【完結】ギャルに優しいオタク君   作:138ネコ

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第138話「目的が同じですし、委員長も一緒に周りませんか?」

「そういえば、委員長は一人で七夕祭に来たんですか?」

 

 撮影希望者が増えすぎたので、途中で列を切ったオタク君たち。

 最後の撮影が終わり、近くの屋台で飲み物を買い、一息ついてから、オタク君が尋ねた。

 

「うん。小田倉君は姫野さんと一緒に来たの?」

 

「えっと、そうだね」

 

 合わせのコスプレまでしておいて言い訳はできないので、素直に一緒に来た事を伝えるオタク君。

 

「ほら、文化祭で屋台をやるから、屋台ってどんなのがあるか見に行こうかってリコさんと話をしてたんだ」

 

「あぁ、うん。それでコスプレ祭りもやってるし、ついでにコスプレするかって話になったんだよ」

 

 オタク君とリコ。言い訳特有の早口で、聞かれてもいない理由を答え始める。動揺しまくりである。

 明らかに動揺している二人の言い訳を聞かされ、ちょっとうんざりそうに半眼で見つめる委員長。

 委員長が半眼で見つめるたびに、オタク君とリコの言い訳は加速していく。

 別にやましい事をしていたわけではない。

 だが、最近の優愛や委員長はオタク君がリコと二人きりで出かけたのを知ると、何故か意味深に「ふーん?」と言って問い詰めてくるので、言いづらいのだ。前から二人で行く約束をしていましたと。

 リコはともかく、オタク君は優愛や委員長を誘っても良いとは思っていたが、コスプレする約束付き。流石に誘うのはハードルが高いと思い、今回は二人きりで行く事にしたのだ。

 地元だから、優愛や委員長にはバレないだろう。そんな甘い気持ちでいたら委員長に出会い、しかも困っている様子だから声をかけざる得なかった。

 結果、委員長に半眼でジーっと見つめられることになると分かっていても。

 

「と、ところで、委員長はなんで七夕祭りに?」

 

 苦し紛れに話題を変えようとするオタク君。

 だが、その苦し紛れの一言は、効果絶大だったようだ。

 

「……文化祭で屋台をやるから、どんな屋台があるのか下見しに」

 

 半眼でオタク君たちを見ていた委員長の目が泳ぎ始める。

 どんな屋台があるか下見をしに来た事自体は嘘ではない。

 が、本当の目的はそこではない。

 オタク君の地元のお祭りなので、もしかしたらオタク君に会えるかもと思い足を運んだのだ。

 もし事前にオタク君を誘えば、当然その話は優愛やリコにも行く。

 委員長としてはオタク君と二人きりで周りたいのだ。お祭りを。

 なので、あえて何も言わずにお祭りに来た。

 もし会えない場合は、最終手段としてスマホで「今小田倉君の地元のお祭りに来てるよ」と連絡をしようとしていた。

 

「ふーん?」

 

 今度はリコが委員長を半眼で見る。この女、何か怪しいと。

 リコに見られ、無表情のまま目を逸らす委員長。

 頬から顎にかけて滴る汗は、暑さだけのせいではない。

 完全に攻守が逆転していた。

 

 だが、リコから攻めることはなかった。

 委員長を追い詰めようと思えばいくらでも追い詰められる。

 しかし、追い詰められた委員長が、自爆特攻のように言い返してきた場合、全てが自分に返ってくる。

 なのでリコも委員長も何も言えずにいた。

 

「いやぁ、それなら一緒ですね!」

 

 沈黙を破ったのはオタク君だった。

 

「目的が同じですし、委員長も一緒に周りませんか?」

 

 何故委員長が言い淀んだのかオタク君には分からない。

 分からないが、何か言いづらい理由がある事は、今の一連の言動で読み取っていた。

 なので、今自分たちは偶然同じ目的で来て、偶然出会った。そう落としどころをつけようと考えたのだ。

 

「うん。良いよ」

 

「そうだな。委員長も一緒に周るか」

 

 オタク君が目的の委員長に、断る理由はない。

 リコとしてはオタク君と二人きりでデート気分を味わいたいところだが、ゴネるのは不可能なことぐらい理解している。

 なので賛成をするしかなかった。これ以上二人きりだった理由を追及されても困るなので。 

 

「それじゃあ屋台見て周りましょうよ。何か食べます?」

 

「冷凍フルーツ缶っての興味あるかな」

 

「私、りんご飴って食べた事ないから食べてみたい」

 

 ちょっとだけわざとらしいテンションではあるが、実際に屋台で買い食いをしてただ歩くだけでも楽しくなってくるオタク君たち。

 友達とお祭りに買い食いをして歩く。そんな青春的な事をしてつまらないはずがない。

 

「コスプレしてる人たちでパレードやるみたいですよ」

 

「ん? 小田倉参加するつもりなのか?」

 

「私、コスプレしてない……」

 

「いえ、流石に恥ずかしいので参加は無理ですが、写真とか撮るのはどうかなと思って」

 

 委員長のその恰好も、傍目から見たら十分コスプレである。

 実際に戦コレのキャラと思われて撮影されているわけなので。

 なんだかんだで、楽しくなってくると、時間はあっという間に過ぎてしまう。

 

「リコさん、そろそろ着替えに戻りましょうか」

 

「もうそんな時間か?」

 

 まだ日が明るいが、既に時計は夕方の六時を指している。

 着替えは夜の七時まで。それまでに着替えないとコスプレしたまま帰らないといけなくなる。

 コスプレしたまま出歩けば恥ずかしいのは当然として、警察から職務質問を受けたり、コスプレイヤーとしてマナーが悪いとネットに晒されたりもしかねない。

 

「僕らは着替えたら帰る予定ですけど、委員長はどうします?」

 

「私も帰ろうかな」

 

「確か途中までリコさんと同じ電車ですよね? 着替えてからで良ければ駅まで送りますけど」

 

「うん。それじゃあお願い」

 

 着替えを済まし、メイクを落としてから、オタク君はリコと委員長を駅まで送る。

 

「まだ明るいですが、気を付けてくださいね」

 

「あいよ」

 

「またね」

 

 手を振り、二人が改札に入って行くのを見届けてから、オタク君は帰路に着いた。

 電車の中では、リコと委員長が今日の事を楽しく話していた。

 

「……」

 

「……」

 

 わけもなく、無言である。

 

(委員長のヤツ、前に小田倉の事好きか聞いて来たよな……やっぱり小田倉の事狙ってるのか?)

 

(姫野さん、小田倉君と二人きりでコスプレって、もしかして付き合ってたりするのかな?)

 

 気になりつつも、お互い聞き出すタイミングを掴めずにいた。

 

「私、この駅だから」

 

「そうか。またな」

 

「うん」

 

 結局、何も言い出せないまま別れるリコと委員長。

 彼女たちの胸のモヤモヤは、まだしばらくは消えそうにないだろう。

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