一応彼方くんのオパールとしての才能というか、こんなん無理やろってチート能力というか、そんな所が出てきます。
これから先の東京ブレイド編でも彼方くんのチート能力を書くつもりです。
だからチート嫌いな人はごめんよ。
それはある日の夜のことだった。
「あ、アイさん。俺明日晩ご飯外で食べるんで、用意しなくても大丈夫ですよ」
「え?そうなの?」
彼方くんがそんなことを言い出したのだ。
まぁそれぞれ仕事があったりとするわけで、一緒にご飯を食べられない日は当然ある。それは世間一般の家庭でもそうだろう。だがうちは芸能界で働いてたり、作家だったりと少し特殊なこともあり、気を抜けば一緒の時間も取りにくくなってしまうので、できるだけ一緒にご飯を食べたいというのが私の願い。
「でも仕事あったっけ?」
こんな我儘を聞いてくれるみんなに感謝しつつ、彼方くんのスケジュールを書いてあるボードを見る。明日はどこかに出かける予定はなかったはずなんだけどなぁ?
「いえ、ちょっとしたお祝い?に呼ばれまして」
「お祝い?」
「はい。漫画を描いている人なんですけど、今度舞台になるみたいでそのお祝いに」
「へー。すごいね。なんて漫画描いてる人なの?」
「東京ブレイドですね。あ、あと今日あまの作者も来ます」
「へー……」
……女じゃない?
いや、東京ブレイドの方は知らないけど今日あまの作者って女だよね?アクアが最終回に出たし色々と話してくれた中で作者の女の人の名前聞いた気がするんだけど????
「なんて名前の人だっけ?」
「鮫島アビ子さんと、吉祥寺頼子さんですね。アビ子さんが俺のファンだったらしくて」
聞けば彼方くんが編集部に行っている時に偶然知り合ったらしい。そこで彼方くんがオパールということを知り、サインを書いたり逆に書いてもらったりとした仲らしい。漫画と小説で少し畑は違うが、それでもお互いの経験などを話す事が時々あったらしい。
「……知らないんだけど」
「ん?そうでしたっけ?」
「うん」
「…………」
あー!面倒になりそうだな。みたいな顔してる!!
彼方くん昔っから顔に出るから何考えてるかすぐわかるからね!?いいよいいよそうですか!私は面倒な女ですよ!!
「あー、その。今回は舞台のお話とかを聞きたいだけらしいんで……その、すぐ帰ってきますから」
「ふーん」
「あぁ、そんなにへそ曲げないでください。何が気に食わないんですか?」
べっつにー?
へそ曲げてるとかそんな事ありませんよ?
だいたい?作家達の集まりに私は入っていけませんし?先生達でどうぞ楽しんできたらいいのでは?
「あぁ、もう」
ふーん。
別に私は面倒な女ですし?
まだお付き合いもしてない私は、彼方くんが誰とお酒を飲もうと止められませんし?でもちょっっっとだけヤキモチぐらい許してほしいというか。
「今度一緒にどこか美味しいものでも食べに行きましょうか」
「……へ?」
へ?
「アイさんや、アクアとルビーを置いて美味しいもの食べに行くのは確かに申し訳ないですし。今度みんなで何か食べに「いい!大丈夫!!」はい?」
あ、違った。
焦って変な所で切ってしまった。
そうではないのだ。嫌と言っているわけではないのだ。
「今度!二人で一緒に行こうよ!ほら、約束の奢りもあるし!」
「あー……アイさんが絶対にバレない変装してくれるなら考えます」
「決定!!彼方くん大好き愛してる!」
「うっ!えっと、まだ待ってください」
やったー!!!
彼方くんとデート決定だぁ!!
いいよいいよ告白の返事ぐらい待ちますとも。こうして意識させるのが大事なんだし、一緒に出かけてくれるだけでも私は嬉しいのだから。
「ふんふんふーん」
鼻歌を歌いながら彼方くんのスケジュール表に飲み会と書き足す。そして私がオフの日全てにデート予定日と書き足しておく。ちなみにこちらが書きたい本命の内容だ。
「デートて……」
「男と女が二人で一緒に出かけるならデートだよ。気合い入れて変装するから期待しててね」
こちとら女優としても長年の経験があるのだ。
芸能人オーラを完全に消すぐらい簡単だし、目立たないように立ち回る方法もちゃんと習得済み。彼方くんとのデートを台無しになんてしないから安心してほしい。どこに行こうかなぁ。今から楽しみだ。
「んふ。んふふふふふ」
「楽しそうで何よりです」
「ンフー。あ、明日お夜食作っておくからね!」
「……助かります」
どうせ帰ったら仕事をするだろうしね。
それに遠慮していつもより食べ飲みしないだろうし、お腹が減らないようにちゃんと美味しいもの用意して待ってるね!
あぁ、デート。
本当に楽しみである。
次の日の夕方。
アイさんに見送られて家を出る。
まだ少し時間は早いよなぁと思いながら適当に街をぶらつく。新たな発見があれば経験になるし、こうして適当に歩くのはそれなりに好きだ。運動になるし。あと人混みには行かないけど。
「お?ここのカフェのメニュー美味しそう」
こんなところにカフェなんてあったかな?
今度アイさんと一緒に来て奢ってもらうのもいいかもしれない。なんかデートとか言ってたし。
「候補……だな。というか」
楽しみにしてしまってるなぁ。
なんて自覚する。これまでこんなふうに思う事はあっただろうか?これも愛を知っていってるって事だろうか?
そんなことを考えていると時間もいい頃合いだ。
待ち合わせ先であり会場である店に向かって移動を開始。もうすぐ着くとだけメールを送って歩いていると、少しだけ人が多くなってきた。これ以上多くなると嫌だなぁと思いながら店の前に着くと見知った顔がいた。
「お待たせしました。吉祥寺さん」
『今日は甘口で』の作者である吉祥寺頼子さんだ。
「あ!久しぶりね彼方くん!」
「そうですか?まぁお久しぶりです。アビ子さんは?」
「もう中にいるわよ。もう着くってメール来てたから迎えにきたの」
「あぁ、なるほど。ありがとうございます」
「ささ!今日は飲むわよ!」
「お手柔らかにお願いします」
そうして吉祥寺さんに案内されて店の中に入る。
どうやら個室らしく、仕事の話も大いにできそうである。
部屋の中に入ると『東京ブレイド』の作者である鮫島アビ子さんがいた。
「お久しぶりです。アビ子さん」
「お久しぶりです。オパール先輩」
「オパールも先輩もやめてよ……」
名前を知っているのだからそっちで呼んでほしい。
こんな所でオパール呼びは少し……ね?
「すみません。では絢瀬先輩と」
「君ら、このやりとり何回目?」
「「さぁ?」」
毎回恒例みたいなものである。
とりあえず早速仕事の話というのもアレなので適当に料理とお酒を注文して最近の話なんかをしている。
誰それが忙しいや、最近こんな所が気になってるや、本を読んだ感想など、色々と話していると今日の本題へと話が移っていく。
「では改めて。アビ子さん東京ブレイド舞台化おめでとうございます」
「おめでとう!」
「あ、ありがとうございます」
漫画もアニメも大ヒット中の東京ブレイド。
天才漫画家が呼んでくれたこの飲み会。
さて、話はなんだろうか?
「それで?今日はどうしたの?」
吉祥寺さんが本題を切り出してくれる。
「実は……」
アビ子さんの話。相談したい事は東京ブレイドの舞台の台本について。
おかしいと思った箇所が多く修正箇所をあげているらしい。だが修正されたものを確認するたびに酷くなっている気がしているようだ。
う、うーん。それなぁ、わかるなぁ。
「わかる」
「ですよね!!!」
「まぁでも。俺が呼ばれた理由は大体わかったよ」
「ごめんね。彼方くん」
「いえ。舞台化も結構経験はありますし……」
というのもだ。
原作者が脚本を確認できるタイミングはほぼ完成形になった段階。それまでの間にプロデューサーや演出家、その他様々な人が脚本を制作するために動いている。
もちろん、ここはおかしい修正してくれ。と言えば修正してもらえるのだが……原作者の意見が脚本家に届くまでに多くの人を挟むせいで伝言ゲームとなってしまう。俺たちが言いたいことなんてニュアンス程度でも届いているのか疑問なくらいだ。
「俺も最初の頃は痛い目見たなぁ」
「あー、有名よねぇ」
「オパール伝説の一つですね」
「伝説て……ただ自分で脚本書いてララライ雇って小規模でやり直しただけだよ」
「そのせいで多くの人が赤っ恥かいたんだけどね」
「それは言わないで。めっっちゃ怒られたんだから」
俺の初めての舞台化も酷いものだった。
こんなにも自分の意見が通らないのか?
これは俺の本が原作なのか?
勝手に作ったオマージュ作品ではないか?
なんて色々思ってしまい、自分で一から脚本の書き方を勉強して脚本を作り、勝手にララライや必要な人材を雇って小規模な舞台を自分でやり直しただけ。
それがたまたま見にきてくれたファンにささってしまっただけなのだ。正直にいうと成功したのは運が良かっただけ。そう思える程の経験を積めたよなぁ。だからこそ今は最初から打ち合わせとかにも出せてもらえてるわけだし……。
「まずだ。アビ子さんの意見を全て通すのは難しいと思う」
「どうしてですか?」
「アビ子さんは最近の舞台って見たことある?」
「……ないです」
「だろうね。すごいよ?子供の頃の誰もがやったお遊戯会のようなものじゃなくてさ。三百六十度全面モニターがあって映像演出を取り入れてたり、客席自体が回転したり」
アビ子さんを見る。
やっぱりよくわかってなさそう。
アレは驚きだったなぁ。黒川さんと知り合った時に色々と話したけど、あの子は体験型コンテンツって言ってたっけ?まさにその通りだった。
俺の中には体育館の舞台の上でちょこまかちょこまかしているイメージしかなかったからアレだけの規模のステージだとは全く思ってなかったし。
……まぁ、それを抜きにしても俺の物語は改変の嵐で酷いことになってたけどさ……。オリキャラ出てきたからね?誰コイツって思った時点で文句を言うのをやめたよね。
「一度行ってみることを勧めるけど……まぁ、それは置いておこうか。俺が言いたいのはね」
「はい……」
「脚本家と一度話す機会を設けたほうがいいよって事だけ。なかなか難しい事だとは思うけどね」
多くの漫画家にいきなり舞台の脚本を書けと言ってもおそらく書けない。
作家としての畑は一緒でも、育てているものが違うのだ。たとえばだ。俺は小説や脚本は書けたとしても新聞は書けない。ニュースの原稿も無理だろう。
それぞれ伝え方も違うし、書き方も違う。何でもかんでもはできないのだ。
俺はたまたま才能が多少はあって、俺の書いた台本でもやりきってくれる人にも恵まれたからこそ成功しただけだ。
「そう、ですか。……一度お願いしてみます」
「うん。じゃあとりあえずも一杯飲もっかなぁ」
とりあえず話は終わり!!
ビールにしよっかなぁ。
日本酒にしよっかなぁ。
なんて考えているとすぐ近くから黒いオーラが溢れているのが見えた気がした。
「……私の時なんて……」
「あ、あー、でも最終回はすごい良かったですよ」
「……ほんとに?」
「はい。ほらあの時出てたアクアくんっているでしょ?あの子知り合いなんですよ」
「そうなの!?」
「えぇ」
ごめんよアクア。
ただ俺の近くでこんな黒いオーラ出されるのは遠慮したかったのだ。まぁこんな事を言っても特に何かあるわけではないしいいよね。一応黙っててって釘は刺しておくし。
こうして今回の飲み会はお開きとなる。
もっと相談に乗ってあげるべきなのだろうが、これはアビ子さんが解決していかないと納得できないだろうし。俺ができる助言はこれぐらいだろうしな。
数日後。
俺はルビーに許可をもらい、女の子がアイドルを目指すという話を書こうとしている。
「さてと。始めますか」
クッションを抱えてソファに寝転び目を閉じる。
意識を、深く深く沈ませていく。
すると水の中に入ったかのように周りの音なんかが遠くなっていく。深海のような暗い中で記憶のピースを少しずつ集める。
ルビーの言動。
ルビーの夢。
アイさんから聞いたアイドルの話。
夢が溢れるようなキラキラしたものから、そうでなく暗くてドロドロしている様なものまで全て。
それらのピースを集めるたび、だんだんとあたりが明るくなる様に感じる。それと同時に俺の頭の中には多くの文章が浮かび上がり物語となって構成されていく。
「……あー、これは」
ノイズが走る。
たまにあるんだよなぁ。
前はサスペンスものを書いた時だったかな?
多くの未解決事件とかを調べたりしてたなぁ。
っと、まずいまずい。思考が逸れていっている。
そう思った時だった。
「ッ!」
ゾクリと嫌なものを感じた。
思考の海にいる自分の背後に、ナニカがいる様な気がする。何かが引っ掛かっているのだ。多くの記憶のピースが絡み合って、何かを掴めそうなのだ。
暗くて、不気味で、ドロドロとしてて。
だんだんと考えるスピードが上がっていくのを感じる。頭が痛い。熱があるみたいに体がだるくなってくる。
「……なに、これ」
たしか、アイさんの話を思い出している時にノイズが入った。なら、アイさんの話の中に答えはある。
どれだ?
B小町。
アイさんが子供の頃に加入したアイドルグループで、初期メンバーはアイさん、高峯、ニノ、渡辺。
数ヶ月後には七人グループとなる。
アイさんが中心で、アイさんがいなければそれなりの人気しか出ない様なグループ。
最初の頃は仲も良くて、でも段々とアイさんがいじめられる様なことになってきて。
そこにはアイさんへの妬みや嫉妬。負の感情があって……。
「…………」
背後に居るナニカの形が明確になっていく。
アイだけが特別。
アイのおまけ。
アイだけが……。
アイさんのピースを手に取る。
アイ。アイアイアイアイアイアイアイアイアイアイアイアイアイアイアイアイアイアイアイアイアイアイアイアイアイアイアイアイアイアイアイアイアイアイアイアイアイアイアイアイ。
『完璧じゃないと許さない』
ガバリと立ち上がる。
向こうから話しかけられたのは初めてだった。
アイさんのピースを手に取った時、背後から掴まれてナニカ……誰かの囁きが聞こえた様な気がする。
……所詮は俺の勝手なイメージ。
俺が脳内で作り上げてしまったナニカ。
でもやけにこびりつく。掴まれた場所も疼く。
ドロドロとしたノイズ混じりの声が耳に残る。
「貴女は誰なんだ?」
ごめんルビー。ちょっと書けないかもしれない。
多くの人が読んでくれてるからこそ正直どうなんだろうと思ってしまう。
けどこのままだと推しの子の闇成分無くなっちゃうからね……。ごめんやで。