そんなわけでアイさんたっぷりでお送りします。
今日はお昼からオフ。
その為、私は自分の家である星野家の方でゆっくり過ごしていた。彼方くんの部屋にばかりいる私たち家族だが、自分の家でも勿論過ごしているわけで。掃除だったり何かしらの娯楽だったり、彼方くんにはちょっと見てほしくないような隠れて影でしておきたい女としての努力だったりと色々としながら過ごしていたわけだが……。
愛しい息子が真っ白な顔で帰って来た。
「ア、アクア?大丈夫?体調悪い?」
「……あ、母さん。……ただいま」
「うん、おかえり。稽古中に何かあった?私にしてほしい事はある?」
「大丈夫。……ちょっと休めば、何とか」
そう言って私を安心させようとするアクア。
見た感じ熱とかはなさそうだけど……あまり母親を舐めないでほしい。無理して笑顔を作ろうとしているのは分かるし、無意識のうちに私を掴んでいる手は震えていた。
これで休めば大丈夫なんてよく言えるよ。
「何があったか分からないけど、大丈夫、安心していいよ。ここにはアクアを害するようなものは何もないからね」
そっと抱きしめる。
……こんなに弱っているアクアを見るのは初めてかも知れない。いつもクールで、小さい頃から賢くて頼りになって、母親として未熟すぎた私をそばで支えてくれていた大事な子。
そんなアクアが震えながら静かに泣いている。
何があったのだろうか?
考える。
私には彼方くんのように物語を作る能力なんてないけれど、それでもこの業界でやってきた経験から何となく察せるものはある。
アクアが演じる予定のキャラは、アクアが苦手とする大きい感情表現があった。
たぶんだけど、それだよね。今日は彼方くんも顔出すって言ってたし……今更感あるけど、一応部外者のはずなんだけどなぁ。
「彼方くんと、何かあった?」
「……ッ」
ピクリと反応がある。
当たりだとすぐにわかった。
……全く。いくら大好きな彼方くんであっても、ウチの息子をこんな状態にして泣かすなんて簡単に許す事はできない。ちょっと文句を言ってやらないと母として収まりがつかない怒りが湧き上がる。
任せてアクア。
あのおバカは私がきっちりと成敗するからね。
「よしよし」
でもまぁ今はアクアを優先。
こんなに甘えてくれることも久しく無かったし、今は存分に甘やかしてあげるとしよう。また次も自分で立てるように、私はしっかりと寄り添ってあげるからね。
あれからやっとアクアが落ち着いた。
私は何があったのかを全て聞き出した。いやぁ、ウチの子は本当に素直だなぁ。反抗期らしいのもないし、私の言うことはしっかりと聞いてくれるし、隠し事なんて絶対にしない。
ちょっと本気で聞き出すだけでぜーんぶ丸裸に話してくれる。なぜか少しだけ震えていたのは気のせいだろう。
「さてさて、諸悪の根源も帰ってるんだよねぇ」
ガチャリと彼方くんの部屋の扉の鍵を開ける。
あらら。ダメだよ?こういう時はチェーンまでつけておかないと私みたいなのが入ってきちゃうからね?
絶対に自分の部屋にはいない。
彼方くんもダメージを負ってたらしいからね。そんな時は絶対にリビングで力尽きている。その確信があるからこそ私は一目散にリビングの扉を開けた。
「ねぇ、彼方くん?ちょっとお話があるんだけど」
「ヒィッ!!」
何でそんなに怯えた顔をするのだろうか?
おかしいよね?こーんなに可愛い顔なのにね。
ソファに寝転がっていた彼方くんの元へと向かい、逃げる前に体の上に馬乗りになって体重で体を押さえ込み、手で彼方くんの顔を固定して私の方に向かせる。視線を逸らすことも許したくないから顔も限界まで近づける。
っと!そんな気を失いそうにならないでよ。まだまだ私は彼方くんと話すことがいっぱいあるんだからさ?
「おかえりなさーい」
「た、ただいま戻ってました」
「やってくれたね?」
「うぅぅっ!!!」
前置きなんてしない。
単刀直入だ。絶対に逃さない。
あ、こら。目を瞑るのもなし。
こっちを向けと言わんばかりに頬に当てた手に軽く力を込める。するとわかってくれたのか諦めて目を開けてこっちを見る彼方くん。
それでいいよ。ほら、早く話そうよ。
「お仕事お疲れ様〜。随分と楽しかったみたいだね」
「いや、あの」
「アレ、アクアにもやったんだって?随分と追い詰められたような顔で帰ってきたんだよ?私も過去にやってもらったからさ。アレの凄さは……って」
今気がついた。彼方くんの顔も顔色が悪い。
怒りに飲まれたせいですぐに気づく事はできなかったけど、様子がおかしい。あの彼方くんが誰かを自分の世界に引き込むだけでこんなことになるなんてあり得ない。
いったい何を見せたの?
「アイ……さん」
「ん?え?ちょっ!彼方くん大丈夫!?」
彼方くんの目からボロボロと涙が溢れてきた。
ギュッと抱きしめられてドキッとしてしまう自分が少し憎い。そんな場合ではないというのが分からないのかと。
「ごめん、なさい。……ごめんなさい」
消えそうなほど小さな震える声で、泣きながら謝り続ける彼方くん。それを聞いて一瞬思考が停止する。
…………………。
いやいやいやいや!!何があったの!?
そういえばどんな内容のものを見せたのかは聞いていなかった。アクアにはオパールの世界を見せられて苦しかったと、今がどれだけ幸せなのかという事だけしか聞いていない。
深呼吸。
冷静でいなかった自分を自覚して切り替える。
「とりあえず、落ち着こっか」
謝り続ける彼方くんを落ち着かせるように頭を撫でる。頬に当てていた片手は頭に、もう片手は体に回して抱きしめる。馬乗りになってしまっていた体も体勢を変えて寄り添うように寝転がる。
「大丈夫だから」
怒っているのは確かだが、話し合いもできないこんな状態の彼方くんを放っておくなんてできない。
はぁ、これって惚れた弱みとかそんなやつ?
とりあえず怒りは一旦置いておこう。
今は愛しい人が泣き止むまで寄り添う。
そうすることにしておこう。
「わ、私が死ぬイメージを何度も見せたぁ!?」
いやいやいや!!いくら感情演技をするためとはいえ、なんて事をしているだろうかウチの男ども……いや、彼方くんは!もっと他にやりようがあるでしょう!!
「ごめんなさい」
「……はぁ……」
私をギュッと抱きしめる彼方くん。
まるで小さな子供が落ち込んでいるようだ。そしてそれを抱きしめ返す私の気持ちに少しだけ嫌になる。
……嬉しくなるな私。
…………う、うわぁ、可愛いんですけど……!
だ、だって仕方なくない!?泣きやんでも抱きしめるのが終わらないんだよ?……これ、座ったらいい感じにもっと甘やかせれるのでは?
「ほ、ほら、そろそろ座ろ?ね?」
「はい……」
私を抱きしめていた手を離し、ソファに座った彼方くん。そしてそこにすかさず私が彼方くんの膝の上へと座って彼方くんを抱きしめる。
「あ、アイさん!?」
「いーからいーから」
「うぇあ!?」
え、えへへへへへ。
やばぁ。役得すぎる。
あんまり過激な事をしたら恥ずかしさのあまり逃げられるし、あくまで落ち着かせて慰めるのがメインでいなければならない。だから焦るな私。脳内で押し倒してもいいんじゃない?とか言ってる私は一回黙ろうね。
「やり方は酷かったかもしれないけど、二人が納得してしたんだよね?」
「……はい」
うわぁ。彼方くん本当にいい匂いする。
この家のシャンプー私と同じものに変えてたはずなんだけど?なんで?それに頬にあたる髪の毛もサラッサラだし……アクアもだけど本当に男の子の髪質なの?ずっと頬ずりしておきたいんだけど?
「反省はしてるんでしょ?ならもう多くは言うつもりないよ」
「で、でも!」
「もういいって言ってるでしょ?大人しく受け入れてたらいいの。その代わり絶対にいいものに仕上げてあげてね?」
「……はい。力の限り尽くします」
「よろしい」
本当によろしい最高ですありがとうございます!
うへへ〜。ごめんね彼方くん、アクア。私もう色々とダメな事自覚してるけど止まれませーん。
そんなわけでいただきます。
「うひぃっ!!」
カプリと彼方くんの首筋を噛む。
カプカプと甘噛みをして好きな人の首筋を堪能し、絶対に逃げられないように体に力を入れて押さえ込み、さらに強く彼方くんを抱きしめる。
「あ、アイさん!?やめ!くすぐったい!」
「んー?ひゃめ〜」
「咥えたまま話さないで!!てか、ダメじゃないです!離してください!」
はーい。
あむあむと甘噛みをしてペロリと舐める。
「な、舐めるな!!」
「んふふふ」
今の彼方くんは言葉では強気でも、罪悪感が残っているせいで行動には出れないでしょう?こんな据え膳状態……食わないなんて女の恥だよね?
「ひゃば〜」
「だから話さないで!声の振動がくすぐったい」
はーい。
「……無言で集中して甘噛み続けるな!」
「……もー。彼方くんはうるさいなぁ」
「な、何してんですか本当に!!てか、あれ?はな、離して!!」
「……うわー。どうしよう。彼方くんがエロく見えてくる」
「は?」
「首筋が唾液で濡れてるのもグッとくるし、顔真っ赤なのもその、興奮するんだけど。それに必死なのももっと見たくなってくるし」
「アクアぁ!ルビー!助けてぇ!!」
「ざんねーん。アクアは家でぐっすり寝てるだろうし、ルビーはまだ帰ってきません」
絶望したような表情をする彼方くん。
や、やだなぁ。そんな顔されるとちょっとだけ傷つくんだけど?これでも一応女として魅力的だと思ってるし、それなのに好きな人にそんな表情されると自信無くしそう。
だから。
「お仕置きです」
「やだぁ!!」
大人しく受け入れてね。
それに、ほら、ね?
こうして発散しておかないと本当に襲っちゃうから……だからこれは彼方くんのためでもあるんだよ?ね?だからね?
首で我慢するから許してね?
数日後。
アクアの演技は見違えるように良くなった。
実際に金田一さんも、まだまだ荒いけどいい傾向だって褒めていたし、あかねさんも俺のやったアレはやっぱりすごいと絶賛していた。
まぁ、あの時は俺たちの姿を見てすごく焦っていたらしいが……俺たちを止めようとする有馬さんを止めるのが大変だったとため息をついていたのが印象的だった。ジュースでも奢るから許して。
あぁ、あの日暴走したアイさんだが、帰ってきたルビーに雷を落とされていた。
そりゃそうだろう。
うちに帰ってきたらソファに固定されて抜け殻のようになっている俺を襲っている母親がいたんだぞ?
『な、何してるの?ママ……』
『!?る、ルビー?あれ?もうそんな時間?』
『……』
『そのカナお兄ちゃん。なに?』
『え、えっと〜……てへ!』
『可愛いけど正座ぁ!!』
『ご、ごめんなさぁい!』
気がつけば正座したアイさんにキレ散らかすルビーがいたのを見た時はフリーズしてしまった。
しばらく理解が追いつかなかったし。
にしてもあかねさん?あんまり首筋見ないでね?ほら、その、人吸い妖怪にやられただけだから。
アイさんですか?なんて聞かないで!!
流石に本格的には食わないよ?
まだまだじっくりコトコトしてからです。
美味しく調理して美味しくいただいちゃいましょうね。
ただ調理過程で味見って重要だからね。仕方ないね。