仮面のお兄さんと感情激重ボンプ   作:オタリオン

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第7話:囚われの姫と救いの王子?(裏)

 マズいマズいマズいマズい――超マズい!!

 

 追手から必死に逃げながら考える。

 どうしてこの私が追われる羽目になったのか。

 それを振り返れば遂最近受けた依頼が関係していると分かってしまう。

 どう考えたってアレ以外には無い。いや、絶対にあれでしょ!?

 

 インターノットにて助けを求めていた男。

 あまり見かけないアカウントだったからどうせ大した依頼では無いとボケっとやり取りを見ていれば。

 そいつは全財産を渡すから助けてほしいなんて言っていた。

 ご丁寧に通帳の画像も添付していて、中々に美味しい話だと私は思った。

 

 だってそうでしょ?

 ホロウの中に態々入る事も無さそうで。

 誰でも受けられるような難易度の依頼。

 プロキシでも無い私でも簡単に熟せそうな依頼で。

 私がこの不幸な奴の為に街で聞き込みなりすれば冤罪を証明してやれると思っていた。

 簡単な事件の内容についてはこいつが書き込みしていて大体は把握していたし。

 たぶん大丈夫なんて思っていたわよ。

 

 こう見えても裁判にだって私は明るいの。

 だからこそ、他の無知なプロキシやレイダーではこの依頼は絶対に無理。

 そう判断して悠々とこの依頼を受けて……今に至る。

 

「あっちだ!! 追え!!」

「もう何なのよぉぉぉ!!」

 

 背後から殺気を感じて飛び込むように大きな瓦礫の後ろに回る。

 瞬間、無数の弾丸が放たれてガリガリと瓦礫を削る音が響いた。

 私は両手で耳を抑えながら、あの依頼主への恨みを積もらせる。

 

 ――何が俺は無実よ! 何が俺は悪い事は一切していないよ! 冗談じゃないわぁぁ!!

 

 最初の内は証言してくれそうな人間を探し回っていて。

 少しの出費で承諾してくれた人間は少なからずいた。

 後は男がその日に拾ったって言うお金が何処から来たのかを調べるだけで。

 私は知り合いのハッカーに依頼をして男が隠していたお金の一部からナンバーなどを照合させてみた。

 時間は掛かったけど、そのお金は過去の事件で奪われたって言うお金だと分かった。

 後ついでに男の行動記録からバックを拾った場所につくまでの映像記録とかを調べて。

 男が最初から金の入ったバックを持っていない証拠を手に入れた。

 これだけでも男が有罪になる確率は大きく減って、あの時の私は勝利を確信していた。

 

 そして、そのお金が何故あそこにあったのかを知ろうとして。

 更に詳しい事を調べるように依頼すれば……他のお金が既に“マネーロンダリング”されていた事が分かった。

 

 私はすぐにそれを実行した奴こそが犯人だと確信したわ!

 だからこそ、ハッカーは渋っていたけど更に調べるように依頼して――あぁもう!

 

「しつこいのよ!! さっさと消えなさい!!」

 

 私はそう言いながら物陰から飛び出す。

 そうして、安全ピンを抜きながら手にした閃光弾を投げる。

 からんと転がりそれが爆ぜて勢いよく光が迸った。

 奴らは慌てふためいて攻撃を中断する。

 私はその隙に“ホロウ内”を駆けていった。

 

「どうしてどうして――こうなるのよぉぉ!!」

 

 情報を確実に得ながら事務所にて書類を作成していれば。

 窓ガラスを突き破られてスタングレネードが投げ込まれた。

 咄嗟にアンビーがそれらを蹴り外へと飛ばした。

 外の奴らが混乱している隙に私たちは別口から逃げ出して散り散りになった。

 結果、追っては何故か私を追いかけてきて。

 私は止むを得ずホロウ内に逃げ込むしかなかった。

 

 追手の半数以上は撒けた筈……でも、まだ追ってきてるわね。

 

 しつこい奴らは治安官の服を着ていた。

 それも完全武装をしていて、確実に私たちを捕まえる気満々だった。

 もしも捕まれば何をされるか分かったものじゃないわ。

 こんなにも美しい私だもの、恐らくはあられもない姿にされてそのまま――!

 

 物陰から何かが飛び出す。

 咄嗟にケースでガードしたけど衝撃を殺しきれず。

 私はそのまま地面を転がって背中を壁にぶつけた。

 

「いったぁ……な、何?」

「ウゥゥゥ!!」

 

 犬。いや、違う。

 犬の形をした機械で、アレは治安官が最近使うようになったものだ。

 多くは麻薬の探知や逃げる犯罪者の追跡用のロボット犬でも。

 その牙や爪の鋭さは本物で、完全に私をターゲットとして認識していた。

 

 私は立ちあがりながらケースを構える。

 エーテル弾のチャージは完了している。

 このまま撃って吹き飛ばしてやるわ!!

 

 カチャリとボタンを押す。

 すると、ガシュリとケースが展開されて収束したエーテルが弾が放たれた。

 真っすぐに飛んだそれは爆ぜて――は!?

 

 ロボット犬は俊敏な動きで躱す。

 そうして、目にも留まらぬ速さで私に襲い掛って来た。

 私はケースを振り回してそいつらを弾き飛ばす。

 が、奴らは空中で回転しそのまま着地してまた襲い掛って来た。

 

「来るんじゃないわよぉぉ!!」

 

 ケースで弾き足で蹴とばして。

 そのままホロウの奥へと逃げ続ける。

 ホロウ内に入る前に、私は既にこの世で最も頼れる“プロキシ”に助けを求めた。

 アイツ等ならきっと私の危機に気づいてすぐに助けに来てくれる!

 

 今は何とか時間を稼ぎながら奴らを撒いて――嘘!?

 

 二体のロボットを転がしてそのまま細い道に入った。

 しかし、それは最悪の選択だった。

 向こうからうなり声を上げながら近づいて来るロボットたち。

 すぐに引き返そうとしたけど、後ろにもロボットが待ち構えていた。

 

 万事休す――何てね!

 

「ふっと――ぅ!?」

 

 チャージしたエーテル弾を頭上に放つ。

 それが拡散して降り注げば、ロボット犬も一網打尽――そう思っていた。

 

 私のエーテル弾は空中で霧散する。

 何かが撃ち込まれて霧状に広がって、私の放ったそれを打ち消した。

 見れば建物奥でランチャーのようなものを構える治安官が――あのクソ野郎!!

 

 じりじりとにじり寄って来るロボット犬たち。

 私は涙目になりながら静かに両手を上げる。

 

「こ、降参しまぁす……だ、ダメ?」

「ウゥゥゥ!!!」

「ひぃぃ!!」

 

 犬たちが大きく口を開けた。

 私が怯えていれば奴らは何かを放って――こ、これってぇぇ。

 

 ガスのようなものが撒かれた。

 咄嗟に口元を塞いだけど少し吸い込んでしまった。

 頭がくらりとして思わずその場に膝をつく。

 意識が朦朧としていて……やっぱり睡眠ガスね。

 

 迂闊だった。

 もっと準備をしていれば完璧に撒けた筈なのに……っ。

 

 足音が聞こえる。

 それは完全防備の治安官で。

 奴はライフルを構えながら私の前に立つ。

 私はにやりと笑いながら静かに中指を立てた。

 

「クソ、くらいなさい」

「……」

 

 奴はライフルの銃床を私に――――

 

 

 ◇

 

 

 冷たい何かを掛けられた。

 瞬間、止まっていた時間が急速に動き出す。

 私は必死に呼吸をしながら、ボヤける視界の中で周囲に視線を向けた。

 

「……ぅぅ……えほ、ぇぇ……こ、此処は?」

 

 ぽたぽたと水が垂れる音が聞こえる。

 それは私の顔から垂れていた。

 恐らく、眠っていた私に水を掛けたんでしょう。

 

 段々と視界が戻って行く。

 見れば此処は何処かの倉庫のようで。

 広い空間には作業用のリフトやうち捨てられたコンテナが無数に散らばっていた。

 天井には良くわからない装置もあって、普通の倉庫ではなさそうだった。

 埃っぽい空間でゆっくりと前を見れば、ニヤケ面の小太りな中年男が立っていた。

 

「やぁお目覚めだね。邪兎屋のボス……いや、ニコ・デマラ」

「……ふふ、アンタみたいな冴えない親父でも私の名前は知っているのね……全く光栄じゃないけど」

「ふふ、噂にたがわぬ口の悪さだ……だが、これを見てもまだそんな減らず口が叩けるかな?」

「何を――!」

 

 傍に控えていた男たちが銃口を向けて来る。

 無数のライフルに見つめられて身震いするほどの恐怖を感じた。

 身じろぎしてみるが、腕は後ろで縛られていて動けない。

 足にも力が入らない……何かを嗅がされた?

 

 碌に力が入らない状態では逃げる事も出来ない。

 見た所、敵の数はこの親父を含めて六人ね……くぅぅ、せめて私のケースがあればぁ!

 

 アレさえあればこんな奴らは怖くは無い。

 周囲を見れば――あった!

 

 私のケースを弄っている治安官。

 私は叫ぶように声を上げてそいつを叱った。

 そいつはハッとしたように此方に向く。

 中年親父はくすくすと笑いながら「元気だなぁ」と言う……何こいつ。

 

 さっきから薄々気づいていたけど……気持ち悪い。

 

 ねっとりとした視線を私に浴びせてきて。

 下から上まで嘗め回すように見て来る。

 おまけにその頬は薄っすらと紅潮していて、流石の私もさぶいぼが立つほどだった。

 

「安心したまえ。君を治安局に渡す事はしない……君には私のペットになってもらう」

「――キモ!! やだやだ!! そういうのはフィクションの世界だけにしてよ!! 絶対に嫌だからぁぁ!!」

 

 私は必死に頭を振り泣き叫ぶ。

 変態男はそんな私に熱の籠った視線を送りながら静かにネクタイを緩める――ひぃ!

 

「この日をずっと待っていた……私はね、君のファンなんだよ……その高飛車な性格に抜群のスタイル。ストリートで磨かれた体とスキルに何よりも……君の顔が私の好みでね……ふふ、まさか君が私と関りを持つ日が来ようとは。あぁこれは運命だぁ」

「へ、へぇそう。な、ならサインくらいなら書いてあげなくもないわよ! だ、だからさっさとこの縄を」

「あぁいい! 濡れて透けた服もその怯えた表情も堪らない! 今すぐ君を!」

「嫌ぁぁぁ!?」

 

 変態は鼻息を荒くする。

 ギンギンになった目も怖いけど。

 何よりも隠そうとしない下のふくらみがより一層私の中の恐怖を刺激する。

 

 嫌よ。絶対に嫌……こんなハゲデブ何かに私は!

 

「大丈夫だぁ。最初は怖いだろうが、徐々に慣れる……はぁ、はぁ、はぁ」

「や、やだぁ。絶対に嫌だぁ。せめて、せめて……イケメン高身長高収入で優しくて沢山貢いでくれる上に私優先で休日は高級なお店を予約してくれて不安な時もそうでないときもずっと傍にいてくれて常に私が望む言葉を囁いてくれる男がいいぃ」

「……すげぇ欲深いな」

「うるさいわよ!!」

 

 銃口を向けていた治安官がぼやく。

 思わず私はツッコミを入れるが、変態親父の魔の手は止まらない。

 私は両目から涙を流しながら自らの人生を振り返る。

 

 あぁ短い人生だったわ。

 良い事なんてほとんどなく。

 借金に借金を重ねて……大きな悔いが一つある。

 

 それは私の前から消えたクソ野郎に一発かませなかった事。

 あんなにも思ってくれて、優しくしてくれていたのに。

 風のように消えてそれっきり連絡を寄越さないクズ。

 

 

 ――せめて、せめてアイツの整った顔に私の右ストレートをッ!!

 

 

「さぁ、一つに」

「――ほ、報告!」

 

 

 男の手が私の肌に触れそうになった瞬間。

 倉庫の扉を開けて他の治安官が入って来た。

 私は九死に一生を得たと思わんばかりにその治安官を見つめる。

 目の前の変態は苛立ちを露わにしながら何だと聞いていた。

 すると、男の背後から誰かが歩いて来て――っ!!

 

「お取込み中申し訳ない……あぁ誰か。この邪魔なものを取ってくれないか」

「は、はい……いや、違う!! 黙れ……て下さい」

「……そいつは何だ?」

 

 別の治安官二名に押されて入って来た男。

 ゆっくりと被せられていた袋を取り外されて現れたのは仮面の顔だった。

 長い金髪に怪しげな白い仮面をつけているが、声と顔の形からイケメンなのはすぐに分かった。

 貴族のような赤い服を着ていて、身長は180を超えている。

 もしも“初対面であったのなら”、私の中の乙女が刺激されていたかもしれないわ。

 

 でも、違う……こいつとは初対面じゃない……私には分かる……この仮面野郎は私の唯一の“悔い”だ。

 

 強く歯を噛みしめながら、私は奴を睨みつける。

 会いたかったわ。この再会をどれほど望んだか。

 あの日、何も言わずに“孤児院”を去り、私に何の相談もなく勝手に危ない仕事について。

 院長先生には会いに行く癖に、私には一度も会いに来なかった。

 会ったとしても軽い挨拶程度で、何時もだったら誕生日だって盛大に祝ってくれていたのに……アイツは、アイツはぁぁ!!

 

 アイツは殺意を向ける私を見る。

 そうして、冷静にこの状況を分析していた。

 

「……ふむ、思っていたよりも深刻な状況では無さそうだ……お取込み中だったのなら日を改めようか?」

「ははは!! 日を改めるですってぇぇぇ!!? 結構よ!! アンタが明日を拝める事はないんだからねぇ!! さぁアンタたちさっさとその手にした武器でこいつを血祭りにあげなさい!!」

「……いや、俺たちのリーダーはお前じゃなくて……どうします?」

「……あぁ、思い出した……そのなりに落ち着いた声……君が噂の交渉人かね?」

「如何にも。私は交渉人だ。私の正体を知っているのであれば話は早い――互いに利になる話をしないか?」

 

 奴は両手を縛られた状況の中で悠然と対話をする。

 それを聞いた変態はくつくつと笑いながら「面白い」と言う。

 私はハッとしたように気づてしまう……まさか、この私を助ける為に此処まで来たの?

 

 少しだけ期待するような目で見れば、交渉によって何を望むのかと奴に聞いた……どうなの? どうなのよ!

 

「そんな事は決まっている。私は最初から」

「最初から? 何々? ふふふ」

 

 ちょっとだけ嬉しい気もする。

 確かに何も言わずに消えた事は恨んでいるわ。

 誕生日プレゼントだってくれなかったし……でも、私の為に此処へ来たって言うのなら!

 

 

 

「――ミール・ワタンスキー氏を解放して貰う為に此処へ来た」

「そう! 私を…………あぁ?」

 

 

 

 ビキリと私の心に罅が入る。

 奴を睨みつけていれば、流石に空気を読んだ変態は無言で私を指さしてきた。

 奴は思い出したように「あぁ」と呟く。

 

 

「“それ”は関係ない」

「――殺す殺す殺す!! 殺してやるぅぅぅ!!!」

 

 

 私は必死に暴れる。

 治安官共は私に暴れるなと命令するが。

 こんな事を聞いて暴れるなと言う方が無理な話よ!!

 

 それって何!?

 関係ないって何よ!!?

 

 私はアンタにとって何よ!

 同じ孤児院の出身で、アンタは私の“兄貴”でぇぇ!!

 あんなにも可愛がっていた私をよりにもよってそれって何よクズ野郎ぉぉぉ!!!

 

「……おい、口をこれで塞いでおけ」

「え? 俺がですか……噛まれないかなぁ」

「ガルルルル!!!」

 

 布を渡されて近寄って来る男。

 そいつを威嚇は出来ても抵抗は出来ない。

 そのまま成すがままに口を布で覆われてしまいふがふがとしか声が出ない。

 クソ兄貴はそんな私の状態を確認してからゆっくりと変態に視線を向けた。

 

「それでは早速交渉と行こう――“アイゼン・ミラー次長”殿」

「……ほぉ、知っていたか」

「……」

 

 こいつが次長……?

 

 ただの治安官じゃないとは思っていた。

 でも、次長クラスの男が何でこんな場所に……。

 

 アイツは既に私を視界から外して悠然と会話をしていた。

 そんな時に手首に小さな違和感を抱く。

 小さな音でじょりじょりと何かを削る音で……?

 

 変態も他の治安官も気づいていない。

 突然現れたアイツに夢中で……まさか。

 

 一条の光。か細い希望の火。

 それを静かに感じながら、私は見えない何かに対して急ぐように心の中で呟き続けた。

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