実質異世界転生 ~二千年寝てたら世界が変わってました~   作:Schuld

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 弾丸旅程での帰郷となったが、テックゴブとシルヴァニアンの両戦士達は、これといって文句を溢さず新たな装備を受領して、十日間の慣熟訓練を熟した後に車上の人となることを受け容れた。

 

 「よっこらせ」

 

 「ぐあっ!?」

 

 その間にファルケン達の〝外骨格病〟も随分とマシになって、最近では普通に電脳のクロック数を上げないと返し技ができなくなってきたので、もう戦力に数えるのは十分であろう。

 

 「まだちと動きが硬いな……こう、振り下ろしに見せて軌道を変化し、刺突にするとか意表を突く技があれば更に強くなると思うんだが」

 

 「も、元々マギウスギアナイトは対人戦をあまり想定してないんですよ……」

 

 「私が不逞の輩に襲われた時も同じ言い訳をするつもりかね?」

 

 その上、外骨格を着たままの受け身を肉弾で覚えたようで気絶することも減った。短くも濃密な期間を実践さながらの装備で訓練し続けた彼等は、もう尻に殻をひっつけたヒヨコではない。

 

 立派に殻が取れたヒヨコちゃんだ。

 

 「かぁー……腰がイッテぇ……」

 

 言いながら起き上がるファルケンの声をかき消すように銃声が響いた。

 

 以前私が使っていたコイルガン改のソニックブームによる破裂音に反応して首を向ければ、森の近くでガラテアが射撃訓練を行っている。

 

 今日出立だというのに、機械化してから練習に余念がなくていいことだ。

 

 一発目で食べ終わったレーションの缶を弾き上げ、二発目で更に高くに運び、今度は速射で四発たたき込み遙か彼方に吹き飛ばす。体感時間を延ばして映像を記録し、最大望遠で覗いたところワンホールショットとは言わないが全弾が缶に命中していた。

 

 「……まぁまぁかな?」

 

 本人は出来映えに首を傾げていたが、見事なガンスリンガーぶりだ。VRで一切制御ソフトを使わない環境で同じことができたら、見事チーター呼ばわりされるであろう腕前は基底現実なら大したもの。

 

 機械化して季節一つも経っていないのに、この熟れ振りは彼女の才能か、それとも〝機械神のご加護〟とやらか判別がつきがたいが見事である。

 

 「ノゾムはもっと速く抜くし、精度も違う……そもそも初弾は垂直に跳ね上げたかったんだし……」

 

 ブツブツ言いながら再装填して次の的を狙う姿は鬼気迫っていて美しいが、そろそろ時間だ。

 

 「総員、傾注!!」

 

 声を張り上げると周囲に屯していた戦士達が整列した。

 

 テックゴブの志願戦士四〇、選抜シルヴァニアン二五、そしてマギウスギアナイト六名。

 

 思えば、命を持っている配下をこれだけ抱えるのは初めてだな。私が指揮していた中隊は一二機が最大だったし、随伴歩兵の九割は歩卒が指揮するドローンだったもので、配下全員が生者なのは生まれて初めてではなかろうか。

 

 いかん、変に緊張してきた。何度経験しても人の命を握るというのは、手の中に絶対溢してはいけない水を掬っているような心地になって落ち着かないな。

 

 落ち着けよ私、同じ状況は〝太母〟の奪還戦で潜ってきただろ。

 

 「これより我々は戦地に赴く。短い旅程ではあるが、待ち受けているのは激戦だ」

 

 こういう時に一席打つのに慣れて何年だろう。VRでの疑似知性相手にやったのもあるが、勿論軍務でナマの兵士相手に喋る機会も多かった。

 

 しかし、二千年ぶりともなると何を喋ったもんだか。

 

 「ある者は故地を踏むことはできないだろう。ある者は五体満足で還ることができないだろう」

 

 ああ、言葉が空回っている気がする。別段格好好く決めねばならない義務なんてないんだけど、指揮官の仕事ってこういうものだからなぁ。

 

 すなわち、兵士達にやる気を出させて、率先して死ぬような戦いへの恐怖を薄れさせること。

 

 狂奔を巻き起こす者。思い返せば碌な仕事じゃねぇな。

 

 「だが、戦いの記憶と歴史だけは薄れない。この激戦は永遠にテックゴブ、シルヴァニアン、そして天蓋聖都にて語り継がれるであろう。かつて脅威が襲いかかってきた方面に向けて築かれた、用を為さなくなった砦を見て誰もが思い出すのだ」

 

 まぁ、我々はやろうと思えば感情抑制プロトコルで死への恐怖を完全に制御できるのだけど、戦士達はそうもいかん。かといって戦闘用興奮剤なんぞ支給したくもないので、言葉で発憤させるしかない。

 

 もしこの世で最も業が深い職業があるとしたら、前線指揮官はその一指に間違いなく数え上げられるであろう。

 

 「この道を護って死んだ醜男達がいたと! 砕け散った御楯がいたと! やがて噂は物語となり、物語は祭りとなり、祭りは永遠になる!」

 

 うあー、演説プロトコル起こすの忘れて素で喋ってるから、自分でも何言ってるか良くわからんくなってきた。でもアレ、内容が画一的過ぎてプロパガンダ臭いから嫌いなんだよな。実際、聞いてて萎えるという兵卒の声もあるから、配布されているだけで使っている士官なんてまずいないし。

 

 「即ち、お前達は永遠となる!!」

 

 通信機越しに各言語に翻訳された音が響けば、それぞれ違った反応が引き起こされる。

 

 「戦う準備はできたか!」

 

 テックゴブの戦士達は武器を地面に打ち鳴らして、低い吠え声を上げた。戦意を上げるための儀式にして、自らが死ぬ覚悟ができていると表明する戦吠えだ。

 

 「殺す準備はできたか!」

 

 シルヴァニアン達は右足を打ち鳴らし、警戒の音色を以て戦闘への備えができているとした。

 

 「総員、死に方良いか!!」

 

 そして、騎士達は武器を携え直立不動。何時でも命令を受け取れる駒であると指揮官に示す態度だ。

 

 「では征くぞ!! 乗車!!」

 

 あー、痛むはずのない胃がイテェ。そりゃそうだよな、VRに二千年浸ってた上に丁種義体に収まってたんだ。幻肢痛の一つ二つ感じもするだろう。いや、この場合四肢じゃないがら幻臓痛か?

 

 甲冑具足を纏い、武器を持った戦士達が武装した甲虫の中へ呑み込まれていき、また群狼に跨がって出立の準備をする。私も01とペイントされたディコトムス-4の車長席に乗り込んで端子を直結。六脚の装甲車を自分の体に変えた。

 

 『全車前進!』

 

 走り出せば斥候役のドローンがブゥンと音を立てて飛び立ち、それを追うようにシルヴァニアンが跨がった群狼が進発する。

 

 暖機を済ませていたAPCと多脚戦車もそれの後を追い、殿を護る形で残りの荷車を牽いた群狼が追従してきた。

 

 短いが永い旅程だ。戦う前の瞬間ほど長く感じる時間はない。

 

 ああ、懐かしい感覚だ。輸送艇の降下ポッドにねじ込まれて強襲降下をかますまでの十数秒。降下艇から切り離されるまでの刹那を永劫の如く感じて、クロック数を極限まで落とせているか確認したのを今でも覚えている。

 

 早く過ぎてくれ、一瞬でもいいからと祈った時間がまたやって来た。

 

 「ふぅー……落ち着け、指揮官がビビってどうする。こっちに来てから、もう二回も戦争やらかしてんだろ」

 

 足を畳んだAPCの車輪が地面と擦れるロードノイズに耳を傾けて精神を落ち着かせた。冷徹な戦闘単位になるためのソフトも搭載されているが、今使う時ではないな。

 

 私が指揮しているのは脳殻さえ無事なら何度でも戦線復帰できる機械化人や数列自我ではなく、死んだらそこで終わりの命達。

 

 ちょいと気合いを入れて、皆が感じているだろう不安と怖さを堪能しようじゃないか。

 

 『全車、全兵員データリンク完了』

 

 「了解……把握した」

 

 セレネの声と共に処理領域にドローンを解した俯瞰視点での映像が浮かぶ。兎達の王国を朝早く出発する車列の一つ一つ、乗っている戦士一人一人にタグが振られて顔写真とバイタルサインが表示された。

 

 急造品なので現在位置とバイタルを確認することしかできない、出来損ないの戦術データリンクだがないよりマシだ。正規品相当に格上げされた外骨格のおかげで全員の生命痕跡を辿ることができるのは、これからの戦闘で非常に重要になる。

 

 死の渓谷と呼ばれるだけあって“旧第5689開発拠点”は広い。

 

 行って生還したことのある騎士が残したスケッチから確認するに、外部からの力が働いたのか地殻変動に巻き込まれたのか、本来の地下構造物が一部露出しており、そこから大量の異形が吐き出されているようだ。

 

 普段は拠点の周辺をウロウロして何をするでもなく彷徨っているが、一度刺激すれば接近した者を皆殺しにするまで止まらない怪物の群れ。

 

 データバンクから同じく敵の解剖図を引っ張り出せば、醜悪さに顔面筋が強ばるのを感じた。

 

 それを何と呼ぶか、私は形容に困った。

 

 外観は人と似ている。極端に、それこそ頬骨や額の骨が張り出るほどガリガリに痩せた頭部は眼窩が落ち窪んで一対のカメラアイが埋め込んであり、極限まで餓えた餓死死体を想像させる、

 

 一方で肉体は体高2mと高く、ひょろっとしたフォルムだけを人に似せた異形。手は異様に長く膝より下にあり、撓められた下腿のみが妙に張り詰めていて奇妙な力強さを感じる。

 

 まるでVRゲームに出てくるゾンビの変異種だ。

 

 殺しても殺しても湧いてくるコイツらを天蓋聖都のマギウスギアナイト達は〝ノスフェラトゥ〟つまり不死者と呼んで恐れていた。頭部が全損しない限り戦闘を続ける粘り強さと〝道具を扱うだけの知性〟は氾濫が起こる度に徴収兵と騎士に大打撃を与えたという。

 

 この悪趣味な人間のカリカチュアが我が同胞の拠点から生産されているというのは考えたくないが……だとしたら一掃してケリを付ける必要がある。

 

 敵は幾らいるだろうか。数百? いや数千? 氾濫が五日間続いて六つある城塞網の四番目まで抜かれたことがあるという過去も聞いたので、数万を覚悟した方が良いかもしれない。

 

 それに敵は〝銃〟を装備しているという。マギウスギアナイトの装甲に弾かれる程度の火力ではあるが、何発も浴びれば装甲は凹みいずれ内部搭乗者を傷付ける。

 

 戦術的な動きこそ見せてこないそうだが、油断して掛かって良い相手ではない。

 

 今回は竜の動きにも警戒しないといけないこともあって〝テイタン-2〟は引っ張ってこられないから、泥臭い地上戦をやる他ないのが悔やまれるな。

 

 ま、こっちはこっちで隠し球を幾つも用意してあるし、兵士達を護る装甲も十分用意した。

 

 我々は固めに固めた鋼の拳だ。やってやれないことはない。

 

 「粉砕し、押し潰し、引き摺り出してやる」

 

 そして、テラ16thがこの様になった元凶に繋がるであろう糸を少しでも掴み、帰還の足掛かりとするのだ。

 

 さぁ、腹を括れよ待宵 望。今この惑星で、きっと誰より軍歴が長いのはお前なんだ。下手なところでとちってくれるなよ。

 

 『上尉、まだ現地まで遠いのに気張りすぎも如何かと』

 

 「……そうだな。操縦を任せる。少し寝るよ」

 

 セレネの言う通りだ。私は少し落ち着くため、一瞬電脳の機能を落としてキャッシュを整理することにした。

 

 感情を溜めすぎるのもよくない。指揮官はあくまで冷静で、そして冷徹であらねばならないからな…………。

 

 

 

【惑星探査補記】ノスフェラトゥ。死の渓谷近郊を徘徊している異形であり、殺しても同じだけ湧いてくるから不死者の名で恐れられている。道具を使うだけの知性があり、全ての個体が銃で武装するか近接兵装を持っているため、マギウスギアナイトにとっては一体ならなんてことはないが、数十体に群がられると逃れ得ぬ強敵となる。




2024/08/13の更新も15:00頃を予定しております。

皆様、コミケお疲れ様です。
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