仮面のお兄さんと感情激重ボンプ   作:オタリオン

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第6話:願いを叶える魔法とは

 日照りが続く中で、私は首元の汗を拭いながら歩く。

 背後から追跡してくる人間はおらず。

 ただの“弁護士”には誰も宛がう必要は無いと判断したのか。

 侮ってくれるのは大歓迎であり、この件が片付くまではそのままでいて欲しい。

 

 家の前に立つ。

 そうして、ドアロックを解除してから中へと入った。

 瞬間、中から心地の良い冷気が漂って来た。

  

「……ふぅ、疲れた」

「おかえりなさいませ。冷たいお飲み物を用意してあります。すぐに足のマッサージを」

「いや、マッサージはいい。ありがとう」

「……御意」

 

 とぼとぼと去っていくアンジェラ。

 何をそんなに悔しがっているのか気づいていたが気づいていないフリをする。

 そうして、変装用に使ったマスクをべりべりと剥がしていった。

 

 ぼとりと床に捨てればいそいそと助手二号が回収してくれた。

 そのままよれよれのスーツの上着を脱ぎ、ネクタイを緩めてそれも床に捨てる。

 助手たちが私の脱ぎ捨てた物を回収し……何故、アンジェラに持っていく?

 

 彼女は真っ赤な目を輝かせながら彼らにそれらを一か所に集めるように指示をして。

 チラリと私を見て目を細めて笑っていた。

 背筋がぞくりとした感覚を覚えながら、私はゆっくりと椅子に座りPCを起動させた。

 ガラスのコップには並々と麦茶が注がれていて、しっかりと氷も入れられている。

 彼女はちゃんと気配りが出来るボンプであり、あぁやって私の脱ぎ捨てた衣服に顔を埋めていなければ優秀なんだ。

 見えていなくとも発声モジュールから息を吸うような音を出しているのは聞こえている。

 聞こえているが無視をして、私はUSBを差し込んでから手に入れた情報を纏めていった。

 

 三日間に及ぶ調査。

 その最後にはようやく件の男との面会が叶った。

 そこからは予想外の情報を聞いたせいで計画していた行動を巻きで行って来た。

 だからこそ、体は疲労困憊でくたくただ。

 本当なら足どころか全身のマッサージをしてもらいたいところだが。

 生憎とそんな事をしていられるほどの余裕は無い。

 

 十四分街にいる住民たちへの聞き込みに。

 件の男の数少ない友達への接触。

 物品に関してはほとんどが押収されて、残された家には治安官たちが見張っていた。

 数少ない情報で彼の心理状況などを分析し。

 そこから導き出される答えは……ほぼ黒よりの白となった。

 

 先ず初めにあの男は金遣いが荒い。

 そして、周りへの心象もひどかった。

 恐らく、彼の為に証言台に立ってくれるであろう人間はほぼいない。

 いたとしても彼に金を貸した人間だけであり、更に彼の立場は悪くなるだろう。

 この時点で正攻法は通用しないと諦めたが。

 それでも、奴が悪意を持って金を手に入れた可能性は無いと判断した。

 

 そうして、ようやく面会が可能になり、私は三日後に彼が拘留されている場所に向かった。

 

 先ず初めに、私が向かったのは治安局だった。

 目的の人物が拘留されている場所は既に突き止めていたが。

 弁護士として接触する為に色々な手続きを踏む必要があった。

 私は面倒だと思いつつ、記憶を確かめながら必要事項を記入していった。

 

 弁護士バッジなんてものはこの先使う機会なんてほとんど無いと思っていたがまさか使う時が来るとは思わなかった。

 幸いにも拘留された男のプロフィールは手に入っていたので。

 嘘と真実を織り交ぜる事によって治安官だけでなく、ワタンスキー自身にも信じ込ませる事が出来た。

 三日で会える事になったのも、まぁ想定通りだと思っておこう。

 

 私は彼の父親の遺言に従い。

 残された息子が重大な事件に巻き込まれた時の為に雇われた弁護士であると説明した。

 結果、息子は藁にもすがる思いで私との面会を強く望み。

 比較的にスムーズな流れで面会へとこぎつける事が出来た。

 彼は最初ひどく興奮した様子であることないことをまくしたてるように喋っていた。

 これは陰謀で俺は巻き込まれたのだと。

 あの金は偶々拾っただけであり使ったのはほんのちょっとだった……いや、それでもアウトだがな。

 

 面会時間も限られている。

 だからこそ、私は敢えて彼の前で大きな音を立てるように手を叩いた。

 彼は面食らったように思考を一時停止させた。

 強制的に落ち着かせる事によって今度は此方が質問をしてやった。

 

 色々と聞いて分かった事を纏めるのならば……通常の手段で望むとすれば間違いなく奴は“有罪判決”を受ける。

 

 マズいと思った点は幾つかある。

 それはこの男が取り調べを受けた時に、あろうことか必要の無い情報をぺらぺらと喋っていた事で。

 かつての団体に関して無関係であったわけでは無く。

 あくまで当時のリーダーの送迎役を“臨時で”務めていた事を明かしてしまっていた。

 奴はたった数回だけでかなりの額の金が貰えるからと、インターノットの住人の言葉に耳を貸すことなく応募してしまったらしい……馬鹿だなぁ。

 

 あいつの考えであればただの運転手で。それも臨時だから自分は違うと言いたかったのだろう。

 しかし、治安官にとってみれば運転手をしていた人間であるのなら少なくともリーダーの顔や特徴を憶えている筈だと考える。

 それについて聞けば言葉を詰まらせて、当時は免許の取り立てで運転に集中していたから憶えていないと言った。

 

 勝手な考えであるが、大金を貰えるからと飛びついて。

 接触する事無く運転席にて待機し、乗り降りはリーダー本人か側近が行っていたのだろう。

 だからこそ、声も聞いていなければ姿だって見ていない。

 こうやって説明していたのならまだ救いはあったが。

 あいつは憶えていないとハッキリと言ったんだ。

 それはつまり、言い逃れの為の苦しい言い訳であったと自分で説明しているようなものだろう。

 

 少なくとも緊張していたとしても、どんな人間が乗るのか気になってサイドミラーでちらっと確認くらいはする。

 勝手に浮浪者やチンピラが乗り込んで来れば一大事であり、絶対に誰か来たか確認する筈だ。

 いや、百歩譲ってそれでも見ていなかったとする。だったら、運転が終わった後でも良かった。

 それを指摘すれば彼は不思議そうな顔をして、運転はしたものの“本人が乗り降りした気配はしなかった”と言っていた。

 つまり、誰かが来て“扉を三回ノック”した音が聞こえたからロックを解除した、と……胡散臭いよなぁ。

 

 それも契約の内だったそうであり、本人は合言葉のつもりだったのではないかと言っていた。

 念の為にその音はハッキリと聞こえたのかと聞けば、それだけは“ハッキリ聞こえていた”と断言した。

 気配はしなかったが、乗ったり降りたりした時の“音”も聞こえていたようで。

 私はこの情報を不審に思い、特に記憶に留めていた。

 

 ……まぁそれも馬鹿正直に話していた様であり、治安官たちは益々彼を怪しんだと思う。

 

 二点目はこの男が金を拾ったという場所だ。

 予めあの男が辿っている基本ルートに関しては頭に入れていた。

 だからこそ、あの男と会った時にすぐに何処で金を拾ったのかと問いかけた。

 すると奴は“ジャンク・ズシ”の近くにある空き地であると答えた。

 つまり奴の辿るルートで考えるのであれば三番目のポイントだ。

 

 単純な計算で一つのポイントにて廃材を回収する作業が十五分から二十分ほど掛かったとしよう。

 そこからポイント3に移動するまでの時間を考量すれば……大体一時間から一時間半ほどか。

 

 男の出勤時間からルートへの出発の時間は決まっている。

 早朝の六時に出勤し、体操や諸々のチェックを受けてから出発するので六時半ごろだ。

 奴が回るルートにある廃材は幸か不幸かそこまでの大きさではない。

 だからこそ、一人でこのルートを回る様に上司から言われていたそうだ。

 その為、ポイント3に到着した時刻は七時半から八時の間になる。

 

 此処の通りを通る人間は少なかったがいた。

 が、何時も見る光景だったからかワタンスキーだったかどうかは分からないと言われた。

 まぁそれはいい。早朝の時間はただでさえ意識が定まっていない筈だ。

 そんな中で日常の光景に集中して見ている人間なんていない。

 だからこそ、もう一つの可能性に頼ったんだがな……。

 

 記憶通りであるのならあそこには監視カメラが設置されていた。

 十四分街は赤牙組の縄張りでもあるからか治安が悪く。

 そこら中の店で自主的に監視カメラを取り付けていた。

 だからこそ、ジャンク・ズシでも監視カメラの映像が残っているだろうと思っていたが……実際は違った。

 

 あの男も真っ先にそれを見ろと問いただしたらしい。

 が、結果から言えばあそこには監視カメラは“無かった”。

 そう、一台も設置されていなかった状態だ。

 だからこそ、アリバイの証明となる映像は存在せず。

 あの男が金を拾ったという確固たる証拠も無かったのだ。

 

 他にもいくつかマズい点はあるが……まぁ大きなミスはこの二点だろう。

 

 残された時間も少なく。

 何度も面会をしていれば顔を覚えられる危険性もある。

 最低限、必要な情報も手に入っていたので私はそこで彼と別れる事にした。

 まぁ治安官に変装時の顔を覚えられるくらいなら全然いいが……“上の人間”に知られ照合されるのは危険だ。

 

 手早く面会を済ませれば男は最後に何かあれば“邪兎屋”に行けと言って来た。

 

『実はな。捕まる前にインターノットで助けを求めたんだ。有り金全部やるから助けてくれって。そしたら、邪兎屋の奴が協力するって言ったんだ! 多分だが、アンタと一緒で俺の無実を証明する為に駆け回ってくれているだろうぜ。くくく、アイツ等は犯罪スレスレの事も平気でするって聞いてたからなぁ。絶対に俺を――お、おい!』

 

 救いようのないバカだ。

 治安官が監視している前でべらべらと喋ってしまった。

 まだ犯罪者では無いから記録係はいなかったが。

 確実に監視カメラの映像には記録された。

 恐らく、アレを見た上の人間がすぐに照合を開始し邪兎屋の人間を捜索に出るだろう。

 

 時間はあまり残されていない中で。

 私はそのままジャンク・ズシへと行った。

 店主へと聞き込みをすれば確かに監視カメラはつけていないと言った。

 だが、様子が変だと感じたから、一月前はついていたとカマを掛けてみた。

 すると、店主はバツの悪そうな顔をしてからいらないから外したと言い直した。

 これは本格的に何かあると感じたので、私は静かに彼に対して私の気持ちを“数枚”渡した。

 彼は嬉しそうな顔をしてから小声で真実を話す。

 

『……実はな治安官の服を着た連中が来てな……監視カメラを外せって言って来たんだよ』

『……何故、そんな事を?』

『いや、俺っちにはさっぱり……ただ外さないのなら改造ボンプの所持で逮捕するぅなんて脅されてよ。仕方なく外したんだ……他の奴らも俺っちの店みたいに外してるだろ? 何故か、ここいらの連中のカメラだけ外させてたんだよ……気色悪いったらありゃしねぇよ』

 

 店主から有力な情報を手に入れた。

 正確な時間で言えば、ワタンスキーが金を手に入れる三日前にはカメラを全て外されていたらしい。

 治安官の服を“着ていた”人間と言っていたのも気になり問い詰めれば、あまり見かけない顔であったと言っていた。

 つまり、監視カメラの撤去を強要した治安官たちはあまり顔を知られていない人間で……恐らく、偽りか。あるいは別の分署の人間かもしれない。

 

 治安官を騙る偽物ではないだろう。

 もしも店主がそこで強気な態度を取り通報すれば本物の治安官と出くわす事になる。

 だからこそ、脅すという強気な手段を取れるのであれば恐らくは本物である事に間違いない。

 ならば、別の分署の人間が何故、担当のエリアを外れて撤去を住民に指示しに来たのか……やはり、裏があるな。

 

 ワタンスキーは間違いなくあの場所で金を手に入れた。

 それは間違いがない。

 偶々店の前で開店準備をしていた店主がそわそわとしていたワタンスキーを見ていたから確かだ。

 が、それを証言させる事は出来ない。

 何故ならば、彼は証言台に立てるほど真っ当な人間では無いからだ。

 改造ボンプの所持に違法な食材の提供……まぁこんな所か。

 

 その怪しげな治安官がまた介入すれば、彼は途端に雲隠れするだろう。

 だからこそ、真っ当な手段で彼を解放させるのは無理だと判断した。

 となれば些か強引な手段を取らざるを得ない。

 

 必要な書類を作成しながら、私はコップを持ち麦茶を飲む……あぁぁ生き返る。

 

 カタカタとパソコンを叩く音が静かに響き。

 気づけばアンジェラが自分専用の椅子を持って来て、私の三歩後ろに座る。

 書類を手早く作り上げてから、私はそれをコピー機で刷っていく。

 

「アンジェラ、君に仕事を任せたい」

「なんなりとお申し付けください」

「……では、今すぐに邪兎屋へと行き、その店の主を尾行しろ……私の予感が外れれば良いが」

「……承知致しました……もし何かあればご報告を」

「いや、いい。その時は己の判断で動いてくれ……ただギリギリまで何もするな。もしも、止むを得ないのなら……荒事も許可する」

「……御意」

 

 彼女は床に足をつける。

 そうして、優雅に一礼をしてから姿を消した。

 扉が開かれて彼女が出て行ったのが分かった。

 私は刷られた書類を流し読みでチェックをし……よし。

 

「助手二号、三号。これを……朱鳶に渡してきてくれ。誰にも知られずにだ」

「「……ンナ(御意)」」

 

 彼らも姿を消す。

 そうして家から出て行き、残ったのは四号と五号と六号で。

 彼らは期待するような目を私に向けてきていた。

 

「案ずるな。君たちにも重要な仕事がある……が、その前に、まだやるべき事がある」

 

 私はボンプたちを手招きする。

 そうして、別の部屋へと誘導していく。

 本棚の前、そこにある赤い本と青い本を取り出して。

 それを入れ替えれば、ガチャリと音がした。

 本棚と壁の間に開いた隙間。そこに手を差し込んでから、私はゆっくりと本棚を移動させた。

 壁の中心には丸い穴があり、私はその中に手を差し込む。

 すると、内部で私のデータを読み取るような音が聞こえて……終わったな。

 

『認証しました――おかえりなさいませ。ご主人様』

「あぁ、ただいま」

 

 壁が二つに分かれて開かれていく。

 そうして、中へと入れば青い光が灯る。

 そこには無数の大きなサーバーが幾つも設置されていて。

 中心には複数のモニターがついた専用のPCが設置されている。

 

 久々の大仕事だ。

 相手は“因縁ある”治安局であり、手を抜く事は出来ない。

 置かれている黒いグローブを嵌めて頭に専用のヘッドギアを装着する。

 そうして音声コマンドによりPCを起動させてから静かに肩を鳴らした。

 

「さぁ仕事だ。少ない時間でどれだけの情報を集められるか……見せてもらおう。治安局のウォールの力を」

 

 両手を広げる。

 すると空中に無数のウィンドウが展開された。

 それら全てを見ながら、私は流れるように手を動かして行く。

 一つ一つのプロセスを処理しながら、此方の位置が特定されないように複数のダミーも設置し。

 短い時間の合間に相手のサーバーへと侵入。

 気づかれぬ間に処理を進めながら、分署のメインサーバーへのアクセス権を発行させる。

 

 助手たちも自分たちの思考を並列化し。

 此方のサポートに徹してくれていた。

 

「……気づいたな。だが、もう遅い」

 

 メインサーバーへとアクセス。

 防壁を突破しながら、閲覧できる情報を見ていく。

 

 違う、違う、違う、違う違う違う――これだ!

 

 必要な情報を手に入れる。

 まだ目星しかついいていないからこそ最小限にはとどめられないが。

 それでもある程度の範囲には絞っているからこそ無駄なく情報を選び取れる。

 それらのコピーを瞬時に作成し、此方へと持ち帰りながら。

 追手が此方に着く前に早々に退散する。

 

 痕跡の一つも残さない。

 私一人では不可能でも優秀な助手がいれば問題ない。

 治安局とはいえ、入ったのが十四分街の分署のサーバーだから良かった。

 もしも、総局のメインサーバーだったのならこうも上手くはいかない。

 最も厳重なセキュリティクラスであり。

 私如きでは侵入する事すら出来ない。

 

 ゆっくりと息を吐く。

 そうして、グローブを外してからPCへと歩み寄る。

 そこには手に入れた情報が表示されている。

 映し出されているのは当時の資金強奪団体の記録を纏めたファイルで……ほぉ。

 

 此処に書かれている情報によれば、確かに当時の犯行グループのリーダーの情報は無い。

 顔写真も無ければ背っ格好ですら不明で。

 それもその筈だが、活動組織のリーダーは表舞台に一切顔を出していない。

 そう、今まで一度も顔を出しておらず。声も機械による合成だった。

 

 その団体が表舞台に上がった時から不審に思い会場に潜伏していた記者が記録したものがある。

 それは治安局へと提供されて、話し方から専門家による分析を掛けたが、性別も趣向も分からず。

 その分析官によれば“本当に人なのかも怪しい”と言っていたと記録されている……で、こいつか。

 

 事件の担当をしていた班長の名前が書かれている。

 が、後になって黒線で消されている。

 恐らくは不祥事を起こしたか。そもそも、閲覧できないような何かを仕出かしたかだ。

 この記録を見れば……これは?

 

 他の操作に当たった人間も数名消えている。

 どういう事なのかと見て見れば、手に入れたファイルの一部に当時の事件内容が書かれていて――!

 

 

 

『〇月×日。十四分街分署所属、捜査班班長〇〇とその部下▽▽巡査長並びに××巡査たちによる銃撃を確認。死傷者多数により本事件は閲覧制限を掛ける』

「……事件を担当した人間たちが互いに発砲? 何故だ……いや、待て」

 

 

 

 担当した班の名簿を表示し、そこから彼らが辿った道を見る。

 すると、班長とされる男は小さいながらも幾つも事件を短期間にて解決していた。

 それも一日に四つも五つも事件を解決して……もしかして……。

 

 男の過去のデータと照らし合わせてグラフ化する。

 すると、男が功績を上げ始めた時期はとある日付を表していた。

 それは件のグループが多額の支援金を持ち逃げした日と全く同じで……そうか。

 

 少しずつ事件の全貌が見えて来た。

 噂程度には聞いたことがあった。

 陰謀論とも言ってもいい事であり……もしも、それが実際にあるとすれば……。

 

 カタカタとボードを叩く。

 そうして、今ある情報からこの事件の“裏で暗躍する”人間を探し出す。

 

 重要なキーワードは既に手に入っている。

 事件発生当時に大金を手に入れた“ワタンスキー”。

 何故、ワタンスキーであったのかは一目瞭然だ。

 それは彼が当時、謎のリーダーの“運転係”を臨時ではあるが務めていたからだ。

 少なからず組織との関係があるワタンスキーならば、強引にでも犯人に仕立て上げる事は可能だろう。

 彼はその場で金を拾ったと言ったがそこには監視カメラが存在せず。

 彼が訪れた三日前には既に全てのカメラが“別の分署の治安官”によって撤去されていた。

 

 恐らく、彼が行っていた陰謀に巻き込まれたという話……強ち嘘ではない。

 

 彼がこの事件に巻き込まれるのは必然であった。

 何故ならば、ワタンスキーの事を知っていた人間が“唯一存在する”。

 それはこの事件の調査を担当した班の人間で。

 唯一今現在でも“生存し活動している人間”がいるからだ。

 

 それを照合すればすぐに表示される……決まりだな。

 

 合わせて表示された彼の活動記録表。

 それによる事件の検挙推移を見て行けば、まるで階段のように上がって言っていた。

 僅か三年余りでただの新米から“次長”クラスまで上り詰めた男。

 既に十四分街の分署で収まるほどの人間ではなくなっている。

 その推移の目に見える変化は事件を担当していた班長とその部下たちが銃撃戦により死亡した日からで……パーフェクトだ。

 

 完璧な記録、完璧な行動。

 その全てが淀みなく。まるで、“未来が見えている”ように行動していた。

 

 事件の記録を纏め上げる。

 そうして、私は助手たちに指示を出しすぐに“彼の宝”を手に入れに向かう。

 

 装備を外し、部屋から出て棚などを戻しながら。

 私は助手たちから渡された衣装が入ったバックを持つ。

 そうして、端末を操作し秘匿回線による通信を試みた。

 

 ワンコール、ツーコール、スリーコール……出た。

 

《ん、んん……ど、どなたかな》

「ふふ、私の事はよくご存じでしょう……“ブリンガー長官”殿」

《……その声は、まさか……や、やめてくれ! 君と話をしているのが知られれば私の立場が危うい。ただでさえ選挙が近いのに……んん! そうですか。間違い電話ですか。いえ、お気になさらずに! 私の愛する市民からの電話ならば》

「――良い宣伝が出来ますよ。次期、総監殿」

 

 私は静かに言う。

 すると、途端に騒ぐのを止めて長官が悩むような声を出していた……小心者だなぁ。

 

《…………手短に頼むよ》

「ふふ、それでこそです。では――」

 

 さぁ、早々に解決しよう。

 迅速に完璧に――害を除去する。

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