仮面のお兄さんと感情激重ボンプ   作:オタリオン

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第13話:影に潜むはエーテリアス

 メイド・ワン・グランプリの戦いは苛烈を極めた。

 まさか、コロッセオの剣闘士が如き肉弾戦になるとは夢にまで思わなかったが。

 私の頭脳を持ってすれば脳筋たちを意のままに操る事は造作もない。

 私はただ言葉巧みに彼らの闘争心を周囲に向けさせただけだ。

 カリンちゃんたちメイドさんはそんな私たちを応援し、自らの能力をフルに使って私たちを癒してくれた。

 審査員たちはそんなメイドさんたちの技術などによって我々参加者に恩恵を与える。

 謂わば、メイドさんの愛がそのまま我らを守る盾となり、相手を穿つ矛となるのだ。

 

 少なくない傷は負ったが、まぁ問題は無い。

 許容範囲内であり、このままであれば決勝戦でも問題なく戦えるだろう。

 何とか決勝戦まで持ちこたえて、残すは例のエレン・ジョーさんのパートナーとの戦いだ。

 彼は強敵であり、あの肉体は伊達ではない。

 鍛え上げられた肉体はまるで鎧であり、決勝戦ではメイドさんたちも戦う事になる。

 最も、武器を持っての殴り合いはしない。

 メイドとしての技量を競う戦いであり、我々参加者はただの余興に過ぎないだろう。

 

「……にしても、全力で戦った後にご奉仕を受けるとはな……何とも度し難い」

 

 一体、何を競うというのかは分からないが。

 メイドと主人の関係性を見せて欲しいとは言っていた。

 普段通りでも問題は無く、如何に優雅であれるのかを競うのか。

 そして、メイドさんはメイドさんでどれだけ傷つき疲弊した主人を癒せるのか……まぁそういったところだろう。

 

 私はそう納得してから、ゆっくりと息を吐く。

 腕時計を確認すれば、まだ決勝戦の始まりには時間がある。

 カリンちゃんには悪いと思ったが、彼女の前で“ビジネス”の話は出来ない。

 

 ……まぁ彼女ではなく。ヴィクトリア家政に教えたくないと言った方が正確ではあるか。

 

 会場の近くにある公園のベンチ。

 私はそこに座りながら、取引を行う相手を待っていた。

 時間はもう一分を切っているものの、肝心の取引の相手の姿は見えない。

 心配はしていないし、奴は何時もこんな感じであると熟知している。

 私は腕時計を見つめながら、静かに刻まれて行く秒針を……。

 

 針が一周する。

 そのタイミングで背後から気配を感じた。

 私は振り向くことなく、前を見つめた。

 

「……今日は良い天気だね」

「あぁ“釣り”をするには良い日だ」

「そうか。今日は何が釣れそうかな?」

「はは、“大物”だろうさ……だが、“狙っている奴も多い”からな。場所はきちんと選ばないとな」

「ほぉ、では……“海”はどうかな?」

「それは同業が多そうだ。俺なら……“崖下の川”が良いと思うぜ」

 

 背後の男と会話をする。

 彼は情報屋であり、その道では知る人ぞ知る男だが。

 姿を見られる事を嫌い、私であろうとも背中を合わせて会話を行う。

 その時に振り向こうものなら、一瞬にして私の命は終わるだろう。

 

 ビジネスを行う上で約束を守る事は重要だ。

 だからこそ、私はあのお嬢さんとの約束を守ってヴィジョンに対して何もしない。

 

 そう――“ヴィジョンに対してだ”。

 

「釣りは好きだよ……良かったら、新聞を見せてくれないか? 今日の占いを見るのを忘れた」

「ん? あぁ良いぜ。ほらよ。俺はもう見たからそれはアンタにやるよ……じゃ、良い一日を」

 

 後ろ手に渡された新聞を受け取る。

 それをパサリと開けば一見すれば普通の新聞だ。

 しかし、全ての記事の文字の配列にはパターンがある。

 私はそれを指でなぞりながら、情報屋から渡された情報を読み取っていく……ほぉ。

 

 ヴィジョンコーポレーションはやはり一枚岩ではない。

 彼らは氷山の一角であり、裏で手引きをしている組織がある。

 いや、精確に言うのであればパールマンは操り人形で。

 ヴィジョンはただの駒に過ぎないと書かれていた。

 

 その組織は裏で暗躍している危険な組織のようだ。

 その名は讃頌会(さんしょうかい)か。

 

 “無力なヒトの身を捨て、ホロウに適応した生命へと生まれ変わる”……中々に度し難いな。

 

 その組織の活動の根本にはエーテリアスへの深い念があるらしい。

 サラという名前の女性もその組織の一員であり、彼女の真の狙いは……ふむ。

 

 そこまではやはりまだ掴めていないか。

 だが、これだけの情報があるのであれば大体の予想はつく。

 敵はヴィジョンを使ってあの競売を競り落とす狙いがある。

 そして、それは単なるヴィジョンを成長させるための起爆剤ではない。

 恐らくは、何かしらの目的があってその競売に勝ち計画を実行しなければならないのだろう。

 

 白祇重工による旧都地下鉄改修工事では使えるものは再利用する形での工事になるが。

 一方でヴィジョンによる工事はそのエリアにある障害を大胆にも爆破させるもののようだ。

 爆破であれば確かに短期間のうちに一気に問題は解決する。

 しかし、問題になるのはあのエリアには――“人が住んでいる事だ”。

 

 その点の情報は以前から知り得ていたから間違いない。

 通常であればそこに住む人間たちを避難させたうえで爆破工事を行うのだが……連絡だな。

 

 端末を取り出してメッセージを確認する。

 差出人はアンジェラであり……やはりか。

 

 アンジェラが現地にて確認した情報によれば。

 住民たちは一切避難をしていないようだ。

 それどころか何時もと変わらない生活を送っているらしい。

 

「……あぁ」

 

 端末を操作してニュースを確認する。

 すると、つい先ほど競売の結果が出たようで。

 思っていた通り、ヴィジョンは競売に打ち勝ったようだった……決まりだな。

 

 この時点で住人に対して一切の説明がない。

 ヴィジョンはすぐにでも工事を始める用意があるような事をコメントしているが。

 それならば何故、そのエリアに住む住人の避難が完了していないのか……話していないんだな。

 

 住人を説得する時間が惜しい。

 いや、住人を説得するよりも優先すべきは爆破計画の実行なのだろう。

 だが、何故だ。何故、そこまでして爆破計画の実行を急ぐのか。

 

 あのエリアでの爆破で何の利益が生まれる。

 いや、そもそも爆破をして改修工事を完了させたとしてその後の処理はどうなる。

 明らかにこの計画には無理がある。

 何せ、あの場に住む住人を知る人間がいる可能性もある。

 あそこは元々は赤牙組の構成員が根を張っていた場所だ。

 そこを知る人間がいたとすれば少なからず要らぬ火が生まれる恐れがある。

 住人たちを消してそれでおしまいではない。

 その事後処理をヴィジョンに押し付けてまで……いや、待てよ。

 

「……」

 

 顎に指を添えて考える。

 今までの情報の中で、何か手掛かりがあった筈だ。

 考えろ。全ての情報を一つに纏めるんだ。

 

 

 敵の行動の根幹にあるのは――“エーテリアス”だ。

 

 

 エーテリアスに並々ならぬ感情を持つ組織であれば。

 その行動原理もエーテリアスから来るものになる。

 ならば、今回の爆破によって得られる利益もエーテリアスに繋がる事になるのだろうか。

 

 敵が今回行うのは爆破であるが――恐らくは“ホロウの中”を通過するだろう。

 

 敵は確実に爆破計画において廃棄された路線を使うはずだ。

 あれはほとんど壊れておらず今でも利用自体は可能な筈だ。

 もしも、私が爆破計画を実行するのであれば。

 爆薬を積み込んだ車両を使ってホロウ内を進んでいくだろう。

 無事な線路があるのであればそれを利用しない選択は無い。

 

 この二つの情報から導き出されるのは――“敵の狙いはホロウの中にある”のか?

 

 旧都地下鉄改修工事の成功は隠れ蓑だ。

 本当の目的は別にある。

 敵がエーテリアスに執着するのであれば、十中八九がホロウの中に狙いをつける筈だろう。

 エーテリアスが活動できるのはホロウ内だけであり。

 彼女たちが探し求めるものがそのホロウ内にあるという考察が出来る……だが、それは何だ?

 

 ホロウ内にある何かを手に入れたいのか。

 エーテリアスそのものである可能性は低い。

 ならば、エーテリアスにまつわる何かになるが……ふむ。

 

 あるいは、爆薬を使って目的のものを破壊したいだけなのか。

 爆薬を積み込むのだから何かを破壊する目的があるのは確かだろうが。

 問題なのはそれで何を破壊したいのかだ……少し情報が足りないな。

 

 私はベンチから立ち上がる。

 そうして、アンジェラたちに指示を送る。

 

《ホロウ内を調査してくれ。出来うる限り深くまで。無理はしないでくれ》

《了解しました》

「……さて」

 

 また同じ情報屋を頼るのは流石に怪しまれる。

 馴染の情報屋を使うのはもっと危険だ。

 となると此処からは自分の足で調べる他ない。

 

 ……時間はあまり残されてはいないけどなぁ。

 

 サラはパールマンを動かしてすぐにでも爆破計画を実行に移すだろう。

 そうなれば、私が出向いての交渉はほぼ出来なくなる。

 奴らは過激な思考を持っており、私は理性のある人間としか話が出来ない。

 考えるよりも先に行動をする人間は大の苦手であり。

 恐らくは、サラは“特別な状況でも無ければ”私の話など聞かないだろう。

 

 私は端末をポケットに仕舞う。

 そうして、赤牙組に関する資料を頭の中で展開していく。

 一度は彼らとの交渉を行っていた。

 その時に必要な情報はあらかた手に入れていた。

 その中で今回の事件で大きく関わる事になる人物についてピックアップしていく。

 

「赤牙組のリーダーは死亡している……構成員はほぼ散り散り……彼らはリーダーに対しての想い入れは……いや……」

 

 構成員に関しては行動に移せるような人間はいない。

 いや、精確に言うには行動は起こすがそれは短絡的なものだ。

 銃を使って脅して追いかけまわすようなもので。

 その程度の事であれば、あの娘にとっては日常茶飯事だろう。

 問題なのはもっと根本的な情についてで……一人だけいるのだ。

 

 赤牙組は元々は義によって生まれた組織だと聞いている。

 必要悪のようなものであり、最初期には人間らしい行動をしていた。

 弱きを助け強くを挫く。そんな行動に見せられて彼らを慕う人間もいた。

 

 その中でも、赤牙組のリーダーが可愛がっていた存在がいる。

 資料を見た時は今後関りは無いと思っていたが。

 今回の件では関りを持つ事になるだろうと感じた。

 

 ……使えそうだな。彼女の復讐心を利用し……時期を設定しようか。

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