第4錠 鍵は愛
怪物たちにより、世界は荒れ果てた。
この墓地も例外ではない。
犬の頭を模した墓石も猫鈴も砕けている。
そんなペットの墓地で夜雀は必死に何かを探していた。
ところ変わってとある留置所。
とある盲目の少年が収監されていた。
監視はコソコソと話している。
「こいつが怪物どもと組んで殺しをしてたんだとよ」
「なんでとっとと殺さないんです?」
若い看守の発言は、今となっては過激な発言でもなんでもない。
物資不足により死刑が迅速に行われるようになった昨今において、留置所の使用すら珍しいのだ。
「証拠がないんだとよ。
それに最近は"仮面ライダー"って奴がいるなら死刑を早める必要はないんじゃないかって話も出てるとか。
それに、コイツは捨てられて目を潰されたから殺さなくてもって話もある」
話が聞こえていたのか、盲目の少年…鳥一一はワンワンと大泣きする。
「うっわ、ちょっと哀れですね。こんなんにはなりたくないです」
「オレは見たくもないね。それに近々処刑されるってよ」
この時代の死刑とは等しく獣刑である。
放置しておけば、勝手に怪物が殺してくれるのだ。遺体の処理や、執行官の精神的な負担も減る。
当初は見物客も多かったが、その末路は言わずもがなだろう。殺すための場所なのだから当然だ。
さて、そんな場所にまた1人転がっている。
鳥一一だ。
「ゲフッゴフッ」
咽せている。俺が蹴ったんだから当然か。
「ハァハァ まさか人間に取り憑いていたとは…」
「ジェイラーは力を借りるのでも纏うのでもなく、身体を委ねるのだから当然だろう」
本当に何も知らないとは……
この程度の相手に後れをとったとは……、腹が立つ。
「ゴフッ」
他の連中と違って、使い物にならない目に用は無い。
そろそろ殺すか。
「死ね」
投げた鎖はヤツの頭に吸い込まれるかのように向かって向かっていく。
人間は脆弱だ。ただ鎖を叩きつけただけで死ぬ。
残り3,2,1
『ガキン』
ぶつかる寸前、見覚えのある剣が鎖を断ち切った。
「夜雀、貴様か」
「…ハニー⁈」
なるほど。あの時に剣を回収していたのか。
あれ程の切れ味の剣ならば、相手の手に渡らぬようにする訳だ。
「なんで……」
「……」
差し出したのは錠前か?
変身されると面倒だ。
10の魔眼、光線×10
消えろ!
ジェイラーアルゴスの10の魔眼から放たれた光線は音もなく、夜雀を貫いた。
夜雀は青白い光を発して消えた。
「ハニー!」
鳥一は夜雀のジェイルジェムを受け止める。
「むっ。ケチり過ぎたか。」
アルゴスは不満気だ。2人纏めて葬るつもりだったらしい。
「アルゴス!!」
「何を怒っている。貴様を騙していたやつを倒してやったのだぞ? 辛かっただろう?
感謝するべきじゃないのか」
「ああ、辛かったさ! ハニーに俺の目を潰させることはな!」
鳥一は新たな錠前を腰に翳した。
これまでと異なり、覚悟を問う声が鳴り響く。
「またアレにのせられたか。哀れだな」
「哀れでも不幸でもない! 俺はハニーを愛してるんだからな!」
鳥一はそう叫ぶと、錠前のつまみを弾いた。
「変身!」
これまでの様に鎖に全身が包まれるが、それだけではない。
錠前のレリーフから2匹の犬の霊が飛び出し、じゃれつく。
「チョビとアル?」
2匹は頷くと肩に飛びつき、鎧となる。
現れるのは、2匹の犬と夜雀の翼を持つ新たなジェイラー…ジェイラー 犬神・夜雀だ。
「それがどうした!」
アルゴスは魔眼を飛ばす。
「装甲越しでは魔眼殺しも効かぬだろうが!」
夜雀の特殊粒子は透過など出来ない。なんなら花粉症用眼鏡が有効な程だ。
確かにジェイラーとして装甲に覆われた眼には効かない。
「なら壊すだけだ!」
鳥一は剣…バルグラムで切りかかる。
(愚かな… 魔眼が捉えるほうが早い)
アルゴスが嘲笑うと、魔眼が犬に咥えられていた。
「は?」
よく見ると相対しているジェイラーの肩から鎖が延びており、肩アーマーに見えていた犬の頭部と繋がっている。
それが心理的死角を通り、魔眼を咥えていたのだ。
「バウ!」
犬は吠えると魔眼を投げた。
「はっ!」
その魔眼は剣で砕かれる。
「クソ!クソクソクソ!」
アルゴスは苛立つ。
1匹に気を取られると、もう1匹に捕らわれる。
犬だけに気を取られると、直接切られる。
ギリギリで魔眼だけは避けると、魔眼殺しで機能が停止する。
本来ならこの程度で苦戦などしない。手数の多さ、数の暴力はオリジンオールダー共通の能力。それらと比べればなんて事もないはずなのだ。
その原因は粒子の雲だ。
夜雀が周囲の濃度を一定範囲内に保つ事で魔眼の射程を狭めている。
本来であれば自身の視界すら奪う諸刃の手法だが、そもそも今は目が見えないのだ。これでデメリットは無い。
「ふふっ」
鳥一は上機嫌だった。
今は亡き愛犬たちと再び遊べているのだ。
さらに背中には愛するモノの気配を感じ続けている。これを幸福と呼ばずしてなんと呼ぶ。
鎖から愛犬たちの動き変わったのが伝わる。
どうやら、あの球体は品切れらしい。
「さあ、お縄につきな」
錠前のツマミを捻ると、ジャリジャリジャリと足枷から鎖が溢れ出し、全身を覆い隠す程の渦を巻く。
「付き合ってられるか!」
アルゴスは逃走しようと跳躍する。
しかし、愛犬たちはそれを許さない。鎖を巻きつけ、主人の前に引きずり出す。
「離せ!」
抵抗するアルゴスに蹴りが叩き込まれる。
鎖が次々とアルゴスのジェイルジェムに注ぎ込まれる。
「貴様〜!」
断末魔が聞こえなくなると、強烈に光った。
ジェイラーアルゴスの変身が解けると人が出てきた。
「うとっと」
さしもの鳥一もあまりの滑りに驚いた。
目が見えていたら、更に驚いた事だろう。全身に窪んだ眼窩があり、血が流れ出ているのだ。
既に死んでいる。オールダーに身体を委ねるとは、本来はこういう事なのだ。
鳥一は変身したまま彼を抱え、安全圏まで飛んで行った。