大富豪になったけど周囲から狙われてます 作:見た目は大人、中身も大人
ファミレス殺人未遂事件と呼ばれるようになったあの一件以来俺は週に一度のペースで殺されそうになっている。それもすべて別々の人物によるものだった。そしてその全てが違う手口であり、こちらを殺しつつ自分たちのアリバイを確保しているようなものばかりであった。あまりにも多彩過ぎてそういった知識ばかり覚えてしまっている。
例としてあげるなら毒殺だな。俺が店で食事中に毒を付けたおしぼりをすり替えて殺そうとした奴がいた。だが、“耐毒”のスキルのおかげで俺は死ぬことはなく、代わりに退店した後におしぼりに触れた店員が毒で死んでしまったらしい。その時は物騒だなと思ったが最終的に俺を殺そうとして失敗したという事が判明した為に事情を聴かれる事になった。
他にも一定の時間で糸が切れ、その先についた鉄骨が落下するというものもあった。当然その下には俺を想定したらしいがそんなものは“直感”と“危機感知”が寸前で反応したために無事に回避できた。最終的に鉄骨を置いた廃ビルのオーナーが犯人だと分かったらしく警察に事情を聴かれる事になった。
「全く……。どいつもこいつも安易な気持ちでこちらを殺しに来る」
「会長はそれだけ恨まれる事をしていますからね……」
「それでも多すぎるだろう」
屋敷唯一の仕事部屋で俺は秘書の中村に愚痴るが言いづらそうに返答されてしまった。ちなみにこいつの裏はきちんと洗って俺に殺意を抱くこともなく、それでいて恨まれるようなこともしていないと調べがついているから数少ない気楽に話せる相手だ。
「この前なんて停電中に近づいてきて背中に針を刺されそうになったこともあったぞ」
あれは本当にやばかった。中村かと思って一瞬気が緩んだせいで“危機感知”が反応した時に一瞬遅れてしまった。結果、俺は肩甲骨に針が刺さって痛い思いをする羽目になった。
「睡眠薬で眠らされそうになったこともありましたね。会長は何故か効きませんでしたが」
「あのくらいで眠るようじゃ型月グループの会長は務まらねぇよ」
本来、睡眠薬って即効性はないはずだがこの世界では嗅いだらすぐに眠ってしまう強力な薬が普通に販売されている。だが、それも毒に含まれるらしく“耐毒”のスキルで無効化出来てしまったがな。
「ほんと、会長を殺害するなら銃でも使わないと無理かもしれませんね」
「おいやめろ。そういう話をしていると本当になるだろうが」
フラグの恐ろしさを知らないのか? 身をもって体験している奴が目の前にいるんだぞ?
……だが、拳銃か。確かに対策はしておいた方が良いか。とはいえそんなスキルあったか? あまりマイナーな物には詳しくないんだが……。脳内に出てくるオンオフ機能もスキル名だけが表示されて効果は一切説明がないから俺が知らない奴は無暗に使えないんだよなぁ。その辺はめんどくさがりの神様がくれた特典だし仕方ないのかもしれないけどな。
お、“矢避けの加護”とかよさそうだな。確かクーフーリンのスキルだったな。このスキルはお世話になったし一応オンにしておこう。後は……、“鎧は胸に在り”とかまさにうってつけじゃねぇか! 確か景虎だったかのスキルで当たらないと思えば当たらないとかいうスキルっしょ? これなら完璧だな。良し、勝ったな。
「中村。問題は解決した」
「はい?」
「俺は風呂に入る」
「は、はぁ?」
何やら間抜けな返答をする中村を置いて俺は風呂場に向かう。ちなみに、風呂場には常に二人のメイドが控えており、体を洗ってもらっている。二人とも20代の美人だぞ。羨ましいだろ~? 最初は照れてまともに洗わせられなかったが最近では慣れてきたのか息子すら反応しなくなっている。それはそれで悲しいがな。
「風呂に入る。準備をせよ」
「っ! か、かしこまりました。安奈! 起きて!」
「ひゃい!?」
風呂場はこだわったポイントの一つで、大浴場、サウナ、ジャグジー、ジェットバスなど一通り完備したうえで屋外にも露天風呂にツボ湯、寝湯などの温泉旅館にありそうなものを一通りそろえている。俺が不在の時や使わない時間帯は屋敷で働いている者に開放しており、結構人気となっている。
そして、脱衣所の隣には風呂付メイドの部屋がある。俺が入るときはここで声をかけるようにしているがそうでない時間は好きにしていい事になっている。勿論だが風呂の掃除の際には他のメイドと一緒にやってもらうがな。
ふむ、今日の当番は安奈と美咲か。安奈は基本的に寝ているが、声をかければ飛び起きる為問題にはしていない。自由にしていいと言ったのは俺だからな。そして美咲は結構きっちりした性格で夢があるのか何かの資格の勉強をしている。この仕事は若くて美人の女性にやってもらうのが醍醐味だからあまり長く勤務が出来ないのを知っていての行動だろう。別に辞めるなら辞めるで止める気はない。それもまた自由だからな。
「お待たせしました! 早速仕事に取りかからせていただきます!」
「ます!」
「うむ」
美人さん二人に体を洗ってもらいながら温泉旅館のような風呂を貸し切り。贅沢だ。俺はそんなしょうもない事を考えながら日々の疲れを癒していくのだった。
型月グループ小澤亮。その存在を知らない者は世界ならともかく日本にはいないだろう。
僅か20歳で会社を設立し、様々な新技術を生み出していき、僅か数年で会社を一流企業に成長させた。それだけでは飽き足らず、会長になると様々なグループの子会社を設立し、ゲームやアニメ方面を中心に勢力を拡大していた。その規模は鈴木財閥や大岡家に匹敵するレベルにまでなっていると言われている。
「……つまりだ。こいつらは既に無視することは出来ねぇ存在になっているわけだ」
「はぁ、それは理解しやしたが態々
とある首都高速。その一つを黒いポルシェが走っていた。日本では珍しいドイツの古い車であり、その中にいるのは黒い服に身を包んだ二人の男だった。
「それは会ってからの楽しみだ」
そして、兄貴と呼ばれた男は隣の体格の良い男の疑問に狂気的な笑みを浮かべて答えた。彼が向かう先にいる型月グループ会長の顔を思い浮かべながら。
小澤亮は最早命を狙われるだけの小物ではない。彼は気づかぬうちに物語の中心へと引き込まれ、本人が好まない形で巻き込まれていくのであった。