ここまで続けるつもりなかったからなぁ。
色々とこの後の展開に困る俺でした。
どうすればよかったのだろう?
もうどうしたらいいのかわからない。
消えてしまう。
もうこの業界にはいられないかもしれない。
そんな不安に襲われていた頃だった。
『思いっきりやってくださいね』
抱えていた不安が軽くなった気がした。
『私が一番とばかりに演じてください。あそこにいるアイさんよりもずっと大きく輝こうとしてください』
真っ暗な場所に光が差した気がした。
『大丈夫。貴女がそれをできることは知っています』
強く揺さぶられた感情。
もっと自由にやっていいのかという開放感。
あれからすぐにこれではいけないと思い直したけれど……あれはオパール先生がいたからこそだと、私なんかとは違う天才が見せてくれたひとときの夢だと思うことにしたけれど……。
私は確かに、あの時救われたのだ。
アクアとルビーが中学に上がる頃だろうか?
有馬さんには俺の物語に出てもらったことがあるのを思い出す。
まだアクアとルビーが小さい頃、泣きの演技で有名な子役だった有馬かなさん。多くのドラマや番組に出ていて、俺でも知っているほどには有名だった。
いい演技をするなぁ。俺の物語に合う子はいるだろうか?なんて考えた事もある。
ただ子供はすぐに大きくなっていく。
それは有馬さんも例外ではない。時間が経つごとに徐々にだがテレビで見ることは少なくなっていった。俺自身も仕事に追われて天才子役の事も忘れた頃、リビングにいた俺の耳にルビーの声が聞こえた。
『あ、重曹を舐める天才子役』
ルビーは何を言っているのだろうか?
パソコンのモニターから顔をあげてルビーの方を見た。ルビーは俺がBGMの代わりに聴いていただけの歌番組を見ているようだった。
そこで歌っていたのは有馬さん。
あぁ、この子仕事がなくなっていってるんだな。
そう思ったと思う。
そして直前まで仕事をしていたからこそ、オパールとしての脳が動き出す。元気に笑顔を振りまき歌っている子供は微笑ましくて、でもどこかちょっとだけ無理をしているようにも見えた。他にも一気に湧き出した考えもあるけれど、真っ先に浮かんだ事。
『あ、この子あの役に良さそう』
『何か言った?カナお兄ちゃん』
『何もないよ。それよりジュースでも飲まない?』
『飲む!何飲もっかなぁ〜カナお兄ちゃんは何にする?』
ルビーはすぐに興味を持ってくれるな。小さな呟きにも反応してくれるぐらい近くにいるのは嬉しいんだけどね。でも仕事の話をすると興味がちょっと薄くなるからなぁ。まぁとにかく今度の会議で言ってみよう。
ありがたいことにこの程度の我儘なら聞いてもらえるだろうしな。泣き演技で有名だった子だから疑問に思われる可能性はある。けれど俺は覚えているのだ。
自分勝手で太陽のように輝いて、多くの視線を独り占めしてしまう天才子役の姿を。
それはそうとルビーちゃん?重曹を舐めるって何?悪口なら星野さんに報告しとくからね?
なんてことがあったよなぁ。なんて思い出す。
「わ~すごいねかなちゃん」
「シー」
「はーい」
アイさんを黙らせる。
……確かにすごい。
有馬さんは演技に対する強い思いがある。
長い経験からの実力もあり……だからこそあんなつまらない事ができてしまう。いや、言葉が悪いな。だってあれは正解の演技なのだから。
舞台上で輝きを増していくあかねさん。
その強い存在を強調する為に有馬さんがあかねさんの演技を受ける。
器用なことをする。現場の流れに臨機応変に対応できて、自身を舞台装置にすることができる……それが過去に天才と呼ばれた有馬かなという役者。本当に使いやすくて、制作側からしたらありがたい存在だと思う。
けれど。
「面白くないんだよなぁ」
この会場の中に、つるぎの事が好きな人はどれだけいるのだろうか?その人たちはこう思うんじゃないだろうか?
負けるな。
負けるなつるぎ。
鞘姫に負けるな。
原作の流れは知っていても、あれだけの熱量を当てられている俺たちは強くそう思ってしまうのだ。
……作品をなんの問題もなく終わらせることが俺たちの仕事。けれどそれでも。俺はもっと本気のぶつかり合いが見たい。
だって俺は東京ブレイドのファンだから。
ブレイドも、キザミも、刀鬼も、鞘姫も。
そしてつるぎも……出てくるみんなが好きなのだ。
ならばファンとして、好きなキャラにはもっと活躍してほしいと思うのは当然だろう?
舞台が次の場面へと変わる。
「もっと」
もっといいものを見せてくれ。
劇団ララライの看板役者。姫川大輝。
真正面からぶつかってわかる。思い知らされる。
一つ一つの動きに感情が乗り、その情報の塊に圧倒されかける。……本当に格の違いを見せつけられるな。
だから。
才能がない俺は同じ土俵で戦うつもりはない。
熱を受け流す。
楽しもう。もっともっと、熱くぶつかり合おう。
そんな感情を叩きつけられる。
『つ、次……行くからな』
演技中ではあるが、稽古中の兄さんが頭によぎる。冷却シートを貼り付けて満身創痍と言わんばかりの表情の兄さんを思い出す。
……人よりも多く兄さんの世界を見せられた。誰よりも面倒を見てもらった。
ゲームのレベルアップアイテムを使っている気分になってしまうが、情報量の塊をぶつけられた経験は誰よりもあるのだ。
……俺は誰よりもこの場を冷静に対処できるという自信がある。
それだけは、誰にも負けるわけにはいかない。
「避けろ!つるぎ!!」
有馬が姫川さんに突き飛ばされる。
アドリブだ。
大丈夫、対処できる。
飛ばされてきた有馬を受け止めた。……少し焦った顔をしているのが少し面白い。安心してくれここから引っ掻き回してやる。
「女……遊んでいる場合か?」
やるぞ黒川。
岩戸に引き篭もったクソニートを引き摺り出すぞ。
アドリブだ。
私を突き飛ばして全投げした姫川さんにはドン引きだが、私がなんとかするしかない。
だからアクア!上手く合わせなさいよ!
なんて思っていたのだが……。
「命を賭して死に合うのは男だけでいい」
え?あれ?
こんな芝居は台本にはなかった。
まぁ姫川さんのせいだけど……。
「男に守られなければ戦場に立てない様ならば、今すぐこの場を去れ」
アクア……こんなに受けが上手かったんだ。
アドリブを入れつつ不自然にならない様に台本に合流。……あぁ、どうしよう。さすが長年あのオパールと一緒に過ごしてきただけはあるのかしら?
あの日の様に自分がブレそうになる。
……オパールの力はすごい。自身のイメージを共有させる?なにそれ、なんて超能力?それ、どれだけの人が欲しいものか分かっているのだろうか?
……でも少しだけ。少しだけなら私達役者もできる時がある。オパールほどしっかりしたものではないけれど、それでも演技を通じて相手の想いや感情を受け取る時がある。
そして今も、アクアの演技が、黒川あかねの演技が……私の奥にある何かを揺さぶる。
私たちの無茶をしっかりと受け止めて舞台に影響が出ない様にしてくれた。
立ち位置も私を中心に視線が集まる様にしてくれている。
『役者同士は動きだけで語り合える』
さっき姫川さんが言ってたことだけど、こんな早くにそれをこんなにも強く思い知らされるなんて思わなかった。
演りたい演技やれよ。
縮こまった演技をするなよ。
好き勝手やれよ。
全部俺たちがフォローしてやる。
お前の本気を見たいんだ。
そんな思いを叩きつけられる。
『思いっきりやってくださいね』
まったく……。
『私が一番とばかりに演じてください。あそこにいるアイさんよりもずっと大きく輝こうとしてください』
アンタのせい。
アンタとオパール先生のせい。
あとついでに……黒川あかねのせい!!
『大丈夫。貴女がそれをできることは知っています』
あの日のようにやってみよう。
好きにやってもいいと言ってもらえた時の、あの日見た夢をもう一度……!だって、こんなにも変な気持ちになってしまっているんだもの!!
ねぇアクア、大丈夫なんでしょう?
だってフォローしてくれるんでしょう?
こんなにおかしくさせるんだもの。
変な気持ちにさせるんだもの。
ほら、見なさいよ。本気になった私を。
ブレイドより刀鬼より鞘姫よりも!!
この場にいる全員……私だけを見て!!
雰囲気が変わった。
つるぎの演技の質が変わったのだ。それは多くの観客たちも実感してるだろうと思えるほどで、舞台の上で眩い太陽の様に存在している。
先程までの存在感を消して舞台装置として演じていた姿からは想像もできないほどだな。
「楽しそう」
「だねぇ。私とやった時もあんな感じだったなぁ」
懐かしい〜なんて小声で話すアイさん。
思わず視線がいってしまう。子役時代、あの子の泣きの演技は確かにすごかったけど、コレなんだよなぁ。この存在感は誰にでも出せるものじゃない。
思わずチラリと横を見る。
「ん?どうかした?」
「なんでもないです」
え?一瞬で感知されたんだけど……。
ちょっとだけゾクリとしながらも舞台の方へと視線を戻す。
……アイさんとはちょっとだけ違うけど、それでもあんな風に輝ける演技。あらゆる人達がいる芸能界に現れる特別。スターという存在。
楽しみだと思う。
あのままこの舞台中に掴めるものがあるといいな。
舞台上で主役となっているつるぎに目を向けながらそう思うのだった。
ちょっと犯罪というか懲役というか詳しい人いなーい!?
カミキくんって十年以上前に捕まった設定にしちゃってんだけど出てこれるものなんですか??
有識者たちぃ!教えてくださーい!!