異世界怪盗アルセーヌ   作:山空裏表(元かくよ)

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 ルパン三世、怪盗ジョーカー、まじっく快斗、ペルソナ5に脳を焼かれたので初投稿です。


その男、名は

 

 「ク、ククククククク」

 

 世界一の技術先進国であるフィリウス王国に存在する、王国だけでなく全世界の金貨や宝石が保管されている、と噂のウス王立銀行。その屋上に、一つの人影があった。

 

 「フハハハハハハハ!」

 

 黒い仮面に黒いスーツに身を包んだ人影は、自身の手に握られているモノを見ながら高らかに笑う。夜の暗闇に紛れながらも、朱く綺麗に輝くソレは───宝石だった。【女王の鮮血】と讃えられるその紅玉は、フィリウス王国において最高の価値を誇り、一度市場に出回れば王国の富豪達が自身の財産を全て擲ってでも手に入れようとするほど。

 

 そんな宝石を自身のスキルである[盗品保管庫(ファントム・ボックス)]へと収めながら、その人影は地上を見下ろす。目線の先には、銀行を囲う武装した数多の兵士達がいた。

 

 

 「ほう、人海戦術ときたか。だが、甘い!」

 

 人影は空に魔方陣を描き、それを発動───できなかった。

 

 「なっ!」

 

 「甘いのはそっちよ。アルセーヌ」

 

 人影が振り向くと、そこには一人の少女がいた。

 

 「シャーロット。これは、お前が?」

 

 「えぇ。貴方が【女王の鮮血】を盗んだ後、屋上からお得意の浮遊魔法でキザに飛び去るだろう、って予測してね。あらかじめ、魔法阻害の術式を仕込んでおいたのよ」

 

 人影が辺りを見回すと、確かに屋上の床や壁にかなりの数の魔方陣が刻まれていた。その上、刻むために消費した魔力量もかなりのものであり、少女の相手をしながら解除することは不可能だ。

 

 「チェックメイト。貴方の負けよ、アルセーヌ。大人しく連行されてもらうわ」

 

 「くっ」

 

 「安心なさい。悪いようにはしないから。ただ千年ほど牢屋にいてもらうだけよ」

 

 「…………いいだろう。もし俺を捕まえられたのなら、千年だろうが一万年だろうが、牢屋の中にいよう。だが、それは捕まえられたらの話だ」

 

 「あら、そんな言葉を吐けるってことは、貴方は今この状況から逃げれるとでも?」

 

 「あぁ、当然だ」

 

 人影は少女にそう宣言した瞬間のこと。人影は突如として走りだし、─────屋上から飛び下りた。

 

 「え、貴方、何を!?」

 

 少女が咄嗟に手を伸ばすも、人影のマントまで後数センチというところで、虚しく空を切った。

 

 「う、うそ、でしょ。貴方ともあろうものが、こんな、こんな終わりだなんて」

 

 落ちていく人影を見ながら、少女はそう呟き、目を閉じる。それは、死にゆくライバルへのせめてもの手向けだろうか。なんにせよ、少女はかのアルセーヌともあろうものが、最後は情けなく自殺する瞬間を、見たくなかった。

 

 ★★★

 

 

 「今だ、ヒノエ!!」

 

 「あいよっ!」

 

 落ちていく人影が不適に笑い、そんな声が響き渡る。それと同時に、銀行の窓ガラスが割られ、中から飛び出した女性が人影を掴んだ。女性は見事な体幹で人影を抱えたまま空中でバランスを取り戻し、地面に着地する。普通の人間であれば、そのまま即死するであろう高度から着地したにもかかわらず、女性はただ足を震わせただけだった。

 

 「いやぁ、まったく。あんたも人、いや鬼使いがあらいねぇ。アタシだから受け止めれたけど、他のじゃ一緒に御陀仏だよ」

 

 女性は椿の模様が刻まれた鮮やかな着物を着直しながら、人影にそう言った。

 

 「あぁ。だからこそ、今日はヒノエを連れてきたんだ」

 

 「おや、つまりこれも作戦の内かい?昨日の作戦会議じゃ、こんなこと言ってなかったじゃないか」

 

 「ヒノエ。怪盗たるもの、作戦通りだけでなくその場の状況で臨機応変に行動することも必要だぞ。何時何時、作戦が破綻するのか分からないんだからな」

 

 「それ、ただの行き当たりばったり、ってのじゃないのかねぇ」

 

 「全員、確保ぉ!!」

 

 人影達が自分達を忘れて会話しているのを好機と見たのか、兵士達は静かに人影達を囲むようにして剣を構えていた。先程の着地時の衝撃で気絶した者もいるようだが、それでも数が多いことには変わりない。

 

 「おっと、こりゃまずい。はてさてどうしたものか」

 

 女性はそう言いながらも、どこか嬉々とした表情で腰の刀に手を伸ばす。

 

 「かかれぇ!」

 

 兵長らしき兵士が声を上げ、兵士達が剣を抜き、人影らに襲いかかった、その瞬間。

 

 「───〈鬼閃・鬼椿〉」 

 

 女性が剣を構え、鬼神のごとき笑みを浮かべながらその場から駆け出した。目にも止まらぬ速度で兵士の背後へと回り込み、鞘に入れられたままの刀を後頭部へと振り落とす。小気味いい殴打音が鳴り、殴られた兵士は地面に倒れ伏した。

 

 「い、一体何が──ぐあっ」

 

 「そら、そら、そらそらそら!」

 

 それを、何度も繰り返す。数秒が経った頃には、全ての兵士が倒れていた。

 

 「安心しな。切ってないさ。にしても、もう終わりかい?張り合いがないじゃないか。最近のやつは、覚悟が足りないねぇ」

 

 ほんの数秒で全兵士を気絶させ、女性は刀を鞘に納めた。その動作は流れる水のように滑らかであり、刀の達人であることがうかがえる。

 

 「お見事。やはり、お前を誘った俺の目に間違いはなかった」

 

 「お、嬉しいこと言ってくれるねぇ。アタシの方こそ、アンタに助けられた身だ。これくらいは朝飯前さ」

 

 「フッ、そうか。──さて」

 

 人影は先程と同じ魔方陣を描く。今度は一切の滞りなく魔力が充填され、人影の背中に黒い翼が出現する。

 

 「それじゃ、帰るとするか。───じゃあな、シャーロット。また会おう」

 

 人影は女性の手を取り、見ているであろうライバルにそう言い残してその場から飛び去った。

 

 

 ★★★

 

 「あぁ──やっぱり、生きてた」

 

 夜空に黒い翼を羽ばたかせ、華麗に飛び去る人影を見ながら、少女は呟いた。

 

 「怪盗アルセーヌ。今回も貴方の勝ちよ。だけど、いつか、必ず───」

 

 少女は人影に向かって手を伸ばし、握りしめる。

 

 「捕まえて、みせる」

 

 少女の瞳は、まるで恋する乙女のように、獲物を狙う補食者のように、爛々と怪しい輝きを放っていた。

 

 

 




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