実質異世界転生 ~二千年寝てたら世界が変わってました~   作:Schuld

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大変申し訳ありません。体調不良で今まで寝込んでおりました。


6-3

 天蓋聖都から北西に行った森は〝禁足地〟と呼ばれ、どの領邦にも属していない。

 

 周囲5kmは立ち入りも禁じられ、50km圏内は植民も禁じられている。

 

 何故そのように厳重な隔離が行われているのかというと、鬱蒼と茂る森の中に鬼が住んでいるからだという。

 

 魔法を操り、人間を狩る鬼が。

 

 「そこの情報はないのか?」

 

 「調査隊は例外なく全滅しています。神祖がいたころからの禁足地ですよ」

 

 「それはまた物騒な」

 

 なので行って欲しくないと言われても、我々にはあそこに行かねばならん理由が強まってしまった。

 

 〝死の渓谷〟は良いとしよう。間引きもできたから暫くは大人しいはずだ。

 

 だが、ヴァージルが北でレイルガンを製造できるだけの工廠を手に入れていることが分かった今、テイタン-2を量産できるブロックⅡ-2Bの確保は急務だ。守護神をずらっと並べて背教者共を〝分からせて〟やらないと戦争で大勢死人が出る。

 

 ただでさえ人類同士で殺し合っている余裕なんてないのだから、そんな馬鹿やらせて堪るかってんだよ。

 

 「ですが、あの鬼は本当に危険です。言葉が通じず、人間とみれば例外なく襲い、逆さに吊して皮を剥ぐのです」

 

 何だかプロパガンダめいて敵の残虐性を誇張する物言いのように感じるのだが、枢機卿補佐が言うと一応は説得力があるな。過去に送り出された調査隊が全滅した経緯や、それを確認した時の詳細も知っているのだろうから、実際そのようなことが起こったのだと思われる。

 

 「しかし、私は守護神一機で竜を全滅させられるできる自信はないし、破門しても揺るがぬ結束を持つで北の民を単騎で御することもできまい」

 

 「そうですが……」

 

 「そして、この近傍に落着した軍事ユニットはアレだけだ。賭けをするのには十分だと思うが?」

 

 「それでしたら……」

 

 戦力の抽出をと言いたかったのだろうが、私は手を掲げて拒んだ。

 

 ただでさえヴァージルが何時攻めてくるか分からない状況になったのだ。ここの戦力を減らすのは絶対に拙い。

 

 いざとなれば遠隔操作でテイタン-2をセレネが動かせるから威圧行動はできるだろうが、知ったことかと押し寄せて来られたら都市の防衛戦力だけで戦わなければならない。

 

 遅々として進んでいない戦力再建で困っているというのに、ここで貴重な騎士を分散させて、帰る場所がなくなりましたでは洒落にならん。

 

 各騎士団には抑止力として天蓋聖都に留まって貰っていなければ。

 

 「なに、安心してくれ。私達も戦力を拡充した」

 

 「立ち入るのを禁じていた工場部分ですか」

 

 「ああ。あそこで多脚戦闘車両を五台用立てたから、生半な敵には負けんよ。戦車も三両に増えたしね」

 

 〝イナンナ12〟の工廠部分では不在時でも部品を生産しておくルーチンを組んでおいたので、帰郷の後に立ち寄ったら丁度APCが五台完成していたのだ。おかげで乗せられる人員と物資は豊かになり、我々はテックゴブから更に二十名、シルヴァニアンからも二〇名募って総兵力一〇〇近い中隊規模にまで膨れ上がった。

 

 そして迫撃砲も量産したため――まぁ、コイツは森の中だとあんまり役に立たないのだけど――戦力は随分と膨れ上がった方だ。

 

 これだけあれば大型ノスフェラトゥは無理でも、それ以外の戦力は蹴散らせる程度に武力を膨れ上がらせたのである。

 

 ならば、禁足地でも戦えないなんてことはなかろう。

 

 「……後でデータをお渡しいたします。といっても、最後に探索隊が出たのは神祖がいたころなので役に立つか分かりませんが」

 

 「あるとないとでは大違いだと思うから、ありがたく頂戴するよ」

 

 「ですが、何卒お気を付けて。現在の均衡は御身あってこそということを、心の隅に留めておいてください」

 

 承知しているさ。私が暴れ廻っているからヴァージルも大々的な動きに出ず、暗殺なんて手に出たのであろう。

 

 しかも、喪っても痛くなさそうな輩を使ってだ。

 

 故に最大限警戒するし、無茶をしないで帰って来る。それを約するとようやくアウレリアは納得したようで、貴賓室にあるコンソールに端子を繋いで情報を引っ張り出してきた。

 

 重ね重ね気を付けてと警告を受けた私は、帰りは人々の目に触れないよう新造されたディコトムス-4に乗って地上に降りる。さしものヴァージルとて、これごと私を爆殺する手段は手に入れていないだろうから――持っていたら初手で使っていただろう――安心して街路を進める。

 

 「随分と映像が荒いな」

 

 操縦席でコンソールの上に足を投げ出しながら情報に目を通していると、セレネがツナギの胸ポケットから顔を出して直結してきた。

 

 『上尉、お行儀が悪くございます』

 

 「堅苦しい席にいるとどうしてもね。で、これどう思う?」

 

 『古いデータなのでボロがどうしてもでますが、少し補正を掛けてみましょうか』

 

 言うと彼女は古代のマギウスギアナイトが兜に付けていたらしい記録装置のデータを読み取って、破損情報を含む部分を憶測で繕って補正をかけてくれた。

 

 これが数列自我と疑似知性の大きな差なんだよな。

 

 彼女達は私達と同じで経験に基づくカンとか、言語化し辛い根拠による〝なんとなく〟で作業ができる。一々厳密に定義づけしてやらないと、素手でラーメン食うような絵を描くような堅物とは違うのだよ。

 

 『シダ類に槙、かなり鬱蒼とした森ですね』

 

 「うわ、厄介なヤツだな。視界が通らないのは最悪じゃないか」

 

 『悩んでいるのは当時の騎士もですね。ブレードで枝を払いながら進んでますが……ここ』

 

 補正を掛けてぼやけていた輪郭が鮮明になった映像の中で、撮影者の先導していた騎士が唐突に消えた。

 

 絵面だけ見たら完全にジャングルを舞台にしたホラーだな。筋肉ムキムキマッチョマンじゃないと倒せない系の怪物に襲われているような構図である。

 

 『これ、手ですね。視界外に引っ張って行ってます』

 

 「どうやって気付かれずに接近したんだか」

 

 映像が再開され、悲鳴が響く。短いそれはあっと言う間に殺されてしまったことを意味し、森に潜む〝鬼〟とやらにマギウスギアナイトの甲冑が役に立たなかったことが証明された。

 

 何かしら高度な遺物を使っているか、このテラ16th特有の未だ解明できていない原理が働いたか。

 

 どうあれコッチはコッチで厄介そうだ。

 

 『隠密にも優れているようですね』

 

 「さて、センサーと偵察ドローンがどこまで役に立つか」

 

 森の鬱蒼さもあって視界は精々5mってところか。それ以上は枝葉や木々に遮られて見通せないので、かなりの偵察ドローンを注ぎ込まないと危ないだろう。

 

 さもないと、今後衛に警戒を促そうとして振り返ったら、後ろに誰もいなかったという非常にホラー映画めいた悲劇に見舞われている騎士と同じ目に遭うだろう。

 

 ただ、この騎士は映画の馬鹿な獲物と違って賢く、速攻で撤退を決めて走り出した。悲鳴を上げもせず、部隊員の名前も呼ばずにギアアーマーの力を全速で発揮して跳ねるように走るのは、情報を持ち帰るのを第一としたからであろうか。

 

 しかし、どうやらその努力も遅きに逸したようだ。ガンと映像が揺れたかと思うと、視界が180°回転して動かなくなった。

 

 ややあって視界はそのままに体が頽れたことから〝首を取られた〟のだと推察できる。

 

 あーあー……なるほど、外に放り出された甲冑から情報を引っこ抜いたのか。だからあそこまで危険だと警告していた訳だな。

 

 ただ、私はこの探検隊が結構なタブーを犯したせいなのではないかと考え始めた。

 

 先ず一つ、森に住んでいる人間は森を大事にする。

 

 そこにギアアーマーでズケズケ乗り込んで、邪魔だからと枝を滅多斬りにしながら取ったら勘気の一つも買うだろう。

 

 それに映像の最初の方は結構な大人数だったのもいただけない。閉鎖的な文化を持っていたら、その時点で侵略と見做して反撃されてもおかしくなかろう。

 

 最後に、森の前で普通に野営してから突入したあたり、領域を穢したと判断されてもおかしくない。

 

 ここを根城にしている〝鬼〟とやらの沸点がどこか調べもせず、天蓋聖都の価値観で踏み込んだのだ。そりゃ話もできなくても仕方がなかろう。

 

 なので行く時は最大限気を遣って、住民を刺激しないよう気を付けねば。

 

 彼等がテックゴブ達のように落着したユニットを大事にしていたら、それこそ戦争になってしまうからな。

 

 『ん……一瞬ですが、首を持っている人物の姿が映りましたね』

 

 「投げる瞬間か」

 

 『補正を掛けますが、逆光とかブレとかでイマイチアテになりませんが……」

 

 ほんの数フレームだけ映り込んだ姿が補正されるにつれて、曖昧な影はモノクロームの人型になっていき、途端に私はテンションが最高潮に達した。

 

 「エルフだ!!」

 

 『はい?』

 

 「このシルエットはエルフだろ!?」

 

 興奮して指さしたシルエットは幻想物語でもあっちゃこっちゃで引っ張り蛸、原典を越えて多方面に進出した聖J・R・R・トールキンの――厳密には聖人認定されていないが、勝手に崇めている連中が多い。かく言う私もその一人だ――物語に登場したエルフを連想させる。

 

 スラッと細長い体躯、長い髪を複雑に編み込んでいると思わしき複雑な陰影を画く頭部には、センサーめいて尖った耳がある。

 

 これはもうエルフだろう! このテラ16thを作ったヤツには絶対ファンタジー好きがいると踏んでいたから、いるとは思っていたけど、まさか本当にいるとは!

 

 同胞を殺したヤツじゃなかったら美味い酒が呑めたろうにと惜しみつつ、私は補正された一時停止映像の隣に色々な資料を並べていった。

 

 叩き起こされる直前まで遊んでいたファンタジーVRのバタ臭いエルフから、古今東西、サルベージされた記録媒体出典の物、果ては機械化人が高次連に入った後の創作まで並べ立てて間違いないと有頂天になっていると、セレネは鬱陶しそうに腕を振って全てのデータを折りたたんだ。

 

 『上尉、早計に過ぎます。そもそもテックゴブだってゴブリン風味であって、全然ファンタジーの怪物じゃなかったじゃないですか』

 

 「だが、理性的なだけで見た目はズバリだろう!?」

 

 『どれだけ都合の良い視覚素子をお持ちで? カメラアイや露出したサーボモーター、はみ出したコードなど色々あるでしょうが』

 

 「でもこれはエルフだよ! いいなぁ、エルフ!!」

 

 実質自分達もエルフみたいなモンでしょうよと相方が冷めた風に言うが、違うんだよなぁ。

 

 たしかに私達は全盛から老いないし、殺されない限り死なないけれど、違うんだよ。実際、自分達をエルフと勘違いしているのか、尖った耳や笹穂型の耳を装着してお洒落している連中もいるにはいるけど、違うのだ!

 

 含有されている浪漫が!!

 

 『機械化人の方って急に訳分かんない方向に爆発しますよね』

 

 「急に他人行儀になるのやめてもらってもいいかなぁ!?」

 

 電脳空間でやいのやいのやっている間にも自動操縦にしていたディコトムス-4はずんずんと進み、郊外で待っている仲間達の元へ、私の浪漫を乗せて進むのだった…………。

 

 

 

【惑星探査補記】教会は厳密にはサイエンスを画いた巨匠を聖人認定しているが、サルベージされた文字通り不朽となった名作の創造主を勝手に讃える者達も多い。

 

 宗教関係者という名の旧時代考古学者は「まぁ趣味の領分でなら好きにしなよ」と大人びた対応をしている。 




2024/08/23も可能なら18:00には更新しようと思っております。
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