仮面のお兄さんと感情激重ボンプ   作:オタリオン

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第10話:奇妙な交友関係

《ブリンガー長官! アイゼン次長の逮捕から今日に至るまで住民の不安は大きかったと思います。相次ぐ治安局の不祥事。私もひどく胸を痛めておりました……ですが、我々は既に知っています! 先日に起きた胸温まる出来事! 匿名で多額の寄付金を都市中の孤児院に寄付した謎の人物“B”が今都市中で噂になっていますが……ブリンガー長官、貴方こそがBなんですね!?》

《あぁ、その……んん! な、何の事かな、ははは!》

《またまたぁ! 情報によれば寄付をした人間はメッセージを添えていたようでしてね。“未来ある子供たちへ捧げる。名も無き治安官より”と書かれていました。そして、我々の独自調査により判明した送金の手続きが行われたネットカフェではブリンガー長官に酷似した人間がおり、インターノットにもその時の写真が掲載されています……私の記憶が正しければ最近、長官殿は新エリー都にある孤児院を周り、その現状に涙し近い内に子供たちの為の行動を取ると言っていましたが……これだったのですねぇぇ!!?》

《ん、んー私には何ことだかさっぱり……だ、だが! 親愛なる市民と未来ある子供たちの為に、我々はこれからも全力で職務を全うする所存です!! どうかこれからも暖かいご声援のほどよろしくお願い致します!!》

《さ、流石はブリンガー長官殿! 何と謙虚で高潔な魂ぃぃ!! この都市にその人ありです!!》

《はははは!!》

 

 遂最近までは記者から質問攻めに合い。

 まるで、彼を滅多叩きにすれば数字が稼げると思っていた記者たち。

 心無い言葉を送られてくると彼から何度も鬼電をされて、その度に私が彼のメンタルケアをした。

 だが、私が態々変装したりアカウントを偽装したりしたお陰で。

 件の優しい治安官はブリンガー長官であると民衆は勝手に解釈した。

 彼はほとんど何も知らないからこそ、あぁやって素の反応が出来ている。

 却ってそれが彼が謙虚な人物であるとアピールする事になっていた。

 

 テレビを見ながら、作戦は上手くいった事を確認した。

 もしも別の人間が自分だと名乗り出てもそれを証明することは出来ない。

 何故ならば、ブリンガー長官しかいないと思わせる為に。

 態々彼の行動などを調べたりしてアリバイを作ったからだ。

 あのネットカフェに呼びつけておいて、彼にしばらくそこに待機させて。

 後は此方で金の送金をしておけば、適切なタイミングで帰らせるだけだ。

 あそこに治安官が現れる事はほぼない上に、ただでさえ目立つ長官がいれば何処かの人間が勝手に写真を撮る。

 後は流れのままに彼をヒーローにして……はい、完了っと。

 

 ゆっくりとリモコンを操作して電源を切る。

 これで彼の不安も取り除けて、後は彼がセッティングしてくれた場で。

 本物のTOPSの役員様方とお目通りをして、コネクションを築くだけだ。

 裏社会との繋がりで警戒されていて、中々、彼らとは会う機会が得られなかったが。

 他でもない長官殿の口添えがあれば、会ってくれる事くらいはしてくれると言う訳だ。

 大金を態々アイゼン元次長から頂戴したのも、全ては彼をヒーローにする為で。

 あのハゲの依頼を無償で受けたのも、こういう大きな利を得る為だったのだ。うぅん、実にパーフェクトだ。

 

 自分の才能に酔いしれそうになるのを堪える。

 恐らく、彼への支持率も十パーセントくらいなら確実に上がっただろう……まぁ他が怪しいからマシな彼に行くだけだけどな。

 

 置かれたコーヒーを飲む。

 アンジェラが淹れてくれたコーヒーだから美味いが……最近、妙な味がするような?

 

「……最近、豆を変えたのか?」

「いえ……何か体調に変化が?」

「いや、特にはないが?」

「…………そうですか」

「……?」

 

 少し残念そうに見えた気がしたが。

 彼女はにこりと笑い「新しいのを仕入れておきます」と言う……気のせいか。

 

 大きく伸びをする。

 そうして、アンジェラからスーツの上着を受け取る。

 立ち上がりそれを羽織りながら、私は彼女たちに出かける事を伝えた。

 

 

 ◇

 

 

「おまたせしましたぁふわふわぴゅあぴゅわパンケーキセットでぇす」

「ありがとう。おまじないをかけてくれるかな?」

「……おいしくなぁれもえもえきゅん……ごゆっくりぃ」

「ふふ、実に良い……ありだよ」

 

 流石はあのヴィクトリア家政が手掛けるメイド喫茶だ。

 かなりの仕上がり具合のメイドさんが多く。

 中でもあまり見かけなかったこの子は新たな感覚を私に覚えさせてくれた。

 

 食事の提供からおまじないをかけるまで。

 終始氷のような冷たい目を私に向けながら、表情一つ変える事無く仕事を終えたメイドさん。

 ダウナー系サメイドという新ジャンルに巡り合えた幸せに感謝を。

 大きなサメの尻尾に拘束具のようなメイド服に黒髪を短く切りそろえて美しい赤い瞳をした少女。

 冷たさを覚えるような接客だが、その仕草や角度に至ってまで計算されている。パーフェクトだ。

 私は目の前のパンケーキにナイフを差し込み切り分けて、それを一切れ頬張る……美味い。

 

 たっぷりと掛けられたメープルシロップに上に乗ったバターが溶けて混ざり。

 ふわふわのケーキの素朴な味と見事に調和していた。

 噛めば噛むほどに甘さが口に広がり、ホットコーヒーを飲めば幸せな時間だと感じられる。

 可憐なメイドたちの姿を目に焼き付けながら、私は目の前でそわそわとしている男に視線を向けた。

 

「……アンドー。ひょっとして君は……こういう店は初めてなのか?」

「……悪いかよ」

「いや、悪くはないが……なるほど。なら、此処が君の初めてという事か」

「やめろ。その気色の悪い言い方は……慣れないんだよ。こういうふわっとした店ってのは……俺はもっとこうハードな店っていうか……兎に角、かざりっけのないシンプルな」

「――それは違うぞアンドーよ」

 

 私はアンドーの言葉をすぐに否定した。

 彼は不満そうに私を見ている。

 

「この店は実にシンプルだ。確かに奥は深いが、根本にあるのはお客が満足してくれる事、ただそれだけだ」

「お、おう」

「……例えば先ほど私にパンケーキセットを持ってきてくれた彼女……君にはどう見えた?」

「どうって……あんまりやる気がなさそうに見えたけど」

「……やはり君はまだまだ坊やだ。アンドー」

「あぁ!?」

 

 アンドーに対して坊やだと言えば、彼はキッと私を睨みつけてきた。

 ホロウ内での戦闘にも慣れている男だ。

 その殺気も本物だ。だが、私はこの程度でひるんだりはしない。

 静かに両手を顔の前で組みながら、彼に優しくレクチャーを始めた。

 

「先ず一つ目に彼女はやる気がないのではない……力を温存しているのだよ」

「力を温存だと? 何でメイドがそんな事」

「メイドだからさ。こう言っては何だが、彼女たちの仕事はかなりハードでね。中でもヴィクトリア家政所属のメイドはプロフェッショナルな仕事が多い……ひょっとすれば建設現場よりもきついかもしれないよ」

「……そいつは聞き捨てならねぇな。何か? あの嬢ちゃんたちは俺たちよりも重いものでもずっと運んでいるのか?」

「あぁ勿論だ。“責任”と“信頼”、そして主への“忠誠心”……これ以上に重いものはないだろう?」

「ぅ……だ、だけど。ここはメイド喫茶で」

「アンドー。それは偏見だ……ならば君は、彼女たちのように制服を着て店が閉まるまで完璧な接客に完璧なスマイル。そして、完璧な愛を相手に提供できる自信があるかな?」

「……出来ねぇよ。んなこと……でも、まぁそうだな。今のは俺が悪かった。すまん」

 

 アンドーは自分の非を認める。

 彼は真面目で仕事に熱心な男だ。

 だからこそ、他の仕事に関してもある程度は敬意を持っている。

 ただ彼はこういった店に少しばかり偏見を持ってしまっていただけだ。

 私はそれを優しく諭し、正しき認識に戻すだけだった。

 

「そして二つ目だが……メイドというものには数え切れないほどのジャンルが存在する」

「はぁ?」

「ダウナー系、妹系、ツンデレ系にヤンデレ系、僕っ娘系にミリタリー系なども存在する……彼女のあれはね。一つの形なんだよ」

「お、おぉ?」

「一見やる気のないように見える姿であっても、彼女の容姿と仕草からは迷いも主人に対する嫌悪も微塵もない。故に、あれはダウナー系のメイドさんであると私は認識した。何故ならば、それすらも愛の形の一つであるからだ。他者への配慮とリスペクトがあるのであれば、私はどのようなメイドさんであろうとも――愛でもって応えたい」

「……すげぇなお前」

 

 私の言葉を聞いていた客たち。

 彼らは無言で何度も頷いていた。

 一方で黙って聞いていたサメメイドさんは真顔でありながら少し頬を赤くしている。

 何故か、すごく睨まれている気がするが見なかったことにした。

 

 私はサングラス越しに友を優しく見つめる。

 

「彼女たちはプロだ。そして、君も本職で誰にも負けないプロだろう。なればこそ、互いにその道の一流として互いに敬意を抱かなければならない。私はね、アンドー。君にこそこういう店をもっと知ってほしいと思っているんだ……正直、どう思った?」

「お、俺は別に……な、何とも思ってねぇよ!」

 

 彼は顔を真っ赤にして否定する……初心な男だ。

 

 久方ぶりの友との再会。

 男だけでのメイド喫茶と言うのも悪くはない。

 そんな事を思いながら朝のひと時を過ごしていく。

 アンドーも静かにコーヒーを飲んでから、ゆっくりと息を吐いてカップを置いた。

 

「……んで? 最近はどうなんだよ」

「んーまぁボチボチだね……TOPSの役員ともコネクションを築けそうだよ」

「……冗談、じゃねぇよな?」

「真面目だよ?」

 

 私は真顔でそう答える。

 アンドーは乾いた笑みを浮かべながら「どんだけ顔が広いんだよ」と呟く。

 まぁ彼も私の仕事に関してはある程度知っている。

 交渉人であることを明かしている友人は少ないが。

 アンドーと朱鳶くらいなら知っている。

 彼らは絶対に公言しないと信じているからな。

 

 私はパンケーキを食べ終えてから彼に質問をする。

 

「私の事を聞くのは良いが……君だってそろそろ大きなイベントが待っているだろ?」

「……何の事だ?」

「ははは、私に嘘は通用しない。尤も君は嘘がつける性格でもないし……競争だ。例のプロジェクトの」

「…………お前、どこからそういう情報仕入れてくるんだ?」

「ふふ、まぁ色々な伝手があるとだけ言っておくよ……それで、勝てそうなのか?」

 

 私は興味を示しながら聞く。

 すると、アンドーは難しそうな顔をした。

 

「……どうもなぁ。ヴィジョンの奴ら、妙な事を計画しているらしくて……うちよりも更に低コストなんてなりゃ正直実現できる筈がねぇけど……どうも気になる」

「……あのヴィジョン・コーポレーションか……最近は更に力をつけてきたと聞くが。彼らもTOPSからの仕事を熟して更なる飛躍を望んでいるのか」

「そりゃそうじゃねぇか。誰だって上を目指してぇだろう……まぁうちの社長はそれくらいで無理な事は従業員にはさせねぇけどな」

「ふふ、流石はホワイト企業だ……私も社長さんには是非会ってみたいな」

「……お前、絶対に碌な事考えてねぇだろ」

「失敬だな。私は何時も世の為になることしか考えていない……失礼、コーヒーのお代わりを。彼と私に」

「かしこまりましたぁ……はぁ」

 

 ダウナー系サメイドさんは去っていく。

 その後ろ姿は美しく。

 彼女のチャーミングな尻尾がふりふりと揺れて……おっと。

 

 マジマジと見ていれば睨まれてしまう。

 彼女はスカートを抑えながら、目を細めて私を見つめる。

 私は手を挙げて彼女に謝意を伝える。

 彼女は更に目を細め鼻を小さく鳴らして厨房の方へと行ってしまった……やれやれ。

 

 魅力的な人が多くいるとどうしても視線が釘付けになる。

 女性は男の視線に敏感だからこそ注意しなければならないのに。

 私としたことが初歩的なミスを犯すなんてな。

 らしくないと思いつつ、私はヴィジョンの事はどうするのかと聞く。

 

「どうするって言ってもな……そもそも、調べたところで対策の仕様がねぇよ。もうこっちだってプランは固めてあるし。今更、変更する訳にもいかねぇよ」

「……だが、態々休みの日に私を誘ったのは……それが気になるからだろう?」

「……まぁ気にはなるだろうよ……良くない噂も聞いてたしな」

「……あぁ例の“影”か」

 

 ヴィジョン・コーポレーションがTOPS入り目前まで成長した訳。

 インターノットではスレが立ち。

 背後に巨大な組織が手を貸しているのではないかと囁かれていた。

 根も葉もない噂ばかりだが、ここ最近でビジョン内でも大きな変化が起きている事も関係している。

 役員の入れ替えに、企業内での仕事の効率化を図った新システムの導入など。

 まるで、誰かにとって都合のいい環境に仕立てていっているようにも見えるだろう。

 様々な事件が隠れて発生しているという噂もあるが、それでもヴィジョンは飛ぶ鳥を落とす勢いで成長していった。

 

 ……確かに陰謀論者からすれば中々に香ばしい香りがしただろう。

 

 TOPS入りを目前に控えたヴィジョン。

 対するは彗星の如く現れて急成長を遂げた重工業グループの白祇重工だ。

 件の工事を担当するとなれば、恐らくこの二つ以外にあり得ない。

 アンドーはこんな風に言っているが、絶対に気になって仕方ないはずだ。

 何せ、こいつにとっての会社は命そのものであり……仕方ないな。

 

「興味が沸いた。個人的にヴィジョンについて調べてみよう」

「本当か? なら」

「――金は要らない。その代わりに、社長に会わせてくれ」

「…………」

「え? そんなに悩むこと?」

 

 素で驚く。

 アンドーは胡散臭いものを見るような目で私を見つめる。

 仮にも友人である私を見る目ではないが……はぁ。

 

「……分かった。社長には俺から言っておく……やばかったらすぐに手を引けよ」

「ふふ、忠告ありがとう……来たね」

「……お待たせしましたぁ。ホットコーヒー二つでぇす」

「おまじないを頂けるかな?」

「もえもえきゅん……はい、ごゆっくりぃ」

「……本当にジャンルなのか?」

「ふふ、これがいいんだよアンドー。私の中の情熱が溢れ出しそうだ」

 

 私が笑みを深めていれば、彼女はチラリと見てくる。

 そうして、ぼそりと呟く。

 

 

「……変態」

「――パーフェクトだ」

 

 

 この一杯のコーヒーがまるで砂漠で何時間もさ迷った後に飲む至高の一杯に感じる。

 最高であり完璧であり……ずっといたいなぁ。

 

 もう仕事やめたい。

 いやマジで争いごとなんて嫌いだ。

 ばかすか銃を撃ちまくるバーサーカーや平気で火を放つ狂人の相手なんてもっと嫌だ。

 願う事ならこうやってずっとメイド喫茶でいたいくらいだ。

 引退したら絶対に余生はメイド喫茶で過ごそう。

 そういう老人ホームがあれば最高だが……作るか?

  

「ありだな」

「何がだよ」

 

 一人で未来を創っていく。

 アンドーは完全に呆れていて。

 野郎二人はちびちびとコーヒーを飲んでいく。

 

 ヴィジョン・コーポレーション。

 私の中の第六感が告げているが……また裏がありそうだ。

 

 仕事が終われば癒されて。

 癒された後にはまたでかい仕事が舞い込んで。

 忙しい毎日ではあるが確かな旨味は存在する。

 コツコツと人脈を広げていけば、私のメインの仕事も“副業”も上手くいく。

 だからこそ、アンドーからの頼みでさえも確かなメリットがあるのだ。

 

 もしも、白祇重工が更なる成長を遂げればゆくゆくはTOPS入りも果たせるだろう。

 そうなれば、今のうちに恩を売っておいて損はない。

 細々と食いつないでいくつもりだったが、もうこの際、吹っ切れるしかない。

 お金は幾らあっても足りないんだ。

 だったら、集められるだけ集めてやる。

 そうして、私の知らぬメイドさんに出会いたい。

 

 何時だってそうだ。

 私は欲望に正直で、メリットがあるのであればどんな仕事にも挑んできた。

 何も変わらない。今までもこれからも。

 

 私はくつくつと笑う。

 アンドーはそんな私を見つめながら「兄弟、俺のダチはもうダメかもしれねぇ」と呟く。お前にだけは言われたくない。

 

 方やイマジナリーフレンドに助けを求める変態。

 方やメイドに囲まれた未来を思い描く紳士。

 そんな我々を周りの人間は不気味そうに見ていて……サメイドさんが私たちの前に立つ。

 

「ご主人様ぁ……そういうプレイは他所でやってくださぁい」

「「……すみません」」

 

 メイドさんに謝る。

 彼女はため息をついてから去っていく。

 やはり、最近は調子が狂うな。

 妙に頭が熱っぽい気がする……風邪でも引いたか?

 

 自分の不調を感じながら。

 私たちは黙ってコーヒーを飲む。

 何せよ相手はヴィジョン・コーポレーションだ。

 半端な動きでは気取られてしまう……準備をしなくてはな。

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