【完結】ギャルに優しいオタク君   作:138ネコ

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閑話「ネトゲの相方は女の子じゃないと思ったっすか?」

「はぁ、もうゴールデンウィークも終わりっすか」

 

 一人の少女が、椅子にもたれ掛かりながらため息をつく。

 部屋には至る所にギャルのようなキャラのポスター。机の上にはギャルっぽいキャラのフィギュア。

 それらを見渡し、満足そうにニヤニヤする少女。

 一通り満足すると、またため息を吐き始める。情緒不安定である。

 

「自分もこんなギャル達みたいになりたかったっすね~」

 

 少女は鏡を手繰り寄せ、そこに映った自分を見る。

 小麦色に焼いた褐色肌に、金の髪。見た目だけで言えば見事にギャルである。

 だが、中身は部屋を見て分かる通りオタクである。

 

「無理に偏差値高い高校に入って、ギャルの格好するの親に許してもらったっすのに、肝心なギャルの友達が出来ないとか……」

 

 少女がギャルの格好をしているのは、ギャルが好きだからである。

 ギャルの格好をしていれば、自然とギャルの友達が出来る。そんな風に考えていた時期が彼女にもあった。

 少女が入った学校では、自由が売りの校風のため、著しく問題のある格好ではない限り教師が何か言って来る事はない。

 髪を染めようが、肌を焼こうが、制服を改造しようが何か言われる事はない。

 

 なので、入学初日からギャルをバリバリに決めた少女だったが、現実は厳しかった。

 彼女のクラスにはギャル的存在が他に居なかったのである。

 入学して間もないため、皆はっちゃけ方が分かっていないのだ。

 

 周りから浮けば、当然ハブられる。

 ぼっちになった少女は、他のクラスのギャルと交流を図ろうとするが、中身はオタクである。

 会話が噛み合わず、疎遠になるまで時間はかからなかった。

 

「もう……学校行きたくないっす」

 

 まだ五月だというのに、少女は既に思考が不登校に染まっている。

 そのままパソコンを付け、ネトゲーを始める。

 気の合う仲間と「学校に行きたくない」「働きたくないでござる」等とふざけている方が楽しい。

 不登校になる秒読み状態である。

 

『相方はゴールデンウィーク何してたっすか?』

 

 少女が操る、少女にそっくりなキャラ(実際は少女がキャラに似せている)がそうチャットの吹き出しを出す。

 相方と呼ばれた、女の子のキャラが返事をする。

 

『友達と温水プールに行ったりしたかな』

 

「はあああああああ!?」

 

 相方と呼ばれたキャラの返事を見て、盛大に不機嫌な声を上げる少女。

 

『相方が陽キャみたいな事言ってるっす!』

 

『友達とプールくらい行くだろ?』

 

『自分友達いないっす! だから相方も友達は自分以外居ないはずっす! プールに行ったのは絶対にイマジナリーフレンドっす!』

 

 相方と呼ばれたキャラの返事が気にくわないのか、リアルでも机をバンバンと叩き、少女は抗議の声を上げる。

 当然、相方と呼ばれたキャラにそれが伝わるわけがない。画面越しでしか話せないので。

 そんな二人の会話に、まるで変身ヒーローのようなキャラがまざる。

 

『おいおいめちゃ美、普通の高校生だったら友達とプールくらい行くぞ』

 

 めちゃ美とは少女の操作しているキャラの名前である。

 実際は「めちゃ可愛い真美」というキャラ名なのだが、長いので仲間内ではめちゃ美と呼ばれている。

 本人はキャラクリエイトの時に本当に可愛いと思ったからその名前にしたのだが、名前のせいでギルドメンバーから中身は中年のおっさんと思われている。

 それはそれでロールプレイの一環として、少女も楽しんでいる節はあるが。

 

『羨ましいっすね。そういえば相方ってどんな高校生活なんすか?』

 

 少女のこの言葉は、たまたまだった。

 もしかしたら、高校生活を楽しむためのヒントがあるかも。その程度の発言だった。

 

『ん~、第2文芸部って部活の部長をしてるかな』

 

『第2文芸部って名前からオタクっぽい部活っすね。部活動何やってるんすか?』

 

『適当にオタク仲間と話したり。あと去年文化祭で先行者作ったりしたかな』

 

 適当に相方の話を聞き流していた少女が、ある事に気付く。

 そういえば、自分の学校にも第2文芸部という部活があった事に。

 まぁ、全国探せば似たような部活はいくらでもあるだろう。そう考えていた。

 

 そう考えていたが、少女は翌日学校に行くと、放課後に第2文芸部の部室の前に立っていた。

 可能性は0に等しいだろう。違っていたら自分は立ち直れず学校に来れなくなるかもしれない。

 それでもと思うと、自然に第2文芸部の部室に向かっていたのだ。

 

「えっと……」  

 

 意を決し、部室に入った少女。

 中にいたのはメガネをかけた優しそうな少年である

 どう反応すれば良いのか困っているのを少女は察した。

 

「すみません。部活見学、いい、ですか?」

 

 普段の癖で「っす」と言いそうになるのを必死に抑える。

 クラスで浮いた理由はギャルの格好をしてるからだけでなく、この言葉遣いも原因だと少女は理解していたので。

 

「あぁ、はい。ここ第2文芸部ですけど良いですか?」

 

「はい。あってるので大丈夫、です」

 

 少女が愛想笑いを浮かべると、少年も同じように愛想笑いを浮かべる。

 

「あっ、僕は第二文芸部の部長をやってる小田倉浩一です。よろしくお願いします」

 

 後頭部に手をやり、軽く頭を下げ少年がそう名乗る。

 第2文芸部の部長と聞き、少女の心臓がドキドキと鼓動を早くする。

 

「こちらこそ、よろしくです」

 

 一瞬よろしくの後に小さく「っす」が付きそうになる。

 それほどに少女は動揺していた。

 

(小田倉浩一、おた”くら” こう”いち”……クラッチ!?)

 

 まだだ、まだ慌てるな。

 ここで「クラッチっすか?」と言って間違いだったら恥ずかしいレベルではない。

 もし間違いだったら恥ずかしさから布団を頭からかぶり三日は部屋を出られなくなるのは容易に想像できた。

 

(そうだ。先行者っす。文化祭で作ったっていう先行者ってのがあるはずっす!)

 

 不審者のようにきょろきょろと部室に入る少女。

 先行者があってくれと祈る気持ちで一歩踏み入れると、ソイツはそこに居た。

 自立が出来ないのか、椅子に座ったまま動かない先行者が居たのだ。

 

 ここまで来れば確定だろう。

 だが、少女は言い出せずにいた。

 それでも間違えたらと思うと、口に出せないのだ。

 

 ちらちらと少年を見ながら、聞くタイミングを計ろうとする少女。

 少女がチラチラと見るのと同じように、少年も少女をチラチラと見ている。

 お互いがチラ見をしていれば、目が合うのは当然である。

 

「あの……どうかした、しましたか?」

 

「いえ、すみません。ちょっとゲームに似たキャラがいたなと思って」

 

 少女の見た目はぷそ2というネトゲーの自キャラの見た目とほぼ同じである。

 自キャラが好きすぎて、自分の見た目をキャラに似せている。

 もし少女のキャラと一緒にゲームをやった事がある人間なら、すぐに気付くほどの似ている。

 

(似てるキャラのゲームを聞くくらいなら恥ずかしくないはず!)

 

「もしかして、似てるキャラって、ぷそ2ってネトゲーですか?」

 

「えっ、あっ、はい。そうです」

 

 もはや、疑う余地は何もなかった。

 少女がクリエイトしたキャラを知っているのだ。

 目の前にいる少年は相方のクラッチなはず。

 

「となると……もしかして、クラッチさんっすか!」

 

 口癖が戻っている事にも気づかない程に、少女は舞い上がっていた。

 

「えっ、なんでその名前を……もしかしてキミは……」

 

「相方、会いたかったっす!」

 

 少年が何か言っているのを気にせず、少女はそのまま胸に飛び込んでいった。

 

「めちゃ美だよね?」

 

「そっすよ! めちゃ可愛い真美っす!」

 

「えっ、本当に女の子だったの!?」

 

 驚く少年こと相方に対し、少女はにやりと笑みを浮かべる。

 もし相方にリアルで会えたら、絶対に言ってやろうと思っていた言葉があった。

 それが本当に言えるのだから、思わず笑みが零れてしまうのは仕方がない。

 

「ネトゲーの相方は女の子じゃないと思ったっすか?」

 

 少女がそう言うと、少年は苦い顔で目を逸らす。

 おっさんだと思っていた相手が、ギャルの少女だったのだから当然の反応である。

 その顔を見て、少女は満足そうに笑うのだった。

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