【完結】ギャルに優しいオタク君   作:138ネコ

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委員長ルート 1

 吐く息も白く、まだ明るくなり始めた街を一人の少女がゆっくりと歩を進めている。

 いつもの通り道、いつもの学校。

 既に校門は開かれているが、まだ早い時間のため、運動部の朝練すら始まっていない。

 そのまま運動場を通り抜け、下駄箱で上履きに履き替え、教室の鍵を受け取るために職員室へ。

 

 そこで少女が気付く。自分のクラスの教室の鍵がない事に。

 まさかと思いながら、逸る気持ちを抑え自分のクラスへ向かう。

 こんな早い時間に教室に来る人物は一人しか思い浮かばない。

 

 だが、他の人が来ている可能性も否定はできない。

 何故なら今日はバレンタインデーだから。

 

「おはようございます。雪光さん、今日も早いですね」

 

 そこには、いつもの笑顔を見せるオタク君がいた。

 ドアを開けた主。地雷系メイクに派手なドピンク頭、ドリルのように巻いたツインテールの委員長を見て声をかける。

 自分の席に座ったまま一旦委員長の方向を向き挨拶をすると、カバンの中から教科書やノートを出して、机の中にいれている。

 オタク君も今来たばかりなのか、暖房が着いているにもかかわらず、教室は廊下とたいして温度が変わらない。

 

「うん。今日は早く目が覚めちゃって」

 

「そうなんですか。僕もです」

 

 オタク君が「一緒ですね」と言うと、二人して、フフっと笑う。

 ゆっくりと自分の席に移動し、カバンを置き、委員長が一息つく。

 そんな委員長を、チラチラと横目で見るオタク君だが、不意に委員長と目が合う。

 

(これじゃあ催促してるみたいじゃないか)

 

 チラ見している時点で十分催促している気はするが。

 自分の行動を恥じ、すぐさま委員長から目を逸らし、机の中の教科書を授業の予定表と照らし合わせながら見直し始めるオタク君。

 が、そんな行動は今更である。

 

「小田倉君」

 

「あっ、はい!」

 

 ゆっくりと、委員長がオタク君の席に近づき、声をかける。

 チラチラ見ていた事を何か言われるのではないかという不安に襲われ、蛇に睨まれた蛙のようにオタク君が硬直する。

 

「これ、バレンタイン」

 

 そう言って、紙袋をオタク君の前に出す委員長。

 紙袋には「小田倉君へ、雪光より」と書かれている一枚の紙が貼りつけられている。

 

「良いんですか?」

 

「うん」

 

「ありがとうございます」

 

 大事そうに両手で受け取るオタク君。

 

「あの、中身見ても大丈夫ですか?」 

 

「良いよ」

 

 委員長に許可を貰い、嬉しそうに頬を緩ませながら紙袋から中身を取り出す。

 そんなオタク君の姿を見て、委員長も少しだけ頬を緩ませる。

 本当は朝早くに来て、コッソリオタク君の机に入れるつもりだったのだが、予想外にオタク君が来ていたせいで手渡しになってしまった。

 先ほどオタク君がチラチラと委員長を見ていたように、委員長も渡すタイミングを考えてオタク君を見ていたのだ。

 オタク君がチラチラ見ていた事を不安に思うように、委員長もオタク君が喜んでくれるか不安だったのだ。

 

「これは、マカロンですね」

 

「うん。手作りしてみたんだけど、どうかな?」

 

 カクンと首を傾げる委員長。

 首を傾げるのに合わせ、ツインテールも一緒に揺れる。

 

「それでは、一つ頂きますね」

 

 グルメリポーターのように「美味しそうだな」などと言いながら、口に含み、もぐもぐと咀嚼をして飲み込む。

 

「美味しいですよ。凄く」

 

「本当?」

 

「はい。本当です」

 

 そう言ってもう一つ摘まみ、口に入れるオタク君。

 そんなオタク君の姿をジーっと見つめ続ける委員長。

 穴が開くのではないかというくらい委員長にジーっと見つめられ、オタク君は少し、いや、かなり居心地が悪くなっている。

 

(小田倉君、本当かな?)

 

 何度も味見もしたというのに、不安からオタク君をチラ見(本人談)してしまう委員長。

 

(もしかして、委員長もちょっと食べてみたいのかな)

 

 オタク君の気遣いと鈍感の合わせ技である。

 ただ、今回はあながち間違っているわけでもない。

 オタク君が食べているのを見て、本当に美味しいのか不安で味見をしてみたいなと思っていたりする。

 

「良かったら、雪光さんも一口食べますか?」

 

「えっ、良いの?」

 

「ほら、一緒に食べた方が楽しいですし」

 

「そう、それじゃあ……」

 

 そっと手を出そうとして、委員長が一瞬動きを止める。

 どうしたのとオタク君が言うよりも早く、委員長は再起動をした。

 ゆっくりと膝を曲げ、オタク君の机に手を置き、そして口を開ける。

 

「あーん?」

 

 委員長、顔をカクンと傾けながら、疑問形の「あーん」である。

 

「あ、あーん」

 

 そんな委員長に対し、一瞬だけ戸惑いつつも、オタク君はマカロンを摘まむと、委員長の口まで運ぶ。

 もしここで戸惑って時間が経てば、委員長が「やっぱり今のなし」と言うかもしれないので。

 というか、一度口を閉じ、再度口を開いた委員長が、後一拍間を置いていたら言いそうだったので。

 

「どうです?」

 

「うん。おいしい」

 

 もぐもぐと咀嚼して、味を確かめる委員長。

 ちゃんと美味しい事を確認出来て満足である。

 否。確認出来て満足だと自分に言い聞かせているだけだ。

 

(だ、大胆過ぎたかな)

 

「良かったらもう一つ」

 

 そう言ってマカロンをもう一つ摘まもうとした時だった。

 

「おはよう!!」

 

 元気いっぱいの挨拶と共に、教室のドアが開かれる。

 ドアを開いた主は優愛である。隣にはリコを引き連れ朝早くからの登校だ。

 優愛の声に驚いた委員長が、ピンと背筋を伸ばし、直立の体勢になる。

 

 なぜこんな朝早くから優愛が登校しているのか?

 理由は勿論、早く来てオタク君にチョコを渡すために。

 去年は上手く渡せなかったので、今年はちゃんと渡せるように早く登校してきたのだ。リコと。

 

「あっ、オタク君と委員長もう来てたんだ」

 

「はい。と言っても僕も委員長も今来たところですけど」

 

「うん」

 

 先ほどまで、オタク君と委員長が何をしていたのか知らない優愛はいつも通りのハイテンションである。

 対して、リコは少々ぎこちない感じのオタク君と委員長に何かあったのか感じ取っていた。

 

「小田倉、机のは?」

 

「えっ、あぁ。委員長から貰ったんですよ。ほら、今日はバレンタインなので」

 

「ふーん、そうか」

 

 違和感を覚えつつも、適当に流すリコ。

 こういう時のオタク君は、下手に追及すると余計に焦ってしどろもどろになってしまう。

 そんなオタク君の姿を見るのも悪くはないが、今日は優愛と同じく、バレンタインのために作ってきたクッキーを渡すためにきたのだ。

 ここで変に弄り、その間に他の人が来たら恥ずかしくて上手く渡せない。

 大方、委員長からバレンタインのプレゼントを貰った場面に出くわされて照れているだけだろうと、結論付ける。

 

「ほら小田倉。これはアタシからだ」

 

「あっ、リコ抜け駆けズルイ。オタク君、これ私から」

 

 抜け駆けも何も、リコが言い出さなければ優愛はヘタレていただろう。

 無事渡せたことで、安堵からえへへと照れ笑いを浮かべる優愛。

 

「そろそろ他のヤツらも来るだろうし、中身を見るのは後でにした方が良いと思うぞ」

 

「あー……そうですね」

 

 名残惜しそうに「残りは後で頂きますね」と委員長に言って、オタク君は貰ったバレンタインのプレゼントを仕舞い込む。

 他のクラスメイトがやって来たのは、それから数分後であった。

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