実質異世界転生 ~二千年寝てたら世界が変わってました~   作:Schuld

66 / 117
6-6

 任意に発砲を許可するとまでいったが、ここまでやるとは思わなかった。

 

 視界の中はIFFに連結された火器管制によって危害半径が示されているが、私がいる場所から森の外まで一本の通路を画くように残った余白以外は真っ赤だ。

 

 容赦なく機首機銃や車載機銃をばら撒きまくり、牽制として敵の攻撃を封じようと必死に森の中にコイルガンが叩き込まれ続けている。

 

 そして、圧を高めるべく離れていた車両隊が前進を始める。

 

 それと同時、森からの反撃が始まった。

 

 [うぉっ、被弾した!]

 

 [お前大丈夫か!? 盾に刺さってるぞ!]

 

 [頭と胸を護れ!!]

 

 下車して展開しつつある歩兵にも反撃が加えられるようになり、APCや戦車の走行でも弓矢が弾ける。ああ、もう、ガラテア、いくら何でもやり過ぎだ、これでも和解の道は閉ざされてしまったぞ。

 

 森を大いに傷付けた。これじゃ全面戦争待ったなしだ。

 

 『ノゾム! 退いて!!』

 

 「分かった!! しかしやり過ぎだガラテア!!」

 

 『他ならない君の命の危機なんだけど!?』

 

 「あんなのが二、三本刺さったって死にやしないよ!!」

 

 死にゃしないという声が聞こえていないのか、悲鳴のように文句を言いながらガラテアは牽制のためにか対人榴弾を森の中に一発。盛大に着弾箇所が抉れて、威力を失った子弾がパラパラと雨のように降ってきた。

 

 私に敵を近づけまいとする気持ちは分かるが、マジでギリギリを攻めてこられると流石にひやりとする。幾ら設備が足りなくて主砲に電力が万全に行っていないにせよ、筐体を破壊するには十分なんだから。

 

 「ひー、こえぇこえぇ……」

 

 中腰になって逃げ出していると不意に気配を感じた。センサーに感はないのだが、培った経験と数値にできない微妙な感覚に従って体を動かせば、首元に迫ってくる刃を持つ手首を捕まえることに成功した。

 

 『■■』

 

 「らっ!!」

 

 右手で刃を固定し、左に半歩退きながら肘を繰り出す。満身の肘打ちは背後に立った敵に突き立ち……恐ろしく硬い手応えを伝えてきた。

 

 生身ではない。しかし、装甲板とも言い難い手応え。柔らかさと硬度が同居した奇妙な感覚に首を傾げるより前に、腹に良いのを貰った敵の力が緩んだ瞬間を見逃さず、掴んだ右手を支点に私は変則的な一本背負いを見舞った。

 

 肩に当たる敵を支点に思いっきり足と腰を払い、受け身を取らせない速度で地面に叩き付ける。

 

 そして、背部視覚素子では上手く視認できなかった姿が遂に露わになった。

 

 「ひ、人型ドローン!?」

 

 それは人型の自律機械(オートマタ)であった。シルエットは人間ソックリであるものの、関節は磁力コーティングされたマグネットサーボで駆動する球体で、体の各所にパネル分割の溝が入っており、一目で人間でないことが分かる。

 

 限りなく人間に似せてはいるが、一目で人間ではないと分かる意匠。これは高次連の規格ではなく、旧人類の一派が好むタイプのデザインじゃないか。

 

 しかも、戦闘用ではなく、どちらかというと側仕えや愛玩用として使うような。

 

 機械の体に投げ技は効果が薄い。一瞬バランサーが狂って天地を正しく認識できなくなったようだが、彼女は――体型はすらりとした女性形であった――人間では有り得ない反発力で足を跳ね上げて蹴りを放ってくる。

 

 それを掴んだままの手首を振り回して逸らし、左腕を振り下ろして顎をぶん殴るが、ぱっと見は細い首に備わったダンパーに威力を吸収されて表面装甲に罅を入れるに留まった。

 

 疑似軟質装甲板、いよいよ以て想定外過ぎて脳の処理領域が変に食われ始めた。

 

 黄道共和連合は、ここまで人間に似た機械を嫌うはずだ。彼等の使う多目的ドローンは人間型であることに固執しておらず、むしろ誤認されることを嫌って箱形の筐体が多脚で移動し、収納された多関節のアームで家事を行う。

 

 というか、分割パネルやカメラアイ、集音機能を高める笹穂型の耳のおかげで人間でないことは一目で分かるが、これ旧太陽系条約にギリギリ引っかかりそうなくらい人っぽいじゃないか。

 

 体には有機素材を使っているようで殴った感覚は酷く柔らかく、同時に伝わってくる内部構造は恐ろしく硬い。

 

 〝自走地雷(スーサイドマイン)〟とも呼ばれた、要人暗殺用の人型ドローン一歩手前の外見に困惑しつつ、蹴りの反動を使って立ち上がろうとする動きを掴んだ手を支点に妨害。そのまま引き倒して、対義体戦闘における定石の〝関節技〟を行使する。

 

 手首を捻り上げて順に肘、肩と極め、接続を破壊する。同時、足を振り上げてフリーになっていた左腕の肘関節も破壊した。

 

 要領はカニを食う時と似ている。曲がらない方向に向かって思いっきり捻るのだ。

 

 『■■■!!』

 

 ……痛がった? 今、このドローンは痛がったのか!?

 

 私は凄まじい驚きを覚えた。普通、この手の兵器に痛覚は備わっておらず、センサーが数値として破損を認識するに留まっているはずだ。

 

 何故なら、その方が合理的だからだ。兵器に不要な物は恐怖と痛覚、どちらも動きを鈍らせる要素でしかないため搭載する合理的理由がない

 

 だが、このパッと見ればエルフのようなシルエットをしている人型ドローンは痛がる素振りを見せた。

 

 私は気になり、それなりに重い筐体をひっ捕まえた。

 

 肩に背負って両足を掴み、出力に任せて暴れられないよう押し止める。そして、援護射撃が画く空白部分をすり抜けて森の外を目指した。

 

 一体、一体ここで何が起こっている!?

 

 「っ……!?」

 

 森を出ようという刹那、飛翔体警報より早く体が動いた。

 

 矢が飛んできたのもあるが、その狙いは俵抱きにされたドローンの頭部であったからだ。

 

 左手を射線に差し込み、握った拳で弾き飛ばす。皮膚表層が抉れてマルチスケイル型の皮下装甲が晒され、白い血が飛び散ったが、この程度なんてこともない。私は舌打ちを一つして、敵が情報秘匿にどれだけ重きを置いているかに驚愕するのだった。

 

 捕虜はとらせないか、徹底している。

 

 しかし、この個体は一体どうやって私の後部視覚素子を潜り抜けて接近してきたのだろう。戦士としてのカンがなければ首狩りの一撃に――まぁ、人間と違って配線以外重要な部品は積んでいないんだけど――反応することはできなかった。

 

 これも〝魔法〟だというのか?

 

 『上尉! 何を捕まえてきてるんですか!!』

 

 「貴重な情報源だ! 交渉材料にもなるかもしれん!!」

 

 全力で走り抜け、援護射撃の砲火を潜って何とか味方の陣地に駆け込むことができた。それでも依然として超音速の矢がバカバカ飛んできているため、のんびりしていられない。

 

 [俺の後ろに隠れろ!]

 

 [リデルバーディ! 針鼠みたいになってるぞ!?]

 

 ディコトムス-4の陰から掛けだして私の盾になった戦士長は、何と言うか凄まじい姿になっていた。サブアーム二本に持たせた盾は矢が刺さりまくっているし、外骨格にも何カ所か矢が尽きたって凄まじい状態だ。

 

 私達と同じくテックゴブが指揮官先頭を尊ぶことは知っていたが、こんな様になるまで踏みとどまるとは、相変わらずクソ度胸の持ち主だな。

 

 [全部装甲で止まってる! 良いから走れ!!]

 

 〔ノゾム様! お早く!!〕

 

 APCの乗降口でコイルガンを撃ちながらピーターが呼びかけてくるので、指示に従って飛び込んだ。それと同時にハッチが閉められ、車体が後退していくのが分かる。

 

 『下がるよ! 丘陵の向こうにまではとんでこないだろうから、初期位置まで後退!!』

 

 [クソッタレ、射撃の密度が増したぞ!]

 

 〔盾! あたらしい盾を!!〕

 

 [■■■! ■■■■!!]

 

 ドタバタとした撤退劇が始まる。ディコトムス-4とサシガメは外骨格兵が着いてこられる程度の低速で後退し始め、下がりながら打ち続けている。射撃の勢いは一層増したようで、敵がどれだけいるか分からなくなってきた。

 

 装甲表面で矢がガンガンぶち当たる音を聞きながら、皆は無事だろうかと首を上げた所で再び蹴りが飛んできた。

 

 傷みに悶えていた〝エルフもどき〟が傷みに慣れたのか、倒れ込んだまま両足を揃えて蹴りを放ってきたのだ。

 

 腰と背中のバネを使った蹴りは、プロレス選手がダウンした状態から反撃するソレと似ているが、私は首を逸らして回避すると同時、頭の側部をすり抜けていった脚を捕まえ、膝を外して無力化する。

 

 『■■■■~~~~~~~~~~~~~~~!!』

 

 これで流石に大人しくなるだろう。翡翠色のアイカメラが凄まじい殺意を込めて此方を睨んでくるが、私としてはここまで人間に似せる必要があるのかという驚きの方が勝る。

 

 ……いや、待てよ。

 

 体のまだ動く部分を使ってジタバタ暴れる彼女をひっくり返せば、首の裏にあるべき物がなかった。

 

 端子がない。手首にも、肩口にも、一般的に端子があるべき場所に備わっていないではないか。

 

 一体どういうことだ。人型ドローンにも命令を打ち込むための直結機器は備わっているはず。むしろ、備わっていて然るべきなのだ。遠隔でハックされるとえらいことになるため、この手の高度なドローンは通信系は命令系統と隔絶されており、重要部分は孤立設計になっていることが殆どだ。

 

 故に命令を打ち込むため、主が誰かを認識させるための直結機具がなければお話にならない。

 

 しかし、この〝エルフもどき〟にはそれがなかった。

 

 偽装皮膚で隠しているとかでもなく、本当に最初からないのだ。

 

 『上尉、お楽しみのところ申し訳ありませんが』

 

 「語弊のある言い方は止めて欲しいなぁ!!」

 

 『その筐体が上げている圧縮電波言語の悲鳴は〝三進数と一五進数コード〟の混成体です。危険故、破壊することを推奨します』

 

 なんてこった、通りで話が通じないわけだ。

 

 だが、警告は二進数コードで飛んできた。理解できない訳じゃないのかもしれない。

 

 「貴重な情報源だ、生かして連れ帰るぞ」

 

 『解体する設備がありませんが……』

 

 「相変わらず物騒だなぁ!? 最悪、露天でやれるかぎりやる! だが、その前に意思疎通を試す方が先だろう!」

 

 我が相方ながら普通に怖いこと言うなぁ。

 

 ジタバタしている〝エルフもどき〟を車内になった立体機動用の予備ワイヤーで簀巻きにして動きを止めてから、私は車内を進んで車長室へと入り込む。

 

 〔神様の伴侶!〕

 

 〔操作を変わる、少しあけてくれ〕

 

 コントロールパネルに取り付いて、えっちらおっちらディコトムス-4を動かしていたシルヴァニアンと車体の間に体を潜り込ませ、首からコードを延ばして直結。戦術リンクに繋がり、各車の状況を把握。

 

 今は純粋な横列ではなく、鶴翼陣形を敷いて敵が森から出て来て突撃してくる状況を考慮してジリジリ下がっているようだ。ガラテアらしい賢くて手堅いやり方だな。

 

 『ガラテア、以降は私が指揮を取る』

 

 『分かったよノゾム。後退を続けるかい?』

 

 『ああ、攻撃が届かなくなる位置まで下がる。それと打ち方止め、兵員を即座に搭乗させて移動速度を上げるぞ』

 

 敵の攻撃はAPCの装甲を貫通することはできない。しかし、外骨格兵が手持ちの盾に突き立つ程度の威力があるということは、兵員を中に乗せた方が安心だ。

 

 そのままジリジリ下がりながら、私は少しテンションを上げすぎていたことを後悔した。

 

 分かっていただろうに、本物のエルフと遭遇できる確率なんて、奇跡的に低いことくらい。

 

 ただ、生きた情報源を手に入れられたのは大きい。

 

 私は少し危ない目には遭ったが、成果はあったと自分に言い聞かせながら車列の指揮を取るのだった…………。

 

 

 

【惑星探査補記】人型ドローン。文字通り人間と似た姿をした機械であるが、多くの国家では条約で〝ドローンと判別できる設計にする〟ことが義務づけられている。機械化人をドローンだと見做す国もあるが、彼等は自分達を人間であると自認しているため、都度都度抗議の声を上げている。




2024/08/26の更新は18:00頃を予定しております。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。