どうやら、俺の隣人はアイドルだったらしい。   作:クウト

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書き出したら楽しくなっちゃった。
いつの間にか外が明るいよね。寝よ!!
多分お休み中はこれが最後かなぁ。明日というか、今日は部屋の掃除もしたいしな!


オパールの世界

「アクア。ちょっとだけいいかな」

 

「ん?あぁ、いいけど」

 

「有馬さんごめんね。ちょっとだけアクア借りる」

 

「え?あ、はい!」

 

まずはアクアを呼び出す。

有馬さんには悪いけど少しの間だけ借りることにしよう。アクアを連れて稽古場から出て別室へと向かう。ちょっとした休憩スペースのような場所だ。

 

「ここでいっか」

 

「何するんだ?」

 

「……まぁ、ちょっとした相談。……何だけど」

 

君達はどうしてついてきているのだろうか?

俺はあかねさんと有馬さんに視線を向ける。

サッと目線を逸らすあかねさんに、こいつが行くなら私もいくと言わんばかりの視線を向けてくる有馬さん。ため息つきたいんだが……。

 

「まぁいいか。……邪魔だけはしないでね?何が起きても絶対に」

 

「ひっ!わ、わかりました……」

 

「は、はい……!彼方さんの邪魔はしません。絶対に」

 

あれ?何でこんなに怯えた表情をするのだろうか?

俺と接する機会が少ない方の有馬さんはともかく、あかねさんまで怯えている。……まぁ、今は気にしてもしょうがないな。

アクアを対面に座らせて俺も座る。

不思議そうな顔をしているアクアに俺は少し躊躇しながらも話を開始した。

 

「アクアはさ。俺が、ちゃんと星野さんと会った時のこと覚えてる?」

 

アイさんとは言わず星野さん。

この場にいる有馬さんはアイを知ってはいても、星野アイのことを知らないからなぁ。現状公表していないからあんまり広めるわけにはいかない。

だからこそアクアと二人きりになりたかったわけだが……俺のやる事ってうまいこといかないな。

 

「え?あ、あぁ。覚えてるけど」

 

アクアもいきなりこんな話をしたせいで少し戸惑っている。ここでする話じゃないだろ?とでも言いたげだ。

俺としてもこれは帰ってからやりたいのだが、ただでさえ時間に余裕がない……。この後も稽古はあるし、それに間に合うのならそうした方がいいという判断で今ここにいる。

 

「あの日、俺が星野さんにやったことは……覚えているか?」

 

「……あぁ、覚えてるよ」

 

……本当に、賢い子だなと思う。

俺が今からやろうとしていることを大体察したのだろう。じっとこちらを見つめる星の瞳には、覚悟のようなものが見えた気がした。

 

「アクアは昔から……優しいなぁ」

 

そう言いながらクスリと笑う。

俺の考えていることが当たっているのなら、この高校生は俺よりもずっと立派な大人だと思う。

 

「兄さんほどじゃないよ」

 

「いや、そんな事ないよ」

 

事実……俺は少し怖がっているのを自覚している。

アクアの成長が見れて嬉しくて、温かい気持ちになれる彼方の心。さらに一歩踏み出して役者として成長する姿が見れることに歓喜しているオパールの心。

最悪を想定してしまって、全てが壊れてしまったら俺はもう生きていけないかもしれないという彼方としての恐怖。それでも俺の物語を最大限に表現してくれる可能性がある役者が生まれるかもしれないというオパールとしての狂気。

 

「兄さん」

 

「……」

 

「やってくれ」

 

「……あぁ、わかったよ」

 

大きく息を吸い込む。

あぁ、かつてないほどに嫌だなぁ……。

俺は俺の中で、さまざまな感情や思い出をくれた大切な人。愛していると心から思えたアイさんを殺さないといけないのだから。

全部、絞り出すように息を吐き出す。

 

「今から……」

 

今から貴方は……。

バチリと頭の中にノイズが走る。

雑音全てが消えていき、彼方が薄くなっていく。

物語を作ることだけに特化した脳が動き出し、濁流のように溢れ出る物語。それは俺の制御を簡単に外れて暴走し続け、何度も何度も大切な人を、アイさんを殺していく。

腹の中の全部がでてきそうな程の吐き気に襲われる。目の前がチカチカと明滅する。俺にとって、今の時間は幸せで、この人達に出会えたからこそ今を生きているのだと改めて思える。

目の前のアクアが立ち上がりそうだ。

俺を心配して伸ばしてきた手を掴む。

大丈夫。俺、これに関しては……天才だと自分でも思えるから。だから最後までやりきれる。やりきってみせる。

彼方を消して、オパールとしての俺の全てを絞り出す。大丈夫、いつもなら相手だけだけど、今回は俺もお前と一緒に俺の世界へ沈むから。一人になんてさせないから。

 

「今から貴方は……」

 

俺と、地獄を巡ってもらいます。

 

 

 

兄さんに連れられ、たどり着いたのはたまに使う休憩室。いつもより暗い雰囲気の兄さんが気になるが、促されるままに俺は兄さんの対面へと座った。

なぜか着いてきた黒川と有馬もいるが……何できてるんだこいつら?まぁ少し考えれば黒川は兄さんについて行きたいのと、黒川が行くなら私もいくとばかりに対抗心を出した有馬もついてきてしまったってことだろうけど。

 

「……邪魔だけはしないでね?何が起きても絶対に」

 

俺が少し考え事をしていると、兄さんは黒川と有馬に釘を刺していた。いつもと違う雰囲気に気圧される黒川と有馬。

……仕方ない事だと思う。

いつもの優しい兄さんや営業用のようなオパールではなく、絢瀬彼方が薄くなり、作家として本気になっていこうとしているオパールだからだ。

邪魔をする者は誰であろうと容赦しない。

自身のテリトリーに入って来ようとするな。

そんな想いを煮詰めたような感情を真正面から当てられたらそうもなる。

 

「あの日、俺が星野さんにやったことは……覚えているか?」

 

「……あぁ、覚えてるよ」

 

……薄々気がついていた。

俺は感情演技が得意ではない。

今回の舞台もそうだ。刀鬼を演じるにあたり、場面場面での欲しい感情は理解できても、それを大きく表現するとなると手間取ってしまう。

母さんや兄さんを筆頭に、いろんな人が俺の演技を褒めてはくれる……だが自分でわかっている。俺にはこの世界は向いていないと。

だから兄さんは……あの日のように。

母さんに自身が死んだ時のイメージを見せたアレを俺にしようとしているのだ。どこか辛そうな兄さんを見て、それはすぐに理解できた。

 

「兄さん」

 

「……」

 

「やってくれ」

 

そんな兄さんの想いに、優しさには応えなければならない。あの日、俺たちに語りかけたわけでもないのに見てしまったイメージを思い出して体が震える。だけど逃げるわけにはいかないのだ。

俺は、尊敬している兄の想いに応えたい。

 

「今から……」

 

始まる。

あの日のように兄さんがアイにやったように、俺にオパールが見えているものを見せようとしている。

そう思い、覚悟を決めた時だった。

 

「兄さん?」

 

目に見えてわかるほど、一瞬で汗をかき出す。

体が小刻みに震え出して、何度も吐きそうにえづき出す。気を失うのではないかと思うほどに上半身がふらつき始めた。

止めないと。

 

「兄さん!!」

 

そう思い手を伸ばす。

正気に戻さなくてはならない。

今すぐ止めないといけないと前世の医者としての自分が警鐘を鳴らす。

そんな俺の手を兄さんはガシリと、とんでもない力で握りしめた。あまりの力に腕を引きそうになった時。

 

「今から貴方は……」

 

兄さんと目が合う。

その瞬間、俺は暗い水の底に沈められたような気がした。

 

 

 

『ルビー……アクア……愛してる……』

 

『この嘘つきがぁ!!』

 

『お兄ちゃん!!!』

 

『ルビー!!』

 

『ドーム公演おめでとう』

 

『アクア!アクアぁ!!』

 

『あは!あはははは!!!!』

 

世界が、何度も何度も作られては消えていく。

これも違う、あれも違う。これは全てあったかもしれないだけのそんな世界。現実の俺たちは、ずっと幸せに生きている。

 

『やだぁ!ルビー!ルビーぃ!』

 

『アイ!アイ!!どうして!!こんな!!』

 

『ママァ!』

 

呆然と全てを見つめる。

俺があの時引き返さなかったら?

俺が別の家に住んでいたら?

いや、俺が殺された後に星野家に行く未来もあっただろう。

何もかもが奇跡で、全部が都合が良く進んで、偶然この世界に辿り着いた。あったかもしれない最悪に俺達は進まなかった。

なぁ、アクア。

この世界は奇跡でできている。

奇跡が起きたから、愛を知れた人がいた。

奇跡が起きたから、復讐の為に生きずに済んだ。

奇跡が起きたから、全てを投げ出して死なずに済んだ。

 

「なぁ、アクア。怒りも悲しみも抱えず、自分をすり潰さずに生きていけて、無力と後悔に焼かれることもない」

 

そんな奇跡。

もしアイさんが死んだら、俺達はみんなこんな未来に辿り着けなかったんだ。

俺の目の前には出会った頃と同じぐらいの、小さい頃のアクアがいた。小さなアクアのそばで膝をつき、血で汚れたアクアの顔を拭ってやる。

苦しくて辛くて、悔しくて悲しくて、ただ大切な人に会いたいとそれだけを願い、傷つきながら生きていくアクアを優しく抱きしめる。

 

「大丈夫。全部、全部ただのイメージだ。架空の、空想の物語だよ。目を覚ませば今もアイさんは生きているし、それにほら」

 

俺たちの目の前で何度も殺されたアイさんに目を向ける。星野家のリビングに続く扉にもたれかかるように死んでしまっていたアイさん。

俺とアクアがそちらに視線を向けるとパチリと両目が開き、輝きをなくしたはずの星が輝いた。

 

「ア……イ……?あ、あぁ……」

 

そっと、アクアの背中を押す。

小さなアクアは大泣きしながらアイさんに駆け寄る。アイさんの名前を何度も呼んで、見たことがないぐらい大きな声で泣くアクア。

そんなアクアを優しく抱きしめながら、いつものと同じテンションでこの程度で星野アイは死なないと言って安心させようとするアイさん。

 

「……もう、いいかな」

 

かつて見たストーカーを消す。

あたりに散らばった見たくもない死体を消す。

最悪なイメージ全てを消していく。

そして最後に、いまだにアイさんに抱きついて泣き続けているアクアの元へと向かった。

 

「さぁ、戻ろう」

 

こんな嫌な所からはさっさと戻ろう。

もう俺も限界だ。これ以上はもう無理だ。

優しくアクアの髪を撫で、アクアを俺の世界から消す。そして最後にアイさんを消す。

 

「ありがとう。彼方くん」

 

「え?」

 

消えていくアイさんは俺に笑顔を向けていた気がした。

 

 

 

目を覚ます。

俺とアクアは同時に立ち上がり、黙ってこちらを見ていたあかねさんと有馬さんを押し退けてトイレへと走る。そしてほとんど同時にトイレへと辿り着き胃の中の全てを吐き出した。

もう何も出るものがなくなっても、それでもえづくのが止まらない。トイレの向こうから俺達を呼ぶ声もするが気にもしてられないほどに自分たちのことで精一杯。

 

「さ、さい……あくだ」

 

向こうから聞こえてくるアクアの声。

少しおさまってきたのだろうか?

 

「ご、ごめん」

 

俺も何とか返事をして一言謝る。

 

「この、クソ。ルビーまで、巻き込みやがって」

 

「途中まで、とめれ、なかったんだよ……くそ!」

 

「それ、ルビーにやったら、ぶん殴るからな」

 

「お、おけ。……そんときは、遠慮すんな」

 

やっと吐き気も治ってきた。

だが異常なまでの脱力感は治ることはない。

しばらく俺たちがトイレで蹲っていると、あかねさん達が呼んでくれた金田一さん達がやって来て俺たちを回収してくれた。

顔面蒼白で、震えもあって、まともに稽古もできないと判断された俺たちはこの日はもう帰ることになったけども、アクアは掴んだものがあったようだ。

突き飛ばしてしまったあかねさん達も怪我はなかったようで、謝る俺たちを心配してくるほどだった。ごめんね。今度何か差し入れするし、俺にできることならある程度は叶えるよ。

はぁ、とにかく休もう。

もう限界。

 

「ねぇ、彼方くん?ちょっとお話があるんだけど」

 

……あ、どうやら俺はここまでらしい。

明日を無事に迎えることができればいいな。

そんな奇跡を願いながら俺の意識は遠くなっていくのだった。




彼方がオパールとして邪魔すんなよ?とあかねちゃん達を睨んだ時、どえらい目しとったんだろうなぁなんて。

さて、彼方くんがオパールとして本気で星野アイにもしかしたら起きたであろう過去を見たわけですが……。
ちょくちょくこの逞しい妄想が暴走していくんだろうなぁ。楽しくなって来たなぁ。
まぁそれ書くのはまだ先なんですけどね。

とりあえず彼方くんはアイさんに怒られて。
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