【完結】ギャルに優しいオタク君   作:138ネコ

144 / 252
第121話「同級生という事は、二人はクラスメイトかな?」

 喜んで写真を撮るリコの傍らで、オタク君は周りを見たりしながら観察していた。

 傍から見れば、オタク君が少々挙動不審に見えなくもないが、誰もそんな事は気にしていない。

 皆コスプレイヤーを見に来ているので。

 

 オタク君、コスプレイヤーを写真に撮る時のマナーは知っているが、やはり知っていると実際にやるとなると勝手が違う事を感じる。

 撮る側で知識があってももたつくのだから、撮られる側になった場合にはもっともたつくだろう。

 

 ふと、オタク君が目にした人気コスプレイヤーがカメラマンに何かを伝えると、待機しているカメラマンからカメラマンへ伝言ゲームが始まる。

 気になり、立ち止まり何をしているのか眺めるオタク君。

 カメラマンは数人に伝言ゲームをした後に、伝言を貰った最後のカメラマンが後ろを向く。すると他のカメラマンが何も言わずにその場を離れて行く。

 いわゆる列切りである。列を切るのを頼まれたカメラマンが何人目で終わりか伝え、最後の人が反対を方向を向く事で、ここで撮影は終わりのアピールをしているのだ。

 

(なるほど、撮影を終えたい場合はああやって頼むのか)

 

「別にそんな必死にならなくても大丈夫だろ」

 

「えっ、でも」

 

「アタシがあんなに人気になるわけないだろ」 

 

 やれやれと言わんばかりに苦笑いを浮かべるリコ。

 

「そうですか? 前のリコさんのコスプレ姿なら同じくらい人気が出ると思いますよ」

 

 ここで「前のリコさんのコスプレ姿も同じくらい可愛かったから」といえない辺りオタク君の照れが感じられる。

 とはいえ、ここで「そうかなぁ」と流されずに言い返せたのだから、十分だろう。

 

「おだて過ぎだっつうの。何もでねぇぞ」

 

「そういうわけじゃないですけど」

 

「ほら、良いから行くぞ」

 

 ここまで言っておいて、今更照れるように苦笑いで頬を掻くオタク君。

 だが、そんな照れ隠しの所作をするが、前をズンズンと歩こうとするリコには見えないので意味がない。

 そして、前を歩くリコも口をとがらせちょっと斜め上を見て照れ隠しをしていた。

 オタク君に見られていないから、オタク君と同様意味がないが。

 

 お互いにどう声をかければ良いか無言になる。

 前を歩き始めたリコを追いかけるように、オタク君も歩き出そうとして、人とぶつかってしまう。

 いや、ぶつかったというよりは、ぶつかられたという方が正しいだろう。

  

「あっ、すみません」

 

「ちょっと、危ないじゃないか。大事なカメラが壊れたらどうするんだい? お前は弁償できるのかい?」

 

 明らかに後ろからオタク君にわざとぶつかった男性が、鼻息を荒げながらオタク君に絡み始める。

 ぶつかられはしたが、普段から鍛えていたおかげかオタク君は少しよろけただけだった。

 逆にぶつかりに行った男性の方が大きくよろけていた。 

 

「ん? 小田倉どうしたんだ?」

 

 流石に自分の真後ろで何やら揉めていれば、リコも気づく。

 リコが振り返ると、オタク君が、一回りも二回りも年上の男性に絡まれていた。

 何か言われるたびに「すみません」とペコペコと頭を下げるオタク君。

 

「あぁもう、お前はもう良いよ」

 

 そう言って男性がオタク君をドンと突き飛ばそうとして、逆に男性がよろける。

 それが気にくわないのか、オタク君にチッと軽く舌打ちをしてから、リコに話しかけた。

 

「それよりキミだよキミ。さっきコスプレしてたって話してたよね?」

 

「え? あ、はい」

 

「実はボク、この界隈でも有名なカメラマンでね。ボクが写真を撮ってあげればどんなコスプレイヤーだってたちまち人気になるほどでね」

 

「は、はぁ」

 

 男はくどくどと自分がいかにすごいかを語り始め、聞いてもいない機材の値段まで話し始める。

 

「ってかお前いつまでいるの? ボクは彼女と話しててお前には用が無いの。そんなのも分からない? それとも彼女の知り合いか何かなの?」

 

「えっと、連れなので」

 

「あぁもう、空気読めよ。ここは彼女の為に居なくなるところだろ?」

 

「いえ、彼女に離れないでと頼まれているからダメです」

 

 苦笑いを浮かべながらも引かないオタク君。

 オタク君もリコも直感的に感じていた。コイツはヤバい奴だと。

 もしここで自分が離れれば、この男がリコに何かする可能性は高いだろう。

 

 そして下手に名前を言えば、その情報を元に調べるかもしれない。

 140cmにも満たない身長だけでも特定がしやすいというのに、あだ名が「リコ」と分かれば更に特定は容易だろう。

 なので、彼女といって、決して名前を出さないようにしていた。

 

「チッ、しょうがないな。頭が悪い奴と会話をしても無駄だし良いよ」

 

 これ以上問答は無用だとオタク君を無視し、リコに話しかけ始める。

 

「それよりさっきの話の途中だったね。キミは十分な逸材だよ。それに気づかないバカな奴らと違いボクはキミを最高に魅せるだけの腕前はあるから、ボクに写真を撮らせてくれないかい? 特別に無料で撮ってあげるからさ!」

 

「いや、いいです」

 

「遠慮する事ないよ。ほら、綺麗に撮ってあげるからさ」

 

「えっ、キャッ!!」

 

 普段のリコなら絶対言わないような声が出る。

 男が地面に寝転がり、カメラを構え始めたからだ。

 短パン姿なので、ローアングルで撮られてもパンツが丸見えというわけではない。

 

 しかし、下着が見えなくとも嫌悪感は感じる。

 内股になりながら、両手で短パンを抑えるリコ。

 そんな姿が余計に男を興奮させたのだろう。

 

「良いよその表情。でもカメラのフレームに収まらないからもうちょっとこっちに来てよ」

 

 教室で男子がちょっとエッチな話題をしていたり、スケベな本をコソコソ見たりする姿を見た事くらいはリコにもある。

 なんなら教室で隣に立つ優愛をそういった目で見る男子の視線も知っている。

 だが、そんな物とは比較にならない程の、ねっとりとまとわりつくような男の視線。

 

 仰向けに寝転がり、ずるずると這いつくばりながら近づこうとする男。

 相手は寝転がり、ナメクジのような速度。逃げようと思えばいくらでも逃げれる相手である。

 なのに、リコはその場で立ち尽くし逃げようとしない。

 否。逃げられない。体が恐怖に飲まれているから。 

 

 明らかな異常事態に、遠巻きに参加者がその様子を見ている。

 見ているだけである。厄介ごとに巻き込まれるのはごめんだといわんばかりに誰も助けようとしない。オタク君を除いて。

 

「いい加減にしてください!!」

 

 普段のオタク君からは信じられない程の声量と怒気である。

 オタク君は這いつくばる男の胸倉を両手で掴むと、そのまま持ち上げる。

 

 流石に鍛えているだけあって簡単に男を持ち上げるが、ケンカしたことを無いオタク君にはそこから先はどうすれば良いか分からない。

 なので男の足が付かない高さまで一旦持ち上げ、そして手を放した。

 ちょっとした脅しのつもりだが、十分な効果があったようだ。

 

「な、なにをするんだ。ちょっと誰か助けてください。ボク変な人に絡まれてます」

 

 オタク君が手を離した拍子に大きな尻もちをついた男が、被害者アピールをするように大声で叫びながら周りを見渡す。

 もちろん、誰も男の声に聞く耳を持たない。

 オタク君の後ろに隠れるようにしているリコを見れば、何があったのか一目瞭然だからである。

 

 なおも被害者アピールする男が、周りを見渡し、何か気づき目を輝かせる。

 男が見る方向からは、警察官が二人走ってきていた。

 

「お巡りさん助けてください。頭のおかしい奴に絡まれているんです」

 

 男がこっちだと両手を振る。

 そして、走ってきた警察官がその男の手を掴み、そのまま背に回し抑え込む。

 

「えっ?」

 

「お前の犯行の一部始終が撮られていたぞ」

 

 たまたま現場に居合わせた善良な一般人が、巡回中の警察官を見つけ通報したのだ。

 仰向けの男がカメラを構え、嫌がる少女の写真を撮ろうとしていた。

 目撃者多数な上に、その光景を捉えられているのだからもはや言い訳は不可能である。

 

「放せ、ボクは被害者だぞ!」

 

「暴れるな、話ならいくらでも聞いてやるから」

 

「うるさい。警察ならちゃんと仕事しろよ!」

 

「お前を捕まえるのが今の仕事だよ」

 

 警察官に取り押さえられ、男は喚きながら無理やり歩かされ連行されていく。

 

「すみません。まだ混乱しているでしょうが、少し話を伺いたいのですが宜しいでしょうか?」

 

 もう一人の警察官が、出来る限り優しい声でオタク君たちに話しかける。

 警察官の問いに苦笑いで頷くオタク君。そしてチラリとリコの様子を見る。

 リコはオタク君の背中に張り付き、まだ小さく震えていた。

 

「あの、まだ落ち着かないみたいなので僕が話しても良いですか」

 

「あぁ、構わないよ。えっとそこのお嬢ちゃんの名前と、その関係性について聞いても良いですか?」

 

「僕は小田倉浩一で、こっちの子は同級生の姫野瑠璃子さんです」

 

「ふむふむ、小田倉浩一君に、姫野瑠璃子さん」

 

 オタク君の同級生という言葉に、一瞬だけ警察官が表情を変える。

 同い年というには、少々、というかかなり身長差がある。

 とはいえ、警察官がその事に言及する事は無かった。

 もし言及されたとしてもオタク君もリコも定期券があるから大丈夫なのだが。

 

「同級生という事は、二人はクラスメイトかな?」

 

「はっ……」

 

 はいと答えようとしたオタク君が、一瞬だけ言葉に詰まる。

 ただのクラスメイトと答えたら、リコとは別々で話を聞く事になるかもしれないと考えたからだ。

 いまだに自分の背中に張り付くリコは、小刻みに震えている。

 

(こんな状態で、リコさんはまともに受け答えが出来るか?)

 

 一瞬だけ迷い、そして力強く答えた。

 

「いえ、恋人です」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。