仮面のお兄さんと感情激重ボンプ   作:オタリオン

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第14話:作られて行くシナリオ

 特別な機材の光がぽつぽつと付き。

 助手たちが接続された状態で待機していた。

 私はゴキゴキと肩を鳴らして、小さく欠伸を掻く。

 

「……おっと」

 

 グローブを嵌めた手を動かし、メッセージを入力しておく。

 三日ほど前にコンタクトを取り、何度かメッセージのやり取りをし。

 彼女の心を利用しているようで申し訳なさを少しは感じながらも計画を進めた。

 相手は私に対して面識がないが、ある情報を与えた事によって“縁が生まれた”。

 

 情報は少ない方がいい。

 肝心なのは誰がそこにいて、何が起きたのか。

 “赤牙組”と“邪兎屋”が同じ場所にいた。

 ただそれだけだ。それだけで、血の気の多い猫のシリオンは動き出した。

 

 最初は警戒心の強い娘だとは思ったが、与えられた情報を良いように解釈してくれたようで。

 此方の想定通りの行動を取ってくれた。

 こんな事をニコに知られようものなら、顔面が三倍になるまで殴られてしまうだろう。

 が、私の考えが正しければ、全てが終わった時には私の道は“一つ”しかない。

 

 ……殴られてもいいけど、それはまぁ今度にしておこう。

 

「……ふぅ」

 

 すっかり冷めてしまったコーヒーを助手四号から受け取る。

 それを静かに飲んでから、私はカップを返却した。

 

 恩義のある人間の死。

 そこから敵であると思わしき人間たちの情報を与えれば。

 人は自然と道具を揃えて、勝手に破滅的な行動を取るものだ。

 直情的ともいえるが、そういった行動には愛なるものが大きく関わっている。

 愛とは人を狂わせる毒であり、私の助手もそんな毒を多分に含んだ存在ともいえる……はは。

 

 今頃は、対象のメンバーたちをホロウへと誘い込み終わり。

 そこからアンジェラが誘導した子供によって状況を理解した頃だろう。

 時間にすれば、それほど掛かってはいないが。

 かなりの情報量であり、普通の人間なら戸惑って判断を遅らせてしまう。

 が、我が妹殿はその程度の事では大きく取り乱すような玉ではない。

 伊達にアウトローを気取って裏の世界で根を張ってはいいないさ。

 

 空間にディスプレイを投影し、ニュースの内容を見る。

 ヴィジョンも動いており、舞台は整いつつあった。

 

「さて……もう少しだな」

 

 腕時計を確認する。

 五、四、三、二、一…………メッセージが入る。

 

《騙したな!! この嘘つき!!》

 

 猫のシリオンは怒りのマーク付きで私を罵倒して来た。

 

 何を言うかと思えば、これか。

 私はくすりと笑い、騙してなどいない事を予め作っていた定型文のようなものですぐに伝えた。

 すると、相手は聞く耳を持たずに私をメッセージで罵倒する……相当におかんむりのようだ。

 

 私は少し考える。

 その間も罵倒のメッセージは続いていた。

 

 少し経てば、メッセージが止む。

 誰かと接触し、話し合いをしているのだろう。

 

 私は、そうであろうと予想し。

 指を操りメッセージを入力し――送る。

 

《君の役割は一旦そこまでだ……いるのだろう? プロキシが。通話を繋げてもいいかな?》

 

 私がメッセージを送れば、相手が入力中で止まる。

 図星のようであり、考え込んでいる様子だった……ま、勝手に繋ぐんだけどねぇ。

 

 私はそのまま暗号化された回線によって連絡を試みる。

 今まではメッセージだけのやり取りだ。

 番号何て教えてないから繋がる筈が無い。

 そんな事を思っているだろうが、我々にとっては関係ない。

 アカウントが分かり、メッセージのやり取りをしたのであれば、その時点で既に盗みは終わっている……ま、私のは捨てアカだけど。

 

 通話の開始を押せば、コール音が静かに響く。

 ワンコール、ツーコール、スリーコール……出たな。

 

 ディスプレイの前で手を組む。

 そうして、顔の見えないプロキシ殿に対して営業スマイルを向けた……どっちも見えてないけど。

 

「初めまして、名も知らぬプロキシ。私の名は……レッドとでも名乗っておこうか」

《……君が幼気な少女の心を弄んだ犯人かい?》

「ははは、弄んだというのは少し語弊がある。私はただ、彼女が欲していた情報をを伝えただけだ。それを都合よく解釈したのは彼女自身さ……いや、この話に意味はない。時間もあまりないからね……さて、単刀直入に聞く。君たちはあのホロウを――どう攻略する?」

 

 私はプロキシの腕前を聞こうとした。

 ニコたちが仕事をする上で懇意にしているプロキシがいる事は知っていたが。

 その詳細までは知らない。

 いや、精確に言えば調べていなかった。

 何か嫌な予感がしたのもあるが、知らない方が良いと思ったのが主な理由だ。

 しかし、この時ばかりは事前に聞いておく必要がある。

 もしも、ここで自信が無いなんていえば計画の変更を――

 

《答える義務は此方には無いよ……少なくとも、よく知りもしない貴方に話す事では無いと思うから》

「……ふむ、結構だ……ならば、期待しておこう。ヒントくらいであればとも思ったが、必要は無さそうだね」

《ひ、ヒントは欲しい気が……い、いや! いらない! お前なんかのヒントなんて!》

 

 外野が騒がしいが無視。

 私は通話を切ろうとして……忠告だけしておいた。

 

「一つだけ言っておこう……最後まで抜かりなく。常に目は光らせておきたまえ……敵の影は想像以上に広いだろう」

《……待ってくれ。それは一体――――…………》

 

 私はそれだけ伝えて一方的に通話を切る……釘は刺しておいた。

 

 プロキシの口ぶりからして自信はあるようだ。

 声量と振動。話すペースに加えて、此方の揺さぶりにも動じない姿勢。

 その全ては経験の深さと知識量の多さを表す。

 ただの馬鹿であれば、もっと大胆な発言もしていただろう。

 それをせずに敢えて話す事を最小にし、此方が話しやすい空気を作っていた。

 そこから考えられるのは、此方の情報を逆に取ろうという魂胆で……中々だな。

 

 あの猫のシリオンが何処まで話しているかは分からない。

 が、アレだけの自信があるのであれば。

 情報を小出しにされても、要所要所で立ち回れるだろう。

 

 ……もしかしたら、あの伝説のパエトーンだったのかもしれないが……まぁいいさ。

 

 調べておいた方が良い逸材かもしれない。

 が、今はそんな余裕も時間も無い。

 

 そんな事を考えながら、私は目の前の機器を使って新エリー都の監視カメラにアクセスする。

 アクセスするのは公的なものを除外している。

 それら以外のものを家庭のパソコンを経由してハッキングしていた。

 

 公的なものの方が精度は良く。

 解析する上でも楽ではあるが。

 侵入するだけでも検知される恐れがある上に。

 逐一、ログに記録していっているのであまり接続はしたくない。

 個人店のものや一般人が防犯目的で設置したものであれば。

 ログに残る可能性はあるが、自宅のパソコンなどで入れば怪しむ輩はそうはいない。

 そもそも、マメにログを確認しているのも少ないだろう。

 

「……」

 

 次々と表示される“切り取られた映像”を見つめる。

 

 現在の記録映像では無い。

 それを取るのはリスクが高い。

 必要なのは設定した時刻の切り取りだ。

 最小の時間で、必要な情報だけを抜き取る。

 それが出来ればすぐに離脱していく。

 

 それらを取っていけば――ヒット。

 

 サラが映っていた。

 私と別れた三日後であり、派手な装いでは無く地味な色の服装で出歩いていた。

 情報屋から追加で齎された彼女に関する情報。

 プロフィールを参照し、彼女が“設定した行動パターン”から彼女の行先に当たりをつけた。

 

 そこから、彼女の行動パターンと歩行スピードを計算し。

 切り抜きのように映像の一部分を切り取っていく。

 ミスをすれば修正し、一コマずつを切り抜いていく。

 そうして、それらのコマを全て繋ぎ合わせる。

 

「ブティック……喫茶店……図書館……なるほど」

 

 彼女の休日の行動を脳内に記録。

 私は別のウィンドウを展開し、彼女の“完璧な偽装”に舌を巻いた。

 全くといっていいほどボロを出さない。

 不審な動きは無く、完全に一般人に溶け込んでいた。

 が、彼女は確実に裏の顔を持ち、他の行動も取っていた。

 

 監視カメラでは記録できない部分。

 彼女は見えない日陰で裏の行動を取っている。

 それを調べる事は不可能に近いが――問題はない。

 

 データの中から資料を“再度”取り出す。

 それはヴィジョンの機密に関するものだ。

 毎年の収支報告書であったり、取引を行っている事業所の名簿などだ。

 全てに目を通し、ヴィジョンが公開している事業などを読み。

 そこから必要になる経費などを計算すれば……妙な穴が出る。

 

 資材の運搬の記録であったりを見れば。

 運搬の頻度であったり、その内容物に関しての記載に違和が生まれる。

 平たく言えば、“これだけの物”を運搬するのに、何故これだけの“回数”の運搬が必要になるのか?

 

 合理的ではない。

 大企業ともなれば、コストを抑える事は何よりも重要だ。

 それなのにも関わらず、運搬する上で無駄なコストが発生していた。

 これが単なるミスであればいいだろう。

 が、外部の人間である私でさえも違和を感じるものを放置している可能性は低い。

 

 その穴から解析を進めれば、運搬を担当していた企業へと行きつく。

 が、何度調べたとしても運搬の回数と支払いの金額が合わない。

 詳しく調べなければ、見落としてしまうだろうが。

 突かれていないのであれば、敢えて“見逃されている可能性”もある。

 

 それはつまりだ。報告書として纏められたそこには含まれない――“裏金”だ。

 

 バックに誰がついているのか。

 それは私の事をよく知り、情報を流した人間と断定すればあっという間に糸は手繰れる。

 新エリー都において、市民から信頼されて秩序を守る立場にある――“治安局”だ。

 

 どういう訳か、連中は治安局と深い繋がりがある。

 爆破計画という大胆な行動を可能としているのは奴らのバックアップがあるからで。

 必要となる物資の一部も横流しされていると考えていいだろう。

 金の動きは慎重であり、収支報告書に書かれた金額は合っているが。

 その一部は治安局へと流れるように仕組まれていた。

 

 取り残された市民たち。

 そして、採算の合わない報告書……決まりだなぁ。

 

 ……ま、そうなんじゃないかとは思っていたけどさ……やだねぇ、本当に。

 

 眉間の皺を揉む。

 そうして、残された時間でサラの行動分析を進めた。

 

 治安局との繋がり。

 そして、その中でも特定の人物と繋がっている。

 私にはその人物とのコネクションがあり。

 “彼のアドレス”なども知っていた。

 彼はまさか、自分に行きつくとは思っておらず油断しているだろう。

 

 そこからは簡単であり、彼のアカウントから登録されている人間を確認し。

 そこから意図的にサラとは連想できない人間のアカウントを特定。

 暗号化されたメッセージの一部だけでも読み取る事が出来れば――完了だ。

 

 意味不明な専門用語は今回はスルー。

 重要なのはサラの本性とも呼べる会話の記録だ。

 明らかにゴリゴリに暗号化されてそうなものは絶対に開かない。

 開いた瞬間に逆にクラッキングを仕掛けられるのがオチだからだ。

 

「……」

 

 一文の量に、句読点のつけ方に、仲間との会話での癖。

 メッセージのやり取りを行う間隔に、彼女が良く使うワード。

 短いメッセージのやり取りで回収できるだけの情報を読み解いていく。

 そこからサラと呼ばれる女性の真の姿を想像していく。

 

 

 もし、サラであれば危機的状況でどうするか。

 もし、サラが意図せぬ事態に遭遇すればどうするか。

 

 

 心理分析から行動パターンの解析。

 あらゆる可能性を考慮し、頭の中で分岐したチャートを作っていく。

 道は一本では無く無数に分岐している。

 が、その分岐する道の中で特定のルートを意図的に歩ませる事は出来る。

 あの高性能シミュレーターの聖杯と同じだ。

 

 行動のズレは最小に、結果的にそうなればいいように考える。

 彼女もプロであり、此方の意図する行動を勝手に取ってくれる事はしない。

 そう仕向けても、此方の作為を嗅ぎ取れば瞬時に行動を変えて来る。

 敢えて乗って来るかもしれないが、それはブラフの可能性が高い。

 そもそもが此方の出方を最初から見ている場合もある。

 

「……」

 

 思い出そう。

 当時、彼女と会った時の会話を。

 そこから彼女の心理状態を更に分析し――いや、違うな。

 

 アレは偽りの彼女だ。

 演じているだけであり、それの分析に意味はない。

 ならば、その偽りの仮面の下を此方で暴くのみ。

 

 相手を騙す時に重要な事は。

 全てを嘘にしてしまう事ではない。

 嘘の中にスパイスとして真実を混ぜる事だ。

 つまり、あの会話の中でも彼女の言動には真実が紛れている。

 その中で、最も印象深かったのは――

 

 《ふふ、そう。それが聞けただけでも会った甲斐が会ったわ……くれぐれも約束を破らないでね。私は貴方には“生ける”伝説のままでいて欲しいから》

「……」

 

 彼女は妙に私に拘っていた。

 それは能力そのものを高く評価しているからだと思っていたが。

 彼女のあの言動からは、何故か、能力面の評価以外の感情が見えた気がした。

 ファンであると言った事が事実であるのならば、彼女は私の事を別の意味で評価している事になる。

 

 

 今までの活動を思い出していく。

 財団に関するもの、医療機関への介入、テロリストとの交渉……“エーテリアスの研究成果の奪還”。

 

 

 かつて、エーテリアスの研究を行っていた企業が“幾つか”存在した。

 そのどれもが大した成果も無く、あったとしても表向きに公表できるものではなかったと聞く。

 全ての情報は上の人間たちが管理し、その成果も自分たちの利益として昇華していった。

 その成果の一部で公表されているものこそが、現在のエーテルエネルギーであったり合金であったり薬であったり様々だ。

 

 その依頼で求められたものは、公表できないものの一部のようで。

 態々、まだそこまで名が知られていない私にまで依頼が回って来たので不審には思っていた。

 クライアントのバックにはTOPSの影もチラついていて、よほど重要な仕事であると私は認識していたが。

 やけに情報が制限されている上に、仕事上のルールもかなり設けていた。

 

 クライアントの詮索はしない事、奪還したものは絶対に中身を見ない事。

 少しの破損も許さず、必ず無傷の状態で持って帰る事などだ。

 

 それが出来ない場合は言わずとも消されると思っていた。

 だからこそ、私の所にお鉢が回って来たのだろう。

 断わっていた連中がどうなったのかは想像に難く。

 私は関わった以上はやるしかないと腹を括り仕事に取り掛かった。

 詳細な情報は与えられなかったものの、エーテリアスの研究において発見された未知の物質……それに関する研究資料、それだけ聞いていた。

 

 資料を強奪した組織は過激派のテロリスト集団を隠れ蓑にしていた。

 彼らは用心棒のようであり、交渉の余地も無いほどに警戒心しか無かった。

 どいつもこいつもが戦闘においては一流で。

 その信念も世の平和のためなどと謳っていた。

 

 よくある反政府組織だ。

 反乱軍ではないものの、その行動は世にはびこる悪の浄化だ。

 

 資料を奪ったのも悪しきものたちから世界を救うためなどと言っていたな。

 組織自体の規模はそれなりに大きく。

 ざっと計算して五千人の大所帯だった。

 アジトは完璧な偽装が施されており、一見すれば何の変哲もない工場だが。

 その中では、違法な兵器開発や細菌兵器の開発などが進められていた。

 アンジェラたちから聞いた時は、顎が外れるほどに驚いたなぁ。

 

 何とか居場所を突き止めて、そこから交渉に取り掛かろうとした。

 

 確実に私が関わらなければ、大きな事件が発生していただろう。

 政府の中枢を狙ったクーデターであり。

 益々、下手な仕事は出来ないと悟ったよ。

 

《交渉をさせて欲しいのだが、よろしいか?》

《お電話ありがとうございます。此方は――》

 

 連絡を試みて、自動音声によって対応されるだけだった。

 もう一度掛け直せば、通話は繋がらなくなっていて。

 正攻法では話すらも聞いてくれないと悟った。

 逆に此方の居場所が探知されて襲撃に遭う事態にも発生し。

 迂闊な真似は出来ないなぁと考えたのを覚えている。

 

 時間はあまり掛けられない。

 奴らの狙いは分からないものの、資料は何れは譲渡されるか破棄される。

 そうなればゲームオーバーであり、リスクを冒してでも短期間での回収が急がれた。

 

 先ず初めに、彼らは危険を冒してまでTOPSの息が掛かった者たちからそれを奪い取った。

 つまり、生半可な提案では此方の要求を飲んでくれる筈もない。

 故に、私は奴らの頭や幹部に対しての交渉では無く――末端から攻めていった。

 

 簡単な話だ。

 頭に近づくほど組織に対しては忠誠を誓っているが。

 それが足先へと近づくほどに、それらの考えは薄まっていく。

 足の先に近い者たちの考える事は、何処まで行っても金や力でしかない。

 世界平和などと言っても、結局は居場所を無くした人間たちの集まりで。

 そんな彼らに対して私は素晴らしい提案をした。

 

 酒におぼれさせて、女を与えて。

 ドラマを生み出し、ストーリーも与えてやった。

 面白い劇場であり、人間たちの心は揺れに揺れて。

 世界平和も人々の希望もかなぐり捨ててて、そのほとんどが愛に走ってしまったのだ。

 

 分かり切っていた事だ。

 テロリストというものは、とどのつまり“夢見る冒険家”だ。

 刺激を求めて、注目を集めて、周りと違う存在に憧れる。

 崇高な理念に、強大な敵に立ち向かう自分はさぞや格好のいいものだろう。

 そんな存在は承認欲求の塊であり、愛という甘い汁には滅法弱い。

 夢の最果ては愛であり、愛してくれる人を求めてしまう。

 

 私はただ用意しただけだ。

 彼らの好みの女性と、彼らが求めるストーリーを。

 一日の内に百を超えるドラマを私はこの手で創造した。

 きっと私は道こそ違えば、シナリオライターや映画監督になっていたかもしれない。

 

 組織を裏切り、愛に生きる事を選んだ男たち。

 その結果、敵組織内では大きな争いが発生し。

 終いには血で血を争う事態へと発展していった。

 騒ぎが大きくなり過ぎた結果、偽装も機能しなくなり。

 治安局を通り越して、何故か“防衛軍”の介入が発生した。

 

 そこだけは少し違和感を抱いた。

 如何に銃撃戦が発生しようとも、犯人たちの規模が不明であれば。

 治安局から始まり、緊急性があってからこそ防衛軍が出動する筈だ。

 それをすっ飛ばしての出動であり、確実に“上の意志”であると認識した。

 

 ひどいものであり、誰しもが命の危険を感じていただろう。

 退路を断たれて備蓄していた食料も、何者かによって焼き払われて。

 籠城戦に突入したものの、休む事も無く警戒し続けていた。

 監視カメラで見ていたが、靴の皮を食べ始める奴も出ていたほどだ。

 

 疑心暗鬼の状態で何時、攻め込まれてもおかしくない状況だった。

 唯一、彼らは人質を数名、確保していたからまだ生き残っていただけだ。

 偶々であり、表の仕事で取引をしていた人間たちを人質にした。

 命拾いはしたものの、首の皮が一枚繋がっただけで。

 命運が尽きたと思われたその時に――私が出てくると言う訳だ。

 

 こうなると予想して、私は政府に対して自らを売り込んだ。

 この手に掛かれば、人質を無傷で解放し。

 犯行グループも全員、捕らえる事が出来ると。

 用意するのはたったの500ディニーだけでいいとも伝えた。

 

 私の交渉によって、見事、私は政府側の交渉人として一時的に雇われる事となった。

 建前上は政府に雇われた交渉人だ。

 表の依頼を引き受けて、裏の仕事を果たしに来た。

 政府からの願いとして人質の解放を最優先とし。

 私が彼らの要求を聞く立場であった。

 

 彼らへの提案は簡単だ。

 二束三文を受け取り、私からの提案を形だけでも飲む事。

 そうすれば、此方は安全な逃走経路を用意してやると。

 アフターケアも万全であり、失敗によって消される可能性も無い。

 彼らには時間が無かった。

 渋っていれば防衛軍がなだれ込み、その中にいるであろう“刺客”に手を掛けられる。

 お互いに失敗は許されない。

 失敗すれば命が消され、“愛する家族”にまで危険が及ぶであろう。

 

 決断は早かった。

 すぐに物を私に渡してくれたさ。

 そこからは此方の手筈通りにアンジェラたちに陽動を行わせて彼らを逃がし。

 予め用意していた罪人たちを使って私はテロリストたちを逃がしてやった。

 拘束された罪人たちは、予想通り護送中の事故により全員が死亡していた。

 

 無事に生き残った彼らは、今頃は郊外にて過ごしているか。

 それとも、何処かでボロを出して殺されているかだろう……まぁ、どうでもいい事だ。

 

 クライアントからの要求は最優先であり、私は約束を守って中身を見る事はしなかった。

 テロリストのメンバーからはそれは財団などに渡せば高く売る事が出来るなどとも言われたが無視。

 他にも正義感に満ちた奴からはそれは誰にも渡してはいけないものとも言われた気がした。

 まぁ全部無視してクライアントに渡したよ。

 その結果、えらく評価されたのを覚えている。

 

 アレが何だったのかは分からない。

 が、今日に至るまで約束を守り不用意に調べる事もしなかった。

 

 

 ……まさか、あれが?

 

 

 約束を守っていたからか。

 それとも、エーテリアスに関するものを奪い返したからか。

 十中八九が、あの依頼を出したのはサラが身を置く組織だろう。

 不可解な点が多かった依頼はアレだけであり、妙に金払いも良かった。

 そう考えるのであれば、敵はTOPSとも関りがある事になる。

 想像以上に敵は強大であり……やっぱり、保険は掛けておくかぁ。

 

 私はそんな事を考える。

 確実に裏切ったとバレれば命が危うい。

 が、このまま奴らの船に乗るのも危険だ。

 

 一番、良い結果なのはどっちつかずでいられる事だろうが。

 恐らく、そんな中途半端な存在を奴らは許さないだろう。

 

 いや、そもそもが何もしないでいいのならそれでいいよ?

 でも、そんな要求は最初だけだ。

 奴らも俺を試すような事を言ってたからな。

 絶対にその後に面倒な事を任せられるのは目に見えている。

 だからこそ、早めに手を打っておいた方がいいのはどう見たって明らかだ。

 甘い汁を啜って啜ってとんずらなんてしようものなら、その時は完全に肩までどっぷりさ。

 

 私がやる事は簡単だ。

 第一に奴らがやろうとしているやべぇ事の阻止。

 それから、巻き込む形になった猫ちゃんと妹を含めた邪兎屋のメンバーたちの生還。

 そして、最後が最も重要で……ま、何とかするさ。

 

 ぶっちゃけ、最後だけで十分だ。

 正義を気取っていないので阻止できなくても心は痛まない……いや、ちょっとは痛むかもしれないな。

 

 それと、ニコたちの生命力はGを凌駕するほどなので実を言うと蚊ほども心配はしていない。

 この前の件は、完全に予想していなかったことだろうと思って助けたが。

 私は一度足りとも妹の能力を低く見ていた事は無い。

 故にこそ、凄腕っぽいプロキシに全ベットし、私は私の為に動くだけだ。

 

 今回の事は、私の“身の安全”と“利益”の為でしかない。

 面倒な奴らから狙われたくないのと、それに今後出来る限り関わりたくないからだ。

 

 私はビジネスがしたいんだ。

 金儲けであり、可能なら好きな事だけをしたい。

 やべぇ思想の秘密結社なんかで使い潰されるのは真っ平ごめんで。

 フリーのまま、上流階級の方々と健全な関係でいたいのだ。

 

 

 故に、私のファンであるサラ君に悪いが――“その縁は断ち切らせてもらう”。

 

 

 私はそう考えてから、パネルを叩いていく。

 そうして、集めた情報を元に更なる情報を手に入れようとした。

 深部までは入らず、あくまで浅い領域内の情報に限る。

 潜り過ぎれば痕跡が残り、此方がした事も嗅ぎつけられる。

 そこまでの危険を冒す必要はないし、やる事は“命を懸けるだけの交渉”だ。

 

 情報をオートで回収させながら、私は端末を取り出してある所に掛けた。

 

《お電話ありがとうございます! “マーベラス”営業部のクラタです! 御用件をどうぞ》

「お世話になります、“クラフト”のイトウです。以前依頼した仕事の件に関してコンドウ様と本日の予定の最終確認のお電話を」

《あ、はい。イトウ様ですね! 何時もありがとうございます。すぐにコンドウにお繋ぎしますので少々お待ちを》

 

 映画制作会社マーベラス。

 出資者たちからの要望でどんな映画であろうとも作る事で有名だ。

 子供から老人まで、お金さえ払えばどんな製作依頼を引き受けてくれる。

 今まで受けた中で、子供の1000ディニーで映画を作った事もあるらしい。

 映画業界では中々にクレイジーな事で有名で。

 私のような得体の知れない客にも親切に話をしてくれる……まぁ結構な額払ってるけどね?

 

 クラフトなんて会社は存在しないが。

 相手方にとっては金を払ってくれるのなら何でもいいのだろう。

 必要な人材の手配を主に頼んでいる。

 小道具などの準備や場所のセッティング、シナリオも此方が用意し、後は演じてくれるだけでいい。

 これほどまでに俺と相性のいい会社は早々ないだろう。

 危険ではあるものの、最低限、アンジェラたちに護衛させているので怪我の心配はない。

 

 担当者とはもうずぶずぶであり。

 相手は私を金づるだと思い、私は相手を丁度いい駒だと思っている。

 ウィンウィンの関係であり、今後も仲良くしたいものだ。

 

 情報を集め、シナリオを描き。

 状況に応じてアドリブを加える。

 時が重要であり、役者の演技も大切だ。

 

 相手はプロであり、人を騙し喰らう女狐だ。

 用意のし過ぎはない事であり……“はぁ、やりたくねぇなぁ”。

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