仮面のお兄さんと感情激重ボンプ   作:オタリオン

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第2話:悪魔との取引(裏)

 ホロウレイダーグループ・アンヘル――俺が作り上げたチームだ。

 

 犯罪グループとして一目置かれる俺たちは僅か数年で規模を拡大し。

 この業界で伸し上がり力をつけて来た。

 何度も潰されそうにはなったが、その度に力をつけて蘇り。

 何時しか俺は“不死鳥”と呼ばれるまでの存在になった。

 

 プロキシたちの間で伝説となったパエトーン。

 自慢じゃないがレイダーの中では、俺もそんな存在と肩を並べられるだろう。

 表に立つことは絶対に無いが、何時の日かこの俺が新エリー都を裏で牛耳る事になる……くくく。

 

 今回の依頼を達成する事が出来れば、俺たちの組織は益々大きくなる。

 あれだけの金が手に入れば、兵を強化するだけでなく裏社会の重鎮とのコネクションも築けるだろう。

 構成員の人数も増えており、今では三千人の部下がいるんだ。

 裏社会の奴らであっても、俺の事を無視する事は出来ないさ。

 万を超える日もそう遠くは無く、治安局にも此方の協力者がいるんだ。

 絶対に捕まる事は無い上に、美味しい話も流れてきて……正に一石二鳥だな。

 

 ……だが、妙な動きがある。

 

 俺の周りをうろついている人間がいやがる。

 プロキシもそうだがホロウ内にいる部下を襲った人間がいたらしい。

 若い女だって聞いていたが、その情報も不明な点が多い。

 何でもメイドの格好をした奴ららしいが……まぁいい。

 

 どんなに手を尽くそうとも、俺の元に辿りつく事は無い。

 部下が捕まえられようとも構わない。

 減ればすぐに増やせばいいだけだ。俺にはそれが出来る。

 

 椅子に座りながらゆっくりとPCの画面を見つめた。

 そこには屈強な体つきの部下たちが待機している映像が映し出されて……来たか。

 

 資産家イングラム・アントワネットが遣わした交渉人。

 奴が娘を救い出す為にあらゆる手を尽くしているのは知っていた。

 恐らくは部下たちを襲ったメイドたちもその中の一つで。

 有名なプロキシにも協力を仰いでいたらしいが、結局、こいつを頼る他なかったらしい。

 

 “仮面の貴公子”、“交渉人”、“地獄からの使者”……こいつの異名は数知れない。

 

 彗星の如く現れて、瞬く間に頭角を現した交渉人。

 そもそも、交渉人という職業自体、こいつが現れるまでは真面に機能すらしなかった。

 いたとしてもカスばかりであり、荒くれ者のレイダーたちや暴力団相手に話し合いは通じない。

 唯一、この仮面の男だけが数多くの難局を乗り越えて来た。

 たった一人で戦場のど真ん中に立ち、無傷で依頼を達成する男。

 あのパエトーンと並ぶほどの伝説であり……間違いない、こいつだ。

 

 噂には聞いていたが実在したとはな……すげぇ格好だな。

 

 画面越しに奴を見れば、その特異性が嫌でも分かる。

 目立つような赤い貴族のような服装に、怪しげな白い仮面をつけた金髪の男。

 身長は恐らく百八十はあるだろうか。服の上からでも分かるくらいには鍛え上げられた肉体。

 何よりもその纏うオーラが常人ではあり得ないほどに濃い。

 此処からでも分かるほどにそのオーラは凄まじい。

 

 奴の事はホロウレイダーや裏社会の人間であれば誰でも知っている。

 どんなに危険な場所であろうとも依頼を受ければ必ず向かい。

 無数の銃口を向けられようとも顔色一つ変えずに淡々と交渉をする男。

 どんなに不利な状況であろうとも、一瞬にして立場を逆転させて依頼者の望む結果を手に入れて来た奴だ。

 有名な話であれば勢いのついていた赤牙組にたった一人で交渉に赴き。

 五体満足どころかVIP待遇で見送られたと聞いたことがある。

 

 まだある。

 こいつは政府からの依頼も受けていると噂が立っていて。

 単身でテロ組織のアジトに乗り込んで、人質となった人間たちを全員解放したともある。

 その時に奴がテロ組織に提供したものは……たったの500ディニーらしい。

 

 あり得ないだろう。

 人質を取っていた筈のテロ組織がたったの500ディニーで人質を全員解放した。

 耳を疑う話ではあるが、実際に奴が関わっていたと思わしき事件の記事は見た事がある。

 そこには500ディニーなんて書かれてはいなかったが。

 インターノットに現れた名無しの治安官は、赤い服に仮面の男が交渉をしたと書き込んでいた。

 

「……何をするつもりか知らねぇが。お前の伝説も此処で終わりだ」

 

 俺たちは絶対に譲歩はしない。

 あの土地の売却手続きを速やかに済ませるまでは娘の解放はあり得ない。

 いや、手続きを済ませてもまだだ。

 十分に奴らから金を搾り取り、今後も長い付き合いが出来るように俺は奴と同じように交渉する。

 骨の髄までしゃぶりつくすまでは娘には協力してもらおう。

 まぁそれまでに奴の娘が“清い”ままでいられるかは奴の行動次第だがなぁ。くくく。

 

 伝説の男が俺の部下たちを前にする。

 奴の手にはアタッシュケースが握られていた。

 俺はそんな奴に笑みを向けて、奴はゆっくりと周囲に目を向けて――!

 

「こいつ……!」

 

 一瞬。ほんの一瞬だ。

 奴が隠しカメラの方に向いた。

 少し口角を上げたかと思えば、奴は視線を前に戻してから椅子に座った……気づいたとでも言うのか?

 

 あんな一瞬だ。

 カメラは簡単には発見できないほどに小型化されている。

 隠し方であってもバレないようになっていた筈だ。

 それなのに、奴は周りを見ただけで気づいたのか……侮れねぇ。

 

 俺はマイクを持ちながら部下に指示を送る。

 

「警戒しろ。そいつはカメラに気づいた。少しでも妙な真似をするなら……殺せ」

 

 部下に指示を送れば奴らは小さく頷く。

 如何に交渉人であろうとも、俺たちが手心を加える事はしない。

 奴がごねて暴れたとでも理由をつけて殺したとしても、資産家の男が強硬手段に出る事は無い。

 それどころか、あの男は俺たちのヤバさを痛感して条件をすんなりと飲む可能性すらある。

 

 ……が、簡単に殺してはつまらない。あの伝説の一人が俺たちの前に現れたんだ。たっぷりと堪能させてもらうさ。

 

 部下の一人が奴の前に座った。

 周りの部下たちは奴を真っすぐに見つめている。

 逃げ場がない上に、奴自身は護衛もつけていない。

 

 奴と話をする部下がヘルメット越しに笑う。

 

《要求を呑むと、受け取ってもいいのか? 交渉人さん》

《ふふ、慌てる事は無い。すぐに望む結果が得られる》

《……慌てるなねぇ……生憎と俺らは暇じゃねぇんだわ。なぁ?》

 

 部下たちが拳銃を抜く。

 そうして、仮面の男に銃口を向けた。

 が、奴は笑みを消すことなく目の前の男を見ていた。

 

 よく見れば分かる。

 部下の手は震えていた。

 奴ならばすぐに分かるだろう。

 部下の恐怖と焦りが……まずいな。

 

「落ち着け。奴は一人。武器の持ち込みも出来ていない」

《武器は持っていない。そう警戒しないでくれ》

「――!」

 

 俺の言葉と奴の言葉が重なる。

 その瞬間に部下たちは明らかに動揺した……馬鹿が!

 

《私は交渉に来た。互いに利益になる話をしようじゃないか》

《う、うるせぇ!! 気に食わねぇんだよ!! テメェのその全て見透かしたような態度が!!》

《はは、それは誤解だ。私は何も見えていない。見えているのは君の変わったヘルメットととその震えだけだ》

《この野郎!! 頭吹っ飛ばしてやらぁ!!》

「おい!! ヤメロ!!」

 

 俺は慌てて部下を制止する。

 が、部下は俺の制止を無視して発砲し――弾丸が弾かれた。

 

「は?」

《――な?》

 

 どういう事だ。

 奴は何をした。いや、何もしていない筈だ。

 なのに空中で弾丸が弾かれて、弾が窓に罅を入れていた。

 

《……荒事はよそう。我々は大人だ。言葉での解決が望ましい……そう、思わないかな?》

《ふ、ふざ……ぅ》

 

 完全に奴が場を支配している。

 俺も体の震えが止まらない。

 奴は本物だ。本物の交渉人だ。

 

 楽しい。これが伝説、これこそが――交渉人か!

 

《初めに提示しよう。我々はこの土地を約束通りに売却する……が、買うのは君たちの背後にいる“クーロン”ではない》

《て、テメェ! どうやってそれを!?》

「喋るな!!」

 

 俺は思わず声を張り上げてしまう。

 部下は耳もとを抑えるような素振りをする。

 奴は笑いながら「直接話せないか?」と言ってくる……クソ。

 

 俺は部下に指示を送る。

 そうして、端末を起動させて奴との交渉に臨む。

 心配はない。暗号化された通信だから、此方の位置が特定される事は無い。

 直接、あの端末を操作したのなら別だが……不審な動きは無いな。

 

 俺はマイクを持ちながら、奴に話しかけた。

 

「……どういう事だ? クーロンじゃないなら、誰がその土地を買う?」

《勿論――君たちだ》

「……何を言ってやがる……俺たちにそんな土地はいらねぇんだよ」

 

 話にならない。

 幾ら広大な土地とはいえ、あんな土地を買ったところで価値は無い。

 ホロウが消えたのなら話は別だが。

 そのホロウ自体が何時消えるのかも分からない。

 持っているだけでも維持費がかかる上に、売却しようにも価値はほぼないんだぞ……誰が買うかってんだ。

 

《そうか。買う気が無いか、残念だ……あの土地には“金”が隠されているのに》

「……待て。今なんて?」

《金だよ。金……もっとも純粋な金では無く、金に匹敵するものが隠されている》

 

 あの土地に金に匹敵するものだと……?

 

 あり得ない。俺も気になって調べたが。

 資源が隠されているという噂は全くのガセだった。

 資源どころかディニー1枚すら無かった場所だ。

 既に廃墟同然になっていて、金目のものは既に他のホロウレイダーに全て盗られていた。

 そんな所に金になるものなんて……。

 

《あの土地をクーロンが狙う理由。それはクーロンの現社長であるリー氏が関係している……知りたいかい?》

「……続けろ」

《リー氏は元々大聖製薬の幹部役員であり、とある抗生剤の研究開発指揮を任されていた……しかし、試験は失敗した。それはリー氏が抗生剤の中に違法とされる危険物質を仕込んでいたことが原因とされる……幸いにも詳しい調査が入る前に当時の研究所はホロウ内に閉じ込められてしまい、その一件についてはうやむやのままに終わった……が、何も知らない土地の所有者がそれを売却してしまい。それをあろうことかリー氏の失脚を狙う資産家の男に買われてしまった》

「……リーはアイツの事か……あ? アイツの失脚を狙う? どういう事だ。そんな情報は何も」

《それはそうだ。君たちには関係の無い話だからね。とある財団の役員の中には、クーロンの事を良く思っていない人間が数多くいる。彼らはエーテル技術研究事業において勢力を伸ばしているクーロンを危険視していて、彼らの躍進を止めるか会社そのものを傘下に置こうと画策している。何せクーロンには前の会社で“エーテリアスについて実験研究”をしていたリー氏がいる。彼の豊富な知識や経験があればエーテルにおいての研究も》

「――ちょっと待て! エーテリアスの研究だと!?」

 

 俺は思わず叫んでしまう。

 こんなにも大きな情報を聞いてしまったら無理もない。

 どう見ても企業にとっては大きなネタであり、もしもこれをその財団かマスコミに売れば……かなりの金になる。

 

《……私としたことが余計な事を喋り過ぎた様だ。今の事は忘れてくれ。君たちが買わないのであれば、私がこれを》

「――いや、俺たちが買う!! それが条件だ!!」

《……いいのかい? 君たちは依頼主の為に動くんじゃ》

「うるせぇ!! 言われた通りに俺たちに売れ!! いや、タダで寄越せば」

《――それは止めておいた方が良い。ホロウ内にあるとはいえ、これほどの物件をタダで君たちに渡せば流石に治安局も君たちの手に渡ったと気づくだろう。ただでさえ、君たちの要求のせいで治安官たちがその土地を不審に思っている。今、タダで渡すと言う事は……分かるね? そもそも正式な書類が手元に無ければ、すぐに差し押さえられ調べられてしまう。きちんとした手続きさえ踏めば、治安局であろうとも物件を調べる事も差し抑えする事も出来ない》

「……あぁクソ!! だったら!! どうしろって言うんだ!? 俺たちがどうやって正式に手続きをするなんて」

《――その為に私が此処に居る。書類に関しては私が作ろう。身分に関しても伝手を使えば偽装できる……どうする?》

 

 奴は交渉人らしく言ってくる。

 奴からの要求は誘拐した娘の解放ただそれだけだ。

 幸いにも、まだ奴は娘がいる場所を特定できてはいない。

 

《……実を言うとだ。既に必要な書類や君の表での新たな身分は用意してある……顔を変える必要はあるが》

「あ!? 顔を変えるだって!? 何でそんな事を!」

《ん? 勿論、新たな身分となり君が安全に土地を管理できるようにする為さ。こう言っては何だが、君は裏ではそれなりに名が通っている。恐らく、優秀な情報屋の中には君の顔を知り得た人間もいるだろう……君自身、そろそろ顔を変えようと思っていたたのではないか》

「…………何から何までお見通しって訳か。気に食わねぇな…………やっぱり、怪しい」

 

 俺は奴の様子を不審に思った。

 今の立場で言えば、まだ俺の方に分がある。

 奴の目的は何処まで行っても資産家の娘を無事に連れ帰る事だ。

 だからこそ、奴の様子はクールであっても内心では焦っている筈だ。

 

 早くに交渉を終えて、娘を解放させたいからか。

 それとも、もっと別の理由があるからか。

 

 美味しい話だ。

 いや、美味しすぎる話と言ってもいい。

 これほどの話であればすぐに食いつきたくなる。

 あの土地を正式に自分のものにして、このネタを使ってクーロンを揺すれば。

 あの資産家の男から絞る取るよりももっとデカい金が手に入る。

 いや、それだけじゃない。金だけじゃなく奴の持つコネも根こそぎ奪えば……俺の野望に一歩近づく。

 

 明らかに、俺たちにとって利しかない。

 奴にはほとんど旨味は無いのだ。

 だからこそ、怪しいとも言えた。

 

 何故、奴自身はこの物件に手を出そうとしない。

 これほどの情報を知り得ているのであれば奴がこれを手にする事だって出来た筈だ。

 それに見合うだけの金を貰っているのか。

 いや、あの資産家はこの情報を知っていない筈だ。

 その証拠にあっさりと保有する土地をすぐに売却できるようにしてる。

 

 そもそも、俺たちが調べても何も出てこなかった。

 証拠となるものが何処にあるって……いや、まだ調べていない所はあった。

 

 研究所の最深部。

 娘の誘拐を実行する前に、念の為にと部下たちを派遣してあの土地を調べさせた。

 目に見える所には何も無かったが。

 唯一、あの最深部だけは調べる事が出来ず、生き残った部下が俺に泣きついて来た。

 あそこにはうじゃうじゃとエーテリアス共がいやがった。

 調べようとして部下が何十人も殺されたんだ。

 今にして思えば通常のエーテリアスとは形が違っていて強かったと思うが……まさか、アレが?

 

 恐らく、アレが研究で生まれたエーテリアスか。

 もしくは実験にてエーテリアス化した奴らかもしれない。

 恐らく、リーの野郎は証拠を回収する事が出来ずに。

 強力なエーテリアスともどもあそこに閉じ込めて蓋をしたんだ。

 よっぽどの事が無い限りは、あんな所に態々行く奴なんていねぇからな。

 つまり、資産家の男があの土地を買い取ってそこを調べる為に名のあるプロキシや傭兵を雇えば……全てが明かされちまうって訳か。

 

 ようやく繋がった。

 多額の報奨金を用意してまで防ぎたかった事。

 奴らの狙いはこれで……だが、どうする。

 

 資産家の男が何も知らなかったとしてだ。

 クーロンの狙いに気づかぬままこれを売るものなのか?

 金があるのなら情報屋を雇い調べ上げて、俺たちの背後にいる企業も調べる筈。

 娘がそれほどに大事だったからか。

 いや、それにしてもあっさり過ぎる……何だ?

 

 システムが何者かの侵入を検知する。

 ボードを操作して監視カメラの映像を切り替えた。

 見ればアジトの内部へと入り込んでいる“犬ども”がいた――勘づかれたのか!

 

 どうやって此処を見つけ出した。

 周りと同じようになっている建物だ。

 偽装されたビル内に潜伏する俺たちを見つける事なんて不可能な筈なのに。

 武装した治安官たちは真っすぐ此処を目指してきている。

 立ち塞がる部下たちは瞬く間に無力化されていく――クソ、あの女が奪われちまう!!

 

 今から向かっても無理だ。

 人質を連れながら逃げる事は難しい。

 今までなら協力者から連絡が入っていた筈なのに。

 何故、今日に限って連絡が来ない……まさか、既に捕まったのか!?

 

 俺は焦りに焦る。

 いや、まだ時間はある。今からであれば俺だけなら逃げられるだろう。

 すると、PCに何かが送られてきた。

 

 見ればそれは電子書類であり――サインしろって言うのか?

 

《今送った書類を見て納得できたのなら……“イヌイ・ゴタンダ”とサインをしてくれ》

「――クソッ!!」

 

 考えている暇はない。

 書類に目を通せばこれにサインをした瞬間に自動的にあの土地が俺のものになると書かれていた。

 その土地の値段は適正価格であり、俺たちの組織の金でも十分に払える額だ。

 奴はサインをしたらすぐに金を提示した口座に送金する様に言う。

 俺はさっと目を通してから怪しい箇所が無い事を確認し、言われるがままにサインを書く。

 手が震えて上手く書けなかったが……これでいい。

 

 そうして、端末を操作してすぐに奴の指定する口座に金を振り込んだ。

 大した額ではない。だからこそ、払う事自体も惜しくはない。

 奴はゆっくりと断りを入れてから端末を取り出し確認する。

 

「書いたぞ! 約束通り娘は――治安局に受け渡す!」

《そうか。それは良かった。では、君の新たな人生に幸運を》

 

 奴はそう言って立ち上がりお辞儀をした。

 仲間たちがこのまま逃がすのかと聞いて来るが。

 奴をこの場で殺せば色々と面倒な事になる。

 少なくとも奴が何の保険も掛けずに交渉の場に現れる可能性は低い。

 それよりもすぐにその場から離れるのが先決だ。

 そう指示を出せば部下たちも気が付いて逃げる準備を始めた。

 

 俺はすぐに撤退する。

 部下たちにはホロウ内で合流する様に指示を出す。

 PCを切ろうとすれば何かが送られてきて……へぇ。

 

《それが君の新たな顔だ……中々に素敵だろ?》

「そうだな。俺にピッタリの顔だ」

 

 黒髪に切れ長の瞳。

 甘い顔であり、俺にはピッタリだった。

 奴は逃げようとする部下に作っていた身分証や書類をケース事渡す。

 俺は奴らに絶対に失くすなと言い聞かせておく――時間がねぇ!

 

 端末にPCの写真を転送し、ボードを操作して完全消去プロセスを開始する。

 後は自動的に機械が壊れて、この建物に火を放つ。

 俺は安全に逃げられる為に用意した隠し通路を通って行くだけだ。

 

「く、くく……これで俺も、俺の組織も……ついてるぜ!」

 

 荷物を持ち、俺は壁のパネルに触れる。

 そうして、開いた扉を潜ってから駆けだした。

 最高の人生に向けて、俺は駆けていくぜ。

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