【完結】ギャルに優しいオタク君   作:138ネコ

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閑話「あの日飲んだタピオカの味をオタク君はまだ知らない」

 放課後の商店街。

 そこには行列が出来ていた。

 行列の先にあるのは、タピオカ屋である。

 少し前と比べれば人気は落ち目だが、それでも人気店となると三十分以上待たされる事がある。

 そんな行列の中に優愛がいた。

 流行り物が大好きなので、あと甘いものも。

 

「あっ、オタク君だ。おーい」

 

 行列で待っている間、優愛がたまたま通りかかったオタク君を見かけて声をかける。

 割と必死な声で。

 

「優愛さんも寄り道ですか?」

 

 平然を装っているオタク君だが、こんな大通りで大声で「オタク君」と呼ばれ、内心は逃げ出したい気持ちで一杯である。

 実際にオタク君と呼ばれた彼を、近くで呼び込みをしているメイドや、通りかかったオタクが思わず振り向いて見てしまい注目を集めているのだ。

 

(オタクに優しいギャル。存在したのか!?)

 

 オタク君と優愛に対して、皆が同じことを思った。

 

「オタク君、悪いけどトイレに行きたいから代わりに並んでてくれる」

 

「あっ、はい」

 

 言うが早いか、優愛がオタク君に荷物を預け走り出した。

 

「すみません、友達がトイレなので」

 

「あー良いよ良いよ」

 

 列の前後の人に一言謝ってから並ぶオタク君。

 

(これが噂のタピオカ屋か……なんでプロゲーマーのサイン色紙がこんなにも飾ってあるんだろう?)

 

 正しくはタピオカ屋ではなく、クレープ屋である。

 プロゲーマー達から信頼の厚い人物が店長として働いているため、プロゲーマー達が足を運びサインを書いて行く事でも有名なお店だったりする。

 しばらくして、優愛が戻って来た。

 

「いやぁ、オタク君が通りがかったおかげで助かったわ。漏れそうでマジヤバかったし」

 

「これくらいお安い御用ですよ」

 

 出来れば「オタク君」と大声で呼ぶのはやめて欲しいかなと思うオタク君。

 優愛は、目的のタピオカミルクティーを買えて満足そうだ。

 

「オタク君は買わなくて良かったの?」

 

「僕は優愛さんの代わりに並んでいただけなので」

 

「そっか。オタク君真面目だね」

 

 謙虚に断っているオタク君だが、タピオカミルクティー一杯五百円。

 五百円あれば漫画を買える金額である。

 万年金欠の学生には、一杯五百円は厳しい金額といえる。

 

「オタク君は何してたの?」

 

「えっと、参考書を買いに」

 

 思わず嘘をついてしまうオタク君。

 本は本だが、買ったのは漫画だ。

 隠すような大人の本ではないが、内容は少々過激な物である。

 隠しているのを親に見つかったら「小っちゃい女の子の裸が写っているエッチな本」と言われ、トラブルになりそうなほどの……。

 

「へー、あっそうだ。オタク君聞いて聞いて」

 

 参考書と聞いて興味を失った優愛が、早速話題を変える。

 マシンガンのように次々と話題が出てくるのを、オタク君はとにかく相槌を打って返している。

 あれ以降、リコがイジメられるような事がなくなった事。

 また新しい付け爪が欲しいから作って欲しい事。

 他の髪型やメイクに挑戦したいから教えて欲しい等。

 

「ねぇねぇオタク君、良いかな?」

 

 そうやってお願いされれば、オタク君も「良いですよ」とつい安請負をしてしまう。

 そんな風に会話ばかりしているせいで、優愛の手に持ったタピオカが減る様子がない。

 

「そういやさオタク君」

 

「なんですか?」

 

「簡単に痩せる方法とかないかな? いや、別に太ったわけじゃないんだよ。ただ、こう、もうちょっと痩せたいかなと思うのよ」

 

 お前は何を言っているんだ?

 優愛の発言を聞いて、オタク君の表情が固まった。

 その右手に持った物が何か分かっているのか、と。

 

「最近は甘い物も出来るだけ控えてるんだよね」

 

「えっ、でも……」

 

「どうしたの?」

 

 オタク君が言いづらそうにしているので、返事を待つ間にタピオカを啜る優愛。

 先ほどまで喋っていた分を取り返すように、容器のタピオカとミルクティーが勢いよく減っていく。

 

「タピオカミルクティーって、どれだけカロリーあるか知ってます?」

 

「えっ、知らないけど。ダメなの?」

 

 どうやら知らなかったようだ。

 タピオカミルクティーがどれほどのカロリーと糖質を持ち合わせているのか。

 あまりにも美味しそうに飲んでいるので、オタク君、かなり言いづらそうである。

 

「そうですね、優愛さんのその一杯で、ラーメン一杯分くらい、かなぁ」

 

 優愛が持っているタピオカミルクティーは、インスタで映えることから大人気の、一番大きいサイズである。

 控えめにラーメン一杯分くらいと言うオタク君だが、余裕でラーメン一杯のカロリーを越えているだろう。

 優愛はその発言を聞いて、青ざめていた。

 

「飲み物なのに!?」

 

「飲み物なのにです」

 

 飲み物だからカロリーは少ない。

 多分、そんな風に考えていたのだろう。

 まじまじと自分の右手に持ったタピオカミルクティーを見つめる優愛。

 これがラーメンと同じカロリー……つまり、ラーメンは低カロリーだった!?

 そんな風に現実逃避をしたいところだが、逃げてもカロリーは追いかけてくる。それくらいは彼女も理解している。

 

「……オタク君、これあげる」

 

「えっ」

 

 タピオカミルクティーを手渡され、困惑するオタク君。

 

「ほら、今私お腹いっぱいだし」

 

 見え透いた嘘ではあるが、オタク君も今さっき嘘をついたばかりだ。

 嘘を咎めるには抵抗を感じるオタク君。

 

「それではありがたく」

 

 なので、素直に頂くことにしたようだ。

 話題になっているから、オタク君もタピオカミルクティーに興味はあった。

 ただ、値段が高いから、今まで手を出さなかっただけで。

 

「あっ……」

 

(これって、間接キスになるんじゃないか)

 

 先ほどまで優愛が口づけていたストロー、これに口を付ければ、まごう事なく間接キスである。

 だが、渡した優愛は気にした様子がない。

 もしここで自分が躊躇したりすれば、間接キスを嫌がられていると思い傷付けるかもしれない。オタク君は意を決してストローに口づける。

 

(これ、間接キスじゃん)

 

 実際のところ、優愛は相当気にしていた。

 彼女は見せブラや見せパンが見えたとしても「見せるための物だし?」と言って恥ずかしがったりはしない。

 だが、キスに関しては別だ。

 今まで付き合った経験がない優愛は、当然キスもまだなのである。

 女子高生ギャルの優愛は、意外なところで初心(うぶ)だった。

 思わずオタク君がストローを口にしているのをガン見してしまう優愛。

 そんな優愛の様子に、オタク君が気付く。

 彼は鈍感だが、気が利かないわけではない。

 

(優愛さん、やっぱり飲みたいんだ)

 

「優愛さんも一口どうです? ほら、二人で分ければカロリー半分ですし」

 

 そう言ってタピオカを差し出すオタク君。ちゃんと飲むための免罪符まで入れている。

 鈍感と気遣いの合わせ技である。

 

(ここで断ったら、私がオタク君と間接キスを気持ち悪がってると思われちゃうよね)

 

「そ、それじゃあ一口もらおうかな」

 

 やけに胸が高鳴るのを感じながら、優愛はストローに口を付ける。タピオカの容器をオタク君が持ったまま。

 傍から見れば、仲の良いカップルである。

 ズズっと一口飲んで、ストローから口を離す優愛。

 

「いやぁ、やっぱりタピオカは美味いね」

 

 優愛が口を離した後に、ストローに口を付けズズっと飲むオタク君。

 

「そ、そうですね」

 

 そう言いながら、優愛にストローを向ける。

 オタク君が一口飲んだら、優愛が一口飲む。

 気がつけば謎のルールが出来上がっていた。

 あっという間にタピオカの容器は空になった。

 

(緊張で味が良く分からなかった)

 

(緊張で味が分かんないし)

 

 この日以降、優愛がタピオカミルクティーを買う機会はめっきり減った。

 そのおかげで、彼女の体重の心配はなくなったようだ。

 タピオカミルクティーを見ると、この日の出来事を思い出し恥ずかしくなるオタク君。

 彼が次にタピオカミルクティーを飲むのは、しばらく先の話である。

 




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