Muv-Luv Alternative Manchuria   作:ビリーT

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※この物語はフィクションであり、実在の人物・事件などには一切関係がありません。
※オルタネイティヴ世界線とは異なる確率時空でのストーリーです。
※参考文献 「MUV-LUV ALTERNATIVE INTEGRAL WORKS」及び「シュヴァルツェスマーケン 殉教者たち」


第八話

1993年09月08日 日本帝国・首都京都 斯衛軍衛士養成学校

 

悲痛なニュースを聞いたのはその朝だ。

大陸でのBETA大規模侵攻に対するために発動された九・六作戦で、我が帝国の2個戦術機大隊が壊滅したと聞かされたのは。

これで、我が帝国の実働戦術機部隊は壊滅したことになる。

丹念に錬成してきた部隊が……わずか一日で。

 

改めてBETAの力を思い知らされた。

国防首脳や母上の心痛は如何ばかりだろうか。

 

今日から、F-4J ”撃震”に搭乗しての訓練になる予定だったのだが、気落ちしかない。

――いや、私がしっかりせねば!

 

「愛新覚羅訓練兵、今日の訓練は休むか? 相当酷い顔をしているぞ」

 

教官が私の様子を見とがめて言った。

 

「……いえ、行けます! 訓練はやらせてください!」

「事故を起こして怪我や命を落とされても困る。そうで無くても貴様は最重要人物。みすみす失ってはいけない人間なのだ。だから、しばらく休め! これは命令である!」

「は! 了解致しました! ――しかし、シミュレータを使うのは問題ありませんでしょうか! 教官殿!」

「良し! シミュレータをしばらく貴様専用に一台割り当てる。存分に訓練するよう!」

「ありがとうございます教官殿! 愛新覚羅訓練兵、これよりシミュレータでの訓練に入ります」

 

それから、私は狂ったように訓練を行った。

玲花が止めるまで、正に休みなくだ。

 

――早く祖国に戻らねば。そして私が新しい戦術機部隊を作るのだ!

 

1993年10月20日 日本帝国・首都京都 斯衛軍衛士養成学校

 

九・六作戦失敗の衝撃から立ち直った私は、本日からF-4J ”激震”での実機訓練に入ることになった。

 

今日の予定は訓練校より出撃し、嵐山補給所へ到達して帰還することだ。

4機の分隊で行動を共にする事になる。

ここでも当然のように、七生と同じ分隊に何故か割り当てられているのであった。

 

「――頭部走査完了。全機能正常です。”撃震”起動します」

 

機械音声が機体チェックの進捗を淡々と報告する。

 

「殿下、機体の起動は正常に終了しました。これより屋外にて発進後、嵐山補給所まで向かってください。座標は既に機体に転送してあります」

 

玲花が地上から通信越しに告げた。

 

「了解。K-02はこれより屋外へ移動する」

 

ハンガーの機体止めが移動してゆく。数秒の後に私の”撃震”はフリーとなった。

”歩く”よう考えると間接思考制御が応答し、”撃震”の機体を歩かせる。

――歩いた。シミュレータでは今ひとつ実感が湧かなかったが、今こうして実機を操縦していると機体の揺れが全身に感じられる。

確かに、これでは適正が無いと酔うな、と思う。

 

「K-01より分隊各機。所定の位置へ集合せよ」

 

K-01、分隊長である七生が乗機の”瑞鶴”から分隊員に告げる。

分隊員から了解の復唱が返る。

 

「K-02、了解」

 

私は”撃震”を歩かせて、発進位置まで移動した。

 

「これより、飛行訓練を開始する。各位所定の高度で嵐山補給所へ到達せよ。(レーザー)線級の事は気にする必要はない。ここは我が帝国の領内だ。飛行制御に専念せよ!」

 

教官が司令所から指示を出す。

 

「K-01了解。各機発進し、所定の高度を維持。以降機体に登録された座標まで移動せよ」

 

K-03、K-04が了解の応答を返す。私も復唱する。

 

「全機発進!」

 

”撃震”の跳躍(ジャンプ)ユニットのロケットエンジンを噴かして上昇する。ここまでは上手く行った。

所定の高度100mまで上昇、しかる後に跳躍(ジャンプ)ユニットをジェットエンジンに切り替え巡航飛行を開始する。

切り替え時に身体に強烈な重力がかかる。しかしそれも一瞬。

ほどなくして安定した巡航状態に移行できたようだ。

 

CP(コマンドポスト)より各機。飛行は安定している。各自気を緩めることなく飛行せよ」

「K-01了解。高度を維持しつつ所定座標へ向かう」

 

しかし、ある程度は制御プログラムが対応してくれるので巡航飛行はまだ楽だ。

戦闘機動となると、こんなに簡単には行かないだろう。

 

ふと、秘匿回線のコールが鳴る。

コールサインはK-01。七生機からだ。

 

「こちらK-02。何用か?」

「秘匿回線だからコールサインは不要です、殿下。いえね、初搭乗はいかがかと思いまして。声をかけてみた訳です」

「上昇から巡航に移るときの横重力が辛かったが、一瞬だったのでそこまで苦しくない。……心配してくれているのか?」

「九・六作戦の事は聞き及んでいます。満洲帝国の戦術機部隊が壊滅したことも。あの後、凄く落ち込んでいるのを見ておりまして。立ち直られたなら何よりです」

「正直なところ、気持ちの整理が付いているわけではない。母上――皇帝陛下はさぞ心を痛めているだろう。統一中華戦線はまだ戦線を維持しているが、いつ北京が陥落するか分からない。それは近い事も理解出来る。私が早く国に戻って助けにならなければならないのだ」

「気負いすぎです、殿下。一人で出来る事は限られております。きっと助けになってくれる人が出てくるでしょう。頼る事を覚えるべきですよ」

「……七生は助けてくれるのか?」

「ご要望とあらば。この崇宰七生、一命に変えましても!」

「ありがとう。その時が来たらよろしく頼む」

「っと、もう嵐山補給所が近づいてきたようです。ではまた後程」

 

秘匿回線が切れる。

呼吸が荒い。心なしか顔も赤いようだ。

もしかして、私はとんでもないことを言ってしまったかもしれない……。

 

嵐山補給所へは分隊各機とも無事に到着した。

燃料を補充し、帰路に就く。

 

帰路の操縦席で、私は七生に言った事を思い返しては変な顔をしていたと思う。

ともあれ、初飛行は終わった。

 

これから模擬戦などのカリキュラムが混じっている。

事故を起こさないように精進せねば。

 

◇ ◇ ◇

 

「協和帝崩御! 新元号は威徳に!

――1993年12月26日、新京市内に配布された号外より」

 

◇ ◇ ◇

 

1993年12月29日 日本海・対馬海峡

 

冬の日本海は荒れると言うが、この日に限っては晴天だった。

私は満洲帝国海軍(IMN)重巡洋艦、鎮海の甲板でぼんやりと海を眺めていた。

 

母上――皇帝陛下が崩御した連絡を受け、急遽本国へ呼び戻されたのだ。

国民は喪に服していると聞く。

BETA東進が始まってからこちら、良いニュースという物はほとんど聞かない。

皇帝陛下――母上も日々の心労が祟った故の事だろう。

 

「私が皇帝とはな……」

 

母に他に子は無い。父上は早世してしまった。唯一の男系である私が皇帝に即位するのは自然だ。

既に、次の元号も決まっている。威徳だそうだ。

さしずめ私は威徳帝と呼ばれる事になろうだろう。

 

「ここに居たのですが殿……いや陛下」

「玲花か。まだ正式に即位した訳では無い。陛下は止めてくれ」

「しかし、もはや皇族は陛下お一人。ならば陛下とお呼びするのは自然かと」

「……分かった。好きに呼べば良い。それで、何か用事か?」

「艦長がお呼びです。艦長室へお越しくださいとの事です」

「艦橋では無く、艦長室へか……。分かった、直ぐに行く」

 

艦長室に到着すると、曹上校から紅茶を勧められた。

英国式なところは日本帝国海軍(IJN)譲りか。

 

「艦長、わざわざ私室へお呼びとはどうされました?」

「陛下。此度は誠にお悔やみ申し上げます。そして、ご即位おめでとうございます。そして、国防総省からの指令をお届けします。本来は帰国してからと言う話ですが、内示としてお伝えするよう出港時に申し伝えられました。新設される戦術歩行戦闘機大隊の大隊長に就任し、錬成を実行するようにと」

「――唐突な話だが、納得が行く。先の九・六作戦で全滅状態にある我が帝国の戦術機部隊を再編成しろとの事だな」

「ええ、その通りです。もはや我が帝国には動員できる戦術機搭乗員が払底しております。曲がりなりにも一年近く士官教育を受けた 陛下に頼らざるを得ません。……誠に遺憾ですが」

「何、気にすることはない。元よりそのつもりであった。それで、要員は足りるのか?」

「それについては小官の管轄外です、陛下。少しでも適性がある人間は根こそぎ動員する予定とは聞いておりますが……」

「肝心の戦術機はどうなっている? 美国(アメリカ)からF-4Mは少しでも回されたのか?」

「それなのですが……美国(アメリカ)は回す余裕が無いと。顧問団が日本帝国に話をつけて、F-4Jを用意してもらいました。本艦に随伴している輸送船で輸送しております。無論陛下の御座機、82式戦術歩行戦闘機”瑞鶴”もです」

「そうか……安心した。機体は何とかなるのだな。後は搭乗員だけか……こればかりは直ぐにどうにかなる物では無いし。生き残りを中心に何とか錬成するより他あるまい」

「――ここからは小官の独り言ですが、日本帝国より派遣される人員が僅かばかりおられる様で。きっと陛下も驚かれると思います」

 

艦長が意味深な言葉を紡ぐ。

一体どう言うことだ?

 

1994年01月01日 満洲帝国首都・新京

 

旅順港に到着したのが12月30日。満鉄で新京に付いたのが同日夜半。

急ぎ準備された即位の礼が執り行われたのが今日、1月1日だった。

 

「皇帝陛下万歳! 満洲帝国万歳!」

 

国民の歓呼の声が響き渡る。

私は笑顔で手を振ってそれに答えた。

 

……未だ実感が無い。私がこの7000万の国民を統べるのか。

まだ15にもならぬこの私が、か。

まるで冗談のようだ。

 

いまだBETAは山海関に到達しておらず、辛うじて国土は保たれているものの既に北京に迫っていると聞く。

統一中華戦線はまだ遅滞戦闘を続けているものの、北京の陥落は遠くないとの事だ。

そうなれば、我が帝国へはもうすぐだ。

山海関を中心とした長城を突破されると後は無い。

一年、いや半年で戦術機部隊が錬成できるか。それが鍵だ。

 

顔だけ笑いながら、私は先の事を考えていた。

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