【完結】ギャルに優しいオタク君   作:138ネコ

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リコルート 4

 その頃オタク君は、第2文芸部の部室で放心していた。

 断られる可能性がある事は、勿論理解していた。覚悟していた。

 だが、いくら覚悟を決めようが、こうして現実に振られれば、その覚悟はいともたやすく崩れさってしまう。

 

 リコの言動は、オタク君から見て、オタク君に好意があるように見えた。

 だからこそ、オタク君の期待も大きくなり、振られた時の反動がその分大きくなってしまった。

 心にぽっかり穴が開いたかのように、何をするでもなく、ただただ立ち尽くすオタク君。

  

「あの……小田倉君」

 

 そんなオタク君に、背後から委員長が声をかける。

 彼女は一体いつからそこにいたのだろうか。

 今のオタク君には、そんな疑問すら思い浮かばない。

 

「あっ、見てました?」

 

 委員長の方を向こうともせず、力なく「ハハハ」と笑うオタク君。

 どう声をかければ良いか分からず、口を開いては閉じてを繰り返す委員長。

 しかし、反対方向を向いているオタク君にはそんな委員長の態度が分かるわけもなく、何かを言おうと勇気を振り絞る委員長の言葉を遮るように喋り始める。

 

「リコさんに、振られちゃいました」

 

 委員長から見て、反対の方向を向いているオタク君の表情は伺い知れない。

 だが、なおもこちらを向こうとしないオタク君の態度が、今どんな表情をしているのか物語っている。

 委員長は、これはチャンスだと思った。 

 オタク君はリコに告白し、リコはそれを断ったのだ。

 ならば、自分が今オタク君に告白しても何も問題はない。

 傷心のオタク君を今すぐに抱きしめ、言ってあげたい。私じゃだめかな。私は貴方の事が好きだよ。と。

 一歩、そしてもう一歩踏み出す委員長。

 あと数歩、あと数十センチの距離。そこで、ピタリと委員長の足が止まる。

 

「それでも、まだリコさんの事が好きで……変ですよね」

 

 そこに、彼女の居場所なんてなかった。

 振られてもなお、リコの事が好きだと言うオタク君。 

 

「変じゃないと思うよ」

 

 オタク君へと向かていた委員長の足が、進路を変え部室のドアへと向かって行く。

 

「誰かを好きになるのって、素敵な事だと思う。

 誰かを好きだって気持ちがあるだけで、毎日ドキドキワクワクして、見慣れたいつもの景色だって、好きな人といるだけでキラキラして見える。

 だからね、全然変じゃないと思うよ。私は」

 

 控えめな音を立て、第2文芸部のドアが開かれる。

 小さく「ばいばい」と言って、委員長が第2文芸部の部室を後にする。別れの挨拶と同じくらい、控えめな音を立てドアを閉め。

 ゆっくりとした足取りで委員長は廊下に出ると、少しづつ早歩きに、気づけば走り出していた。

 そして、廊下ですれ違う見慣れた少女。

 

 部室へ急ぐリコ。

 その途中で、委員長とすれ違う。

 涙で顔をグシャグシャにしながら、メイクが落ちるかもしれないというのに、そんな事は気にもせず、涙を手で拭い。

 何があったのか、彼女が来た方向で予想がつく。

 二年近い付き合いで、委員長はリコにとって大事な友人の一人になっていた。

 だからこそ、声をかけたりするなんて無粋な真似はしない。

 ここで足を止める事は、委員長に対して傷口を抉るだけの行為になるのだから。

 

 息を切らせながら、それでも速度を緩める事なく、少女は部室へと全力で走っていく。

 そして、勢い良く開けた扉の向こうに、大好きな彼を見つける。

 

「あれ、リコさん。もしかして忘れ物ですか?」

 

 わざとらしく、そうとぼけるオタク君。

 

「あっ、もしお邪魔でしたら、今日は帰りますので」

 

「まっ……」

 

 待って。その一言が上手く言えない。

 走ったせいで息も絶え絶えになり、肩で息をするリコ。

 そんなリコの隣を、オタク君は通り抜けようとして、腕を掴まれる。

 

「えっ、あの」

 

 グイっとオタク君の手を引こうとするリコ。

 ただでさえ体格差があるのに、疲れた状態でオタク君を無理に引っ張れるわけもなく、困り果てるオタク君。

 

「もう、誰かに見られた、って、良い」 

 

 オタク君の腕を掴んだ手を離すと、そのままオタク君に抱き着くリコ。

 誰かが通るかもしれないというのに、周りの目も気にせず。

 

「小田倉、さっきは、ごめん。も、もう一度、頼む。やり直して、欲しい」 

 

 先ほど振られたばかりだというのに、もう一度と言われ、オタク君は更に困惑する。

 これはもしかしてと思えば思うほどに、これでまた振られたらと思うとどうしても弱気になってしまうのは仕方がないのだろう。

 もしまた振られたら、どれだけショックを受けるか計り知れない。

 

「頼む。どうしてもだ」

 

 オタク君に抱き着いたまま顔を上げるリコ。

 涙をボロボロと零すリコを見て、オタク君は覚悟を決める。

 いや、そんなものは、もしかしたらリコが部室に戻って来た時点で決まっていたのかもしれない。

 例えリコが言い出さなくても、いずれオタク君からもう一度言いだしていただろう。

 

「リコさん。好きです。僕と付き合ってください」

 

「アタシも、小田倉の事が好きだ」

 

 ……。

 …………。

 見つめ合ったまま、二人の時が止まる。

 

「えっと、こういう時ってどうすれば良いんでしょうか?」

 

 オタク君、せっかくの雰囲気がぶち壊しである。

 普段ならオタク君の気の抜けた発言に、悪態の一つや二つついているリコ。

 オタク君自身も「あ、やらかした」と自分の中で気が付き、訂正しようと試みる。

 が、それよりも先にリコが動いた。

 抱きしめた腕を離すと、数歩下がり、両手を広げる。

 

「抱きしめて、キスして」

 

 言っておいて恥ずかしいのだろう。

 顔を赤らめ、目と眉を吊り上げ「早く」とせがむリコ。

 リコに負けないくらい顔を赤くし、オタク君はリコを抱きしめる。

 必死に屈むオタク君と、必死に背伸びをするリコ。

 身長差で、中々かみ合わない二人が、今ゆっくりとキスを交わす。

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