実質異世界転生 ~二千年寝てたら世界が変わってました~   作:Schuld

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 帰ってきたら何か凄い設備ができあがっていた。

 

 「わぁお……」

 

 『頑張りました』

 

 人形筐体のセレネが胸を張って自慢するだけあって、我等が古巣に運び込まれた設備は非常に高度で……SFをしていた。

 

 私一人分はあろうかという六角柱を七つ束ね、手前側の一段だけ高さが低く凹んでいる外見は正しく近未来的な電算機という風情である。実際内部には疑似量子コンピュータが仕込まれており、演算力は遠隔ではなくセレネの本体と繋がっていることもって凄まじいことになっているのだろう。

 

 艦隊指揮用の大型電算機と比べれば性能は蟻と象のようなものであるが、私達が用意できる最高峰の電子戦設備といっても過言ではない。

 

 「帰るまでの短時間でよく用意できたね」

 

 『ラスティアギーズが運搬を手伝ってくれたので』

 

 「私が驚いているのは君の設計の速さだよ」

 

 セレネは昔から本当に何でも得意だったとはいえ、よくぞ設計図もない中から流用できそうなデータを引っ張ってきて新造できるものだ。サバイバル能力でいえば統合軍でも有数なのではなかろうか。

 

 目覚めて最初の体を作ってくれたことといい、装備一式を素早くデッチ上げた素早さと良い、私は本当に果報者だな。

 

 「で、当然この電算機は……」

 

 『スタンドアロンになっています。如何なる電子汚染も発生させないので安心してください』

 

 ならばと相棒の言葉を信用し、私は〝第5689拠点〟で情報を引っこ抜いた〝穢れたる雄神〟と仰々しい呼ばれ方をしている生体ユニットの記憶データを保存した端末を接続した。

 

 『解析を開始します』

 

 彼女が言うと壁面からロボットアームが生えてきて、久方ぶりに目にする物理コンソールを叩き始めた。なるほど、完全スタンドアロンにする設計の都合上、直結して操作できないからこういう形に落ち着いたのか。

 

 何となくシュールだな。最先端の技術を用いた凄まじいまでのゴリ押しというか。

 

 『やはりフォーマットする際にデータに結構傷が入っていますね。それにトラップのウイルスもたっぷり……ですが、機体の諸元が掴めました』

 

 「おお! で、コイツは……」

 

 『間違いありません、有機体CPUユニット……旧太陽系の連中が使っている規格です。上手いこと誤魔化そうとしている節がありますが、それこそいい証拠ですね』

 

 よし、やっと尻尾を掴んだぞ。

 

 さて、宇宙には黄道共和連合の他にも二十個近い、我こそは正当なる地球の後継者であると名乗っている国家がある。

 

 我々はその内の半数……いや、過半数と緊張状態にあり、なんでか親の敵の如く恨んでくる国もある。

 

 国交が物理的交渉――つまるところの戦争――を除いて耐えて久しいこともあって理由は不明なんだが、本当に何故か分からんが恨まれているんだよ。

 

 太陽系紛争に関わったのは事実だが、高次連がおっ始めた訳ではないし、我々は大質量団を使って小氷河期をもたらしたことはあっても〝地球を粉砕した〟首謀者ではない。むしろ熱心な地球保護論者であったくらいだ。

 

 だのにまぁしつこく人間モドキだの人のフリをしたAIだのと口汚く罵ってきて、ことあるごとに紛争を仕掛けてくるのだから困ったもんだ。連中が鬱陶しくて引っ越しをした回数も二回や三回できかないので、どうせ連中のこったろうと思ってたけど、これで確定したな。

 

 「……だが、ヤツらにそこまでやる能があるか?」

 

 『弊機もそこが気になっていました。真正面からの電子戦ならともかく、こんな通信帯異常を起こせるとはとてもとても』

 

 我々は銀河の中でも電子戦技術では一歩先を行っている自覚がある。自我を二進数化した機械化人と電子世界の妖精として生まれる数列自我知性体がいるのは勿論、兆年単位で議論と計算を繰り返し続けている光子生命体やら、数学を哲学として崇めている粘液生命体、存在自体がプログラミングコードに近い複数の藻が連結することで高次知性を得た葉緑人など、兎角数字に強い種族が多いのだ。

 

 それらの面子が偏執的に練り上げたプロテクトを潜り抜けて、こんな三進数と十五進数に複雑な乱数を噛ませた発狂コードを練り上げられるとは想定しがたい。

 

 それに〝擾乱行動〟にしてはちっと迂遠過ぎる気もする。

 

 これだけのことができるなら、もっと準備をすれば本国の通信帯だって一部なら汚染できただろう。さすればテラ16thの第二二次播種船団総員二千人ちょいとは比べものにならない数を虐殺できたはずだ。

 

 それをやると四百万隻の艦隊が殴り込んでくるから、怖くて開発途中の惑星を攻撃したとか?

 

 いや、そもそもここにはランダム跳躍で跳んできたのだから、あとから追いかけてくることは不可能だ。我々でさえ何処に跳ぶか分からない方法で空間を繋げて生存圏を広げている以上、重力波係数から逆算して追跡したとも考えづらい。

 

 なら、最初から船団に潜り込んでいた?

 

 「黄道共和連合か?」

 

 『まさか、彼等は琴座協商連邦と小競り合いの真っ最中で我々と殴り合っている余裕なんて欠片もありませんよ。むしろ、不利だからこそ旧地球系国家に嫌われるのを承知で同盟を打診してきたというのに』

 

 だよなぁ、同じ旧人類とはいえ、彼等が犯人ってのはちょっと考えづらいよな。

 

 それに彼等はナチュラリストではあっても、機械化や遺伝子操作を徹頭徹尾否定している訳ではない。怪我をすれば再生治療より簡単な機械化を選ぶし、電脳化して作業能率を上げもする。そして先天性の病を多く駆逐する遺伝子治療を率先して行っているあたり、私達と同じ異端組だ。

 

 首謀者にアタリがついたとはいえ――それでも一五以上の国家が怪しいんだけども――目的が掴めん。

 

 本当に何がしたくてテラ16thで、そして第二二次播種船団を狙った?

 

 ウチの船団は確かに〝ナガト7〟など総旗艦級の艦艇を要していたが、ここまでのことをして潰すほどの規模ではなかった。船舶は大小含めて五千隻弱ってところだし、播種船団を一個二個潰したところで連合艦隊は小揺るぎもしない。

 

 でもって、言っちゃ悪いがそこまでの要人も来ていなかった。光子生命体は「珍しい議論の的が見つかったら教えてね」くらいの軽いノリで同行していないし、開拓作業は専ら機械化人の「デケぇ建物作りてぇ!!」という性癖に則った物なので他人種も一握りくらい。

 

 そして、そもそも政治的に暗殺されたら拙い人は五十年しないと往復できない所に行かない。

 

 となると、目的はテラ16thか?

 

 でもこれも適当に見つけた、どこにでもありそうな岩石型惑星だし、そもそもハビタブルゾーンからギリ離れた普通の石ころだ。宇宙を探せば砂漠の砂粒と同じくらい有り触れた惑星であって、そこまで有り難がるものでもない。

 

 しかし、考えれば考えるだけ、このテラ16thくらいしか特異な要素がないんだよな。

 

 「事前調査でテラ16thに異常はあったか?」

 

 『否定。普通の岩石型惑星で、ちょっと隕石を一個か二個ぶつけたら地球と同じ大きさになる手頃な惑星だっただけですね』

 

 だよなぁ。そこら辺を上層部が隠す必要もないし。

 

 だが、この惑星上では未知の現象が引き起こされていることを鑑みれば、悪いセンでもないと思えてくるのがなんとも言い難い。

 

 播種船団を滅ぼした連中は、本当に何がしたかったんだ?

 

 一個欠片を手に入れたと思ったら、謎は深まるばかりで困る。真っ白なパズルくらいなら許容するが、せめて何ピースで構成されているかくらいは知りたいもんだ。

 

 「もしかして、このテラ16thに既存の宇宙をひっくり返す何かがあったりして」

 

 『どれだけの確率ですか。奇跡的すぎて変な笑いが出ますよ』

 

 「だが聖J・ウェルヌは……」

 

 『人間が想像できることは、人間が必ず実現できる、ですか? 奇跡論の引用としては些か不適格かと思いますが』

 

 子供の守護聖人となられたJ・ウェルヌは人間の想像力が及ぶ範囲の事象は必ず起こると解釈できる言葉を残している。

 

 だとしたら、私の推論も強ち間違いではないのではなかろうか。

 

 「ほら、あらかじめテラ16thに目を着けていたところに我々が来たとか」

 

 『空間跳躍直後に播種船団以外に船は一切ありませんでしたが』

 

 「可能性だよ、可能性」

 

 電算機にもたれ掛かって作業用アームがカタカタやっているのを見守りつつ嘯く。

 

 だって、今のところそれくらいしか思いつかないんだもん。

 

 それに十分、この惑星は異常だろう。普通に繁殖していては発生しない物質が生き物の中に自然発生し、更に祈祷するだけで有り触れた道具が経年劣化もせず動き続ける。

 

 果ては機動兵器サイズの異形が大安売りだ。あの巨体は抗重力ユニットがないと維持できないものあって、それが自然発生するなんて有り得ないんだから不思議ではないとは言わせないぞ。

 

 『ん……? 待ってください、このデータだと〝イナンナ12〟にアクセスしたログがありますよ』

 

 「何? じゃあやっぱり黄道共和連合が……」

 

 『いえ、違います。ちょっと不思議だったんですよ、狂った疑似知性が〝都合良く航路維持機能だけ正常に稼働する〟なんて妙だなって』

 

 「じゃあなんだ、〝イナンナ12〟は……」

 

 作為的に落とされた可能性が高いです。そう無情に告げる声に寒気がした。

 

 ほんと、何考えて絵図を描いたんだ?

 

 仮説として今や天蓋聖都となった船は惑星地球化が終わったあと、乗員がうっかり全滅しないよう注意しながら落とされたとでもいうのか。

 

 耕し終わった畑へ慎重に種を蒔くが如く。

 

 『やっぱり、〝イナンナ12〟落着時の予測データが記録されて……あっ!』

 

 「どうした」

 

 『上尉! コレ! ブロックⅡ-2Bが近くに落着しています! 機動兵器の生産区画ですよ!』

 

 「あんだって!?」

 

 思わず腰を上げモニターに釘付けになった。

 

 映し出されているのは惑星を傷付けないよう自壊シークエンスに突入した〝イナンナ12〟が辿った末路の予想図で、この固体が演算したか共有したかされたデータなのだろう。船体底部に移動させたスラスターが全力で稼働し――完全球体の船は、表面を入れ替えることでスラスターを一方に集中できる構造になっている――最大限減速した後、子供のブロック細工が崩れるよう画一的に〝解れて〟方々に散っていくのが分かる。

 

 その中でも船体中央下部にあった軍事兵器生産区画が落ちていくのは、聖都から遙か北にある大地だった。落着予測では今も原形を保っているようで、この惑星での特性を考えれば動く公算は高い。

 

 つまり、テイタン-2を量産できる?

 

 そんなの手に入れたら勝ち確みたいなもんじゃないか! 今悩まされている問題の半分以上が解決するぞ!

 

 〝死の渓谷〟を物理的に破壊し、東から飛来する竜を駆逐、そして小賢しいことを考えていそうなヴァージルの心を折る。一石二鳥どころか三鳥だ!

 

 「セレネ、できるだけ正確な位置を割り出せるか!?」

 

 『やってみます』

 

 作業用アームがコンソールをカタカタ叩いているのを固唾を呑んで見守り、暫くして右側のアームが親指を立てた。

 

 『精度98.79%で位置を把握できました!』

 

 「流石っ!!」

 

 ぱぁんとハイタッチをすると、彼女は再びコンソールを叩いて有益な情報がないかを探り始めた。

 

 『……上尉、少し気になる単語が』

 

 「何だ?」

 

 いそいそと今にも出立計画を練ろうとしている私に彼女が水を差すのは珍しい。何事かと問い返すと、破損したデータの中で頻繁に持ち出される言葉を一つ解読できたという。

 

 そのコードは〝プロジェクト・エデン〟。今も根強く形を変えながら信仰が伝わっている旧地球時代の宗教でいう、楽園の名を冠した計画とは一体…………。

 

 

 

【惑星探査補記】機械化人や数列自我知性体は自我が二進数コードであることもあって、殊更電子ウイルスに弱いため危険なデータを探る際はスタンドアロンの電算機を古典的な手動操作で使うことが珍しくない。一度感染すれば通信帯を汚染するデータもあるため、必要な手順として彼等は、このプロセスを厳重に護っている。




2024/08/20の更新も18:00頃を予定しております。
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