第6錠 閉じる世界
アジ・ダカーハは死亡確認のため、地上に降りたった。
オールダー2体分の能力を使えるのだ。警戒するのは当然だ。
落下した方向からジャリ ジャリと音と共に、ジェイラーが現れた。
素体の姿だ。
「ふん」
どうやら生き延びていたらしい。大方、ドライバー以外は全損だったのだろう。
アジ・ダカーハはそう判断し、魔法陣を展開し始める。
ジェイラーは無茶苦茶に鎖を振り回し始めた。鎖で魔法陣が掻き消されていく。
アジ・ダカーハは一瞬驚くも、気にせず魔法陣の展開を続ける。目が見えないからだろうが、アレでは体力の消耗が激しい。
魔法陣の展開は嫌がらせ程度に控えて、無様に足掻く姿を眺める事にした。
ジェイラーの動きが次第に鈍くなってきた。
再び解錠の魔法を受けた。
現れたのは、翼がボロボロの少女。夜雀だった。
「何? 何故ジェイラーとなっている?
その状態なら、まだ素の姿の方がマシだろうに…」
「…………………」
「あの男への未練というやつか。哀れだな」
アジ・ダカーハは夜雀の答えを決めつけた。
「まぁ、何でもいいか。死ね」
夜雀の足元に特大の魔法陣が現れる。先程の話は時間稼ぎだったのだ。
瓦礫に隠れるように描かれていたため、夜雀は気がつかなかった。
その特大の魔法陣が赤々と輝き、相応の規模の炎が噴き出した。
その炎の高さたるや、万全の夜雀でも避けられるかどうか。範囲も同様だ。
アジ・ダカーハは充分だと判断して、魔法を止めた。
そこに残されていたのは、溶解した大地
と、青々と輝くジェイルジェムだった。
「は?」
呆然とするアジ・ダカーハをよそに、ジェイルジェムを拾う人影があった。
「お待たせ、ハニー」
「何故、貴様が生きている!」
そう。その人影は鳥一だった。
そして、自慢げに答える。
「“愛”さ」
「訳がわからん! いや貴様、オールダーだな? 人間に擬態していたのか」
「訳がわからないな? 俺は俺だ!」
当事者がいないので解説しよう。
今の鳥一がオールダーなのは正解だ。
鳥一がオールダーである事を理解してないのも正しい。両親とも血の繋がりはある。
真実は、"墜落後にオールダーとなった"だ。
夜雀は鳥一の命がまもなく尽きると理解した時に賭けにでた。
鳥一のオールダー化だ。
ワルキューレの能力としてソウルプレート作成がある。ブランクプレートに魂を加工して融合させる能力だ。
これは、オリジンオールダーの眷属作成と類似した能力。けれど違うものだ。
夜雀は愛する人の愛を信じて、鳥一のオールダー化を行った。
肉体を外骨格に、脳と心臓を器に、魂を加工した。
そこまでは奇跡的に成功した。
後は時間が解決してくれる。オールダーは時間経過が力を増す。鳥一も時間が経てば動けるようになるだろう。
問題は、時間をどう確保するかだ。
今、攻撃されたら終わりだ。次は無い。
夜雀が選んだのは、自ら戦うことだ。
念の為持っていた錠前で変身すると、外へ出ていった。
策は1つ。
体力が続く限り、がむしゃらに鎖を振り回す事だ。
視力を失っている事が知られているのなら、魔法陣だけを狙ってしまえば別人だとバレてしまう。
夜雀に取れる策はこれだけだ。
己が身を顧みず、愛する相手のために必死になる様は、いつも見てきた生き方だ。
夜雀は気づかぬうちに仄かに微笑んでいた。
鳥一が眼を覚ますと、周囲が薄暗かった。
どこかの地下駐車場らしい。
「! ぁ……」
直後、夜雀と共に落下した事を思い出す。
が、声が出ない。身体も動かしづらい。
それでも必死に周囲を見回すと、離れたところにドライバーが転がっている。犬のレリーフが付いた自身の物だ。
愛犬たちの無事に安堵しながら、"愛犬たちなら夜雀を見つけられるのでは?"と思い、床を這いずり進む。
亀にも劣る速さだが、今の状態で動ける事自体が驚異的だ。
ズリ…ズリ…と進むたびに皮膚が擦りむけ、血が滲む。
それでもまだ届かない。
ズリ…ズリ…と進むたびに傷が深まり、出血が増える。
それでもまだ届かない。
ズリ…ズリ…と進む。皮膚が治るも擦りむけ、血が滲む。
それでもまだ届かない。
身体に力が入るようになり、ヨタヨタと進む。
あと少し。
………届いた。
鳥一はドライバーを掴み、外へ駆け出して行った。
鳥一が目にしたのは、ボロボロになって夜雀だった。
その下には何か大きな模様がある。
嫌な予感がした鳥一は急いで変身し、駆ける。
特大の魔法陣が赤々と輝き、相応の規模の炎が噴き出した。
万全の夜雀でも避けられるかどうか分からない高さと範囲だ。
鳥一は飛び込みながら、ドライバーを操作する。
鳥一は夜雀に向かって手を伸ばし、
愛犬たちは後方の電柱に向かう。
夜雀をジェイルジェムに避難させるためだ。
夜雀を鎖で抱きしめると、愛犬たちに引っ張らせ、炎から出ようとする。
夜雀と繋がる鎖も、鎧となっている鎖も赤熱し始める。
このままでは、脱出する前に鳥一は焼け死ぬだろう。既に相当苦しいはずだ。
けれど、それでも想うのは夜雀の事だった。
そして、それは夜雀も同じだった。
2人を繋ぐ鎖が溶け落ちた瞬間、夜雀は鳥一を突き飛ばした。
鳥一は慌てて手を伸ばすも、既に遠い。
愛犬たちは軽くなった事に驚く余裕もなく引っ張る。
そして、鎧が限界を超え変身が解除される寸前、鳥一は一人脱出したのだった。
そしてまた、鳥一は夜雀の元に向かった。
「お待たせ、ハニー」