実質異世界転生 ~二千年寝てたら世界が変わってました~   作:Schuld

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 機動兵器大隊の編成に伴い――尚、充足分は中隊分の模様――テックゴブとシルヴァニアンからも志願者を募りはしたが、彼等は天蓋聖都の人類と違って〝遺伝子的改良〟が施されていないこともあって、残念ながら適合する人材がいなかった。

 

 なので引き続き随伴歩兵として戦って貰うため、装備更新が行われた。

 

 [どわー!?]

 

 〔ぐわー!?〕

 

 「あーあー……」

 

 方々で小鬼と兎が泥まみれになって転がっている。

 

 それもこれも、乙種強化外骨格準拠に近い、新造した高出力外骨格に振り回されているせいだ。

 

 乙種はガチガチの前線を張る戦闘歩兵というよりも、市街戦や機動戦に特化した軽装備の高機動型であるため扱いが些か難しい。抗重力ユニットこそ積んでいないが、大出力の炉とスラスターを搭載していることもあって、僅かながら跳躍と滑空が可能なのだ。

 

 故に高速で走り回る機動兵器に随伴するには最適なのだが……。

 

 「やっぱり人力での制御は難しいか」

 

 『オートバランサーやら何やら、軍機密部品が一杯欠けてますからねぇ』

 

 セレネが言うとおり、この新型外骨格はあくまで〝なんちゃって乙種〟である。

 

 さて、ブロックⅡ-2Bは黄道共和連合の人達が無精してくれたおかげで、本来ならば入っていない設計図が幾つか入っていた。後方作業に大活躍の重外骨格がそうなのだが、他に黄道共和連合輸出型の乙種一型外骨格……の廉価品、通称〝フレスヴェルグ2 TypeC〟である。

 

 [まだま……へぶあ!?]

 

 〔うおー……ぶあー!?〕

 

 障害物を用意した試験コースを走る外骨格の中身は、お馴染み頼もしき戦士長リデルバーディと、我が侍従長のピーターであるが、その推力と出力を完全に持て余してドロッドロだ。堅牢な外骨格のおかげで怪我こそしていないが、鷲の巨人の名が泣くような汚れ具合に涙を禁じ得ない。

 

 またネーミングの元ネタが巨人かよ、という突っ込みはさておき――多分、その辺の採用者が神話オタだったんだろう――フレスヴェルグ2には様々な問題がある。

 

 歩兵の強さは占領戦の強さであり、同時に船内防御の強さということもあって、さしもの軍需省もモンキーモデルに重要な品を搭載することを嫌ったのだ。

 

 故に枯れた技術を集めて作りはしたが、クセがすっごい物に仕上がった。

 

 これを買った黄道共和連合も黄道共和連合であるが、使わされる前線の兵士からすると堪った物じゃないだろう。

 

 勿論、性能は良いのだ。至近距離での打ち合い殴り合い上等の甲種ほどではないが前線向けだけあって装甲は相応に厚く、生残性は高いし、各種に設置されたハードポイントや四本に増えたサブアームなど、非常に便利で痒いところに手が届く機能が満載されている。

 

 問題は、それを扱うOSが若干お粗末なのと、最大のウリである空中起動時に装着者をアシストするオートバランサーが二世代ほど前の旧式な上、スラスターの扱いが繊細過ぎて下手をすると空中でコマのように回転することだ。

 

 で、これを黄道共和連合の兵士がどうやって解決したか。

 

 本土でも改修? 追加装備? いやいや。

 

 気合いだ。

 

 [だぁっ、どうなってんだ、この■■■■は! ちょっと踏めば飛べないし、踏み込みすぎればぶっ飛ぶし! ■■■■! ■■■!!]

 

 丁度片足分の幅しかない杭やら、板を三角形に組み合わせた急坂、それと崩れたビルを模した残骸なんぞを散りばめた試験コースを無傷で一周できた者は未だいない。

 

 あの戦巧者のリデルバーディがヘルメットを地面に叩き付けながら悪態を吐くのだ。それだけで扱いがどれだけ難しいか分かって貰えるだろう。

 

 ぶっちゃけ、私も初装着したら正規の乙種と感覚が違いすぎてごろんごろん転ぶ気がしてならんから、最初の試着でしか試してないんだよね。

 

 ほら、〝太母の伴侶〟とか〝神の番〟、それと〝聖徒〟が泥まみれだと格好付かないから、ムキにならないで適当なところで止めろってセレネに怒られたんだ。

 

 私も無傷でコース完走くらいしたかったんだけどなぁ……。

 

 [まぁまぁ落ち着けリデルバーディ。無理にスラスターなんぞ使わないで、今までと同じ感じで着ればいいんだよ。それで十分機動兵器にはついて行ける]

 

 [馬鹿言うな族長。折角ついてる機能を活かしきれないで何が戦士か。俺は意地でもコイツを乗りこなしてみせるぞ]

 

 〔ぼ、ぼくもがんばりまーす……〕

 

 下生えと泥でぐちゃぐちゃになったピーターも、疲れたのかメットを外しながらやって来て、脚を投げ出しながらぺたんと座った。彼の身の丈に合うよう縮めるのに苦労したのは事実だけど、ここまで無理して使わなくてもいいんだけどなぁ。

 

 [それに族長、戦闘記録を見たが、いざという時コイツが使えないと危なっかしくて仕方がないぞ。機動兵器同士が組み合ったら、即座に離脱できる脚がないと地面と混じった泥になって終わりだ]

 

 [そうならんよう気を付けて戦うさ]

 

 [族長はできるだろうが、あのゲロ吐いてる新入り共ができるとは到底思えん]

 

 あー……まー……ねー……。

 

 ただ、彼等も頑張ってるからあんまり酷いこと言わないであげて。私もこれでもかってくらい愛情を込めて締め上げてるけど、旧人類なのにマジで頑張ってるから。義務教育が終わると同時にVRで死を何度も体感して、死に慣れてる我々とは訳が違うのに恐怖を克己して乗り続けてるだけ偉いんだし。

 

 まぁ、今の彼等に大事な大事なシルヴァニアンとテックゴブを随伴させられるかっていったら、絶対に否なんだけども。

 

 半年でどれくらいマシになるかねぇ。

 

 [連中の腕前が族長並になるのを期待するより、俺達がコイツを使いこなす方が絶対楽だ]

 

 〔それは、みんな言ってますー……〕

 

 「辛口ぃ……」

 

 割と辛辣な評価を下すリデルバーディとピーターに何も言い返せなかった。

 

 しかし、ここまでピーキーだったか〝フレスヴェルグ2〟。噂には聞いていたが、黄道共和連合の機動歩兵達は、こいつを寄越されてよく反乱を起こさなかったな。慣熟に何ヶ月かかるか分からんぞ。

 

 第一、外骨格の一番の利点はアレだろう、着た瞬間から貴方も超人兵士ってお手軽さだというのに、乗りこなすのにこれだけ手間が掛かれば編成にも響こう。本当によく買ってくれたな黄道共和連合。

 

 まぁ、元々兵士なんてのは一人前になるのに二年はかかるものだと言うらしいけど、実際にそれだけの時間をかけてられんし、かけてこなかった私達には良く分からん。

 

 多分、彼等にもこれを使わないといけないだけのお寒い事情があったのだろう。

 

 たとえば、自国生産した物がもっと酷い出来映えだったとか。

 

 「まぁ、無理はせんようにな」

 

 [ちょっと休んだらまだやるぞ……。ラスティアギーズの戦士ここにありと、一番に乗りこなして勇を示してやる……]

 

 〔ぼ、ぼくだって、神様の伴侶一番の従者のなにかけてー……〕

 

うーん、体育会系。こういうノリ、好きだけどホント無茶しないでね。戦場で怪我しないよう訓練するんだから、訓練しすぎて怪我しましたとかマジで洒落になんないから。

 

 適度に頑張るよう言い付けて、私はブロックⅡ-2Bに戻った。

 

 「うーん、まだか」

 

 『まだみたいですね』

 

 死屍累々、そんな単語が脳裏に浮かんだ。

 

 やはり訓練開始から五日続けても仮想現実のリアルな死に慣れていないようで――痛覚はオフにしてあるのになぁ――そこら辺で操縦手用の軽外骨格を着込んだマギウスギアナイトがぶっ倒れていた。

 

 中にはバケツと親交を深めるのに忙しそうな者もおり、仲間に介抱されるほど疲弊している者も見受けられた。

 

 そして、壁に貼りだしたモニターを見るに〝上級コース〟をクリアした者はいないとみえる。

 

 さて、私も色々仕事があるので付きっきりで演習してやる訳にもいかないので、仮象戦闘装置には過去の記憶から適当な戦場のデータを引っ張ってきて、それを再現し元は〝テミス11〟だった疑似知性と戦う訓練コースを設定した。

 

 内容としては全て、今後必要になりそうな戦場を設定している。敵は機動兵器を所有していないので、それに見合った戦場を用意した訳だ。

 

 初級コースは軽車両と、それに随伴歩兵する中隊との同規模戦闘。ご覧の通り仮想的はマギウスギアナイトで、こちらはガラテアを始めに悠々と潜り抜けた者も多い。

 

 そして中級コースでは軽航空機を撃退しながら目的地に向かう機動戦だが、これは苦労した者も多いのか攻略率は六割ほど。

 

 そして、上級コースは増強中隊規模での全戦力〝コットス級掃陸艇〟撃退という簡単な設定にしているのだが、今のところ達成者はナシだ。

 

 「あーあー、酷いなこりゃ」

 

 先の戦績を映し出す画面に目をやれば、殆どのバイタルが真っ赤で顔写真にペケ印が付いている。

 

 つまりは戦死者だ。

 

 機動兵器一五機、中隊定数が九機なので増強中隊でNPCの戦車隊や歩兵隊に支援されながら戦闘して敗走とは惨憺たる結果だな。補助装備やらNPCの支援を活用すれば楽にクリアできる設定にしているというのに、ほぼ文字通りの全滅とは。

 

 「生きて撤退できたのはガラテアとファルケンだけか」

 

 『ファルケンはフライトオフィサに向いていないと判断してパイロットに移したのは正解でしたね』

 

 NPCは大盤振る舞いして万全の諸兵科連合にしてあるというのに、これで勝てないようでは私とセレネが指揮をしても大苦戦は必至だな。それこそ、折角生産したテイタン2の殆どを失う覚悟で〝たかが掃陸艇〟一隻と交換する必要がありそうだ。

 

 「設定がキツすぎたかな?」

 

 『むしろ甘い方ですよ。直援なしの掃陸艇がフラついている状況なんて、テラ16thでもなければ有り得ないんですから』

 

 「だよなー」

 

 兵士を育てるにあたって、適度にハードルを潜らせてやる必要がある。達成感とでもいうのだろうか、それがないと途中で「何だこのクソゲー」と嫌になってきて意欲が(コントローラーを)落ちる(投げる)のだ。

 

 実際には配備の遅れ、作戦の不備、通信帯の状況が悪化して連携が取れなくなるなど、クソゲーも大概にしておけよ! という状況に放り込まれることなど数多くある。

 

 演算に定評のある光子生命体と機械化人、そして数列自我が群れを成す参謀団が基底現実時間で三日三晩練りに練って、準備に数ヶ月掛けた作戦でさえ、予想外の要素が飛び込んでき完璧に瓦解、水泡に帰することが珍しくもないのだ。

 

 だとすれば、予定調和に運ぶように組んだ箱庭のハードルを下げすぎる訳にはいかない。

 

 とはいえ、二日間ぶっ続けてでやってクリア者が零ではモチベが下がる。

 

 うーん、痛し痒しだな。

 

 「……一回くらい、私が中隊長をやって無理矢理にでもクリアさせるか」

 

 『その場合、次席のガラテアが面目丸つぶれではないですか?』

 

 それもそうか。私がいない場合、あるいは筐体が大破して指揮ができない状態になった場合の総次席指揮官はセレネであるが、機動兵器部隊の引き継ぎはガラテアということになっている。

 

 そんな彼女が私の支援を受けてクリアしてしまえば、大なり小なり名誉に傷が入るだろう。

 

 頼りない。たったそれだけの評価で命令が通じにくくなるのだ。今後部隊が肥大化するに伴って、彼女に指揮を預けねばならない状況が増えることを想定すると、それだけは避けねばならん。

 

 となると、オブザーバーとして通信をするか、補助指揮官として参加する形でガラテアの名誉を守ってやる必要がる。

 

 ああ、これだから高次指揮官って面倒なんだよな。戦場で暴れ廻るだけじゃなくて、配下のことも細々考えてやらねばならん。こんなことなら幹部過程なんて入るんじゃなかった。

 

 まぁ、最低限の指揮能力と経験を持っているからこそ、現状詰んでいないのであって、本当に一兵卒だったらここまで来られてなかったと思うから、愚痴っても仕方ないんだけどね。

 

 「とりあえず、攻略を簡単にするアドバイスでもしてみるか」

 

 『それがよいかと。ガラテアも特攻戦術を行った時の経験を反映して模索しているようなので、ちょっとした助言で変わるかも知れませんよ』

 

 「そうだな。とりあえず肉薄するところまではできているようだし、参考意見を出して、シミュレーションを見せてやろう」

 

 セレネも同意してくれたし、あとでガラテアを呼び出して個人的に話をしよう。

 

 それに、モニターを眺めて唇を噛んでいる姿を見ると、放っておくのも忍びない。

 

 何か美味しいものでも食べながら、それとなく伝えてやらねば。

 

 それに、この後は〝超上級〟の〝ギュゲス級攻略〟と〝狂気的(ルナティック)〟の〝三隻同時攻略〟もやらなきゃいけないんだからな。

 

 ああ、忙しい忙しい…………。

 

 

 

【惑星探査補機】フレスヴェルグ2 TypeC。黄道共和連合の高機動強化外骨格。その主用途は高速戦闘車両や機動兵器の随伴歩兵であるが、そもそも難易度が高い兵科の装備をモンキーモデルにしてしまったせいでクセがえげつないこともあり、一度のモデルチェンジと三度の改修を経てC型になった今でも扱いは極めて困難である。

 

 そのせいで黄道共和連合は教範とした高次連の高機動戦闘の模倣を一部で諦め、独自の戦闘教義を模索するに至った。

 

 




大体は使いやすい物を売ってくれはするが、たまにとんでもないものを押しつけられても使ってくれる黄道共和連合は本当にいいカ……お客さんである。

明日も更新時間は未定でお願いします。
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