【完結】ギャルに優しいオタク君   作:138ネコ

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リコルート 8

 オタク君の「お化けが怖いの?」という言葉に、黙って目を逸らすリコ。

 もはや、それは肯定を意味する行為でしかない。

 

 かつてオタク君がVRのゾンビゲーをやっているのを見られた時も、優愛たちは楽しんでゾンビゲーをやったのに、リコだけ頑なにやろうとしなかった。

 その時は皆の前でVRゴーグルを付けて遊ぶのが恥ずかしいのだろうと思っていたオタク君だが、こうしてみれば理由は一目瞭然である。

 

 目を逸らしながらも、リコは握りしめた手を放そうとしない。なんなら一層力を入れてくる。 

 そこまでしておきながら「お化けが怖い」と素直に言えないのは、プライドからか、それとも羞恥心からか。

 そんなリコの様子を見て、少しだけ嬉しそうな顔でため息を吐くオタク君。

 

 オバケが怖いなんて子供っぽい理由だが、可愛い彼女が自分を頼ってくれている。

 なおも目を逸らしながら、チラチラとオタク君を見るリコ。

 オタク君としては、もう少し彼女の可愛い様子を見ておきたいところではあるが、目の端に涙を溜め始めている事に気づく。

 

(流石に可哀そうかな)

 

 リコの手を握りしめたまま、オタク君はもう片手でスマホを取り出し、電話をかける。

 

「もしもし? エンジン?」

 

『小田倉氏、どうしたですぞ?』

 

「悪いんだけど、理由は聞かず今日僕はエンジンの家に泊まったって事にして貰えないかな?」 

 

『なるほど。分かったですぞ。詳しい口裏合わせは後でメッセージで送っておきますぞ』

 

 最期に「その代わり、今度某も小田倉氏の家に泊まった事にして欲しいですぞ」と言って、エンジンが通話を切る。

 もちろん「なんで?」などと無粋な事をオタク君は言わない。

 これでリコも納得するだろうと、スマホをポケットにしまい、オタク君がリコに目をやる。

 そこには、先ほどよりも力を入れ、顔を真っ赤にしたリコがいた。

 

「リ、リコさん?」

 

「い、いいから早く入れよ」

 

 オバケが怖いから、なんとかしてオタク君に家に来てもらう事ばかり考えていたリコ。  

 その事ばかりに気を取られ過ぎていて完全に失念していたのだ。男女が一つ屋根の下になるという事を。

 先ほどのオタク君とエンジンの通話で、完全に意識してしまっている。  

 

「な、何か飲むか?」

 

「じゃ、じゃあ麦茶で」

 

 もちろん、意識してしまっているのはオタク君も同じである。

 居間にあるソファに腰かけたオタク君、リコがグラスになみなみと注いだ麦茶を持ってくると、それを受け取りグイっと飲み干す。

 緊張で乾いた喉を潤すために。

 冷蔵庫で冷やされた麦茶が口から喉を抜け、体全体に染み渡らせ少しでも冷静さを取り戻そうとするオタク君。

 

 だが、そんなオタク君の隣に、肩が触れ合うほどの距離でソファに腰かけるリコ。

 麦茶で冷やされたオタク君の体は、ピトッとリコの腕に触れた瞬間に、まるで沸騰したかのようにグングンと熱を取り戻していく。

 

 隣でチラチラとオタク君を見ながら、自分用に持ってきた麦茶のグラスをチビチビと飲むリコ。

 ここでオタク君がリコに手を伸ばせば、きっとリコも抵抗をしないで、オタク君の望むままにされるだろう。

 右腕をリコの方に伸ばそうとしてはやめを繰り返すこと数秒。

 結局オタク君は勇気を出すことが出来なかった。

 

「そ、そうだ。テレビでも見ましょうか」

 

 勇気を出しきれず、お互い沈黙してしまい微妙になってしまった空気を変えようとオタク君が目の前にあるリモコンを見つけ、テレビをつける。

 物事は、上手くいかないときはトコトン上手くいかない物である。

 

『恐怖、真夏も凍るような心霊特集』

 

「……」

 

「……」

 

 オタク君がリモコンを操作し、ピッという音と共に、チャンネルが切り替わる。

 切り替わったチャンネルではバラエティー番組が放映されており、芸人が何か言うたびに笑い声のSEが流れる。

 

「……」

 

「……」

 

 愉快なBGMに合わせ、芸人が踊ったりするが、オタク君もリコも完全に無言である。

 なんなら、SEの笑い声が出るたびに空気がより重くなっている。

 

「そ、そうだ。着替えがないから近くのコンビニで買ってきて良いですか?」

 

「それならアタシも一緒に行くよ」

 

 家を出て、コンビニまで行けば少しは会話出来るだろう。

 アイスを買おうと提案すれば、どのアイスが好きかで会話が盛り上がるはず。

 そんな風に考えていたオタク君とリコ。

 だが、そんな考えは甘い事に気づく。

 コンビニで着替え用のシャツとパンツを購入しようと手に取ったオタク君。

 その二つを手に取った瞬間に、リコの家に泊まるという現実が生々しくのしかかる。

 

 結局、コンビニからリコの家に戻るまで、まともに会話する事が出来ないままであった。

 

「本当に僕が先で良かったんですか?」

 

「良いから先に入れって」

 

「それじゃあ、先にシャワー借りますね」

 

「あぁ……」

 

 リコの家に帰宅し、気まずい空気のまま、シャワーを浴びるオタク君。

 正直な話をすれば、オタク君は思春期である。当然期待していた、リコとスケベな展開を。

 だが、意識すればするほど、そんな展開とは遠くなっていってしまう。

 スケベな事を抜きにしても、せめてもう少し恋人らしい事は出来ないかと頭を捻る。

 

「そもそも、恋人らしい事って何だ?」

 

 考えてみれば、付き合う前からリコはオタク君と二人きりになると大胆な行動に出る。

 なので、今更恋人っぽい事をしようと考えても、何も思いつかないのだ。健全な恋人らしい事は一通りやりつくしてしまった後なので。

 

「もしかして、いつも通りで良いってことなのかな?」

 

 いつも通りリコの頭を撫でたり、膝の上に乗っけてあげたり、たまにキスをしてあげる。

 それで良い。

 下心を意識するから上手くいかないのだ。

 だから、そういう事を今日はしない。

 そう思うと、心に余裕が出来てくるのをオタク君は感じる。

 

「お、小田倉。一緒にシャワーとか、どうかなぁ……」

 

 残念だが、リコはオタク君と二人きりになると大胆な行動に出る。

 オタク君の先ほどの葛藤と覚悟はどうやら意味がなかったようだ。

 今後もこの調子で二人の関係は進んでいくのだろう。 

 

 

 

 そして時は流れる。

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