Muv-Luv Alternative Manchuria   作:ビリーT

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M-M確率時空での、まだ平和な一時の風景。
新しい遊びを楽しんでいるところをお楽しみください。


外伝 ~ 陛下、赤箱を遊ぶの巻 ~

一九九四年五月十五日 満洲帝国首都・新京 満洲帝国陸軍基地PX

 

威徳大隊が錬成を初めて四ヶ月が過ぎた。

所用で陸軍基地に出掛け、用事を済ませて一息つこうと玲花と共にPXへ赴く。

PXの隅では、何やら楽しそうな歓声が聞こえる。

 

その方を見ると、クリフォード中校と崇司七生、それ以外にあと三名の衛士達が居た。

何やら紙と鉛筆を持ってサイコロの様な物を時折振っている。

俄然気になった。

私は歓声の方向へ向かう。

 

「――ゴブリンAはエルフに攻撃、出目は6でハズレだ」

「良し、ノーマルスォードで攻撃だ! 出目は14で命中! 1d8ダメージだから5点のダメージだ!」

「エルフの攻撃でゴブリンAは倒れた。次の番は――」

 

何やら紙製の衝立みたいな物を自分の前に置いたクリフォード中校が場を仕切っているようだ。

 

「何をしているのです? ずいぶんと楽しそうですが」

 

全員私が来た事に気付いて、慌てて起立し敬礼をする。

 

「敬礼は不要です。座ってください。みんなで楽しそうに何をやっていたのですか?」

 

「はっ、これはペーパーアンドペンシルRPGと言う遊びでして。合衆国では割と一般的な遊戯です」

 

私はクリフォード中校の脇に置いある、赤い紙箱を見る。

 

「Dungeon&Dragons? と言うのですか? この赤い竜……ですか、格好いいですね。で、RPGとは何ですか? 対戦車ロケットのこのではありませんよね」

「Role Playing Gameの略です。平たく言うと、役割を演じる遊戯です。各人一人キャラクターをルールに則って作って、私が準備したダンジョンに潜って財宝を得たり、怪物と戦ったりする遊びです」

「ダンジョンとは何です? 英語通りなら地下牢みたいな表現だったと思いますが」

「確かに英語では一般的には地下牢を指しますが、このゲームにおいては財宝が眠る迷宮と言った方がよいでしょう。この説明で理解できますか、陛下?」

「だいたい分かりました。して、七生はどうしてここに?」

「いやあ、日本でもDungeon&Dragonsはコンピュータ雑誌で紹介されていましてね。何年か前にはその雑誌で実際にゲームを遊んだ様子を記事にしていたんですよ。何時か遊びたいなあと思ってたのですが、ここで遊べるとは思いませんでした」

 

クリフォード中校が話を繋ぐ。

 

「私は従軍する前からDungeon&Dragonsが好きでして。ジェンコンに行って製作者のガイギャックス氏に会ったこともあります。生まれ故郷が近かった事もあるのですが。なかなかどうして、戦術眼を養ったり出来るので実務の役にも立つのですよ。まあ、楽しいから遊んでいるのですが」

「それで、クリフォード中校が進行役をやっているのですか。あーるぴーじー? と言うものはよく分からないですけど、何やら楽しそうですね」

「良かったらお二人もどうです? 丁度戦力が足りなかったのですよね」

 

七生が言う。

 

「……今からでも大丈夫なのですか?」

「もちろん歓迎します、陛下。玲花さんもどうぞ。まずはキャラクターを作って下さい。キャラクターシートを渡しますので、ルールに従ってサイコロを振ってください」

 

クリフォード中校はそう言って、2枚の何やら印刷された紙と冊子を渡してきた。

私も玲花も英語は読めるので問題はない。

 

なになに、六つの能力値をサイコロ三個を振って決めるのか……。

それにしても、珍しい形のサイコロもあるなと思う。

1~20の目があるサイコロは初めて見た。

 

取り敢えず普通のサイコロを三個振ってみる。

 

ストレングス:16

インテリジェンス:8

ウィズダム:10

デクスタリディ:12

コンスティテューション:18

カリスマ:14

 

となった。

 

「ふむふむ。この能力値だと、ファイターが向いてますね」

 

七生が言う。

 

「そう言うものなのか。ファイターって事は戦士なのか。この箱絵みたいな剣を持って戦うのか?」

「そうです。パーティ――このゲームではプレイヤーキャラクター達の集まりをこう呼びます――の中でも先頭を切って戦う役目ですね。もっとも、ただ突っ込んでばかりでは罠にやられますけどね」

「そうなのか……。ならファイターにしてみるか」

 

玲花の方は……。

 

ストレングス:8

インテリジェンス:12

ウィズダム:9

デクスタリティ:15

コンスティテューション:10

カリスマ:10

 

である。

 

「この能力値だと、シーフが向いてますね」

 

今度はクリフォード中校が言ってくる。

 

「シーフは迷宮内で罠の解除をしたり、斥候役をやったりする職業です。北京語では賊なのであまり良い響きでは無いですが、パーティには絶対に必要な職業です」

「分かりました。そうします」

 

玲花は答えて、キャラクターシートに書き込んでいく。

私もファイターの能力値と修正値(高かったり低かったりすると適用されるらしい)を書き込んだ。

 

クリフォード中校がにんまりと笑いながら告げる。

 

「では、ヒットポイントを決めていただきましょうか」

「ヒットポイントとは何です?」

「そのキャラクターが、あとどれだけのダメージに耐えられるかを示す値です。この値がゼロになると、そのキャラクターは死亡します」

「なるほど。で、ファイターだと1d8と書いてありますね。この八面体のサイコロを振れば良いのですか?」

「そうです。陛下のキャラクターはコンスティテューションが18なので、1d8の出目に+3して良いです」

「分かりました。それでは……」

 

私は八面体サイコロを振る。なんと出目は2だ!

心なしか、他のメンバーが失笑しているようにも思える。

 

「……それでは、陛下のファイターはヒットポイントは5となります」

 

同じ様に玲花もヒッポイントを決める。シーフは1d4なので、四面体のサイコロを振って結果は4だった。修正は無いためそのまま4がヒットポイントとなる。

 

「それでは、後は能力値修正を記入してください。表に載ってますのでそれを参照してください。その値がセービング・スローの値にも反映されます」

「このキャラクターシートのセービング・スローのところですか。そもそもセービング・スローとは何です?」

「キャラクターシートに書いてあるとおり、……そうですね、冒険の最中に敵から呪文を受けたとします。その時に二十面体ダイスを振って――おっと、サイコロはダイスと呼びます――その値以上が出れば呪文が無効化されます。このセービング・スローを振ってくださいとは、私が指示しますので言われたら振ってください」

 

私と玲花は冊子を見ながら能力値修正を考慮してセービング・スローの値を書き込んで言った。

 

「所持金を決めて、装備も調えてください。足りないならパーティのメンバーから借りても良いですよ」

「とは言え、何が何だか分かりません。……七生、指南してくれますか?」

「分かりました、陛下! ノーマルスォードとチェインメール、シールドがあれば良いですね。玲花さんのシーフにはショートポウとレザーアーマー、あとダガー位かな。それ以外の荷物は我々のパーティが持っているので大丈夫です」

「なるほど……さっきから気になるのだが、なぜソードでは無くてスォードと言うのだ?」

「ここではそう言う習わしです。ご理解を」

「そう言うものか……。後は何を? クリフォード中校」

「このゲームを遊んでいるときはDM(ダンジョン・マスター)と呼んでください、陛下。最後にキャラクターの名前を付けて終わりです」

「そうですか、しかしパッと英語の名前とか出てきませんね……、アイにしましょう」

 

玲花は、「リン」と名前を付けたようだ。

 

「宜しい! では、以降ゲーム中は陛下の事を『アイ』と呼びます。玲花さんも『リン』です。ご容赦を」

「それは構いません。では早速遊びましょう!」

 

冒険の始まりだ!

 

「それでは、今回のシナリオ――お話のことです――はこんな感じです」

 

クリフォード中校が話し始めた。

(注:以下、DM時の台詞は『』でくくります)

 

『君達は一攫千金を求めて集まった冒険者達だ。目指すダンジョンへ向けて街道から外れた道を歩いている。もう少しでダンジョンに到着すると言うところで、戸板が何かを塞いでいるのを見つけた。さてどうする?』

 

「このように、DMが今の状況を説明します。それに対して、自分のキャラクターならこうすると言うのを告げてください」

「何をやっても良いのですか? ならその戸板をどけようとします」

「陛下! そんな不注意な――」

 

七生が言いかけるが、DMの方が早かった。

 

『アイは戸板をどけようと手に取った。するとそこには井戸があり、中から大百足が現れてアイに襲いかかる! 不意打ちだ!』

「え、何なんですこれ。問答無用なんですか!」

「はい、そう言うルールなんですよ。口に出して処理されたら覆せないのです。だから不用意に何かに触ったりしては駄目なんですよ」

 

七生が気まずそうに答える。

 

『大百足はアイに攻撃、1d6ダメージを与える。ダイスは……3。アイに3点のダメージ』

「え! ヒットポイントが半分削れたんですけど……これ、ゼロになったら私のキャラクターは死亡するのですか?」

「そうなんですよ! だからこう言う物があります。『10フィートの棒』が」

 

七生が言う。

 

「ただの棒きれじゃないか!」

「こう言う時には、この『10フィートの棒』で離れた場所から触るのがセオリーなんです。仮にさっきそうしていたら少なくとも不意打ちは食らっていませんね」

「むう、そうなのか……」

『それはさておき、大百足との戦闘だ! イニシアチブを決めて……』

 

なお、大百足は私以外のメンバーで処理された。

不意打ちを食らわなければ大した事が無い敵らしい。

 

 

いよいよ地下迷宮(ダンジョン)に入る。

ここからが本番らしい。

 

「灯りは絶対に二つ必要です。ランタンと松明。ランタンは僕が持ちます。松明はいざとなったら手落とせば良いので、リンが持つと良いです」

 

七生がそう言う。七生のキャラクターはマジックユーザーらしい。

 

「素人質問で恐縮だが、何故灯りが二つも? 一つでは駄目なのか」

 

DMは、余裕の笑みを浮かべてこちらを見ている。

 

「良いですか。ダンジョンは悪意に満ちています。何時壁から水が噴き出すか分からないのですよ。ランタンは蓋を閉めれば火は消えませんが、松明だと消えてしまうこともあります。基本暗闇のダンジョンで灯りがないと言う事はとても致命的です。まあ彼の様なエルフやドワーフが居たら、暗闇を見通す事は出来ますが」

 

エルフ……小さい妖精のことか……ドワーフは身体が小さい事を表す単語だったような。

 

「その貌だと、エルフとドワーフが何か分かっていないようですね。DM、説明してもらって良いですか」

 

七生がDMに話を振る。

 

「陛下、J・R・R トールキンの『指輪物語』を読まれたことはありますか? ――無い。分かりました。是非時間のあるときにご一読をお勧めします。D&Dのエルフ像は、『指輪物語』からの影響が大きく、長命で細身。尖った耳を持ちます。剣も魔法も使えて赤外線視覚(インフラビジョン)で暗闇を見通す事が出来ます。ただし、ゲーム内での成長が遅いです。ドワーフも同じです。小柄ではありますが、横に広いタイプです。髭面で、鉱山などに住んでいます。強い戦士でして暗視能力があります。これは住まいが洞窟だからですね」

 

「なるほど……取り敢えずそう言うものと理解すれば良いのか」

 

「なお、エルフとドワーフは仲が悪いです。厳密にロールプレイするとゲームにならないので、そこは程々に」

 

エルフとドワーフ担当の衛士が苦笑いの表情を浮かべる。

 

『パーティの隊列を決めて下さい』

 

「リンが先頭で斥候。アイとエルフがその次の二列、クレリックと僕のキャラクターがその次、殿はドワーフで」

 

テキパキと七生が指示する。

 

「さて……出発する前に、アイの傷を治しておきましょう。クレリックはLv2なのでキュアライトワンズが一回だけ使えます。前衛のファイターのヒットポイントが2点では心許ないので」

 

クレリック担当の衛士がキュアライトワンズを私のキャラクターに使ってくれた。

ダイス目は3。結果が+1されるらしいので、ヒットポイントが4点回復したことになる。

最大ヒットポイントを超えた分は無視されるらしい。これでヒットポイントが全快したことになる。

 

「良し! それでは進みましょう。ああ、リン。歩くときにはまず『10フィート棒』で地面を叩いてから進んでくださいね。あと、上下左右も要確認です」

 

 

ダンジョン内の部屋には、どうやらゴブリン? と言うのが何体が居るらしい。敵対的な小鬼とDMは説明してくれたが、今ひとつピンとこない。相手はまだこちらに気付いて居ないようだが……。

 

「こう言う時はどうすれば良いのです?」

 

また勝手に発言すると碌な目に遭わないと思い、そう聞いてみた。

 

「当然ゴブリンは倒しますが、何も考えずに戦ってもリスクしかありません。エルフ? ロープを持っていましたよね」

 

エルフ担当の衛士が肯く。

 

「こう、入口にロープを張って……リン、済みませんが合図をしたらゴブリンを威嚇してください。その後はロープを越えて物陰に隠れてくださいね」

「分かりました。でも、私のキャラクターはゴブリンの言葉を喋れませんよ」

「大丈夫、大声で威嚇するだけで良いので。そもそもゴブリンと解り合えるのは無理です」

 

玲花は作戦を了承した。他のメンバーも賛成している。

 

「では作戦開始です。リン以外は物陰に隠れてましょう。DM、良いですか」

 

『作戦は決まったかな。では、リンは部屋の中に身を晒し、大声でゴブリン達を威嚇した。ゴブリン達は何やらキーキー叫びだしたかと思うとリンに向けて襲いかかってきた』

「では、作戦通りロープのある方に逃げます」

『リンはロープを飛び越え物陰に隠れた。5体のゴブリンがリンの後を追う。しかし、足下にピンと張られたロープによって全て転倒してしまった。一ラウンドの間、冒険者達はフリーに攻撃ができる。ファンブル以外は命中だ』

「してやったり! みんなゴブリンにトドメを刺して下さい」

 

七生の指示どおり、全員でゴブリンにとどめを刺す。

『ゴブリンの懐から二十枚の金貨が得られた。部屋はどうする?』

 

「当然漁りますよ、DM」

 

クレリック担当衛士が答える。

 

「まずは、金目の物がないかどうか。どうですかDM?」

『部屋の隅に、木で出来た宝箱があるのが発見出来た。鍵は掛かっている』

「これはシーフの担当だ。リン、任せた」

 

クレリック担当衛士が玲花に振る。

 

「どうすれば良いのですか?」

「ファインドトラップの判定値がありますよね? その値以下をパーセントダイス――十面体ダイスを二つ振って1~100の乱数を作ります――で出せば成功です」

「10%しかありませんけど……」

「とにかく振ってください。成功したら儲けものです」

 

七生が答える。

玲花は素直に判定ダイスを振った。残念、47だった。

 

「発見に失敗しました。こんな時はどうするのですか?」

 

ドワーフ担当の衛士が言う。

 

「ちと乱暴だが、こうやるのさ! みんな離れて!」

 

そう言うと、パーティが安全圏まで離れてから、宝箱を布でぐるぐる巻きにして叩き壊すと宣言した。

DMはその発言を了承したらしく、結果を伝える。

 

『ドワーフは布でぐるぐる巻きにした宝箱を叩き壊した。宝箱は内部から爆発し、1d6ダメージを周囲に与える。ドワーフ以外に該当者はいないので、ドワーフに……4点のダメージだ』

 

「ふう、酷い目に遭った。それでDM、お宝は?」

『何かあっても壊れているに決まっている。辛うじて金貨が30枚無事だっただけだ』

「しょぼいですよDM!」

『もっと工夫することだな。死人がいないだけマシと思わないか?』

「違いない!」

 

 

洞窟の最奥部。広めの玄室にパーティは居る。

このダンジョンの主らしい者が、多数のゴブリンを従えて待ち構えていた。

 

『冒険者共め! 我が魔術の威力を食らえ!――そう言って魔術師は手下のゴブリン達をけしかけた。彼我の距離は10メートルだ。配置は……こうだ。それではイニシアチブを振ってくれ』

 

エルフ担当の衛士が六面体ダイスを振る。結果は6だ!

 

『こちらは――1だ。そちらが先攻だ』

 

「ではまず移動を決めましょう。幸い、僕のマジックユーザーがスリープの呪文を使えます。ゴブリンはこれで無力化しましょう。みんなは突撃してください。リンはこの位置でショートボウで魔術師に攻撃が良いでしょう。このラウンドでは敵まで届かないので戦闘は次のターンですね」

 

七生が言う。玲花は承諾した。

 

「やっと活躍出来るわい! 任せとけ!」

 

と、ドワーフ担当の衛士。

 

「私はマジックミサイルを魔術師に撃つのでこのラウンドは移動無しで」

「おお神よ! 邪悪な魔術師に鉄槌を! ――と言いながら移動します、DM」

 

エルフ担当とクレリック担当が告げる。

 

「私も突っ込めば良いのか?」

「はい、そうして下さい」

 

『では、宣言は以上で良いかな? ゴブリンの群れに突撃した君達の足下が崩れる。ピットだ!』

 

心なしか嬉しそうに告げるDM。

 

「ここで罠かよ! 酷いですよDM!」

 

ドワーフ担当衛士が叫ぶ。

 

『罠を調べると言われなかったからな。さあ、自分へのダメージは自分で振るように。1d4だ』

 

それぞれ、ダメージを振る。私は……3点のダメージだ。このダメージで死亡したキャラクターはいなかったのが幸いではある。

 

「くそう! 油断した! まさかダンジョンの主の部屋にまで罠があるなんて! ……ともあれ、次は飛び道具の番です。リン、判定を」

 

玲花は二十面ダイスを振る。出目は18だ。

 

『リンの矢は魔術師に命中した。ダメージを』

 

またも玲花がダイスを振る。今度は六面体。出目は1だった。

 

『では魔術師に1点のダメージを与えた。まだまだヒットポイントはあるようだ。続いて魔法の番だ』

「一日一回しか使えないスリープを食らえ! DM、セービングスローを」

『ではゴブリンAからFまで六回判定する……ゴブリンD以外は眠ってしまった』

「良し! 後は大した事が無い……いや、ピットに落ちたメンバーが居るんだった!」

『ピットから這い出るには1ラウンド掛かる』

 

DMが非情に告げる。これは拙いか……。

エルフがマジックミサイルの呪文を魔術師に。5点のダメージを与えた。

こちらの行動はこれで終わり。

敵のラウンドだ。

 

『ゴブリンはピットを迂回して移動。魔術師はこちらもスリープの呪文をエルフとリン、マジックユーザーを中心に使用する。三人は呪文のセービングスローを振ること』

 

玲花のダイス目はなんと1! 眠ってしまったらしい。エルフも同様だ。

七生の方は成功し、辛うじて意識を保っている。

 

『これで敵味方双方の行動が終了した。次のラウンドになる。行動宣言を』

 

「拙い……拙いぞこれは……。次のラウンドに僕がゴブリンに攻撃されてしまう……。魔術師もフリーだし、これは負けたか……」

 

七生がブツブツつぶやき始めた。

 

「1ラウンド耐えてくれ! ワシが這い上がればあんな魔術師なぞ一撃だ!」

 

ドワーフ担当衛士が言う。

 

そして、ピットに落ちたメンバーは這い上がるので行動終了。

リンは眠っているのでパス。エルフもだ。

七生のマジックユーザーは、マジックミサイルの呪文でゴブリンを狙う。

ゴブリンに6点のダメージを与えて倒した。

 

「僕の呪文はもう終わりです! 後は頼みました!」

『ではこちらの行動だ。魔術師はマジックミサイルをマジックユーザーに撃つ。……4点のダメージだ』

「危ない危ない……あとヒットポイントは1点ですよ。容赦無いですねDM」

『褒め言葉と受け取っておこう』

 

3ラウンド目。やっと主力が通常通りに行動出来る番だ。

 

「アイ、あなたに一番手を任せた!」

 

ドワーフ担当衛士が言う。

 

「分かりました。魔術師に接近してノーマルスォードで攻撃します!」

『判定を。14以上の目で命中です』

「ここで外したら恥ずかしいな……。えい!」

 

転がった二十面ダイスは……15の目を出して止まった。

 

『攻撃は命中しました。ノーマルスォードのダメージ、1d8で決定してください』

 

私は八面体ダイスを振る。出目は、なんと8だ!

 

『ストレングスの修正で+2点するので……10点のダメージですね。よろしい、アイの攻撃で魔術師は倒れた!』

 

やった! 敵を倒した!

 

「やりましたな! 勝利ですぞ!」

 

ドワーフ担当衛士が叫ぶんで手を上げる。

ハイタッチ……と言う奴か……?

他のメンバーもハイタッチを始めたので、私と玲花も合わせた。

皆気分が高揚しているようだ。

 

「さあ、お宝ですよ! お宝!」

 

七生が浮かれたように言う。

 

『悪の魔術師は倒れた。魔術師の懐から鍵が見つかった。……部屋の隅には宝箱がある』

 

「ここで宝箱の鍵じゃないとか意地悪しないですよね? DM」

 

エルフ担当衛士がDMに念を押したように言う。

 

『誰が調べる?』

 

DMは事務的に答えた。

 

「はい、わたしが調べます」

 

玲花――リン――が手を上げた。

 

『それでは、ファインドトラップで判定を』

 

十面体ダイスが二個転がる。……出た目は24。失敗だ。

 

『罠は仕掛けられてないように思える。鍵は掛かっているようだ』

 

「こう言う時はどうすれば良いのです……?」

 

私はまだ慣れていないので、そう言うしかなかった。

 

「OK、残りヒットポイントの一番多いのは……エルフか。済みませんが鍵を使って宝箱を開けてください。他のメンバーは部屋の外へ待避」

 

七生が言う。

 

「仕方無いなあ……皆部屋の外へ。罠が無くても宝物をちょろまかしたりしないから安心してくれ」

 

エルフ担当衛士の言葉に従って、他のキャラクターは部屋の外へ出た。

 

『それでは……宝箱の鍵は無事開いた。中には宝石や金貨が沢山詰まっている』

「ありがとうDM! もし罠があったら貴方を信用出来なくなる所でしたよ」

『戦場で背後に気をつけることにしよう――。さて、宝石は5個。金貨は600枚ほどある』

「もう皆入って来て良いよ! お宝の分配だ!」

 

他のキャラクター達も部屋の中へ。宝物を平等に分配することになった。

宝石は街に戻ってから換金することになった。金貨は一人100枚ずつの分け前だ。

 

『もうやり残したことは無いかな? 無ければシナリオを終了しよう。君達は街に無事帰還した。宝石は金貨6000枚で売れた』

「合計で、一人頭1100枚だ。アイとリンはレベルアップ出来るんじゃないか?」

『ルールに従えばその通り。だが、時間も押しているので今日はこのくらいで切り上げよう』

「……皆さんお疲れさまでした。これにて今日のセッションは終了です」

 

クリフォード中校がDMモードから通常モードに切り替わった。

 

「さて、陛下、玲花さん。初めてのD&Dはどうでしたか?」

「とても面白いです……。また遊ぶ機会が欲しいですね」

「楽しかったです! こんな遊びがあるとは知りませんでした。やはり美国は進んでますね」

 

玲花と私は答えた。

七生を含む他の衛士達も満足げに肯いている。

 

「日本でも翻訳されてはいるんですが……何せこのご時世ですので一般に広まるまでは行っていないですよね。D&D」

「確かに、ジェンコンでも日本人は見かけた覚えが……何と言った、ヒトシ・ヤシダとか言う人物だったと思う」

「あー! たぶんパソコン雑誌に紹介記事を書いてた人ですよそれ。日本でもRPGが流行らないかなあ」

「七生、まずは平和な時代が来ないと無理だと思うぞ……」

 

私は言う。

 

「だって、娯楽が少ないじゃ無いですか! かるたやトランプ、頑張って花札や麻雀じゃないですか。花札や麻雀は賭けになっちゃうから、純粋な娯楽としてのゲームが欲しいんです!」

「まあまあ、次の定期便で青箱を手配しているんだ。皆のキャラクターがそこまで成長出来ると良いな?」

「DM……クリフォード中校次第ですよ。今日の最後みたいな油断は二度としませんからね!」

「――本国ではもっとえげつないトラップを満載した本があってな。あれは使う物でないが、人間の悪意と言う物を考えさせられる」

「うへえ、そんなのがあるんですか……」

 

話題は尽きない。

気がつけば十七時を回っていた。そろそろ夕食の時間だ。PXも混み出すだろう。

その日のセッションはお開きとなった。

また遊ぶ事を約束して、私と玲花は宮殿に帰還する。

 

一九九四年五月十五日 満洲帝国首都・新京 皇帝私室

 

やっと執務も終わった。

セッションの最後にクリフォード中校に手渡された、D&Dメーカーのチラシ。

私も一式揃えようかな……今日はそんな気分にさせられた。クリフォード中校のDMの腕だろう。

とにかく平和になれば、平和になりさえすれば庶民も娯楽を楽しむ余裕も出来る。

私が目指すべき国家はそう言う物だろう。

早く威徳大隊の錬成を終わらせなければ……。

 

明日からまた訓練だ。

今は、D&Dと言う新しい娯楽に触れられたので、その楽しみの余韻に浸るとしよう。

 

Muv-Luv Alternative Manchuria外伝 ~ 陛下、赤箱を遊ぶの巻 ~ 了

 

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