【完結】ギャルに優しいオタク君   作:138ネコ

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第118話「スケブ!? 某にですか!?」

「初めまして『赤い輪』さんのサークルで宜しかったでしょうか?」

 

「はい。えっと『第2文芸部』さんのサークルですよね? 今日はよろしくお願いします」

 

「こちらこそ宜しくお願いします。あっ、これうちのサークルの本です。良ければ一部どうぞ」

 

「おお! それではウチのサークルからも一部ですが、どうぞどうぞ」

 

 オタク君が隣のサークルも展開が済んだ後に声をかけ、挨拶をする。

 一部づつ同人誌を交換し合い、それぞれのサークルメンバーを交え軽い雑談。

 時間にして数分くらいだろう。唐突に拍手の音が鳴り響く。 

 

 イベント主催者による、開演の挨拶が終わったのだろう。

 先行入場列が整理されると、一斉に参加者が走り始める。

 

「走らないでください!」

 

 スタッフが必死に叫ぶが、誰一人として聞く耳を持とうとしない。

 それもそうである。せっかく先行入場列の最前を取れたというのに、歩いていれば後ろの人に抜かされてしまう。

 他の人が走れば、それに釣られ周りも走り始めてしまう。

 

 とはいえ、参加者も最低限の心得があるようで、明らかなダッシュというよりは早歩きに近い。

 もちろん全力ダッシュをする者もいるが、明らかに目立つ者はスタッフに捕まっている。

 なので、ほとんどの参加者は決して走らず、急いで歩いて、そして早く目的のサークルへと向かっている。

 

「「「……」」」

 

 そんな参加者たちを無言で見送るオタク君たち。

 イベントが始まれば、もしかしたら自分たちのところへ人が来るかもしれない。

 現実は無常である。誰一人振り返る事なく、オタク君たちのサークルスペースを通り過ぎて行った。

 

 がっくりと肩を落とし項垂れるオタク君たち。

 分かっていても、やはりショックは大きいようだ。

 

 サークル『赤い輪』もオタク君たちと同じように参加者からスルーされ、苦笑をしている。

 経験を重ねても、こればかりは慣れないのだろう。

 そんな様子で、一時間が経過したころだった。

 

「すみません。一部良いですか?」

 

 一人の男性が、真っすぐに第2文芸部のサークルの前へ歩いてきて、内容も確認せず購入していった。

 その男性を皮切りに、ポツポツと参加者が来ては、コピー本を購入していく。

 

「あの、スケブお願いしたいのですが」

 

「スケブ!? 某にですか!?」

 

「はい、大丈夫でしょうか?」

 

「も、もちろん喜んでですぞ!!」

 

 参加者の男性が一冊のスケッチブックを取り出す。

 それを震える手で受け取るエンジン。

 当然ながら、エンジンがスケブ依頼を受けるのは初めてである。

 

「どれくらい時間かかりそうでしょうか?」

 

「三十分以内には終わらせますぞ。希望のキャラとかあれば教えて欲しいですぞ」

 

「えっと、それじゃあギャルで」

 

「了解ですぞ!」

 

 スケブを渡した男性がコピー本を購入し、離れていく。

 渡されたスケブ手に、エンジンは震えながらその男性が見えなくなるまで見送った。

 

「エンジン凄いじゃん!」

 

「スケブ頼まれるとは、ファンが出来た証拠でござるよ。このこの~」

 

 スケブを頼まれ大盛り上がりのオタク君とチョバム。

 対してエンジンは、ちょっと涙目である。

 

「勢いで引き受けてしまいましたですぞ!」

 

「良いんじゃないの? 何か問題でもあるの?」

 

「大ありですぞ……某、今緊張で震えてまともに描ける気がしないですな」

 

 いまだに震えが止まらないエンジン。

 そんな状態でなんで引き受けたんだよと思うオタク君とチョバム。

 

「試しに適当な紙とペンで試し描きしてみるでござるよ」

 

「う、うむ。ですぞ」

 

 チョバムから紙とペンを受け取り、絵を描き始めるエンジン。

 明らかに線がブレブレである。

 

「エンジン、一回落ち着いて。流石にそれはヤバいって」

 

「そうは言われてもですぞ……」

 

 落ち着けと言われて余計に焦るエンジン。

 

「あのっ、すみません。スケブってお願いできますか?」

 

「はい。喜んでですぞ」

 

 いまだに震えが止まらないというのに、声をかけられると嬉しくて反射的にOKを出してしまう。 

 やらかし案件である。

 

「ヤバいですぞ! つい、また引き受けてしまったですぞ!」

 

「ねぇバカなの!? まともに描ける状態じゃないのに追加で引き受けるとかバカなの? 死ぬの?」

 

 依頼者が居なくなったのを確認してから、オタク君がエンジンを罵り始める。

 

「三百円でござる。はい、お釣り二百円でござるな」 

 

 もはや「俺は関係ねぇ」といわんばかりに売り子に専念するチョバム。

 なんとかエンジンが持ち直し、描けるようになったのは三十分後の事である。

 最初に依頼した人に頭を下げながら、十分遅れでエンジンはなんとかスケブの依頼を完了させることが出来たようだ。

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