実質異世界転生 ~二千年寝てたら世界が変わってました~   作:Schuld

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 文化の違いから宴席ですったもんだあってから二日、私達は〝天蓋聖都〟に凱旋していた。

 

 〝テミス11〟で乗り付けた時は大騒ぎになったが、私がウラノス3で急いで降下し、小神格が帰ってきたとスピーカーで報せれながら飛行して回れば混乱は落ち着いたものの、出迎えに来たアウレリアから怒られた。

 

 超叱られた。

 

 民心を悪戯に刺激するようなことは厳に慎んで欲しいと。

 

 仰る通り過ぎて、私にできたのは素直に謝罪することだけだったね。

 

 だって、何の準備もしてなかろうに祭りが始まっちゃったんだもの。責任くらい感じるさ。

 

 「それで、随分な大冒険だったようですね」

 

 「まぁまぁの修羅場でしたね」

 

 さて、毎度の如く貴賓室で枢機卿補佐猊下と二人きりでお会いしている訳だが、彼女は疲労が少し抜けているのか、ヴェイル越しにも分かった頬の痩け具合がマシになったようだった。

 

 出発する前、助言役として一二機の評議用疑似知性を置いて行ったのが効いたのだろう。アレらはファジーな動作は全く苦手だが、既に様式が決まっていることの裁可や、過去の判例があることの結審、及び事務手続きに大変強いからな。

 

 絶対に裏切らない裏の幕僚団を抱えたに等しい彼女は、仕事が円滑に進むようになって休む時間を手に入れられたのだろう。

 

 いやぁ、やる必要があったから使えない不信心物共を大量追放したはいいけど、連中は連中で不真面目なりに仕事をしていたから、大変なことになっていたようだし、彼女の心労を減らせてなによりだ。

 

 「しかし、ブリアレオースパッケージとは……そんな物を手に入れていたのであれば、ヴァージルが強気になったのも理解できます。聖都から逃げ出し、再起を図るのに十分過ぎるものでしょう」

 

 「まぁ、それだけの切り札を持ちながら、武力で天蓋聖都を制圧しなかった意図が未だ不明なので、どうにも収まりが悪いのですがね。新しい枢機卿になることなんて、持ち帰るだけで功績には十分過ぎたでしょう」

 

 「そこですね。お話を信用するのならば、騎士団では歯が立たないでしょうに」

 

 二人して首を傾げて、あれやこれや考えを巡らせてみるものの、答えは出なかった。

 

 聖職者として付き合いのあるアウレリア曰く、ヴァージルはかなり野心的な男で聖堂内での出世や、制度の改革にかなり熱心な男であったと聞く。これに不思議な点はない。騎士団総代を狙っていたというのであれば、野望の一つ二つ抱いていて当たり前だからだ。

 

 ただ、その野望が今、我々の中で迷子になっているのである。

 

 天蓋聖都を支配したかったと考えるには、やることが迂遠過ぎるし、さりとて全てを破壊したい極端な人間ならばとっくに戦端を開いているだろう。方々に陰謀を張り巡らせて権力と資材を集めていた理由もフンワリしているし、現状大人しくしている理由も考えつく限りを並べても〝こじつけと予想〟の域を出ない。

 

 一応、〝テミス11〟を乗っ取った者達の中で大司教だった男の記憶をアウレリアの許可を得て除いたのだが――やっと法的に安心できた――ヴァージルは自分の配下にも対外的な姿勢は見せていても、本心を露わにはしていなかった。

 

 尋問した男も自分を破門にした天蓋聖都憎しで戦に加わっていたようで、碌な情報が絞り出せなかったので、今はもう騎士団に引き渡している。出し殻になってしまったからには、煮るなり焼くなり現地政府の好きにしてくれと言う話だ。

 

 「……彼は本当に何がしたかったのでしょうか」

 

 ふぅ、と憂うような溜息を吐いて遠くを眺めるアウレリアに、ふと違和感を抱く。

 

 彼女がヴァージルのことを語る時、どうにも間合いが近いように感じるのだ。

 

 疑問を抱えたままモヤモヤしているのは性に合わないので問うてみたところ、彼女は少し悩んだ後、同期だと答えた。

 

 そして、幼馴染みでもあったと。

 

 「では、貴女は元々北方の生まれなのですか」

 

 「ええ、そこで巡回司祭に才を見込まれ、聖女となって聖都に登りました」

 

 ……ちょっと嫌な予感がする。うん、もしそうだったら凄く嫌だから、考えからは除外しておこう。

 

 「そこで付き合いは絶えたと思ったのですが、聖都で騎士になった彼と再会した時は驚きましたね。その上、どんどん出世していくのですから」

 

 まさか、老いらくの恋で国一つ滅ぼそうとしていたとかだった、流石の私もキレるぞ。

 

 「思い出話はそこそこに、対応を協議しましょう。ええと、ブロックⅡ-2Bでしたか。大いなるサンクトゥスギアの源を取り戻したということは、守護神様が大勢降臨なさるようになったのですね?」

 

 「そうですが、大きな問題が一つ」

 

 「……何でしょう?」

 

 「真面に扱える人間がいません」

 

 はい? と首を傾げられたので素直にぶっちゃけたが、有人型に改装したテイタン2なのだが、これが難儀なことに操縦できる人間が今はいない。

 

 元々テイタン2は遠隔操作を前提とした機体だが、それはかなり高度な指揮設備と強固な通信帯あってこそ成せる物であるため、私は早々に有人操作に切り替えるべく、電子戦優位を喪失した際に用いる有人操縦者槽(コックピット)を採用したテイタン2を試験生産してもらった。

 

 だが、一番機械化度が高いガラテアでさえ、シミュレーション上で真面に動かせなかったのだ。

 

 これは黄道共和連合人が電脳化を進めており、それを前提にOSやら何やらを組んだこともあって、副脳だけで直結するのには無理があったからだ。

 

 故にガラテアはシミュレーターが完成してから二日間、寝る間も惜しんで齧り付いているが、基礎工程の完遂すらできずにいた。

 

 やはり、端子と軽度機械化だけでは処理が足りないのだ。直結できているだけ大した物であるが、やはり背丈が足りないのに大きな服を着ると無理が出るんだよなぁ。

 

 「聖徒様が簡単に扱えるのは当たり前のことなのですが、マギウスギアナイトですら容易に操縦できないというのですか?」

 

 「これは例えばの話なのですが、人型の構造物というのはとても煩雑な仕組みで動いているのですよ」

 

 説明するため、私はコーヒーの入ったカップを手に取った。軍人に投げつける用のコクも深みもないが故に手を着けていなかったそれを、表面を動かすことなく持ち上げる。

 

 まず茶器一つ持ち上げるのにも、それを認識し、距離を把握し、自分との相対位置を認識しなければならない。

 

 「見て、捕らえて、把握する。まずこれだけで三動作」

 

 そして手を伸ばし、指を曲げ、適切な握力を設定して保持。角度を気にしながら腕を曲げて持ち上げ、口元に運ぶ。日常動作として当たり前にやっていることでさえ、行程に分ければ大変に複雑なのだ。

 

 「ぶつけないよう手を伸ばし、指を正確な位置に持っていき、握力を調整して、中身を溢さないよう角度を計算して持ち上げる。細かく分割していけば、カップを取るだけの動作で数十の行程を経ています。これら全てを一々ボタンやレバーを押してやれと言われて、できますか?」

 

 「なるほど、簡単な動作でさえ感覚的に行えず、複雑な工程を熟す必要が出てくるため、直結できても簡単にはいかないと」

 

 「そういうことです」

 

 生きる上で当たり前の行動として認識していないが、人型というのは関節部が滅茶苦茶に多いのだ。ボタンやらレバーやらで操作しようとすると、どれだけ最適化していても〝やることが多すぎる〟ので脳の処理が追っつかない。

 

 旧人類であるとしたら、ゲームをするのにボタンが三十個、スティックが七本、トリガーが八つあるコントローラー渡されて適応できるだろうか。更に別の操作槓やフットペダルが複数加われば、処理仕切れなくなることであろう。

 

 ガラテアに起こっていることは、正にソレだ。彼女の脳に負荷が掛からない深度で同調させようとして、色々と機能を追加していった結果、彼女は主兵装たるレイルガンを持ち上げるのにも難儀して、走りながらの射撃には一度も成功していない。

 

 つまるところ、ハードが高度すぎてソフトが追いついていないのである。順応力の高いガラテアであっても、脳への負荷を考えるとこれ以上の深度で直結するのは推奨できない。脳細胞に負荷が掛かりすぎて、彼女が廃人になったら私は数年は喪に服することになるぞ。

 

 ただ、日常的にサンクトゥスギア、より高度な危機と直結している人間であれば、可能性はあるのだろうが、それでも危険性は未知数故にやりたくなかった。

 

 「では、聖都の人間では守護神様を動かせないと」

 

 「そう結論づけるのは早計です。ただ、大いなる決断をしていただく必要が」

 

 「……それは?」

 

 「電脳化です」

 

 さて、かなり今更なことだが、天蓋聖都で生まれた人類は光子結晶を持っているのに〝電脳化していない〟という非常に奇異な状態にある。端子を開けるのはあくまで光子結晶への回線を開いているだけで、脳は生身なのだ。

 

 現状は〝テラ16th〟の魔法によって機械と直結できているが、それは副脳というコントローラーを用いて強引にやっている節がある。

 

 そこで、問題を解決する特効薬、電脳化が持ち上がる。

 

 「電脳……脳に電算機を入れ、信号を伝達し易くするということですね?」

 

 「ええ、神祖こと〝イナンナ12〟の乗組員も全員していたことです」

 

 電脳化と一言で言っても、その深度には大きな差がある。本来副脳を入れるような作業は深度Ⅴ、最も高度な電脳化と言えるのだが、それに反して彼女達の脳は生身の新品。非常に歪な状態にある。

 

 そこで軽度の電脳化、延髄に小さなチップを入れて脳と電算機を直結させる深度Ⅲの処置をするだけで、直結の難易度は大きく下がるはずだ。同調率は70%前後に落とす必要はあるだろうが、今のような不格好さからは脱することができよう。

 

 問題があるとすれば〝機械聖教〟の教義に触れないかどうかである。

 

 それを確認すれば、彼女は額に手をやって暫く暗記している聖典の内容や外典を参照しはじめたのだろう。

 

 ややあって、騎士や司祭以上の聖職者なら問題ないとの回答があった。

 

 それに、元より彼女は神祖への信仰を喪っている。聖典を“都合よく解釈する”ことに何の抵抗も覚えなくなっていたのだ。

 

 「要は端子を入れる作業の延長ですから、電脳化自体は差し障りありません。現に我々も光子結晶なるものが存在している時点で行っているようまものですからね」

 

 「でしたら、騎士ガラテアに処置をしても? 勿論、当人の意志次第ですが」

 

 一度、遺伝子型を確認したところ、元が〝イナンナ12〟乗組員の物を混ぜて作っただけあって、彼女達は様々な病疫への耐性と共に機械化の適性を高く持って生まれた方だ。そこに私とセレネが監督して作業したならば、拒絶反応などは万が一にも起こるまい。

 

 「ただ、私としては懸念が」

 

 「何か心配事が?」

 

 「小神格を操れる人間が増えると、信仰の先がまたブレるのではないかと……」

 

 「ああ……」

 

 そういえばそうか。私が今、聖都として崇められているのは誰より深く〝聖都〟と直結できることと、テイタン2を操れる守護神であるからだ。

 

 しかし、それができる人間を野放図に増やしてしまった場合、この百万人都市を成立させている信仰に揺らぎが生じるやもしれん。

 

 権威をもった人間が増えてクーデターの危険が高まるくらいなら幾らでも予防できるが、〝機械聖教〟自身が「そんな簡単なことだったのか?」と軽んじられて地位が落ちると大変よろしくない。

 

 ただでさえ、ちょっと前まで聖堂の威信は落ちていたのだ。そこに更なる打撃を与えてしまっては、都市を守っても逆に混乱させるハメになりかねんな。

 

 実利的な軍人と信仰者での間の認識に生じる齟齬、そこをここでちゃんと折衝できておいてよかった。

 

 やはり、アドバイザーとの相談ってのは、どの業界でも大事だな。

 

 「司祭以上の人間にのみ許す? いえ、それでは前線の人間が足りなくなりますね。そもそも、前に出す人員ではありませんし」

 

 顎に手を添えて、ヴェイル越しにも分かるほど表情を曇らせてあーでもない、こーでもないと唸っていたアウレリアであったが、三十分ほどうんうん考えた結果、ようやく良い考えが浮かんだらしい。

 

 「聖都様からの祝福によって動かせたということにしましょう。電脳化は聖別の儀式ということにします」

 

 「……使える物は親でも使えと言いますが、ほんと私を使うことに抵抗がありませんな」

 

 「私は貴方が聖徒にも悪魔にもなり得る存在だと分かっていますから。正しき道筋を探すためなら、何でもしますよ」

 

 合理的で結構だ。

 

 騎士達への電脳化は、聖徒たる私が聖別を施したことで可能になった、と表向き説明することで合意と相成った。

 

 まぁ、手術自体は簡単だ。局部麻酔をかけて極小機械群を打ち込むだけなので、施術は数秒、経過観察も三日程度で済む簡単なものだ。ともすれば予防接種よりも手軽である。

 

 何つったって全宇宙で数百億単位の人間がやっていることだからな。元々最適化されている人類に施すだけなら、何の心配もいらんよ。

 

 とりあえず、実験的にガラテアと私直卒の騎士五人に施し、更にテックゴブやシルヴァニアンにも問題ないか丁寧に調査した上で、機動兵器操縦手を増やす方針が決定した。

 

 それにともない、人々の前で私が見せかけ上の大仰な儀式を行うことも含めて…………。

 

 

 

【惑星探査補記】基本的に機械との接続は電脳を介して行うものであり、副脳だけを頼りに行っていたギアプリーストやマギウスギアナイトの方が邪道であったと言える。




形式は大事だねってお話でした。

明日の更新も未定でお願いします。

感想は作者の原動力。ちょろっとニトロのつもりで注いでやってくだされば助かります。
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