仕方ないよね。君、あんまり深い人付き合い星野家とか以外ではないもんね。
カタカタカタカタカタカタ。
とキーボードを叩く音が鳴り響く。
私はその音を出す人物を見つめる。
絢瀬彼方くん。
小説家オパールとして超売れっ子で、今はどこにでもお呼ばれし、誰もが彼の作る物語を楽しみにしている。そんな彼が……。
「……ぅぅううううううう……」
スランプである。
これ、私のせい?
あのキスをしたその次の日からこんな感じであり、もう何日経つだろうか?
あ、また全文消してる……。
「あの、彼方くん?」
「!?!?ひゃい!!!」
「えっと、そろそろ休んだらどう?もう何時間もそんな調子だけど……」
「うう……書けない……」
もう何時間パソコンに向かっているだろうか?
朝起こしに来た時にはもう机に向かってパソコン開いてたし、今はもう……十九時である。少なくとも十二時間以上は休みなし。まぁその十二時間での進捗は……お察しである。
「そ、そんな時もあるんじゃない?ね?落ち着こう?」
「どうしよう……書けない……ううううう」
泣きそうで可愛い。
……ダメだ。ていうか大体!あんなにコンスタントに新作を出し続けられるのが異常なのだ!普通はもう少し長い期間かけたりするものじゃないの?同じ月に全然違うお話を三冊分出すとか多分おかしいと思うんだ私。
「ほら、気分転換しよ?ね?」
「アイさん…………アイさん!?!?」
「え、今気がついたの?」
誰と話しているつもりだったのだろうか?
あ、顔真っ赤だ。って!!!
「きゅぅ…………」
「えぇ……気絶したのなんていつぶりに見ただろう?」
はぁ……。
とりあえずいっぱい考えすぎでショートしちゃったんだろうし、しばらく寝かせてあげよう。……添い寝したい気持ちを抑えつつベッドへと運ぶ。
「あ、やばっ!」
重っ!!
それなりに自己管理をするようになったせいで少し筋肉質な身体は私には重かった。潰されるような形でベッドへと倒れ込む。
…………。
「よいっしょっ!!」
「うぐぅ……」
こんな、感じかな?
今のままだと苦しいのでちょっとだけ移動。
ここかな?これなら苦しくない。
うん。私はね?彼方くんのことを運ぼうとしたの。本当だよ?ただ不運にもバランスを崩して倒れ込んじゃってたまたま動けない位置に来てしまったんだよ。本当だよ?
「だからこれも偶然、事故」
そんな不幸な事故から起こる添い寝だ。
誰も私を怒れないよね!
「おやすみ彼方くん」
「……ぐぅ」
「ふふふ」
幸せだなぁ。
いい匂いがする。
とても暖かくて、ずっとここに居たいようなそんな気持ちになれる。
「バカ!お兄ちゃんもっと静かに!」
「お前の方がうるさいぞ」
「……しまった……」
ルビーとアクアが騒いでいる気がする。
だがそんなことも気にならないぐらい心地が良いこの場所に居たい。せめてもう少し、後三時間ぐらい。
「……彼方……くん」
「ッッッツ!!!!!うぎゃあ!!!」
飛び起きた!!
あまりの衝撃でベッドから飛び退いてしまい、ゴツンッと床に頭をぶつける。
「え!?カナお兄ちゃん大丈夫!?」
「結構な勢いだったぞ今……!」
「いでぇ…………!!!」
「なになにぃ〜ふぁああ〜…………あ、やば」
俺はそれどころではない。
なんで、なんで!!!
「な!なん!な!!」
「言葉になってないじゃん」
「兄さんこれ何本に見える?」
「さん!!」
「大丈夫だな」
ってコントやっとる場合か!!
違う!なんでアイさんが俺のベッドに!?一緒に!?なんでぇ!?
「あ、あはは〜……その、彼方くん運ぼうとしたらバランス崩しちゃってさ……ごめんね?」
「バラ!いや、その!えっと……!ご迷惑をおかけしましたぁ!!」
部屋から飛び出す俺だった。
ものすごいスピードで出ていくカナお兄ちゃん。
うわぁ。たまに漫画みたいな動きする人だよなぁあの人。変なオーラ纏う時もあるし、人に催眠術でもかけてるの?って思う時もあるし。ママも色々とあれだが、あの人も色々とアレである。
我が兄ながらすごいな。
「やっちゃった……」
「えっと、何してたんだ?」
「気絶しちゃった彼方くんをベッドに運んだんだよ。そしたらバランス崩して倒れちゃって」
「ほう」
「どうせその後、誘惑に負けたママが添い寝しちゃったんじゃないの?」
「うぐぅ!!……ルビーは彼方くんが関わると言葉の切れ味結構鋭いよね……」
「そりゃママの次に好きだしね。あ、ちなみにカナお兄ちゃんの方がお兄ちゃんよりも好きだよ」
「おい、何で俺が引き合いに出されるんだ?無駄に傷つけようとしないでくれない?」
「ごめんごめん」
まぁ大方予想通りだった。
まったく、ママはもう少し考えるべきだと思うな。あのカナお兄ちゃんだよ?私たちが少しいじるだけでも恥ずかしがるような所があるのに……はぁ、この前といい一体何があってこんなに拗れてるんだか。
「一体兄さんと何があったんだ?最近関係性が微妙だけど」
「いやぁ……そのね」
ボソボソとママは話し出した。
ついにカナお兄ちゃんとキスをしたらしい。
……え!?ママってこんなに可愛いの!?いや、可愛いのは知ってるんだけど、こんな恋愛クソ雑魚雰囲気漂わせるの!?
「おまえ、碌でもないこと考えてるだろ?」
「何のこと?」
「多分だけど、ルビーに恋愛観について色々言われたくはないかな?」
「ママ言葉の暴力って知ってる?たまにとんでもないこと言うよ?カナお兄ちゃんみたい」
「えぇ〜?そうかなぁ?」
「「何で嬉しそうなんだ?この人」」
って違う!
今はカナお兄ちゃんだよ!
いつかママと結婚して欲しいとは思ってるけどスランプの原因がママって……どうするのこれ!?あの天才作家が何も書けなくなったとか……ママ別の意味で命狙われるんじゃない?
そんな想いが伝わったのだろうか?
「……まずいよね?」
「……正直、だいぶ」
「……とりあえず捕まえようか」
家からは出てないはずである。
あんな状態で外に出したら絶対に事故を引き起こす。確実に捕えて監禁せねば。
「お兄ちゃんは玄関ね」
「あぁ、まかせろ」
「私はカナお兄ちゃんのところ行くよ」
「ルビー、私は?」
「寝てて」
「寝てて!?」
だってママが行くと逃げるもん。
「ううううううう」
「で、連れて来たと……」
「だってこんな調子だと……心配だし。カナお兄ちゃんが事故でもしたら大変でしょ?」
「まぁ、仕方ないわね。いつも助けられてるんだし、たまにはこっちもお返ししないとね」
「ミヤコさん……俺、俺どうすれば」
「はいはい。彼方くんはこっちでパソコン叩いてましょうね」
「はい……」
苺プロにカナお兄ちゃんを連れて来た。
なんかお兄ちゃんがB小町に入れるつもりで今ガチに出ていたMEMちょを連れてきているが今そこに構っている場合ではないのだ。いや、今すぐに行きたいんだけど!!!もー、ポンコツになったら本当に普段の面影なくなるなぁ!!!
「MEMちょだー!ようこそ!B小町へ!!」
カナお兄ちゃんは隅っこで放っておいてMEMちょのところへとダッシュ。本物だ!可愛い!!
なんかアイドルやるのに年齢とかで悩んでたみたいだけどそんなの関係ないしね!憧れなんだもん!誰にも、自分自身にも止められないんだよ!
「……で、先輩は何してんの?」
「ちょっ!ちょっと、こっち!!」
「うわぁっ!」
「俺もか!?」
なになにどうしたの!?
先輩に引っ張られてカナお兄ちゃんとは反対の隅っこへと引き込まれる。一体なんだと言うのか。
「あ、あんた達!あの人!オパールさんと知り合いなの!?」
「え?うん」
「そうだが?」
「そ、それにカナお兄ちゃんって!え!?私女ですけど!?」
「オパールさんの本名だよ」
「カナお兄ちゃんが!?」
「違うよ」
「わかってるわよ!バカを見る目はやめなさい!」
うわぁ。めんどくさー……。
これ家が隣同士とか、昔っから家族のように暮らしてるとか、むしろ家に入り浸ってるとか言ったらどうなるんだろ?
「昔から面倒見てくれてるんだよ。俺たちの兄みたいなもんだ」
「あ、兄!?お兄さん!?」
「あー、うん。だからカナお兄ちゃん」
「後で自分から自己紹介してくれるだろうから言うけど、彼方って名前だからな」
「オパールさんの名前……知らなかった」
「表に出てくるの最近まであんまりなかったしね」
これまではオパールという名前だけが知られていた。最近やっと顔を出したりすることもあり、それなりに認知度は高まってるけどね。……そういや、父親から連絡きたとかで顔出し後悔してたっけ。
「あとで、改めて自己紹介しないと」
「そっか、先輩カナお兄ちゃんの物語に出てたもんね」
「あれがなきゃ私はもっと腐ってたわよ」
「あ、はい」
そんな鬼気迫る表情じゃなくてもいいじゃん。
にしてもまずいよなぁ。あのオパールがスランプってのを知られたら騒ぎになるかも……いや、この状態を見られるだけでもそれなりに不味いんだけどさ……いやぁ、苺プロに連れてくるのはミスだったかなぁ?
「まぁ、なるようになるか」
全部ぶん投げよう。
もう無理です!!
お兄ちゃんに呆れた目を向けられた気もするが、たぶん気のせいである。
お久しぶりです!オパールさん!と言いながらカナお兄ちゃんに話しかけに行く先輩を見ながら、私はそうすることにした。
「お前、本当そういうとこだぞ?」
「じゃあお兄ちゃんが何とかしてよ」
「……」
「目を逸らすな」
私も大概だと思うけど、お兄ちゃん大概アレだと思うよ?
鋭い?人が何人かいたので設定の一つを書こうと思います。
彼方くんですが、こいつ母親の優しい所を引き継いでいてクソ善人です。
ですが同時に父親のクソタラシな部分も無自覚に受け継いでいるので……。
オムファタールってまではいきませんが近い感じなのかなぁって。