今日も今日とてお仕事である。
最近は書いていることよりも外に出ていることの方が多い。それというのもメディア化の話の方が多いせいであっち行ってこっち行ってと忙しいのだ。
免許取っておくんだったなぁ……。
今日は今度やる予定の舞台があり、その劇団のお偉いさん達とのお話って訳だ。まぁ何度か一緒に仕事もしているし、そんなかしこまるような相手でもないんだけど。
「よ。来たか」
「ども、金田一さん」
今度やる予定の舞台。
三角関係が原因で殺しをしてしまうというサスペンスなのだが、この劇団に任せていれば面白くしてくれるだろうし安心だろう。
今回もキャスティング会議に俺まで出させてもらっているのだ。何かあれば口を出すのだが基本的には任せっきり。
「じゃあヒロインは……どうするかねぇ」
「あー……」
「ん?どうかしたんですか?」
「あーいや、絢瀬は……黒川が出てる今ガチ見た事あるか?」
「ええ、ありますよ?ただ最近忙しくて二週分ぐらい見れてませんが」
アクアどうなったの!?
ネタバレはされたくないのでアイさんにも聞いていない。ルビーにも言ったら罰ゲームねって脅しているので知らないのだ。
「それがちょっとまずいことになっててな」
不味い事?
……ネタバレだろうなぁとも思いつつ聞いてみるしかないか……。実際、今回のヒロインに適役なのは黒川あかねさんだし。
「何かあったんですか?」
「……これ、見てみろ」
そうして見たのは匿名で書かれた誹謗中傷の数々。
あー、ほんと、こんなのは見てるだけで腹が立ってくるなぁ。
「……黒川さん。大丈夫ですか?」
「……大丈夫ではない。だろうな」
「彼女は今どうしてるんですか?」
「一応稽古には出て来てるが……会うか?」
こうして会わせてくれようとするのはある程度の信頼を持ってくれているからだろう。
俺がでしゃばるのもおかしな話だとは思うが、今回のヒロインに適役なのは黒川さん以外いない。ちょっとだけ話もしておいた方がいいのかもしれない。
「お願いします」
そうして俺は別室へと案内される。
そこでしばらく待っていると、黒川さんが部屋にやって来た。
「あの、先生。私、何かしたでしょうか?」
「何もしてないよ。大丈夫だからそんなビクビクしないで」
「はい……」
辛かったね。なんて言えたらどれだけ楽だろうか?
そんな言葉を言っても俺自身に何がわかるのだと思われるだけである。だから、俺がやるべきことはこれだ。
「今回の俺の舞台のヒロインについてなんだけどさ。ぜひ黒川さんにやってもらいたいんだ」
「えっと、私でいいんですか?今その、私を使うのは……」
「君しかいないよ」
そう言って、今回の原作本を机に置いて黒川さんに渡す。もしかしたら読んでいないかも知れないし、今回の話に必要と思い持ってきていてよかった。
「私しか……?」
「うん。話、進めるね」
本を開き、物語の幕を開ける。
今回の舞台でのヒロイン。
それは男を騙し、操り、殺人まで犯させるほどに相手の心を掌握してしまった女の話。全てがその女の目論見って訳ではなく、ただただ男を破滅させる魔性性を持っていただけの女の話。
「君なら、俺が書いたファム・ファタールを演じきってくれると思うから」
だからこそ。
いつかのように、俺は話をする。
「大丈夫。演じることに関しては、君の才能は飛び抜けているよ」
だからこそ、世間や番組に潰されるのは惜しいのだ。まだまだ、君には俺の作品に出てもらいたいのだから。
「じゃあ少しばかり考えてみようか」
今から貴女は魔性の女です。
「それじゃあ俺はこれで」
「はいオパール先生。またお話を聞かせてください」
「ちょっっっとまて!!!」
そう言って黒川さんに送り出される俺。
さて帰ろう。とした所に金田一さんが俺の首根っこを掴んで止めてきた。
そのままズルズルと隅に引きずられる。
「お前一体何やった!!!」
「いや、今度の役は貴女しかできないよって話を……」
「それでなんであんなふうになる!!別人じゃねぇか!!」
「えー……俺に言われても」
「見ろ!今の俺らを見てあらあらふふふみたいに笑ってるあいつを!!さっきまで何処か消えそうな顔してたやつだぞあいつ!!」
「元気になってよかったですね」
「限度を知れ馬鹿野郎!!!」
耳が痛い叫ばないで。
だがそう言われても俺自身こんな風に演じてね?君ならできるし、なりきれるって話をしただけなんだよなぁ。コイツはこんな奴だからこうしてほしいって。
それを黒川さんが飲み込んで消化して、結果的に出来上がったのがアレな訳で……。なんか悪かったか?
「はぁ……まぁいい。今の姿を見たら少しは安心したのも事実だからな」
「それはよかったです。あ、後本人にも言ってますが、今ガチに出てるメンバーの一人が知り合いなのでソイツに黒川さんのことよく見てやってって言っておきます」
「……あぁ、よろしく頼む。うちのホープを潰させるわけにはいかねぇからな」
金田一さんに解放してもらう。
ちなみに後から聞いた話だが、そこから俺の姿が見えなくなるまでずっと、黒川さんは手を振り続けていたらしい。
そして今、俺の部屋で今ガチの放送を見ている。
「なんというか……流石天才役者だな」
俺は驚きのあまりそう呟いた。
誰をも魅了して、完璧なパフォーマンスを行い、今までの行動全てが嘘のように感じるほど別人になったかの言動。
「これ、彼方くんが書いたヒロインそっくりだね」
そう言ったのはアイさんだ。
アイさんがいうように、こんな短時間でここまでヒロインのトレースができるとは思わなかった。
「ねー。ここまでになるとは思わなかった」
「……ん?ここまでになる?ちょっと待って彼方くんが関係してるの?これ」
「へ?……そんな事ないですよ?」
「俺は兄さんに黒川のこと頼んだって言われたけどな」
「アクアぁ!?」
なんかやべぇスイッチでも踏んだかなぁ!?
なんかアイさんの雰囲気がおかしくなったから話を逸らそうとしたのに!!それをアクア!お前!
「黒川にもよく聞かれたよ。オパール先生と知り合いなのか?とか、普段どんなことしてるのか?とか」
「へぇ?ねぇ、彼方くん?どういうことかな?」
「さ、さぁ?……なんで俺問い詰められてるの?」
「なんでだろうねぇ?ねぇ彼方くん。今日はじっくりお話ししない?お酒も飲みながらゆっっくりと。ね?」
「お?ビールですか?いいですね。とことん付き合いますよ」
「……そういう事じゃないんだよなぁ……はぁ……もぉぉおおおアクアあああ……!!」
「まぁ、じっくり行くしかないよ兄さんについては」
ビールビール〜。
なぜか頭を抱えたアイさんだが、対処は任せて俺はお酒の準備をしよう。アイさんとお酒飲むのは楽しいから好きなのだ。
「彼方くんのバカァ!!」
「なんでぇ!?」
結果的に、今ガチでカップルが成立したのは鷲見ゆきと熊野ノブユキのペアだった。
アクアは黒川さんといい感じになれてはいたが、お互い付かず離れずの絶妙な距離感を演じ続け視聴者を悶えさせたらしい。
この評価からもわかる通り、黒川さんも最初の評価を覆し、随分と人気なキャラになったもんだ。……思ったんだけどこれ、舞台公演された時に今ガチを見てる人がいたらさ?今ガチ踏み台にして役作りしたって話題になるんじゃね?スゲェなこの子。
「アクアが誰とも付き合わなかった……」
「まぁまぁ、こんな終わり方もありなのでは?それにアイさんは息子に恋人ができたらなんだかんだで寂しいでしょう?」
「……それは!……まぁ、うん」
可愛い人だと思う。
今ガチの最終回を見終えて俺たち二人はゆっくりとお酒を飲みながら話していた。アクアとルビーは自分の家へと帰り明日の支度をしている事だろう。俺たちがこうやってお酒を飲んでいるのは明日が休みだからだ。
「何でそんなにニヤニヤしてるの?」
「いやぁ、アイさんがアクアに恋人ができて拗ねてるのを想像したら……」
「したら?」
「可愛いなぁって」
「…………」
「ん?どうしました?」
「ねぇ、彼方くん」
「はい?ッ」
星の瞳が俺を見つめる。
俺はその瞳から目を逸らすことができない。
「不意にそうやって私を揺さぶるの……悪い所だよ?」
「……そんなつもりは、無いんですが……」
「昔っからそうだよね」
「え?」
星野さんは過去のことを話しだす。
アクアとルビーに愛してると言えたことがどれだけの救いになったのかとか。
ほとんど初めてした料理を渡すのにどれだけ緊張したと思っているのかとか。
俺のおかげで好きだった相手に伝えたい事を自分の言葉で伝えられたんだとか。
アクアとルビーから貰ったプレゼントや成長する姿を見るのがどれだけ幸せなのかとか。
今の時間がどれだけ幸せなのかとか。
「全部全部、君のおかげなんだよ?」
「……」
「そんな事ないって言うけど、君がいなかったら私はここにいないんだもん」
「……そう、ですか」
「ねぇ彼方くん」
「……はい?」
「好きだよ」
……へ?
「何年も前から。ずっと前から思ってきたの」
声が……出ない。
驚きのあまり固まってしまう。
「ちゃんと愛を知って、心の底から好きだと思って」
「……えっ……と」
「彼方くんになら嘘偽りなく、好きだって心の底から言えるんだよ」
「アイ……さん」
「好きだよ彼方くん」
唇に感じる柔らかく優しい感触。
初めてのキスの味は少し苦いアルコールの味がした。
これでええやろ。
てかそろそろくっつける準備しとかんとズルズル引き伸ばされると思ったので、この辺でアイにはアタックしてもらいます。