第2錠 閉じる一日
時は少し遡る。
サイクロプスが復活する頃、別の場所の事だ。
話は少しズレるけど、
君たちはこのサラリーマンみたいに、スマホを見ながら歩いたりはしてないよね?
なんでそんな事を聞くのかって?
ほら、サラリーマンの足元に青い宝石みたいなジェイルジェムが転がってるだろ。しかもひび割れしてるやつ。
残り3歩、2歩、1歩。
……あぁ、踏んじゃった。
会社勤めの男は何かを踏んでよろけた直後に、後ろで騒ぎが聞こえた。
「?」
振り返ると不気味な人型の肉塊があった。何かを探すようにペタペタ触ってくる。
「止めろ!」
男は不快に思い怒鳴った。
肉塊は喜んだ。
あぁ、ここにあったのか、と。
両手を男の顔に延ばした。
男は肉塊の動きが変わった事に驚き、その一瞬が仇となる。
「ぐぁぁぁ!」
無理矢理まぶたの下に指を突っ込まれる。
そして………
ブチブチブチ!
目を引っこ抜かれた。
「ぐきゃあああ!」
男は悲鳴をあげ、のたうち回る。
「「「きゃー!」」」
それを見た者の多くは悲鳴をあげて逃げ出そうとする。
彼らは不幸だ。誰もが逃げようとすれば助かったかもしれない。
現実は非情だ。非常事態なのにスマホでニヤニヤ撮影する者、イヤホンをしたままのゲームしながら歩きで気がついていない者、騒ぎを気にせず進もうとする者。多くの愚か者が道を妨げる。
彼らは他人の愚かさで命を落とす。これを不幸と呼ばずなんと呼ぶ。
肉塊はちぎり取った目玉を己に埋め込んだ。
埋め込んだ目玉をギロリと動かして人間たちを見る。
そして、最寄りの少女に近づいていく。
「嫌ー!」
悲鳴をあげたところで、命運は変わらない……
「うぁぁ」「痛い痛い!」「暗いよ暗いよ!」
何か騒がしいな?
そう思い近づいてみると大勢の人が目から血を流していた。
元凶は探すまでもなかった。
目玉を手で弄ぶ化け物がいる。
「一応確認しておくが……お前がやったな」
「ん? ほう。誑かされてジェイラーになるやつがいるとは……
貴様も不幸なヤツだ」
化け物が喋ったことは驚きだが、聞き捨てならない台詞だ。
「不幸だって?」
「……」
「そうだとも。ソイツにとってお前は道具に過ぎん。
壊れるまで戦わされるだけだ。
唆したソイツを恨むんだな」
「そうか。それだけか?」
「"それだけ"だと?」
少し気になる所はあったが
「戦わされる? その程度、大した事じゃないね!
彼女と出会えた幸福、彼女と共に在れる幸福、それら打ち消すには程遠い!」
「!」
「ふん。哀れな」
怪物はそう言って目玉を取り込んだ。
背中がゾクリとし、建物の陰に飛び込む。
駐輪してある自転車のミラーを見ると、目玉全てがこちらに向いていた。
目玉が光ると周囲が吹き飛んだ。
「ぐわっ!」
先程までいた場所を見ると、赤熱し抉れていた。
「うわっ」
あまりの惨状に声が漏れた。
ミラーの反射で飛んできた熱線で吹き飛ばされたお陰で、射線からズレたらしい。
「ちっ 取り込んだばかりではこの程度か…」
怪物は不満気だ。その言葉が本当なら洒落にならない。
「ん? ふっフハハ! なんだ!力づくで外せるほどに劣化しているではないか!」
怪物は腕に付いている鎖が錆びついた錠前を見て笑うと、鎖を引きちぎった。
「さあ、【百魔眼】アルゴスの復活だ!」
怪物の身体が巨大化していく。全てが肥大化し、指も腕も頭も区別がなくなっていく。肉塊としか呼べなくなってもなお巨大化は止まらない。
「ヤバイヤバイヤバイ!」
俺は肉の濁流に巻き込まれないように全力で走る。
けれど、どんどん距離が縮まっていく。
「……………………」
「窪み?! どこ?!」
叫びながらベルトの錠前を見るとさっきまでなかった窪みがある。
「もしかして、さっきの衝撃で? とりあえず! いくよ!」
俺は数年前から持っていた宝石を嵌めて、ツマミを捻る。
変身時とは異なり、完全な警告音が鳴り響く。
背中の鎖がジャリジャリと移動するのが聞こえる。
俺は正面の塀を蹴り、飛び上がる。
「凄い! 飛べるのか!」
「よりにもよって貴様かぁ!」
怪物は突然激怒した。
「貴様のせいで10億年がパアだ! ここで死ね死ね死ね!」
「おっと」
俺は目玉から放たれる熱線を避け続ける。
が、先程より、熱線が少ない。
巨大化したからか?
「…………………」
「能力? 成程」
よく見ると飛んだ軌跡が降っている。その効果か。
なら!
熱線を避けつつも、怪物上空を旋回する。
「またも! またしても俺から奪うのか!」
だんだんと、どんどんと熱線が減っていく。
「さあ、お縄につきな」
錠前のツマミを再び捻ると、ジャリジャリジャリと足枷から鎖が溢れ出し、渦を巻く。
「貴様ら!!!」
真上から蹴りつけた。
鎖が怪物に何重にも巻き付いていく。錠前も無数に発生し、発生する度に怪物が弱っていく。
「人間! 貴様には二度と安寧は訪れん! 果てなき悪夢に脅えろ!」
怪物はそう言い残し封印された。
「ふん。彼女と一緒なら望むところだ」
仮面ライダージェイラーの活躍により、【百魔眼】アルゴスは倒された。
けれど、まだ事件は始まったばかり……
月に照らされながら夜道を走る少女がいる。
その後を走るのは小太りの男。ハァハァを荒い息で走っている。
少女は路地裏に駆け込み、ゴミ箱の陰で息を潜める。
少女は生まれつき声が出ない己を恨んだ。
声が出ればストーカーや怪物に追われても助けを呼べたのに、と。
表の様子を窺うと、怪物が男に追いついていた。
カヒュッ
ストーカーであった男が1人、喉を千切られて死亡した。
少女は息を呑み、隠れた。
一瞬とも永遠とも思える時間のあと、再び様子を窺うと目の前に怪物がいた。
「……!」
怪物に喉を掴まれる。
「……!……!……!」
声が出ないことは理解してるが、本能のままに全力で抵抗する。
そんな程度で怪物が怯むはずもなく、怪物は手を離した。
「なんだ。声が出ない喉は要らん」
怪物は去っていった。
下手人たる怪物【千魔唱】は更なる獲物を求めて姿を消すのだった。
実質後半
次は情報回(読まなくても大丈夫ではある)