仮面のお兄さんと感情激重ボンプ   作:オタリオン

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第9話:兄の心、妹知らず

 新エリー都ヤヌス区にある倉庫群。

 その内の一つに我々は連れてこられて、今、多くの治安官たちがいた。

 彼らは元同僚の犯罪者たちを捕らえて連行し、内部に残っている過去の犯行の証拠を集めていた。

 間もなく騒ぎを嗅ぎつけたメディアも此処に集まるだろう。

 時刻は午後二時を過ぎて……来た来た。

 

 部下たちに敬礼されて登場した長身の男。

 さわやかな笑みを浮かべながら私に気づいて近寄ってくる。

 

「ははは! 流石は交渉人! 下手人逮捕への協力感謝するよ! まさかアイゼン・ミラー次長が度し難い悪人だったとは……で、いいんだよな?」

「えぇ合っています。自供した証拠映像は此方に。あ、それと他の証拠となる犯行記録に関しては既にそちらに送っていますので後程ご確認のほどを。お手柄ですよブリンガー長官。もっとお喜びになってください」

「……うーん。だがねぇ、彼は少なくともこちら側の人間で。ただでさえ最近は治安官の不祥事があって市民からの支持率が」

「あぁ、心配には及びません。交渉人として最後まで責任は持ちます。約束通り支持率十パーセントアップの件は」

「――そうかそうか!! うんうん、ならいいんだ。いや、疑ってはいないよ? 君は必ず約束を果たす男だからね。ただ、もしも嘘であったのなら……TOPSの役員たちへの口添えはしないからな?」

 

 ブリンガー長官は私を脅す。

 しかし、その頬を伝う汗から緊張と不安がひしひしと伝わる。

 が、私はそれを敢えて指摘せずに期待して欲しい事を伝えた。

 彼はホッと胸を撫でおろし、チラリと連行されていく次長に目を向ける。

 

「私は、何故……此処は、何処だ?」

 

 彼は放心状態であり、自分が誰かも忘れていた。

 長官殿はあれで大丈夫なのかと私に聞いて来る。

 まぁ約束は約束だからな。

 “先程までの”彼を傷つけない約束を守り、最低でも死刑にならないような配慮はしたつもりだった。

 最後に彼に渡したのは簡易的な記憶処理装置であり、アレを使えば一時的な記憶喪失を体験できる。

 まぁ一時的と言っても記憶が再び戻る確率は十パーセントも無い。

 アレは携帯用として開発されたものではあるが欠陥機で、最悪の場合に備えたものだ。

 既に機能を失われたペンは回収し、アンジェラに頼んで廃棄を命じた。

 彼女たちは姿を隠し私の近くに潜伏させている。

 危険は排除したが。まぁ念の為だ。

 

 アイゼン次長の為にこっそり持って来たが……裁判で心理士から心神耗弱状態と判断されるだろうなぁ。

 

 色々と恨まれるのが面倒で。

 最悪の場合、此方の事を調べている可能性があった。

 だからこそ、最終的には記憶そのものを破壊する手筈だった。些か強引ではあったがな。

 

 ……ま、これで交渉はこれで終わりだ!

 

 ワタンスキー氏の疑いもこれで晴れる。

 まぁ捨てられた金を使った事実はあるが。

 長官殿のお力添えで何とかなるだろう。

 

「まぁこの後にマスコミから色々と責められると思いますが。どうか挫けずに、最後には“旨味”がありますので、ね?」

「……怪しいな……まぁ君は交渉において嘘はつかないし……信じよう。取り敢えずはだが」

 

 長官殿には最後にこれから起こる事を簡単に説明する。

 そうして、何があっても動揺する事無く。

 記者からの質問に対して真摯に答えるようにとだけ伝えた。

 彼は分かったと言いつつも、私の話の内容は完璧には理解していなさそうだったが……まぁいい。

 

 長官殿は犯人逮捕の記念写真を取りに行く。

 マスコミへ渡す為の写真であり、あの人も必死なんだと思う。

 これで候補者の一人が脱落し、その手柄を得たのだからな。

 恐らく、かなり誇張した表現をして宣伝するんだろう。

 そんな事を思っていれば、“かつての同僚”が歩いて来た。

 

 治安官の制服を完璧に着こなし。

 真っすぐにその曇りなき眼を私に向けてポニーテールを揺らす朱鳶は敬礼する。

 

「……お久しぶりです“先輩”」

「あぁ久しぶりだな……それで、何か言いたいんだろう。時間ならある」

「……では……どうやってこの事件の全貌を知ったんですか」

 

 彼女はストレートな質問をしてきた。

 馬鹿正直に分署のデータベースにハッキングした何て言えば逮捕されるなぁ。

 

「……信頼できる筋から過去のエーテル適正に関する事件の記録を集めた。その結果、担当していた治安官が数名死亡していた事が分かってな。そこから生き残りの彼が、現在に至るまでに異様な早さで出世をしている事を不審に思った。だからこそ彼が犯人ないしは協力者として当時の事件に関わっていた可能性があると考えた……そして、ワタンスキー氏を捕らえた時に何か思惑があるのではないかとも危惧してね」

「……何故、彼は今になって未解決事件の犯人をでっちあげようと?」

「簡単な事だ。インターノットにて最近、その手の未解決事件に関して話題に上がる事が多々あった。特に三年前のエーテル適性に関する事件は謎が多い上に犯人が分からなかったからな。中にはプロキシを雇ってホロウへと調査をさせようとする変わり者もいた……犯人はそれを焦ったんだよ」

「……? 何故ですか。ホロウを調べた所で何も……いえ……そうか。もしかして」

「木を隠すのなら森の中。ならば“死体”を隠すのであれば何処がいい……決まっている。ホロウの中だ」

 

 インターノットの住人の中には頭の回る人間もいる。

 当時、世間を騒がせる事件は幾つか発生していて。

 その中でも私と同じような考えを持った人間は確認しただけでも数名いた。

 最も関連する事件の一つはとある名のある人間の“失踪”だが。

 陰謀論が好きな彼らはその失踪した人間がこの事件と関りを持っていて、殺されたと噂していた。

 

 そこから生まれた都市伝説の一つが聖杯だ。

 全ての人間の願いを叶える願望機。

 魅力的ではあるが噂に尾ひれがついた結果。

 奇跡が形となったものになってしまった。

 そうして、噂が更に脚色されて行き三年の間にその形は歪なものになった。

 

 誰も最初の考えには戻らず。

 この未解決事件は裏社会の人間が仕組んだ極秘作戦で。

 後に大きな事を起こす為の資金を集めさせていたぁだったか……全く愉快な話だよ。

 

「あの男は既に人を殺めている。数えただけでも十はいた筈だ」

「……」

 

 アイゼン次長は既に人を何人も殺している。

 聖杯の中に残されたデータを解析すれば、削除されたデータが中に残っていた。

 それを復元に掛ければ詳細な事件の流れなどが事細かに書かれていた。

 中には特定の人間を効率よく消す方法なども書かれており……確実にクロだ。

 

 殺された人間たちに目立った共通点は無い。

 治安官もいれば一般人もいた。

 兎に角、自分にとって邪魔な人間を排除して来たんだろう。

 自分の秘密を探る人間や単純に鬱陶しい人間も含めて……彼女であればすぐに分かるだろう。

 

 アイゼン次長の周りで失踪している人間が少なからずいた事を……だが、重要なのはそこではない。

 

「犠牲者に対しては哀悼の意を示そう……が、問題なのは最初に殺された人間だよ」

「最初の犠牲者ですか……それは一体」

「……三年前、とある若き天才科学者が失踪した事を覚えているかな? 彼は電子工学やシステム工学を専攻していて、多くの企業からも期待されていた。次世代の“高性能AI”の開発も構想自体はあったらしいが……奇しくも失踪した時期と事件の発生時期は一致している」

「……! まさか、彼も事件に巻き込まれて」

「いや、少し違う。彼は事件に巻き込まれたのではなく――中心人物であったと言っても過言ではない」

 

 朱鳶はどういう事なのかと聞いて来る。

 すると、彼女の元に別の治安官が走って来た。

 彼は彼女に耳打ちで何かを報告し、彼女は目を見開いて私を見て来た。

 

「……分かりました。引き続き調査を」

「ハッ! 失礼します」

 

 彼女は私を見ながら「全て知っていたんですね」と言う。

 

「アイゼン・ミラー次長の保有するヤヌス区内にある別の倉庫から高度な技術を用いた“シミュレーター”が見つかりました……これはその人物が設計開発したものですね」

「あぁそうだ……当時の彼の心境までは分からないが。彼は自らの知識と技術に自信を持っていた。だからこそ、自らの才能を証明する為に彼はそれを開発し、今まで不可能とされたエーテル適性の科学的アプローチによる成長を実現させようとした。その為にシミュレーターを使った仮想実験を繰り返し、ようやく実現可能であると判断したんだろう。彼は多くの支援者を募り多額の資金を手に入れた……が、あくまでそれはシミュレーターの成果であり。彼は一切表舞台には立たなかった……恐らく、全てが完了した時に公表するつもりだったんだろう。自らが生み出した願いを叶える機械――聖杯の存在を」

「……聖杯ですか……確かに、当時からそれの存在は噂されていたと聞いています……まさか、本物があったなんて」

「……いや? 聖杯という名の機械はあるが。それは決して願望機たり得ない。ただの贋作だ」

「ですが。それによってアイゼン次長は多くの事件を」

「……あぁ紙には書いていなかったな……アレは全て彼の自作自演だ。彼はただシミュレーターによる仮初の未来を見て、火を起こさせて自ら消しただけだ」

 

 朱鳶はハッとしたような顔をする。

 どうやら分かったらしい。

 

「……つまり、アイゼン次長はシミュレーターにより大火を意図的に作り出し……それにより発生した事件を自らの手で解決したと?」

「そうだ。アレはあくまでシミュレーターだ。何処まで行っても持ち得る情報の中でしか未来が見えない。少しでも情報が不足していたのならばその未来も出現はしないんだよ……だからこそ、望む未来を得る為に、彼は可能な限り発生する事件に手を加えた。少しも狂いが無いようにね」

「……つまり、シミュレータは簡単な未来は予測できても。多くの情報を必要とし未知とされる技術に事に関しては不測の事態が起きやすいと……開発者は途中で自らの実験に重大なミスがあると認識し……そこで、治安官に助けを求めたんですね」

「パーフェクトだ」

 

 彼女も段々と真に迫ってきている。

 後もう少しであり、私は話を続けた。

 

「運の悪い事に彼が助けを求めた治安官たちは善人では無かった。彼らは開発者を脅し、そのシミュレーターを使う事で利を得てしまった。結果、旨味を知った彼らの行動はエスカレートし……最終的には殺し合いに発展した。漁夫の利によりアイゼン・ミラーが全てを手に入れたという事だろう」

「……なるほど。残った彼がそれを手に入れて邪魔となる彼を消してホロウ内に死体を遺棄したと。そして集まった多額の資金は関係のない彼が持ち出したんですね……アイゼン次長はホロウ内に捨てられた彼の遺体の一部でも発見される事を恐れて……」

「まぁ三年も経っているんだ。ホロウ内なら骨も残っていないかもしれないが。自己顕示欲が高い癖に小鹿のように神経質な彼であれば少しのリスクであっても許容は出来なかったのだろう……だからこそ、当時の事件を調べ直し臨時の運転手であった男を犯人に仕立て上げようとしたんだ」

 

 ワタンスキー氏が犯人として捕まり実刑判決を受ければ。

 少なくとも表向きにはこの事件は解決したと言う事になってしまう。

 そうなれば、この事件に興味関心を持っていた人間たちも冷めてしまう。

 途端に話題から消えてそのままアイゼン次長は平穏な日々を過ごして行くのだ。

 

「……でも、それだけの事が分かっていたのに。何故、リスクを冒してまで……もしかして、彼女が?」

「……それについては何も言えないな」

 

 チラリと見ればくしゅりとくしゃみをするニコがいる。

 

 彼女の指摘は最もだろう。

 証拠さえ揃えれば、私は危険を冒してまでアイゼン次長の前に姿を現す必要は無かった。

 まぁ彼が犯行に使っている倉庫の居場所を見つける事は出来たから良いが。

 本来であれば隠密作戦で証拠を揃えて最も効率のいい方法で交渉に臨みたかった。

 

 そう、本当はもっとゆっくりと調査し。

 万全の策でもって交渉に当たりたかったんだよ。

 そうすればもっとスマートに事件を解決した上で治安局に貸しを作り。

 更なる飛躍を望んでいたのだが……まさか、ニコが関わるなんてなぁ。

 

 予想外にもほどがある。

 他の顔も知らない人間であったのならどうでも良かったが。

 仮にも同じ孤児院の出身で可愛がっていた妹のような存在を見殺しに出来る訳がない。

 内心ではかなり焦っていたし、奥の手であるこの目を使う羽目にもなった。

 

 まぁ来る前にこうなる気はしていた。

 奴は出世する事に執着していて。

 その中でも伝説と呼ばれるような存在に勝つ事に憧れを抱いていた。

 よくある思春期の子供の妄想のようなものだが、そんな場を意図的に作り出せば此方の思う通りに事が運んだ。

 

 出世を強く望むのは自己顕示欲の強さを表す。

 そして、極力部下を使って安全圏にて行動するのは石橋をたたくほどの慎重さだ。

 だが、絶対に安全が保障された場にだけは現れると予測していた。何故か、奴は邪兎屋についても調べていたしな。

 家の中にはニコの隠し撮りした写真も数枚あったし、絶対に現れてよからぬ事をするって思うだろ?

 

 態と捕まったのも倉庫へとたどり着き、ニコの安否を確認する為だ。

 既に邪兎屋の事務所が襲撃を受けた事は知っていたしな。

 奴の性格などの分析が終わり人となりが分かっていたからこそ、奴の欲を刺激する様に演技をし続けた。

 そうすれば奴の慎重さも鳴りを潜めて奴は大胆な行動にも出たからな。

 

 最初から拘束された上で別の場所に移送される事は分かっていたし。

 発信機を仕掛けても用心深い奴ならば部下にも見つける術を教えていた筈だと考えていた。

 おまけとしてあのペンを持って来ていたが、アレは別に捨てられても良かった。

 ただのブラフであり、あれば使おうかと思っていた程度だ。

 

 そうして連れて行かれた場所は何処か分からない所で。

 窓も無い事から防音性が高く信号も通さないとは理解した。

 だが、奴はご丁寧に此処は外部との連絡は取れないなんて説明をしてしまう。

 態々、そんな説明をするということは確実にホロウ内では無いと分かった。

 そもそも、エーテリアスが自然発生する危険性があるホロウ内に秘密の倉庫を持つ事はあまり得策ではない。

 原生ではないのは確実で、共生であったとしても不安定であればキャロットは使えなくなるし。

 もしも消滅してしまえば土地などを調査されて一発で此処が怪しい場所であると分かってしまう。

 だからこそ、消去法でホロウの外であり、奴の管轄内の何処かであると思っていた。

 

 朱鳶にはその時点で分かっている情報だけを渡して。

 後は此方が合図を出すまではすぐに動けるように準備だけして待機して欲しい事を伝えた。

 ブリンガー長官にも話しをしていたからスムーズには動いてくれたので良かったが。

 もしも、奴の息の掛かった人間が先に来ていれば少しマズかったかもしれない。

 流石にアンジェラたちだけでは大勢の治安官を相手にして私を守るのは難しいだろう。

 自慢ではないが私は事戦闘においてはお荷物だからな、ははは!!

 

 後は奴の欲を刺激すれば、奴は伝説を負かした映像を撮りに来ると思っていた。

 特に生配信でもしてくれたのなら最高だったからな。

 流石にこの目を使ったとしても、奴が自発的にネットに繋がない限りは此方も朱鳶に信号を送れない。

 全ては賭けであり、演技もハッタリも含めて綱渡りだった……いや、本当に危なかったよな。

 

 もしも仮面を取られなければハッキングは出来なかったし。

 奴が配信をしなければ信号を送るのに手間取っていたかもしれない。

 そもそも、奴が私の話を聞かずに殺すか。端末を出す前に私の仮面を取って目の違和感に気づいていれば……うぅ鳥肌ぁ。

 

 そんな事を考えていれば朱鳶はくすりと笑う。

 

「……やっぱり変わりませんね。そういう所は……彼女、妹さんですよね。何となく分かります」

「……あぁ見ない内にすっかりお転婆が板についてしまったがね」

 

 彼女は毛布を体に巻きながらやって来た仲間と話をしていた。

 仲が良さそうであり、二人の変わった友人たちは彼女を心から心配していた。

 しかし、私の視線に気が付くと彼女は歯を剥き出しにして威嚇をしてくる……闘犬かな?

 

「……戻らないんですか」

「……戻れないさ……もうあそこに私の居場所は」

「――そんなことありません!」

 

 朱鳶は叫ぶように言う。

 周りを歩いていた鑑識はびくりと肩を震わす。

 彼女はハッとして彼らに謝る。

 

「感情的になるのは良い。だが、周りを見るんだ」

「……見ていますよ。特に先輩の起こす事に関しては」

「ははは、そんなに私が気になるか? 母にでもなってくれるのなら」

「――いい加減にしてください! そうやって何時も何時も話をはぐらかして……心配なんです」

 

 彼女はうつむきながら声を絞り出す……はぁ。

 

「朱鳶、私は……多分、死なない」

「……そこはハッキリとしてください」

「……分かった。絶対に死なない……だから、君は君の使命を果たせ。君の隣に立つのは私ではない。そうだろ?」

 

 視線を向ける。

 そこには指示を出している少女がいた。

 彼女が相棒であり、頼れる先輩でもある。

 もう私は彼女にとって必要がない。彼女は治安官として生き、私は交渉人として生きる。ただそれだけだ。

 

 彼女は顔を上げる。

 そうして儚げな笑みを浮かべた。

 

「……そうですね……でも、道は違えど貴方の事は今でも尊敬しています……さっきの約束、忘れないでくださいね」

「あぁ約束する。そして君が望むのであれば何時でも会いに行こう。勿論、仕事抜きでだ」

「……ふふ、はい……では、私はこれで……ご協力、感謝します」

 

 彼女はそう言って去っていく。

 頼れる先輩と合流し彼女の相棒は私を見てニヤリと笑う……意地の悪い奴め。

 

 ……さ、終わった終わったぁ!

 

 大きな仕事も片付いたし。

 これからはお愉しみタイムだ。

 今からメイド喫茶を梯子して私を待っている天使たちに差し入れを――

 

「ちょっと待ちなさいよ!! 此処であったが百年目ぇぇ!! 今すぐその顔に私のアイアンナックルを――ちょ何よ! もう話は終わりでしょう!? 私はアイツの……っ……兎に角、アイツをこの手で成敗しないといけないのよぉぉ!!」

「……風が騒がしいな」

「待ちなさいって!! 待ちな。痛っ!! 痛い痛い!! な、何!? 誰よ!? さっきから私の脛を蹴って――いったぁぁ!!」

「……」

 

 後ろできゃんきゃん吠える妹。

 チラリと彼女を見れば、手にしたケースを振り回していた。

 彼女は「ボンプね!?」とか「出て来なさいよ卑怯者ォ!!」と叫んでいる。

 私は心の中でアンジェラに賞賛の言葉を贈る。今のうちだな。

 

 私は前を見ながら笑みを浮かべる。

 そうして、背後で聞こえる暴風のざわめきを聞き流す。

 所々、放送禁止用語が聞こえてくるが無視無視。

 昔はもっと可愛くてお兄ちゃんなんて言ってくれたのになぁ。

 

「待てこらぁぁぁ!! こっちを見ろォォ!!!」

「ぼ、ボス!? やめろって目立ってるぜ!? てかさっきから何とバトってんだよ!?」

「……ニコの怒り。こんな顔は初めて見た」

 

 さぁ待っていてくれ我がヘヴン――今すぐご主人様が帰還しよう。

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