どうやら、俺の隣人はアイドルだったらしい。   作:クウト

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皆さん感想ありがとうございます。
こんなに多くの人が読んでくれるので嬉しくてまた更新しちゃいました。
いやぁ、やっぱり励みになるよなぁ。38度の熱出てるけど。

それはそうとみんな義手とか義指とかに詳しすぎない?
福祉まで教えてくれた人もいるんだけど。
色んな人が読んでくれてるんだなぁと嬉しくなりました。


星野家

インターホンがなった気がする。

だがしかしそんな事はどうでもいい。

タイピングってこんなに難しいの?全ッッ然進まないんだけど!?!?うがあぉああああ!!!!

もう何!?えっとK……U……?……面倒!!!!

 

「あーもう!うるさい!!!」

 

ドタドタと足を鳴らしながら玄関へと向かう。

ドアチェーンもしっかりつけて恐る恐る扉を開ける。

 

「はい……ん?」

 

あれ?誰もいない。

 

「下だよ」

 

「ん?うぉああ!!!」

 

驚いた。

視線を下げるとアクアくんがいた。

ちょっと待ってねとだけ言って一度扉を閉めてドアチェーンを外す。そして再度扉を開けた。

 

「どうかしたかい?」

 

しゃがんで視線を合わせて会話。

上からだと威圧的になってしまうだろうしなぁ。特に今は……ね?タイピングでイライラしてたから気をつけねば……!

 

「家に入ってもいい?」

 

「……あーっと……それはぁ」

 

「ダメ?」

 

可愛いなこの子。

あの人の遺伝子ってのがすごいってよくわかる。

 

「ダメかなぁ。キミのお母さんに何も言ってないし……キミがうちにいるとお兄ちゃんが悪い人になっちゃうし」

 

あとあと捜索願いとかされて捕まるとかごめんなのだ。だからね?帰ろっか。

 

「じゃあ入れてくれるまで待ってる」

 

「え……」

 

「……」

 

「……どーぞ」

 

手強くないこの子???

本当に家の前に居座られてると迷惑である。

俺は先に折れる事にしてアクアくんを部屋へと招いた。溜め息をつきたい所ではあるが、この間のルビーちゃんが頭によぎりこのクセもなくなりつつあるのを自覚した。

 

「お邪魔します」

 

あら良い子。

靴まで揃えて部屋の中に入ってくる。

言葉遣いといい、この所作といい……人生何周目?とか思ってしまう。……そういや昔、タイムリープ物書いたなぁ。あれはドラマにもなってくれたおかげで結構買ってくれる人がいたっけ。

 

「お茶でいいかな?」

 

「うん。ありがとうございます」

 

「はい。ごめんね。ペットボトルだけど」

 

蓋を開けてあげて渡す。

コップとかのほうがいいのだろうが、うちにあるのは自分用のガラスのコップかステンレスの物しかない。まだ小さな手では持ちにくいと思う大きさだしなぁ。

 

「あの」

 

「ん?」

 

「いつもアレ……食べてるの?」

 

アクアくんの視線の先にあるのは栄養補助食品のビスケット。俺が飛ばしてしまった指程度の長さのが四個ほど入ったやつ。それが四十五リットル入る大きなゴミ袋いっぱいに入っている。

……ふぅ……まずいものを見られた。恥ずかしい。

 

「あー、うん」

 

「……もっとちゃんとしたもの食べた方がいいと思う」

 

「ごめんなさい。気をつけます」

 

全くもってその通りです。

高校二年にもなってこんなちびっ子に言い返せないとは……悲しい。

 

「最近は何してるの?困った事はない?」

 

「んー?気になるの?」

 

「うん」

 

「最近はお仕事かなぁ。パソコン覚えてるんだぁ。困った事は……特にないかな」

 

指は戻ってこないし。

タイピングが難しいなんて言ってもどうする事もできないのだ。仕方ないだろう?

 

「アクアくん」

 

「なに?」

 

「お母さんに聞いてきてって、頼まれた?」

 

「……うん」

 

「そっかぁ」

 

星野家の長男は大変だなぁ。

俺が退院した時のちょっとした騒ぎがあった日からすでに数日が経過している。

俺はこの間に仕事用のパソコンもゲットして少しずつではあるが仕事復帰中。文字を打ち込むのも一苦労ではあるが、これはこれで楽なところも多かった。

ただ寝る間も惜しんでパソコンの練習をしていたせいで朝、昼、夜、と……いや、時間感覚狂うわ。実際深夜三時や四時なんかに小腹が空く事もしょっちゅうあるし、その度にカップ麺やビスケットに頼る事も多い。……カップ麺のゴミはキッチン側でよかったよねぇ……。

 

「まぁ、わかった。食生活は改善するよ。それで、もう他にはないかな?」

 

「……その」

 

「ん?」

 

「アイに……母さんに会ってほしい」

 

それは……色々と難しくないかなぁ?

 

 

 

アクアくんにわけを聞いた。

どうやら毎日の様に俺にお礼を言うには、謝るためにはどうすればいいか考えているらしい。たまに家事にも支障があったりもするようで、星野家兄妹は見ていられないらしい。母親思いだなぁ。

 

「はぁ……」

 

誰もいないからこそため息を一つ。

気分転換のつもりでもある。

子供達が自分の親を心配している。その親は俺に言葉を贈りたい一心で生活に支障をきたしていて……俺が星野さんに会う事で何とかなるのなら……少しは我慢するのもいいかもしれない。

いやね。普通ならあってもいいのだが……珍獣の様に見られたり、部屋の前に立たれていたりとした事もあり少しだけ苦手なのだ。あとアイドルだからね。誰もが好き好んで地雷原に足を踏み入れたくなんてない。そうだろう?

 

「よし」

 

だが意を決してインターホンを鳴らす。

ドタドタと大きな音を立てて出てきたのは星野家の母。星野アイさんだ。

 

「お待たせ!どうぞどうぞ」

 

「お邪魔します」

 

はぁ……。

後でアクアくんにドアチェーンはしっかりとさせる様にと言っておこう。

リビングに通されてソファへと案内される。

そこに座ると俺の右側にアクアくんが座り、左側にはルビーちゃんが座った。……あ、これ。逃げられへんやつや。

少し緊張を紛らわせるために、星野さんが出してくれたお茶を飲もうとする。

ふと、右手を握られる感覚があった。

アクアくんの方へと目を向ける。

 

「左利き、なんだよね?」

 

「……バレてたか」

 

「母さんと比べるとわかりやすいから」

 

そうなのか。

そっと手が離れたのを感じる。

このためにこの子は俺の手を握ったのだろう。うちに来た時も俺の右手には視線を向けていた気がするし、全く……本当に賢い子だなぁ。

 

「痛い?」

 

「もう痛くないよ。大丈夫」

 

ルビーちゃんに言葉を返す。

本当に痛みはもうない。ただまぁ、たまに痛む気がして、不便だってだけ。それ以外は正直今までとあまり変わりはないのも事実。……だからそんな悲しそうな顔はしないでほしい。

そっと、ルビーちゃんの頭を右手で撫でる。

 

「この右手でも誰かとコミュニケーションが取れるんだ。だから本当に大丈夫だよ」

 

「……うん」

 

頭に置いた俺の手をそっと掴むルビーちゃん。

ほら、こうして握手もできるのだ。腕が無くなったわけではない。まだまだ何とでもなるんだし大丈夫。

 

「二人がこんなに懐くなんて……すごいね絢瀬くん」

 

「いい子達ですね。星野さん」

 

「でしょう?」

 

星野さんはにっこりと笑う。

さて、星野さんも来た事だし話を始めよう。

 

「今回は命を救ってくれて、本当にありがとう。それと、本当にごめんなさい。私にできることがあれば」

 

「ストップです。それはもう散々聞いてますし、もう水に流したことでしょう?ね?アクアくんにルビーちゃん」

 

「本当にいいの?」

 

「もちろん。今まで通りに過ごすって決めたでしょう?今回はあくまでアクアくんのお願いでやってきたわけですが……まぁ隣人の子供と少し遊ぶぐらいは、この世の中のどこかでもやってるでしょうし」

 

「なら、隣人として……キミの手の代わりにできることがあれば何でもするから」

 

……この人は……。

なぜこんなにも傷だらけなのだろうか?

今にも泣いてしまいそうなのにそれを出さず、ずっと悲しそうな笑顔で……。

なんか腹立ってきたなぁ。

 

「俺、小説家なんです」

 

「……うん。社長から聞いてる」

 

え?

あぁ、部屋のゴミを拾ってもらったからか。

そこから話が行っていてもおかしくはないか。それに異常なまでに思い悩んでいそうだったが、小説家の指を無くした事について悩んでいたのなら納得。

 

「稼ぎもありますし必要ならハウスキーパーでも雇います。リハビリもやってますし、パソコンの練習もなんだかんだで楽しい。もうあなたが気にする必要はありません」

 

「……そっか……ごめんね」

 

まだ何かありそうだな。

これはいつか見たことがある表情だ。

目を瞑って思い出す。

 

『ごめんなさい。こんな母親で』

 

死の間際、そう言った母さん。

自分は何も悪くないのに、必要以上に思い悩んでしまってそこから抜け出せない。

あの時は他になんて言ってくれたのだろうか?

あの時は母さんになんて言ってあげただろうか?

あの時はどうして笑顔にできたのだろうか?

細かい話の内容は覚えてない。でも確か……俺は母さんが好きだよと伝えると笑顔になったのは……思い出せた。

 

「アクアくんとルビーちゃんの事……好きですか?」

 

「うん」

 

「ならこれから先も、ずっと一緒に居れる事を喜べばいいんですよ」

 

「そう、だね」

 

……ふむ。

難しいなこの人。

 

「すみませんこれ借ります」

 

テーブルの上にあった雑誌。

それを棒の様に丸める。

 

「少しばかり考えてみませんか?」

 

今からこの雑誌はナイフです。

 

 

 

アイと絢瀬さんが向き合いながら座っている。

僕とルビーはそれをソファに座りながら見つめる。

 

「始めましょう」

 

瞬間、世界が塗り替えられる気がした。

絢瀬さんはこれはナイフだと言って一言許可を取ってからアイのお腹に雑誌のナイフを当てる。

 

「目を瞑って想像してみてください」

 

アイが目を閉じる。

 

「お腹に刺さったナイフを呆然と見つめているあなたに、ストーカーはずっと罵声を飛ばすでしょう」

 

アイドルの癖に子供なんて。

アイドルなのに嘘をつきやがって。

その光景を想像するだけで、じわり、じわりと世界が赤色に染まっていく気がする。

 

「痛みが鈍くて、鋭くて、お腹が熱い。けど手足の先は冷たくなって……段々と力が入らなくなる」

 

「……ッ」

 

「子供達は無事かもしれない。けれどもしかしたら……」

 

会えないかもしれない。

そう言った瞬間に赤が黒く染まり始める。

 

「この辺りは腹部大動脈という血管があるそうです。救急車はもう間に合わない」

 

「……やだ。待って……」

 

「そうです。貴女にはもう時間がない。アクアくんとルビーちゃんに会えない。貴女の物語はもう閉じられる。これから先、みれたはずのものは見れない」

 

アイの呼吸が早くなる。

助けたいけどこの異常な空間の中で、僕らは動くことができない。まるで縫い留められたかの様に身体が萎縮している。

 

「これからアイドルとしても、女優としても明るい未来があったでしょう。そして母としても」

 

ドーム公演は中止。

映画はどうなるだろうか?

静かに、冷たくそう呟く。

 

「そう考えてふと、アクアくんとルビーちゃんへと考えを向けるでしょう」

 

絢瀬さんが紡いでいく言葉。その度にアイのお腹に赤いシミが大きくなっていくのを幻視する。

続けて絢瀬さんは言葉を紡ぐ。

アクアくんの夢は?

ルビーちゃんの夢は?

この歳ならもう少しでランドセルを背負って小学生となるでしょう。授業参観なんて誰よりも若い母親として見られるし、そんな母を持って子供達は鼻が高いだろう。そんな……。

だんだん大人になっていく姿を。

 

「貴女は見れない」

 

ボロボロとアイの瞳から涙が溢れる。

こんな姿、前世でも見たことがなかった。

どれだけ辛いことがあっても、それでも笑顔を見せ続けた姿。それが今は見る影もない。

 

「今までどんな思い出がありますか?」

 

「……ルビーの、お遊戯会……よかったなぁ」

 

「あぁ、それは良いですね。ルビーちゃんは貴女の後を追ってアイドルになるのかな?アクアくんは何になるでしょうか?」

 

「……役者さんに、なるのかなぁ。……いつか、二人と親子共演なんか、しちゃったり……」

 

「素晴らしいですね。でも、貴女はそれをできないし、そんな二人の姿は見れない」

 

アイの星の輝きがなくなっていく。

それを僕らは見続けることしかできない。

まるで本当に、丸めた雑誌がナイフに見えて、目の前のアイが死んでいくように見えて。

 

「二人が大人になっていく姿をもう見れないんです」

 

「嫌、嫌だぁ……」

 

「貴女は最後に、この子達にどんな言葉を贈りたいですか?」

 

そう言って、絢瀬さんは強く手を叩き大きな音を鳴らす。すると今まで部屋の中を侵食していた赤と黒が一瞬で消えた。

 

「それは、貴女がこの子達に贈らないといけない言葉です」

 

 

 

ボロボロと涙を流している星野さん。

もう限界だろう。

俺は大きく手を叩き、大きな音を鳴らす。

 

バチンッ!

 

ビクリと跳ね上がる肩。

呆然とした表情で俺を見つめる星野さんに声をかける。

 

「それは、貴女がこの子達に贈らないといけない言葉です」

 

なぜ、そんなことを言ったのだろうか?

なぜ、こんな事をしたのだろうか?

それはたぶん、この嘘で塗り固められた星野さんの姿が母親と重なったから……そして貴女のおかげで、母が俺に最後に言った言葉を思い出せたから。

 

『愛している。誰よりも何よりも』

 

確かに俺は愛をもらっていた。

それに俺も好きだと、愛していると言えたのだ。それを思い出せた事は本当に感謝しかない。

溢れそうになるものを堪え、この親子のためにできる事をしよう。俺と違って、まだこの人達は間に合うのだから。

 

「ルビー、アクア。……愛してる」

 

二人を抱きしめ、やっと言えたと泣く星野さん。

二人は呆然とそれを受け入れて……いや、ルビーちゃんは泣いちゃってるなぁ。

……死を迎える瞬間に贈りたい言葉。

それは、本当に自分が言いたいことが出ると思う。

 

「よかったなぁ」

 

たぶん、ここからこの家族の本当の物語が幕を開けるのだろう。

神様は、俺たちにクソみたいな試練しか与えないと思っていたけれど、こんな幸せな時間をくれるのなら案外信じて良いのかもしれない。

抱き合って泣き続ける親子を見ながら、俺は初めてそう思えた。




よかったなぁ星野家。
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