バンジージャンプやらジェットコースターやらのアトラクションから、学校の忘れ物がバレないか否かの先生との駆け引きまで全てスリルです(違
アオたちの生活の中にも、小さなものから大きなものまでスリルがあちらこちらにある!…はずです。多分。いや、なんかなさそうな気もしてきました←
どうもこんにちは。接客見習いアビオルグです。
開店直後の古龍襲来にはかなりビックリしましたが強制労働1日目、なんとかがんばっていこうと思います。まあ襲来というほど恐ろしいものでもなかったけれど。
ナズチさんの言う通り、そんなバカみたいに人が来るわけではなく、時間はゆったりのんびりと過ぎてゆく。
その間私たちは交代で店番をして、店番以外はナズチさんと商品の整理をしたりしながら仕事をしていた。
ドンドルマはあの人間の多さだし、ここにもとんでもない人数来るんじゃないかと戦々恐々としていたけれどこれならなんとかなりそうだった。
そして、そろそろお昼になろうとしたときお店のドアが開いた。
店番は今はイビルさんだ。大丈夫だろうか……
「いらっしゃーい」
わぁ愛想がない。まあイビルさんらしいと言えばそうなのだが、店員としてはちょっとあれな気がする。売り子と言えば明るい笑顔に元気な声だろう。いや、私もできないけど。
「おお?新人さん雇ったのか!霞ちゃんいるかい?」
やってきたのは熟練者の雰囲気を醸し出す男のハンターだった。背負った武器は身の丈ほどある巨大な剣。大剣と呼ばれる代表的な武器だ。素材は見た感じではリオレウスだろうか。赤い鱗や甲殻をふんだんに使っているし多分間違ってないだろう。
ナズチさんを『霞ちゃん』と呼んでいるあたりここの常連なのだろう。霞はナズチさんの人間用の名前である。
「ん、今呼んでくるから待ってろ…待っててください、か?」
「かっかっか!敬語でなくても良いぞ新人さんよ!」
「そうか?悪いな。こういうのは慣れてなくて困ってたんだ」
イビルさんこういうところ不器用だもんなぁ。
というかイビルさんが敬語とか尊敬語使ってる方がなぜか妙な気もする。あの人があんな綺麗な口調で喋ったら逆にマズイ。そんな気がするのは私だけだろうか。
「はいはい呼ばれてきたよ〜。また来たのかいルーク」
「秘薬やらなんやら色々在庫が尽きかけててなぁ。またお世話になりにきちまった」
「物は大事に使いなよ?」
「大事に使ってるさ」
ルークと呼ばれた男はやはりここの常連のようだった。狩猟の際に使う薬の買い足しをここで行っているのだろう。
秘薬というのはハンターのもつ回復アイテムの一つで、飲むとたちまち全ての傷が癒えていく劇薬である。私も何度か見たことがあるがあれ何でできてるんだろう。副作用とか半端なさそうな気がする。
それ以外にも回復薬Gや回復薬あたりも十分にありえない勢いで怪我を治すのだが。
「いつものセットで頼むよ」
「はいはい。アオちゃーん」
「はーい」
「いつもの一つお願いねー」
「はーい……っていやわかんないですよ!?なんですかいつものって!!いつももなにも私たち来たの昨日ですからね!?」
突然の無茶ぶりである。
いつものなんて常連客に対して昔から店員としている人にしかわからないものを提示されても私にはわからない。心を読み取る能力もないしハンターの知識もほとんどないのでなおさらだ。
「冗談だよ。ここ紙に書いてあるもの詰めてもって来て。お願いね〜」
「驚かせないでくださいよ……えっと、回復薬、回復薬G、秘薬、怪力の種、忍耐の種、砥石、生命の粉塵……結構多いですね」
「ハンターてのはなかなか大変なのさ嬢ちゃん」
「一歩間違えば死だもんな。よくやるよなそんな仕事。オレならごめんだぞ」
いや、イビルさん。貴女自分の食事のためにどんなやつにでも喧嘩うってはボロボロになってるらしいじゃないか。そっちのほうがよっぽど命がけだし一歩間違えば死な気もするが、私は気にしないことにした。だってイビルさんだもの。
「まあそのスリルがたまんねえんだけどなぁ」
「相変わらず自分の命を粗末にするような発言だねぇ」
確かにこの人早死にしそうな気がする。実力は相当なのだろうが、性格面でなかなかに無茶をしそうな雰囲気だ。
しかし、さすがに共感とまではいかないが、少しくらいならその感覚はわからんでもない。『スリル』というものは生命に緊張感を持たせ、物事をより刺激的にしてくれる。
かくいう私も密林のハンターの使用するベースキャンプ付近にある高い崖を飛び降りるのにハマっていたことがある。というか今もやれるならまたやりたいくらいだった。
このルークというハンターは狩りを人とモンスターとの真剣勝負と捉えるタイプのハンターだろう。そしてその真剣勝負の死と隣り合わせというスリルを極限まで楽しんでいるのだと思う。
竜にもその手の奴らはいて、イャンガルルガという黒いイャンクックのようなやつは他の生命の縄張りに侵入し、その主を薙ぎ倒していくまるで辻斬りやら通り魔のようなことを自ら進んでやっている。一度出くわした事があるがこいつは正直わけがわからない。気でも狂れているのだろうか。いやきっとそうだと思う。
ティガレックスとかも割と色々な奴らの縄張りを侵す輩で、好戦的なため近づくと危ない。まあ彼らは餌を求めて長距離を移動するのでそのせいもあるのだが。好物と指定されてしまったポポたちと雪山の住人(人?)はたまったもんじゃないと思う。
「命賭けるまでのスリルは、私はやっぱり遠慮するかな……」
最終的に私の結論はこれだった。スリル求めて死んだら元も子もないし、それなら今までのように平穏に生きたい。いや、この世界の自然の中では『平穏』は『弱肉強食の中で自由に』になるのだが。それでも自分から食われるかもしれない所に赴くよりは相当マシだろう。運悪く死ぬときは死ぬだろうけれども。
「アオちゃんまだかーい?」
「あっ、今行きます!!」
謎の中途半端なシリアス思考からナズチさんの声で我に帰った。
指定された商品の準備はバッチリ完了している。多分。しかしさすがこの世界の竜の中でも超常識的かつ良識の優しい竜こと私。ある龍の救出時の選択肢?なんのことだろうか、記憶にない。
何処かの黒い誰かの泣き声が聞こえた気もするが気にせず、私は商品をもってナズチさんの方に戻っていった。
「えっと、お待たせしました」
「一応中身確認してみてね。クレームは受け付けないよ?」
「わかってるよ霞ちゃん。というかクレームつけたら俺が殺されそうだ」
言いながらルークさんは中身を確認していく。不備は多分ないはずだが、何故か少し緊張する。
「しかし結構な量だな。ハンターがなんで腰にでかいポーチつけてるのかよくわかった」
「わたしのトコには貨車に樽乗っけてきたやつもいたよ。下から噴き出たマグマに当たって爆発しちゃってたけど」
「お嬢ちゃん方、狩中のハンターを見たことがあるのか?」
「だってたまーにわたし達のこと狩りにむぐぅ!?」
リオンさんが寛大に口を滑らせかけたのをナズチさんが口を塞ぎ防いだ。あと一歩遅ければこの場で大災害が起こる所だった気がする。何せここには古龍が2人、生態系ブレイカーが1人、そして獰竜が1人。これがもし、正体が暴露てそれを隠そうと本気で暴れたりしたらこの辺りの地形が変わるだろう。
「ん?わたし達を狩りに?」
「この子たち2人とも親がハンターやっててねぇー。たまーに狩りに連れて行ってもらえるそうだよあはははは〜」
「はー!なるほどなぁ!もしかしてそのうちハンターになっちまったりしてな!はっはっは!」
無論、この二人がハンターになるなんてことは天地がひっくり返ってシュレイド城が爆発し、塔でだるま落としが始まってもあり得ないのだが、ナズチさんのナイスなフォローで難を見事に逃れた。イビルさんにはシュレイドにいた時に重々念入りに正体をバラすことのないように注意したのでリオンさんほど危険はない。危なかったとか呟いてるのが聞こえた気もするけれど。
(リオン、次口滑らせたらシュレイドに送りつけるから覚悟してね)
(ヒィっ!?それは勘弁だよナズ!)
(なら発言に気をつけることだよ。なんならアルバに変わってもらったほうが良いんじゃないかい?)
(……そうしよう。それが良さそう)
なにか凄い威圧感を放つナズチさんがリオンさんと相談をしているがもうとりあえず置いておこう。
そうこうしてるうちに、ルークさんが中身の確認を終えたようだった。
「よし、バッチリだ!ありがとうな嬢ちゃん方!」
「いえいえ、それどころか色々騒がしくてすいません」
「こんぐらいがいいさ。お代はいくらだい?」
「えーっと、3000zだな」
「あいよ!じゃあ仕事頑張れよお嬢さん方!俺はこれから一狩りしてくらぁ!!」
さっそくあの買ったものを使うのだろうか。ナズチさんが物を大切にと言いたくなるのが少し分かった気がした。
何はともあれ二回目の接客もなんとかクリアし、私は自分の中の適応力が怖いレベルに感じている。これならどんな世界にでも適応できそうなくらいだ。
今日の残りの営業時間もきっと乗り切れる。そう意気込んで私は再び自分の仕事に戻った。