【完結】ギャルに優しいオタク君   作:138ネコ

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第129話「友達同士でキスしたりするって、聞いた事あるから」

 オタク君の頭は現在パンク中である。

 もしかして委員長に告白されるかもと思いきや、その遥か斜め上の展開なのだから当たり前といえば当たり前だろう。

 

(いきなり告白とかしても絶対断られるから、まずは段階を踏んで、小田倉君とちゃんと仲の良い友達から!)

 

 もはや仲の良い友達なんてレベルではない。一足飛びも良いところである。

 仲の良い友達同士なら、キスしても大丈夫なはず。

 一体だれが委員長にそんな勘違いをさせたのか?

 オタク君とリコである。つまりこの状況は、オタク君の自業自得ともいえなくもない。

 自業自得というには、かなり羨ましいシチェーションであるが。

 

 しばらくキスをした後、ゆっくりと離れる委員長。

 オタク君と委員長の間には、キスをした証拠が、蜘蛛の糸のように揺らめき、太陽の光で反射し煌めいている。

 

「あ、あのっ。委員長!?」

 

「なに?」

 

 オタク君の目をジーっと見つめ「どうしたの?」といった表情の委員長。

 どうしたのといいたいのはオタク君の方である。

 

「なんでいきなり、その、キスを?」

 

「嫌だった?」

 

「いえ、嫌だったわけじゃないですよ」

 

 ちょっとだけ顔を曇らせる委員長に、オタク君がすかさずフォローを入れる。

 

「友達同士でキスしたりするって、聞いた事あるから」

 

 情報源はリコである。

 

「確かに、聞いた事はありますね」

 

 こちらも情報源はリコである。

 もちろん、友達同士でキスしたりはしない。しないが。

 

(小田倉君が嫌がってないって事は)

 

(前にリコさんからも聞いたけど、委員長も同じ事言うって事は)

 

((やっぱり、友達同士でキスしたりするって、本当だったんだ……))

 

 二人揃って見事に勘違いである。

 お互いに情報源をいえば多少は誤解も解けたかもしれない。

 いや、その場合、委員長がオタク君とリコの会話を盗み聞ぎしていた事を言わざるを得なくなるので、結局情報源は明かせないままだっただろう。

 となると、オタク君がリコとの会話を委員長に聞かれていた時点で、遅かれ早かれこうなっていたに違いない。

 

 頬を紅く染めた委員長が、馬乗りになったままオタク君を見つめる。

 見つめられ、パニックになっているオタク君も当然、顔は真っ赤である。

 お互い見つめ合ったまま、時間だけが過ぎていく。

 

「雪光さん?」

 

 先に口を開いたのはオタク君だった。

 委員長がじっと見つめたままなのに対し、オタク君は目がキョロキョロとせわしない。 

 

「なに?」

 

「あの、こういうのは、ちゃんと相手の許可を取らないとダメですよ?」

 

 こういうのとは、当然キスの事である。

 今回はオタク君だったので、キスされて悪い気分にならないから問題にならなかっただろう。

 だが、他の人が相手だったらどうなるか?

 逃げ惑うリコ相手に、仲が良いからと言って無理やりキスをしに行く委員長。

 大問題である。

 なので、次回からはちゃんと許可を取らないとダメだよと優しく諭すオタク君。

 真面目な話をしているように思うが、もしかしたら、委員長は自分に気があるのではと思っていた事が恥ずかしくなって、少し話題を逸らしているだけである。

 

「やっぱり、嫌だった?」

 

「さっきも言った通り嫌だったわけじゃないですよ。その、他の人に同じ事をしたら嫌がられるかもって話ですから」

 

「小田倉君以外にしないから、大丈夫」

 

「それなら大丈夫ですね」

 

 大丈夫ではない。

 委員長の言葉の真意に気づいて欲しい。

 まぁ、友達同士でキスしたりするという話の後なのだから、オタク君が気づけないのは仕方がないのかもしれない。

 

「そろそろ帰りましょうか」

 

「うん」

 

(……もう一回キスしたいっていえば、してくれるかな)

 

 オタク君の言葉に返事をしつつも、退こうとしない委員長。

 

(ううん。今注意されたばかりなのに、わがままな子だって嫌われちゃうかも)

 

 委員長はゆっくりと立ち上がり、オタク君に手を差しだす。

 その手をオタク君は掴むと、上半身を起こし、ゆっくりと立ち上がる。

 今度こそ足元に注意をしながら、荷物を置く。

 そして、部室のドアの鍵を閉め、並んで廊下を歩き出した。

 この日は分かれ道に差し掛かるまで、オタク君も委員長も特に言葉を交わせなかった。

 

 翌日。

 

「小田倉君、今日は実行委員のお仕事はないみたい」

 

「やっと第2文芸部の手伝いが出来ますね」

 

「うん」

 

 昨日の事など無かったように、いつもの二人に戻っていた。

 そんな二人を、優愛とリコが少し離れたところから見ていた。

 

「おーい、優愛。どうしたんだ」

 

「いや、委員長なんか変わったなって」

 

「そうか?」

 

「ほら、オタク君に敬語とかなくなったし?」

 

「そりゃ同級生だからな」

 

 そう言って、小田倉の奴はいまだに敬語のままだけどとリコは付け足した。

 しかし優愛は、どうにも腑に落ちない様子だ。

 胸にモヤモヤを抱えながら、気のせいかなと自分に言い聞かせるように優愛は呟く。

 優愛もリコも委員長の変化に気づかないのは、なんだかんだでよく一緒にいるからだろう。

 その証拠に、他のグループの女子たちは委員長の変化に気づいているようだ。

 

「ねぇねぇ、委員長って最近可愛くなった気がしない?」

 

「分かる。良く笑うようになったよね」

 

 ほら、あれ見て。

 女子がコッソリと委員長を指さす。

 オタク君と楽しそうに話す委員長は、少しだけ照れくさそうな笑みを浮かべていた。

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