死させて減らしてくれと頼まれてやっていることではない。

 

 引退させるなり狩人に転向させる前に勲を挙げさせてやって欲しいとのことで、今回の戦いで使い潰す気は私にも部族にも全くない。せめて今まで戦士として戦って来た恩賞を、最後に華々しくと言いたいのだろう。

 

 なので増産した上にアップグレードされた丙種二型強化外骨格を全員に配ったし、コイルガンも充足しているため、皆に等しく武勲を挙げる機会を用意するつもりだ。

 

 ただ、そのせいで詰めても定員二〇名のディコトムス-4はパンパンになってきて、その上三〇人もシルヴァニアンを輸送するとなると明らかに容量が足りなくなる。荷運びに使えるのが一両だけというのは何とも心許ない。

 

 それに装甲車両であるため前線に無線操作でガンガン突っ込ませる予定なので、大破した時のことも考えねばならないから、詰め込める限り人員を詰め込むと帰り道が大変になるかもしれないのだ。

 

 〔そこはほら、上にしがみつくなりさせますので〕

 

 〔跨乗戦術!? いや、それは奇襲喰らった時に拙いというか……〕

 

 可愛い顔してえげつないこと言うな長老。そりゃタンクデサントは砲撃で足が潰れた時に我々だってやるにはやるけど、最終手段であって本来余裕があって然るべき往路でやる戦術じゃないぞ。

 

 どうするんだ今回の敵が擲弾や榴弾を装備していたら。何か爆発したと思ったら装甲板の上が挽肉塗れなんて、私は嫌だからな?

 

 『えーと、あのー、あ、これ聞こえてる?』

 

 「聞こえてるよガラテア」

 

 少し離れた所で他の護衛達と隅っこに暮らしているガラテアが無線通信で声を掛けてきた。機械化が上手くいった彼女は副脳にインストールしたソフトのおかげで、幾つかの機械をより柔軟に扱えるようになったおかげで圧縮電波言語を発せるようになったのだ。

 

 とはいえ、脳が生身なのでもの凄く素早くメールを打てるようになったくらいで、こちらからの応答は文語に変換して読み直さないといけないので、私とセレネほどレスポンスは速くないんだけどね。

 

 『くじ引きとかじゃダメ?』

 

 「あのテンションを見たまえよ。それで収まると思うかい?」

 

 『……もふもふいいなぁ』

 

 それと、たまにフィルターの設定が上手くいっていないのか心の声が漏れているのがちょっと残念だ。一応、使い方は教えたのだけど、まだ慣れていないせいか結構ダダ漏れの時もある。

 

 『上尉! 馬鹿言ってないでそろそろ助けてください! 毛がっ、関節に毛がっ!!』

 

 「あー、それ玩具だから関節のシーリング甘いのか。分かった分かった」

 

 咳払いを一つして注目を集めると、神様が毛まみれなので離して差し上げなさいと命じた。するとシルヴァニアン達はエラいことをしてしまったとばかりに丁重にセレネを壇上に戻し、すごすごと戻っていく。

 

 『ああ、酷い目に遭いました』

 

 「君ももふもふ好きじゃなかったっけ?」

 

 『限度があります。あと、弊機は猫派です』

 

 そういえばそうだったね。ともあれ、無事祭壇に座った彼女は暫く考え込んだ後、何らかの計算を済ませたのか二五名までなら何とかなると結論づけた。

 

 というのも〝ティアマット25〟の改修が済んだおかげで一両だけ〝多脚戦車〟を用立てることに成功したんだよね。

 

 重要部品が――抗重力ユニットとかデータリンクパックとか――欠けているので、装甲板が半分に減らされている上、主砲出力も1/2未満とかいう半分ハリボテみたいなものだが、出力は我々を追い詰めた〝名前のない怪物〟にも劣らない……というか、内蔵されていたソレを改造したのがあの怪物だったのではないかと今になって気付いた。

 

 サソリめいたフォルムで尾の部分に〝対装甲レイルガン〟を装備した乙種多脚軽戦車一型は、巨大さもあってペイロードも膨大だ。本来は後方警備や戦闘工兵に随伴する、一応戦闘もできる軽戦闘車両という扱いなので、やろうと思えばバニアバッグを大量に装着して輸送能力を高めることは十分に可能だった。

 

 そこを生かしAPCの乗員を何とか増やそうというのだろう。

 

 いや、荷物を戦車に載せて装甲車両に人を詰め込むのって本末転倒感があるけど、彼女なりに色々計算して無理がない範疇に収まったからこその提案であると思っている。

 

 『戦車に乗せた物資から使って、空になったバッグを投棄していけば距離的にまぁ……うん、ギリギリなんとかなるかと』

 

 「君にしては凄く曖昧な物言いだね」

 

 『疲れました。贄の役をやっている子兎の気持ちがちょっと分かりましたよ』

 

 ともあれ逆モフられの洗礼を受け続けて疲れた神様の神託だけあって、兎達は仕方がないと彼等流のじゃんけんを始めた。垂直に何度か飛んで、足が閉じているか、縦に開いているか、横に開いているかがそれぞれグー、チョキ、パーになったじゃんけんは見ていてほっこりする。

 

 『可愛い……』

 

 「そうだね」

 

 未だにシルヴァニアンをモフらせてもらえていないガラテアの心から漏れた呟きに同意しつつ――因みに、大人の個体にとってモフられるのは結構な屈辱らしい――推移を見守った結果、最後の二人での決戦が始まって会場はまぁまぁ盛り上がり始めた。

 

 何でも片方は長距離射撃の名手で、もう一方は抜き打ちの名手らしい。

 

 私達が出かけている間も軍事訓練を続けてくれたのは何よりだが、ちょっと気合いが入りすぎている気もする。悪いことではないのだけど、ティシーが愛した牧歌的なシルヴァニアン像が崩れなければいいのだが。

 

 アイコを七回繰り返した激戦の末に――どうやら相手の動きを見て手を出す、高度な読み合いになっていたようだ――長距離射撃の名手が勝利し、二五名の義勇兵が決まった。

 

 まぁ、ちょっと予想より人数が増えてしまったがいいか。銃口の数は火力と統合で結ぶことができるし、今回新たに生産されたサブマシンガンはシルヴァニアンにも向いている。閉所戦闘も多くなるだろうし、地上戦でカタが着かなかったら活躍して貰おう。

 

 ただ、やっぱりヘルメットは被って欲しいんだが、そこは神様からのお願いということで納得して貰えないだろうか。

 

 『分かりましたよ、交渉してみます』

 

 「頼むよ。敵が榴弾やら何やら使ってきたら、頭を護ってないと大変なことになるからね」

 

 心底疲れた様子のセレネに更に頼みごとをするのは申し訳ないけれど、同胞が愛した兎達を生かして帰すためできる限りのことをやろう。

 

 〔あの、それと神様の伴侶様、新しく生まれた子供達に祝福を賜りたいという親達が多くてですね〕

 

 〔祝福? まぁ、それくらいなら構わないと思うが〕

 

 〔聖なる物語には、初子の額に口づけして生誕を祝ってくれたとの一節がありまして〕

 

 『まだ働くんですか!? 準備で忙しいのに!』

 

 精神的に疲弊しているセレネには悪いけど、伝統ある儀式らしいからティシーのことを思って努めてくれ。

 

 私は電脳のアイコンで相方に土下座したが、帰ってきたのはふくれっ面であった…………。

 

 

 

【惑星探査補記】シルヴァニアンの戦意が高いのは、あくまで再び帰ってきた神々を喪いたくないがためであって、牧歌的な本能は喪われていない。 




お盆なので2024/08/12も更新は15:00頃を予定しております。
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