【完結】ギャルに優しいオタク君   作:138ネコ

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第18話「委員長、髪型変えました?」

 まだ誰も来ていない早朝の教室。

 学校に来ているのは、部活で朝練がある生徒くらいだ。

 

「まだ誰も来ていないか」

 

 本日はオタク君が日直なので、早めに登校し教室の鍵を開けていた。

 始業のチャイムまでまだ1時間以上あるが、朝早くから登校してくる生徒もいる。

 それなら早く来た生徒に教室の鍵を開けさせれば良いだけなのだが、律儀な性格のオタク君は、日直の日はその生徒に合わせるように早く来て教室を開けるのだ。

 

「小田倉君、おはようございます」

 

 オタク君が教室で学級日誌を書いていると、物腰柔らかく、少し間延びをした声の女生徒がオタク君に声をかけた。

 このクラスの委員長だ。

 

「おはようございます。相変わらず朝は早いんですね」

 

「はい。小田倉君が日直の日は、早く教室を開けてくれるので助かります」

 

「いえいえ、それほどでもない……です……よ?」

 

 なんだか歯切れの悪いオタク君。

 彼が驚くのも無理はない、目の前にいる委員長は、自分の知っている人物とあまりにかけ離れていたからだ。

 

「どうかしました?」

 

「委員長、髪型変えました?」

 

 控えめに言うオタク君だが、髪型が変わった所の話ではない。

 元は制服を綺麗に着こなし、束ねられた漆黒の黒い髪がとても綺麗な清楚な女生徒だった。

 

 それがカールのかかったツインテールに、髪色はド派手なピンク。

 泣き腫らしたかのような赤みがかった目元に、暗く赤い色のリップ。いわゆる地雷系メイクだ。

 服装もスカート丈は太ももが見えるくらい短くなり、優愛ほどではないがブラウスも着崩している。

 

「ふふふ。気づきました?」

 

(小田倉君が気付いてくれた!)

 

 これだけ変わっていて、気づかないはずがない。

 もはや以前の彼女と同じパーツを探す方が難しいくらいだ。

 

「思い切ってイメチェンをしてみたんですけど、どうですか?」

 

「似合ってるよ」

 

「本当ですか? 具体的にはどこが良いですか?」

 

 まるで死んだ魚のような目をして、オタク君に近づく委員長。

 ボソボソと「ねぇ、どこが?」と呟いている。どうみてもヤバイ奴にしか見えない。

 

 だが実際は彼女はメンヘラでもヤンデレでもない。

 今の発言も「ねぇねぇ、小田倉君はどこが良いと思った?(>▽<)」と本人は言ってるつもりなのだ。

 そう、ちょっと口下手で、ちょっと他人との距離感を測るのが苦手なだけなのだ。……多分。

 

「そうですね」

 

 一旦学級日誌をしまい、委員長を見つめるオタク君。

 委員長の様子に全く動じる事なく、腕組をして考える。

 もはや鈍感というレベルではない。

 

「特にツインテールのカールの部分が凄いと思うかな。左右対称で綺麗に巻けてるし、これエクステやウィッグじゃなくて地毛でしょ?」

 

「うん。今日は上手くセット出来なくて一時間以上かかったの」

 

「そうなんですか。それじゃあ相当早起きしてませんか?」

 

「大変だったけど、小田倉君が気付いてくれたから頑張った甲斐がありました」

 

 傍から見れば、無表情で喋り続ける委員長は怖く見えるだろう。

 だが、オタク君にとっては見た目が変わっても、その無表情こそが委員長らしさなので、恐れる事は無かった。

 

 というのも、彼らの出会いは4月に遡る。

 ちょっと口下手な委員長。彼女は実は隠れオタクな事もあり、女子と話がかみ合わず中々友達が出来なかった。

 

 ある日、ラノベを読んでいる委員長に、クラスの女子がぶつかってしまいラノベを落としたのを、オタク君が拾ってしまったのだ。

 よりにもよってイラスト付きのページが開かれた状態で。

 委員長の動悸が激しくなっていく。今のでオタクであることがバレてしまったと。

 

「あの、これ」

 

 拾ったラノベを委員長に渡そうとするオタク君。

 必死に平然を装い、お礼を言って受け取る委員長。

 

 この時オタク君はまだ話す相手も居らず、同じオタク仲間を見つけたと内心ちょっとハシャイでいた。

 対して委員長は、中学時代にオタクバレして馬鹿にされていた苦い記憶が蘇っていた。

 

「何見てるんですか?」

(訳:恥ずかしいから見ないで(/ω\)」

 

「えっと、それ5巻の親子の再会シーンが特に感動するよね」

 

「あまり人前で言う事じゃないですよ」

(訳:私もそう思うけど、皆が居る前でそういう話は恥ずかしいよぉ(>_<)」

 

「あっ、そっか。ごめん」

 

 この日以来、オタク君以外に誰も居ない時は、どこからともなく委員長が近づいて来てはアニメやラノベと言ったオタクの話をするようになった。

 最初は彼女の言動にビビリ気味だったオタク君だったが、回数を重ねるごとに慣れていった。

 

 しかし、委員長はある日を境にオタク君と話す機会が減ってしまう。そう、オタク君と優愛の出会いだ。

 オタク君にべったりな優愛にジェラシーを感じる委員長。

 

(……小田倉君は根暗なオタク女よりも、ギャルのが良いよね)

 

 委員長の想いは募っていく一方だった。

 

(そうだ。小田倉君好みのギャルになれば、また私に振り向いてくれるはず)

 

 そう思い立った彼女は、小田倉君の好みを調べる為に第2文芸部に向かった。

 そこで部員たちと仲良くおしゃべりをして(本人談)オタク君の好みを聞き出したのだ。

 

(今日はいつもより小田倉君が饒舌な気がする。やっぱり好みに合わせたおかげかな)

 

「そういえば委員長、ネイルはしてないんですか?」

 

「ネイル?」

 

 委員長が調べたのは髪型、メイク、服装でネイルについてはまだだった。

 元々ファッションやオシャレに興味が無かったために、初めてのおしゃれでそこまで気が回らなかったのだ。

 良く分からず首をかしげる委員長を見て、オタク君がガサゴソとカバンの中をあさり始めた。

 

「良かったらこれ、余ってるので付けて見ませんか?」

 

 出てきたのは黒光りする付け爪だ。

 1枚1枚絵柄が違い、それぞれリボンだったり、蝶だったり、天使の羽といった物が描かれている。 

 以前に優愛やリコが地雷系メイクを試したいと言った時に、オタク君が作ったものだ。

 試したは良いが、評判は良くなかったみたいですぐに止めたので、使われる事が無かった。

 

「良いんですか?」

 

「はい」

 

 オタク君が頷くと、無表情で手を差し出す委員長。

 差し出された手に、1枚づつ丁寧に付け爪を貼っていくオタク君。

 

 そんな様子を、恍惚な表情に変えながら委員長が眺める。

 今の彼女の目には、さながらガラスの靴をシンデレラに履かせる王子様のように見えているのだろう。

 

「はい、出来ましたよ」

 

「ありがとうございます」

 

 朝日で煌めく爪を、角度を変えながら何度も見る委員長。

 

(小田倉君の好みに合わせてよかった……そうだ。また第2文芸部にお邪魔して、もっと小田倉君の好みを教えて貰おう)

 

 自分の爪を見ながら、委員長はそう思うのであった。

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