実質異世界転生 ~二千年寝てたら世界が変わってました~   作:Schuld

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 こういう時、発射レートが低くても大口径弾を積んだ車両が欲しくなる。

 

 いや、あるにはあるんだ。群狼の後部に重コイルガンを積んだ三型が。

 

 ただアレ、移動しながらの射撃に難がありすぎるし、装甲が薄い割りにヘイトを買いやすいから前線の騎兵隊(バイク乗り)からは人気がなかった。

 

 彼等曰く「手の武器で殺すか、轢き殺した方が早い」だそうで、リアヘヴィになって操作のクセが強くなりすぎるのも嫌われる要因であったそうな。

 

 ただ、敵の砲撃支援や擲弾、衛星軌道攻撃がないテラ16thでは、活躍できただろうから作っておくべきだったと後悔している。現場の声を記憶しておくのは大事だったが、それを状況に合わせて活用する努力が足りていなかったと後悔するばかりだ。

 

 「いよっと」

 

 私は今、相対した三体の重外骨格を着込んだ異形が〝投擲〟した巨岩を横移動で回避しつつ、全速で前に出ていた。

 

 いや、まさかモノを投げる程度の知恵があるとは思わなかったよ。確かにあの外骨格が片手で持ち上げられる重量は2t以上あったはずだから、実に理に適っている。

 

 質量攻撃は大正義だとブチ上げたのは、他ならない私なのにね。

 

 「しっ!!」

 

 間合いを詰め、振り払うように横薙ぎで振るわれた巨大な前腕をかがみ込んで回避。頭部装甲板の紙一枚上を凄まじい鉄量が通り過ぎていくのを見送りつつ抜剣、膝に刃を叩き込んでそのまますれ違った。

 

 『~~~~~~~~~~~!?』

 

 五六秒間だけ全ての物を両断する愛剣は、野太い脚部を美事に両断。右足を失って重心が狂った異形は、振り抜いた拳の余勢もあって盛大に転倒し、自重で大地に打擲されていた。

 

 腕を振り抜いた勢いが凄まじかったからであろう。本来は両膝で受け止めるべきだった衝撃が片膝に集中した結果、残った左膝部アクチュエーターから人工筋肉輸液が漏れているので、あれではもう動けまい。

 

 よし、次。

 

 二体目は巨大な拳を突き出しながら走り込んでくる。恐らく、建物の基礎さえ引っこ抜ける握力を用いてひねり潰すつもりなのだろう。

 

 ただ、刃物を持っている相手にそれは悪手だ。

 

 私は無防備に突き出された左手首を切り上げて跳ね飛ばし、返す刀で振り下ろして右拳も切断。突撃は股の下に滑り込んで回避すると同時、腹の半ばまでを割るように刃を拝んで突き抜ける。

 

 『~~~~~~~!!』

 

 風船が潰れるような、配管から遠く重なる音が漏れるような、何とも形容しがたい悲鳴を上げて異形は倒れながら中身をぶちまけた。完全に両断するところまでいかずとも、半ばまで断たれたせいで剛性が保てず、自らの重みと走る勢いによって体がねじ切れたのだ。

 

 そして最後の一体。そこら辺に落ちていた石ではなく、地面をむんずと掴んで大量の土塊と木の根を引きちぎった個体は、散弾をぶちまけるかの如く浴びせ掛けてきた。

 

 なるほど、いい手だ。普通の人間がやれば目潰しに過ぎないそれも、重外骨格の膂力でやれば、土中に含まれる様々な物体が装甲板を傷付けるであろう。

 

 だが、クロック数を限界まで上げていた、澱むように緩やかな世界で初動を見切る私にとって回避は難しいことではない。踵を地面に食い込ませて縦に滑っていた体を急制動。反作用で起き上がる体を捻って跳躍し、危害半径の上を〝飛ぶ〟ことで躱しきる。

 

 そして、そのまま空中で蜻蛉をきる要領で回転。着地地点を異形の後背に選び、回りながら刃を振り抜いて首を刎ねた。

 

 普通の人間ではなく、大量の蚯蚓めいた触手と幾つかの肉腫が――恐らく、アレが神経塊であろう――操っているので、斬首=即死とならないのが中々もどかしいが、主感覚素子群を失ってしまえばそう怖いものでもない。

 

 [リデルバーディ! 後続はどうだ!]

 

 [しつこくて仕方がないぞ族長! 両足を捥ぐのに弾倉一つ使う!]

 

 〔ノゾム様! こいつら腕もつぶさないと物をなげてきますよ!!〕

 

 ただ、しぶといというのはそれだけで鬱陶しい。基底現実時間でたっぷり二四秒かけて三体からなる分隊を一つ潰したが、仲間達は苦労しているようで悲鳴交じりの報告が絶えない。

 

 やはり火力が足りんか。一撃で吹き飛ばせる火力、全員がレイルガンを装備できればよかったのだが……如何せん動力がなぁ。

 

 「僕が頭を潰す! 動きが鈍ったところを集中射撃!」

 

 「「「了解!!」」」

 

 しかし、上手くやれている所もある。軽度の機械化を施してFCSを導入し、私のお古である高火力のコイルガンを装備しているガラテアは、非常に正確な射撃でセンサーを撃ち抜いて動きを阻害していく。そして耳目を失って鈍ったところに、付き従うマギウスギアナイト達が釣瓶打ちで関節を破壊し、的確に始末していくので処理速度が速い。

 

 一群の撃破に平均して四五秒から一分半というところか。遅々としてとまではいかないが、ここ三〇分で戦いながら前進できたのが1kmちょっと。小聖地と呼ばれる〝アカツキ級掃宙艇〟もブロックⅡ-2Bも木々に遮られて見えないが、まだ遠い。

 

 やはり高機動なれど火力不足の我々と、今回相手をすることになった重外骨格との相性はよくないな。まだまだ前半戦であることを考えると対戦車奮進弾も切るには早すぎるし、何とも悩ましい。

 

 その一方でだが……。

 

 〈足止めする!〉

 

 〈援護、援護!!〉

 

 〈後ろから来てるぞ! 気を抜くな!!〉

 

 庭師達の戦働きは凄まじいものがあった。

 

 まず、殿(しんがり)についていた彼女達は敵の接近を感知するや、凄まじい正確さで矢を放ち、超音速のソレを正確に肉腫に突き立てていく。神経が集中しているらしい、装甲の隙間からはみ出た部位にダメージを受けると一瞬苦痛に喘ぐ異形の隙をトゥピアは一切見逃さず、動きが止まった刹那にまた矢を射かけて撃破していくのだ。

 

 ただ、その中でもヒュンフの動きは、精強たるトゥピアーリウスの中でも頭一つ、いや二つ三つ抜けていた。

 

 『やァッ!!』

 

 彼女は進んで囮役を買って地面に降り、直接異形と相対していた。口に矢を咥え、指にも挟んで番えている物と合わせて三本保持したかと思えば、一射目で肉腫を射貫いて動きを止めるや否や、次射をセンサーに突き立てて視界を奪い、三射目を膝部装甲板で護られている、正面の極めて小さな隙間にねじ込んで破壊。

 

 しかも、そこから悶える敵の前腕を足場に駆け登る離れ業をやってのけた上で、先だって射かけた矢を引っこ抜いてまた番え、首の隙間から内部に叩き込んでいくではないか。その体捌きと素早さは、民生用の視覚素子では置いて行かれかねないほどであり、伊達に一度達成しているのではないと練度の高さを窺わせる。

 

 〈無駄に射るな! 異形は数が多い! 矢を何度も使い回せ!!〉

 

 しかも、指示が的確だ。倒した敵から攻撃を回避しつつ矢を引っこ抜いて矢筒に戻し、敵に刺さった矢まで再利用して攻撃する様は、肉薄して戦う弓兵とかいう意味不明な戦闘スタイルを完成させていた。

 

 っかしいな、私が知る限りでは弓箭兵って遠隔兵種のはずなんだけど。何かアレ、私達が拳銃を使うのと同じような取り回しで戦ってないか?

 

 『ノゾムー! 何とか止めてるけド、数多イよ! 速度上げらんなイ!?』

 

 「善処する! 取り残されないよう、位置だけ気を付けてくれ!」

 

 『分かっタ! アたシはイイけど、新米達の矢がどれだけ保つか分かんないヨ!!』

 

 彼女は撃破した異形から矢を引っこ抜くと、都度都度仲間の足下に叩き込んで――補給が力業過ぎる――仲間の矢玉を補充しているものの、当たり所によっては折れたり鏃が抜けたりして使い物にならなくなるようで、そう長くは保たないと警告してくれた。

 

 まぁ、今まで彼女達は半分度胸試しで試練に挑んでいたからな。最低限の異形を撃破して、それから腫瘍ことブロックⅡ-B2に生えた木を採取していたようだから、これだけ長く戦い、大量に倒すことを念頭に置いてこなかったのだろう。

 

 となると、益々速戦が必要になるのだが……。

 

 『上尉! 前方から分隊が五つ! 全力疾走してきます!!』

 

 「ああっ、クソッ!」

 

 チラッと〝コバエ〟の視界を借りるが、対処している余裕のある部隊はナシ。リデルバーディ達は牽制と再装填の最中であり、ピーター達も投擲物を投げられず、同時に拳がギリギリ届かない位置で敵を翻弄するのに必死。中衛のガラテア達も勿論忙しい訳で、殿のトゥピアーリウスには余裕がないのは当たり前。

 

 そうくると、あまり使いたくないが切り札を切るか。

 

 「総員警戒! 〝聖槍〟を抜く!!」

 

 私は右のサブアームに持たせていた、しばらく出番がなかった〝聖槍〟を構えた。

 

 [遂にか! 久し振りだな族長!!]

 

 [ガタが来てたからな! オーバーホールしてからの初お披露目だ!!]

 

 そう、ここは予てより必要だと思って重整備を行っていた聖槍の出番だ。

 

 〝太母〟の奪還など緒戦で活躍してくれた〝聖槍〟であったが、外付けの〝炉〟を入手して以降、今までにない乱発と蛮用が祟ったか放熱と再充電にかかる時間が延びまくっていたので、セレネに分解整備を頼んでいたのだ。

 

 幸いにも荷電粒子砲は統合軍で使っていないだけで、技術的には〝枯れた〟物であるため、交換部品の製造にも修理にも大して手間は掛からなかった。問題はテックゴブ達にとっての聖遺物であるため――種全体でも僅か七本しか現存していない――万が一にも壊すことがないよう、慎重を期して作業を行っていたため作業時間がかなり必要になったのだ。

 

 図面がない物を一度丁寧に分解して、設計図を引き直して〝何処が壊れているか〟の精査には手間取ったとセレネが言うとおり、精密器機を大量に詰め込んだ兵器は実物があっても解析には手間暇が掛かるもの。

 

 工期的に見れば、むしろかなり早く仕上がった方だ。

 

 「出力25%、前方に三秒間、120°で薙ぎ払う! 絶対に私より前に出るなよ!! 五秒後に発射するぞ!!」

 

 〔あわわ! たいひ! たいひー!!〕

 

 〔神様の伴侶、ほんと無茶する!!〕

 

 丁寧に丁寧に整備を終え、私が持ちやすいように銃把やキャリングハンドルを増設したピカピカの聖槍を殺到してくる敵集団に指向。この際、多少木々を焼くのには目を瞑って貰って、最低限の出力に設定。

 

 「発射!!」

 

 仲間が危害半径から退いたことを確認し、私は電子制御の引き金を引いた。

 

 余熱されていた砲身から加速器の中で混淆されていた重粒子が噴出。無色無形の破壊を撒き散らす光となって、包まれた磁場の中を猛進。進路上に存在する物を例外なく焼き払いながら、圧倒的な熱によって全てを蕩かしていく。

 

 扇状に箒で掃くが如く凪いだ後には、四肢の欠片が残った異形が転がるばかりで、熱せられた大気中の水分が蒸発して陽炎のように漂っている。

 

 そして、仕事を果たした〝聖槍〟は放熱板を開いて余剰熱を排気。高性能なパネルと排出器に入れ替えた古の神器は、熱い蒸気を勢いよく噴き出して次なる発射に備える。

 

 よし、今ので一気に三〇体ほど始末できた。これで距離を幾らか稼げるだろう。

 

 『アーッ! ノゾムー! 怒られるヨ!!』

 

 「幾らかは勘弁してくれ! 一本も木を折らず殲滅は無理だ!」

 

 『古老に叩かれてもアたシ、庇えないからネ!!』

 

 矢と違って弾をばら撒く兵器を使っている上、広範囲を焼くとなるとどうしても木々に被害が行く。小枝を踏み折ったならば、骨を折って贖いとするを地でいくトゥピアーリウス的には絶許案件なのだろうが、聖地を取り返すことでチャラにしてくれないかなぁ。

 

 だって、かなりの柔軟さと頑強性を併せ持つヒュンフのフェイスプレートを裏拳一発で拉げさせるんだぞ、あの古老。民生用義体なんかがぶん殴られたら、ただの軽量展性合金製の頭蓋が陥没しかねん。

 

 「異形がやったことにしてくれんかな!?」

 

 『無理があるよォ!!』

 

 「そこを何とか!!」

 

 くそー、せめて外骨格を着てる状態で殴ってくれたら助かるんだが。これから必要があれば対戦車奮進弾もバカスカ使う予定だから、怒られる時が来るのが怖い。

 

 腫瘍の摘出と聖地の奪還がお叱りかりより評価が高ければ良いのだがと計算はしたが、私はちょっと嫌なことを思い出した。

 

 虜囚の身となったミーッレを単身で取り戻してくるという、中々大した戦果を上げたヒュンフが「それはそれ、これはこれ」と片手を捥がれて顔面がベッコボコになるくらいの罰を受けていたことを…………。

 

 

 

【惑星探査補記】トゥピアーリウスにも信賞必罰の概念はあるが、基本的に差し引きで計算することはなく、報償を取らせた後でぶん殴るという、機械化人には理解し難い報酬体系を採用している。




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