【完結】ギャルに優しいオタク君   作:138ネコ

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優愛ルート 1

 バレンタイン前日の夜。

 唐突にオタク君のスマホがメッセージ音を発する。

 

『ねぇねぇオタク君。明日チョコ渡すから、朝家に寄れる?』

 

 メッセージの相手は優愛からである。

 去年は中々オタク君にチョコを渡せなかった優愛。

 周りに人がいると渡しづらく、どうすれば渡せるか考えた結果、家に来てもらうだった。

 家の中なら邪魔は入らないのでスムーズにチョコを渡すことが出来る。幸い両親は朝から家にいない。完璧な作戦である。

 

『はい。良いですよ』

 

 チョコが貰えるか貰えないかソワソワするくらいなら、初めから貰えるとわかる方が気が楽なオタク君は即座にOKの返事を送る。

 女の子の家に朝から迎えに行き、一緒に登校する方が気が楽と思うのはどうかと思うが、まぁこの二人の仲なのだから、今更だろう。

 

 オタク君は、ただ優愛の家に行きチョコを受け取るだけ。

 優愛も、家でオタク君を待って、チョコを渡すだけ。

 なので、どちらも無理に早起きをする必要はない。

 ないのだが、オタク君も優愛も中々寝付けなかった上に、ビックリするほど早起きしたのは言うまでもない。

 

 部屋にある時計を何度も見ながら、オタク君は家を出るタイミングを図る。

 あまりに早く優愛の家に到着すれば、そんなにもチョコが欲しかったのかと、必死な奴に思われるかもしれない。

 かといって、遅すぎれば迷惑をかけてしまう。なので、ちょうど良い時間とタイミングを見計らって、家を出る。

 いつもと違う時間に家を出る息子に、オタク君の母は何も言わない。今日はバレンタインなので。

 なんならもっと早く出ると思い、朝五時には起きてオタク君の弁当を作っていたくらいだ。

 行ってきますと元気良く家を出て、何事もなく優愛の家に到着したオタク君。

 五分前にはちゃんと「そろそろ着きます」と連絡を入れているので、優愛も準備が出来ているだろうと思いインターホンを鳴らす。

 そして、ガチャリと開かれたドアの向こうには、申し訳なさそうな顔で、目の端に涙を浮かべる優愛がいた。

 

「優愛さん、どうしたんですか?」

 

 などと驚き口にするも、オタク君にはこの後の展開がなんとなく予想がついていた。

 

「ごめん。チョコレートなんだけど……」

 

 続く優愛の言葉は、オタク君の予想通りであった。

 案内され、リビングにまで来たオタク君。

 そこに置かれている、固まっていないチョコ。

 顎に手を当て、チョコを眺めるオタク君の横で、何度も「ごめんね」を繰り返す優愛。

 冷蔵庫の中身を見て、オタク君が優愛に笑顔で頷く。

 

「今から作り直しましょうか」

 

「えっ、でも時間ないし、一回失敗したらもう固まらないよ」

 

「大丈夫です」

 

 大丈夫と言われ、先ほどまで涙目だった優愛が、パッと笑顔を見せる。

 

「優愛さんは牛乳を温めて貰えますか?」

 

「分かった」

 

 牛乳を鍋に入れ、温める優愛。

 その隣でオタク君も作業を始める。

 

「あとはこれを型に入れれば完成です」

 

「えっ……本当にこれで良いの?」

 

 量が多いので、優愛の両親の分も入れた四つのカップ。

 それをオタク君が冷蔵庫に入れ、スマホで時間を確認する。

 

「思ったよりも時間がかかっちゃったから、少し走らないと遅刻しちゃいますね」

 

「じゃあゆっくり歩いて行こうか」

 

「ダメですよ。ほら行きますよ」

 

 えー、とわざと不貞腐れたように言いながら、オタク君の後に続きパタパタと家の廊下を駆ける優愛。

 最後にチラリと冷蔵庫のある方角を見て、家を出た。

 

 仲良く遅刻ギリギリで登校したことをクラスメイトにいじられ、恥ずかしそうにするオタク君に対し、優愛はどこか心ここにあらずである。チョコが気になるので。

 オタク君が優愛に付き合い、遅刻ギリギリになる事は時折あった。

 だが、流石にバレンタインの日に仲良く遅刻ギリギリとなると、リコも委員長も何があったのか気になる。

 気になるが、直接聞けるほどの度胸は持ち合わせておらず、モヤモヤしたまま一日が過ぎて行く。いやはや、青春である。

 

 放課後の部活も終え、優愛と一緒に優愛の家に向かうオタク君。

 今日一日チョコの事が気になり、早く確かめたい優愛が少し早足気味に歩く。

 隣を歩くオタク君も、優愛に歩調を合わせる。オタク君もチョコの出来が気になるので。

 優愛の家に到着し、肝心のチョコの出来はというと。

 

「オタク君、これってもしかして……」

 

「はい、チョコプリンです」

 

 一度失敗して固まらなくなったチョコを固まるようにするのは大変で、固まったとしても品質が落ちてしまう。

 なので、無理に固めるのでなく、固まらなくても良い物で作り直したのだ。

 

「とはいえ、作ったのは初めてなので食べてみないと分からないんですけど」

 

「えっ、初めてなの!? 見た目完璧じゃん!!」

 

 冷蔵庫から取り出したチョコプリンは艶やかに煌めいており、市販の物よりも何割増しか美味しそうに見える。

 それは自分の手で作ったからか、オタク君が手伝ってくれたからか。

 カップに入ったチョコプリンを眺め、スマホで写真に収めた後、優愛が大事そうに両手で持つと、オタク君に向き直る。

 

「はい。オタク君。ハッピーバレンタイン……なんちゃって」

 

 誰もいない場所なら、周りを気にせず、緊張しないで渡せる。

 そう思っていた優愛だが、やはりオタク君に直接渡すというのは恥ずかしかったようだ。

 ハッピーバレンタインと言っておきながら、目を逸らしてなんちゃってという姿は見事な恋愛クソザコナメクジである。

 

「あ、ありがとうございます」

 

 目を逸らし、顔を赤らめる優愛。

 同じく、受け取ったオタク君も顔を赤らめる。

 今までは優愛がこうやって恥ずかしがる場面はいくつもあった。

 だが、優愛を意識し始めたオタク君にとって、優愛のその反応は、可愛いの暴力である。

 

「そ、それじゃあこれは、僕から優愛さんに」

 

 優愛とは別の、チョコプリンが入ったカップをオタク君が冷蔵庫から取り出す。

 

「バレンタインなのに、オタク君からチョコを貰うってのも何か不思議な感じだね」

 

「いえ、そんな事はありませんよ。海外では男性から女性に渡すのが主流だったりしますし」

 

「そうなんだ」

 

「はい。それに……」

 

 そう言って、一度真顔になると、間をおいてごくりと固唾を飲むオタク君。

 唐突に真顔になったオタク君に対し「もしかして告白!?」と顔を赤らめてオタク君を見つめる優愛。

 

「優愛さん。好きです。付き合ってください」

 

 その、もしかしてである。

 もしかしてと予想しつつも、本当に来るとは思っておらず、オタク君と、オタク君の手に持ったチョコプリンを交互に眺める優愛。

 

「私が受け取っても、良いの?」

 

 優愛の唇が、小さく震える。

 

「はい。優愛さんに受け取って欲しいです」

 

 震える手で、ゆっくりとオタク君からチョコプリンの入ったカップをそっと受け取る優愛。

 

「本当に? 嘘じゃない?」

 

「本当です。嘘じゃありませんよ……だって、僕は優愛さんの事が好きですから」

 

 恥ずかしさから顔を逸らしたくなる衝動を必死に抑え、出来る限り優しい声でオタク君が言う。

 どうやら、今の発言が決定打だったのだろう。

 優愛の目から、一筋の涙がこぼれる。

 

「私も、オタク君の事好き!」

 

 カップを右手に持ったまま、優愛がガバッとオタク君に抱き着く。

 優しく優愛を抱きしめるオタク君。

 

「オタク君。もう一回好きって言って!」

 

「何度でも言いますよ。優愛さん、好きです」

 

「私も、オタク君の事好き! 好き好き好き好き」

 

 何度も何度も好きを繰り返す優愛。

 オタク君の首元や胸元に顔をうずめてみたり、まるで大型犬のような愛情表現である。

 思った以上のスキンシップに、困惑気味のオタク君。

 

「本当はこうしてみたかったけど、ウザがられると思って今まで必死に自重してたんだから」

 

「そ、そうなんですか」

 

 今までの優愛の行動を顧みて「あれで自重?」と思わなくもないオタク君。

 だが、確かに人前でくっ付いて来るが、スリスリしてくる事はなかった。となると自重しているというのは本当なのだろう。

 なおも「好き」と言ってしがみついてくる優愛。そんな優愛の頭を、優しく撫でるオタク君。

 オタク君に撫でられると、スリスリするよりも撫でられる方が嬉しいのか動きが止まる優愛。

 しばらくして、優愛の頭を撫でるオタク君の手が止まる。

 手を止められた事で「何で止めるの?」と言わんばかりにオタク君を見上げる優愛。

 

「優愛さん……キスして、良いですか?」

 

「そんな事言わなくても、オタク君の好きにしてくれて良いよ」

 

 そっと目を閉じ、唇を差し出す優愛。

 オタク君と優愛の唇がゆっくりと重なる。

 キスの味はきっと、チョコレートよりも甘かったに違いない。 

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