【完結】ギャルに優しいオタク君   作:138ネコ

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委員長ルート 2

 放課後。

 午後の授業も全て終わり、ある者は部活動に、ある者は帰宅を始めている。

 徐々に賑わいを見せる部活動。その中で、第2文芸部の部室には、まだ誰もいない。一ヶ所を除いて。 

 

(今日こそは皆を驚かせる事が出来るかな)

 

 そう。いつものようにロッカーに隠れ、部員を、特にオタク君を驚かせようと画策する委員長。

 今の今まで、一度も成功した事がなく、不発に終わったロッカーから登場して驚かせよう作戦。

 今度こそはと息を潜め、ロッカーの中から誰か来ないかひたすら待っていた。

 

「あれ、部室の鍵開いたままだ」

 

「チョバム先輩かエンジン先輩が先に来て、開けたんじゃないっすか?」

 

 最初に来たのは、オタク君とめちゃ美である。

 クラスどころか学年も違うというのに、二人が一緒に部室に来るのは珍しい組み合わせだが、特に委員長は気にした様子はない。

 それよりも、どのタイミングで驚かせてやろうかと、そちらばかりに気がいっている。

 だから、今日も驚かすタイミングを彼女は失ってしまう。

 

「ほら、今日は相方が告白する日っすから。いつでも部室に呼び出せるように、開けといてくれたんじゃないっすか?」

 

 肘でオタク君のお腹を突っつき、からかうようにいうめちゃ美。

 その言葉を聞き、委員長の頭が真っ白になる。

 

(こく……はく……?)

 

 まるでオタク君が誰かに愛の告白をするかのような口ぶりに、委員長は自分の動悸が激しくなっていくのを感じる。

 もしかしたら、ネットゲームの話かもしれない。だったら、部室を開ける意味はないのではないか?

 一瞬の間に、委員長の頭に色んな考えが浮かぶが、その全てが理解出来ずに気泡のように頭から消えていく。それだけ冷静さを失っているのだろう。

 思考がまとまらず、ただただロッカーの中で立ち尽くす委員長。

 

(もしかしたら、思い違いかもしれないし)

 

 体をこわばらせながら、オタク君とめちゃ美の会話に集中する委員長。

 オタク君の口から否定の言葉が出るはず、そう信じて。

 

「相方、ここに来て『やっぱりやめようかな』とかヘタレてないっすよね?」

 

「正直、不安な気持ちはあるけどね」

 

 冗談半分で言っためちゃ美だが、オタク君は否定しない。

 だが、笑みを浮かべながら言葉を続ける。

 

「でも、ここで告白出来なかったら絶対後悔すると思うから。好きっていうつもりだよ」

 

 いつものように頼りない笑顔を浮かべ、頬を掻くオタク君。

 だが、その瞳にはいつもと違い、強い意志が感じられる。

 そんなオタク君に「ヒュー」と言いながら、めちゃ美がはしゃぐ。

 その後もオタク君とめちゃ美が何か話しているが、委員長の頭には全く会話が入ってこない。

 断片的な情報だけが辛うじて理解出来るだけで。

 

 オタク君は好きな人がいて、今から告白するつもりだ。

 

 その事実が、委員長の背に重くのしかかる。

 相手は優愛だろうか?

 それともリコだろうか?

 どちらにせよ、自分ではないのは確かだろう。

 そう思いつつも、まだ望みはあった。

 断片的な情報を整理するに、チョバム、エンジン、めちゃ美は今日オタク君が告白する事を知っていた。

 そして、その手伝いをしていると。

 自分は何も聞かされていない。ならば、告白される側の可能性もある。

 都合の良い妄想を思い浮かべる委員長だが、その想いは即座に潰される事になる。

 

「それで、何か手伝う事はあるっすか? 相手を呼んでくるのが恥ずかしいなら代わりに呼んできてあげても良いっすよ」 

 

「あー、それは必要ないから、多分大丈夫かな」

 

「えっ、もう呼んであるとかっすか?」

 

「うん。まぁそんな感じかな」

 

 相手は既に呼び出した後。

 つまり、オタク君の告白相手は、声をかけられていない委員長ではないという事になる。

 オタク君とめちゃ美の会話で断片的に理解出来ていた情報を、委員長はもはや完全に理解出来なくなっていた。

 何かをしゃべっているが、何をしゃべっているのかよく分からない。

 嬉しそうに、そして恥ずかしそうに笑みを浮かべるオタク君。好きな人の笑顔なのに、見る度に胸が痛む。

 そして、オタク君とめちゃ美がしばらくしてから部室を去っていく。

 届くわけもないのに、ロッカーの中で無意識に手を伸ばそうとして、伸ばした手はロッカーの扉に阻まれる。

 

 委員長はある程度覚悟はしていたつもりだった。

 優愛やリコ、それにめちゃ美や村田姉妹といったギャルたちに囲まれたオタク君が、わざわざ陰キャの自分を選ぶ可能性は少ないだろう。

 初めから分が悪いのだから、もしもの時は諦められるはずと。

 

「小田倉君とは……友達で良い……」

 

 出会ったあの頃のように、アニメやラノベの話を楽しく出来る、仲の良いお友達に。

 

「それに、私が選ばれないなら……優愛ちゃんやリコちゃんとも、友達でいられるし……」

 

 オタク君と仲の良い友達のままなら、第2文芸部で出来た輪の中にいられる。

 

「そう思うと、なんかほっとしちゃったかも」

 

 だから、きっとこれで良かったんだ。

 そんな風に自分に(うそぶ)く委員長だが、いくら自分を騙そうとしても、騙せるものではない。

 

「やだっ……」  

 

 委員長の言葉と共に、涙が溢れる。

 そして、涙と共に感情が溢れ出す。

 こんなにも好きなのに、諦めないといけないなんて悲し過ぎる。

 もしもの時は諦められるなんて言い訳は、こんな苦しみの前では無意味だった。

 

 涙を必死で拭う委員長。

 化粧が落ちる事などお構いもなしに。

 拭った手にうっすらとこびりつく化粧。

 

 自分はただ、好きな人に構って欲しくてこんな格好をしていた。

 思い返せばそれは、とても幼稚な考えだ。

 好きなら好きと、自分の想いを伝えればよかった。ただそれだけの事だった。

 いくら見た目を変えたところで、好きな気持ちが伝わらなければ意味がないのだから。

 

 気づくために払った代償は、少女にとってはあまりに大きすぎた。

 拭った際に、手に付着した化粧を見て、委員長は思う。もう、こんな格好をするのはやめよう。余計に惨めになるだけだ、と。

 

(メイク落とし、確かカバンの中にあったかな)

 

 このままの格好でいたら、気持ちがまた揺らいでしまうかもしれない。

 だから、すぐにでもメイクを落とそう。

 

(アニメとかで、失恋したら髪の毛切るのって、こんな気持ちだったのかな)

 

 なんだかアニメのキャラになれたみたいだ。

 そんな風に自分の心を誤魔化そうとして、無理に笑ってみせる委員長。

 だが、そうやって無理に笑おうとすればするほど、涙と心があふれ出て来てしまう。

 ロッカーの中のように、暗い気持ちが彼女を蝕んでいく。

 

「やっぱり、ここにいたんですね!」

 

「えっ……」

 

 ロッカーにいたせいで、突如開け広げられたロッカーから直視するには、あまりに明るすぎる人影。

 涙の視界と、チカチカする明かりで、委員長の目から見て、ロッカーを開けた人物が誰か識別できない。

 だが、その声で誰か判別することは出来た。

 

「おたくら、くん?」

 

「はい。あの、泣いてるところ悪いのですが、言わせてください」

 

 ――雪光さん――

 ――好きです。付き合ってください――

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