どうやら、俺の隣人はアイドルだったらしい。   作:クウト

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ぐっっすり寝ました。


星野さん

今日も学校おサボりのお仕事中。

もうそれなりに売れてるし、高校辞めてもいいかも……なんて思っているのは俺が追い込まれているからだろう。

締切、近いですよ?

なんて連絡が来た。

 

「しっっっっってるわい!!!!」

 

もーおぉおおお!!!

わかってるんだけど最後が!!最後の終わり方だけがしっくりこない!!ていうか元々ハッピーエンドになる予定だったのだ。それだと物足りなくない?なんて担当が言うもんだからさぁ!?俺も……確かに。なんて思っちゃったんだよぉおおお!!!

 

「うーん。これだと後味が悪すぎるか?」

 

一人取り残されてるじゃん。

こいつどうなるんだ?なんてのはスッキリしないんだよ!!あーあーあーあー。

 

「腹減った」

 

仕事部屋兼自分の部屋から抜け出して冷蔵庫を漁る。あー、もう何もないじゃん。

一人で使うには大きすぎる冷蔵庫の中。そこにはコロンと一欠片のニンニクだけが転がっていた。……なんで?いつ買ったかも正直覚えてないんだけど……。

 

「……辛いぃい!!!!」

 

シンクにニンニクを吐き出す。

はぁ……なんで口に入れたんだ?

星野さんとこの料理が少し恋しいと思ってしまうのを頭から消し去る。隣人に甘えるわけにはいかないのだ。

あーくそ、頭が重い。ボーッとする。

最近は食べる頻度が減った栄養補助食品は買い足していないし……はぁ。出よう。

財布とスマホだけ持って玄関へと向かう。

今何時だ?朝?昼?スマホを見ると十四時。

昼のピークタイムも終わってるし、ちょうどいいのかもしれない。

ガチャリと扉を開ける。

 

「わっ!」

 

「おぉう!?す、すみません星野さん!」

 

いきなり開いた扉に星野さんがぶつかりそうになった。ボーッとしている俺のポンコツの頭でも即座に謝罪ができる程度には危なかった。アイドルの顔に傷でもつければ俺は各方面から殺されるなぁ。次は指だけではすまないだろう……なんて思ってしまう。

 

「か、彼方くん……大丈夫?」

 

「え?あ、はい。星野さんも怪我ないですか?」

 

「いや、私は大丈夫なんだけど……」

 

「?」

 

「寝てる?」

 

「三日前に寝ました」

 

「お邪魔しまーす!」

 

え?あ、ちょっ!!!

いきなりすぎて声も出ない。

こうしてこの日は珍しく星野さんに侵入されてしまったのだった。

 

 

 

「うわぁ……」

 

「…………」

 

「彼方くん?何これ……」

 

「いや、その……」

 

部屋は散らかり放題。

アクアくんとルビーちゃんには先週会った時にしばらく忙しいから遊べないとだけ言ってある。だからこそ自分の好きな様に部屋を使っていたわけだが……。

 

「何これ」

 

「プラスチックのバットです」

 

「運動?」

 

「いや……その……」

 

担当の顔を思い浮かべてクッションを殴る用です。

なんて言えません。

 

「これは?」

 

「無限プチプチです」

 

「……後で借りてもいい?」

 

「どうぞ」

 

興味があるみたいだ。

子供用のおもちゃだけど大人でも遊べるしね。おかしな事ではないのです。

 

「あと……何この大きな箱。冷蔵庫?壊れたの?」

 

「いや、その……」

 

「ん?」

 

「ルビーちゃん用です」

 

「……帰ってきたら説教かな」

 

いやいやいやいや!!!

だって椅子に乗って冷蔵庫を一人で開けてる姿を見たら危ないなぁって思うじゃないすか!?

だからツードアタイプの小さいのを子供たち用に用意した訳なのだが……。俺、結構あの子達が来るの楽しみにしてない?……やめておこう考えるのは。

 

「あと……臭うよ?」

 

「今さっきニンニク生で食べました。ごめんなさい」

 

「なんで?……って違うよ。その、すごく聞きにくいけど……」

 

「……な、なんです?」

 

え?本当に何?

腕を組んで目を瞑り、本当に言うべきか悩んでいる姿を見ると緊張してしまう。俺、何かやっただろうか?

 

「お風呂入ったのいつ?」

 

「三日前です」

 

「すぐ入ってきなさい!!」

 

俺は怒った星野さんに、風呂場へと叩き込まれた。

あの人も怒るんだなぁなんて思ってしまったのは内緒だ。いつもニコニコしてたイメージだし……。

その後、風呂に入って鏡を見るとものすごい髭面で頭を抱えた。いや、いつもこうなるじゃん。あの店員にこの顔晒してたのか……とか思うけどさ?それが星野さんならまた話は別でして……。

 

「アクアくんとルビーちゃんに笑われそう」

 

恥ずかしい。

 

 

 

スッキリとした身体でリビングへと戻る。

……普段の俺の家からは考えられない匂いがしてるなぁ。お味噌汁の様な匂いだ。

 

「お?帰ってきたね」

 

「すみません。酷い顔を見せてしまって……」

 

「お仕事頑張ってる証拠だから気にしないの。うん、スッキリしたね」

 

「あー、はい。……あの」

 

「ん?」

 

「近くないです?」

 

目の前にそんなに綺麗な顔があれば緊張もする。

こちとら一応男子高校生だぞ?あんまり近寄るな。部屋に篭るぞ俺は。

 

「あっ!っと、ごめんね」

 

「い、いえ……」

 

気まずい……。

 

「て、テレビでも見て待ってて!もうすぐできるから」

 

「あ、はい。いつもすみません」

 

見慣れない調理器具が見えた。

一度帰って持ってきてくれたのだろうか?

本当にご迷惑をおかけして申し訳ない。そう思いながらテレビを付けると速報が流れていた。

役者が色々とやらかしていたそうだ。

それを自首したことで捕まったらしい。

 

「あー、これ。もう捕まったんだ」

 

「へ?」

 

「あの子、私の元彼なんだぁ。アクアとルビーのお父さん」

 

「…………」

 

「ん?どうかした?」

 

「はぁああああ!?!?!?」

 

今年一番の驚き……いや、指と同列か?

と、とにかくそのぐらいの驚きである。

え!?えぇ!?そんな人が捕まったの!?なんでそんな冷静なのさ!!いや、元だからか?いやいやいやいや!!わからんて!!!

 

「混乱してるなぁ。説明するから、まずはお腹に何か入れてね」

 

「あ、はい」

 

こうして、星野アイの過去を知る機会ができてしまった。……なんでなん?

 

 

 

用意してもらった飯を食いながら話を聞いている。

なんというか……芸能界って怖い。

相手の男を思って別れた。

けれどその時に言葉が足らない。

誰もが不器用で、愛し方が分からなくて。

 

「でも、今回の事で……アクアとルビーが危ない目に遭うのだけは避けたいから」

 

だからこそ本人に会って話をしたらしい。

星野さんの気持ち、思いを上手く伝えられたかなんて分からないし、相手が逆上する可能性もあっただろう。

 

「殺すつもりはなかった。けれど結果的にナイフを持った人が家に来て、絢瀬くんの指が無くなって。その責任を私は取らないといけない」

 

「はぁ」

 

「でも捕まったって事はちゃんと分かってくれたんだなぁ」

 

ポロポロと涙を流す星野さん。

……相手の事を愛していたのだろう。

本当ならば、一緒にいたかったのだろう。

アクアくんとルビーちゃんがこの世にいるのは、大切な人の子供を産みたいという意志があったからだ。

不器用すぎて、聞いているこっちが辛くなる。

 

「本当にありがとう。私を助けてくれて」

 

別にいい。

もうお礼なんて言わなくてもいい。

 

「本当にありがとう。あの子達を助けてくれて」

 

「いいですって。それよりその」

 

「ん?何かあった?」

 

「おかわりください」

 

ポカン?とした表情で星野さんは固まった。

……空気が読めなかっただろうか?でもなんとなく、これ以上泣いている姿を見ていられなかった。それにほら、これ以上泣いて目が充血でもしたらルビーちゃんが心配するし……。いやでもやっぱり空気読み間違えた?

不安に駆られる。だが次の瞬間には星野さんがクスリと笑ってくれた。

 

「大盛りにしてあげるね」

 

どもっす。

 

 

 

目覚ましが鳴り響き眠りから覚める。

ご飯をたらふく食べて、気がつけば俺はベッドにいた。飯を食べた後、意識が朦朧となってしまいベッドに倒れ込んだ……はず。あんまり記憶がないのだが……。

 

「十八時か……」

 

それなりにぐっすりと寝れた。

おかげで頭がスッキリとしている。

 

「小説のラスト書かないと……」

 

……寝る前まであんなに悩んでいたのが嘘かの様にキーボードを叩く。空腹でもないし、睡眠不足でもない、たぶんいつもより集中できている気がする。

周りの色が薄くなる。

キーボードを叩くたび光が弾ける様に感じる。

まだまだ速いとは言えないがその光景を楽しみながら文字を書き続ける。

 

「……よし。完成」

 

出来上がった。

あとは担当へと送れば……よし、終了。

 

「ふー……。水のも」

 

リビングへと向かう。

次は何を書こうか?そんなことを思いながらリビングへと入ると。

 

「……いや、なんでいるの?」

 

星野さんがまだ帰ってなかった。

それどころかアクアくんとルビーちゃんまでいる。

星野さんが真ん中で二人が寄り添う様にソファで寝ていた。はぁ、まだまだ寒いってのに。

俺が使った後で申し訳ないが部屋から毛布を持って来て三人にかける。

 

「色々とあるみたいだけどさ」

 

これから先、この家族が幸せであることを願う。

この間、少しは信じることにしたのだ。だから神様、この家族を見守ってあげてください。

 

「さて、水でも飲もーっと」

 

 

 

ぐっすりと寝てしまった絢瀬くんを見る。

ご飯を食べながら寝そうになっていたけどしっかりと完食してくれて、体を引きずる様にベッドへと倒れ込んでしまった。

……私が作った料理でも美味しそうにパクパク食べてくれる姿は見ていて気持ちがいい。にしても、ルビーから聞いてたけど本当に一食の量が多いんだなぁ。

 

「あの人はこんなに食べてたっけ?」

 

なんて思ってしまう。

たぶん、まだまだ忘れることなんてできないだろう。初めて愛したいと思えた人、彼の事はたぶん生涯覚えている。

 

「でも、アクアとルビーを危険に晒す可能性があるなら」

 

話は別だ。

お腹にあの子達がいた時から、本当にかけがえのない大切な子達。私なんかがお母さんをできるのか不安だったし、ちゃんと幸せにできるか分からなかった。

 

「嘘なんかじゃない。本心からの愛してるって、君のおかげで言えたんだよ」

 

高校生なのに小説家。

全く話をしなかった隣人。

私を見ても厄介者を見る様に見て来た子。

まぁ、最後のは正直気持ちはわかってしまう。二十歳ぐらいの女が子供を二人抱いてたらそりゃあ厄介なネタだと思うよなぁ。社長もいたし、どんな風に見ていたのかなんとなく察してしまう。

 

「命の恩人。君のおかげで、アクアとルビーの成長を見れるんだよ?」

 

あの時の光景は凄かった。

本当に自分のお腹にナイフが刺さっている様に思えて恐怖したほどだ。アクアとルビーの成長を見れず、大事な人達を残して死んだ後……どうなるのだろうか?たぶんだけど……この子なら私が死んだ後の世界も頭の中で物語として作ることができるだろう。それを私に伝えることもできるだろう。

 

「本当にすごいね」

 

想像でしかない未来だけど、それを聞いていたら私は壊れていたかもしれない。だからあそこでやめてくれたんだと、なんとなく思っている。

寝ている絢瀬くんの髪をさらりと撫でる。

 

「本当にありがとう。……か」

 

あれぇ?

わたしなんか、こんな……

 

「かな、彼方くん」

 

……何故か顔が熱い気がした。




多くの感想ありがとうございます。
励みになりますし、調子に乗って次々と書き上げてしまいます。
体調は意外と大丈夫ですし、しんどくない程度に書いていこうと思います。
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